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第48話 ミスコン開幕

 時刻は午後一時。

 ステージの照明が一斉に灯る。


 それは、照らすと同時に体育館内を沸騰させた。

 光が滝のように降り注がれ、押し返すようにして割れんばかりの歓声が轟き反響する。

 ライブハウスかな? ワンオクが来てんのかな? そう思った。それ程の盛り上がりっぷりだ。


「皆様、大変お待たせしました」


 男子生徒がステージに立つ。

 腕章とサングラスをつけた司会進行役のそいつはマイク片手に勢い任せに、声を張り上げて高らかに宣言する。


「ただいまより! 本日のメインイベント! ミスコンの幕開けでございます!」


 メインイベント、だってさ。

 いいのか? 有象無象の生徒がツイートするならいざ知らず、運営側の人間がそんなこと言って。これまでに行われた演劇や演奏は繋ぎの余興だったみたいな言い方は失礼だろ。

 ……誰も文句ないだろうからいいけど。


「いよっ! 待ってましたぁ!」

「うおおぉぉ!」

「白土さーん!」


 勢い任せなのは観る側も同じだった。

 開催を告げられて快哉(かいさい)を叫ぶ観客。サウナかよとツッコミたくなる程に暑苦しい。てかサウナだ。ワンオクじゃなくてホルモンのライブだったのね。

 これぞ地獄絵図。熱気は最高潮に達する。


「おぅおぅおぅっ!」

「行くぞー! せーのっ」

「し・ら・と!」

「「し・ら・と!!」」

「「「し・ら・と!!!」」」


 雄叫びは止むことなく、それどころかはい出ました白土コール。

 さながらノックアップストリーム。まるでメントスコーラ。吹き溢れる間欠泉の如く。無数の大歓声が一つとなって轟き渦巻く。

 パイプ椅子や人が倒れる音も聞こえる。見れば野郎共が前へ前へと押し寄せてきていた。

 ガチでライブハウスみてーだな。てか大丈夫? 転倒事故起きてね? とある大学の学園祭でハシカンが来た時並みじゃね?


「白土さーん! 俺が見ているよー! うっほぅ! うっほうっほほぉぅ!」


 うげぇ、やっぱ豆史がいた。

 豆史は最前列の真ん中に陣取っていた。ペンライトを振り回し、汗と涙と涎を垂らして。女性客にモテモテだったお前はwhere went?


 歓声もさることながら目に映る光景もヤバイ。

 柵を設けて作られた通路を除き、体育館は満員状態。特にぎゅうぎゅう詰めの前方には豆史のようにサイリウムを振る者や手作りの団扇を持つ奴、ハチマキやハッピを身に着けた奴がいた。

 アイドルのコンサート、なんて表現でも生温いね。最早ただの暴動だ。熱気ではなく狂気だ。俺が神様ならリセットボタン押して世界を創世記からやり直す。


 おい負けるな。進行頑張れ。

 俺の念が通じたのか、司会者がマイク使って声を張る。


「皆様お静かに。まずは実行委員長の挨拶……なのでしたが、省略させていただきます」


 本来なら実行委員による挨拶があった。しかし実行委員長は気絶した。今頃は保健室のベッドの上だろう。

 ちなみに今あそこで司会進行やってる奴も一度倒れたけど、俺が無理やり叩き起こした。サングラスを渡したのも俺だ。もう倒れるなよ。


「出場者のご入場です! 盛大な拍手でお迎えください!」


 サングラスをクイッと上げ、招き入れるようにして手を掲げる。

 その合図に従い、スタンバイしていたミスコン女子達が順にステージへと上がっていく。


 そんな中、立ち止まっている女子が一人いた。

 ステージ袖にて様子を窺っていた俺はスッと下がり、その横に並ぶ。


「すー……はー……」


 最後の一人、白土。

 目を閉じ、胸に手を乗せ、深呼吸していた。

 隣に並んで気づく。唇が微かに震えている。


「イケるか?」


 俺が問いかけると、白土は目を開いて問い返す。


「凌君は見ていてくれる?」

「もちろんだ」


 ドンと構えてお前を見守る。

 もう視線を逸らしたりはしない。直視してやる。ステージに立つお前の姿をこの目に焼きつけるよ。


「うん。なら大丈夫。わたしは凌君がいれば」

「そうだな。お前は俺がいれば」


 互いにそこで言葉を区切り、顔を合わせる。

 白土は微笑む。

 震えは止まっていた。


「行ってくるね」

「おう。パパッと優勝してこい」

「任せてっ」


 白土は向かう。決戦の舞台へ。皆が待つステージへ。

 その後ろ姿を見送り、俺も微笑む。


 そんですぐに耳を塞いだ。


「うああああぁあぁぁぁぁあ!?」

「し、白土さんだあああぁぁ!」

「白土さあああぁん!」


 学校一の美少女がご登場。

 たちまち観客は欣喜雀躍(きんきじゃくやく)してスタンディングオベーション。MAXだと思っていたボルテージは限界突破し、沸き起こる絶叫が体育館を揺らす。耳を塞いで正解だった。

 マジで揺れたぞ今。空港で櫻井君を待ち構えるファンかよ。うるさすぎて近隣住民から苦情が来るのでは? たぶん俺の家にまで届いてるぞ。


「……すごいな」


 昨年の覇者であり高嶺の花、白土優里佳。

 姿を現しただけで会場を飲み込んだ。


 白土はすごい。本当にすごい。

 何度か言ってきた俺は改めて思う。

 男子が整理券を並ぶ気持ちが分かる。だよな。観たいよな。だってこんなにも美しくて可憐なのだから。


 たとえ本当はポンコツであろうとも。今の白土は完璧な高嶺の花。最強最高の美少女。

 ただただ、圧倒的だった……。


「何を見惚れていやがるのですか」

「み、見惚れてねーよ! 急に話しかけんな!」


 水浪に小突かれた。やめろ馬鹿。

 はあ? 俺が見惚れるわけ……っ……ぉ、お黙りっ!


「どうです? 白土優里佳の優勝は決まったようなものです」

「ああ、そうだな」

「私が言った通り、公開処刑です」

「まあ、そうだな……」


 観客は白土を見つめる。もれなく全員が。

 常にお淑やかで品があり、容姿が良いからといって驕慢な態度は見せない、といったいつもは控えめな白土が今は注目しろと言わんばかりの強烈な華やかさと輝きを放つ。ただでさえチートな転生勇者がリミッターを外したようなものだ。

 そのせいで他の出場者は空気と化す。完全に霞んでしまう。白土と他四名の注目度は残酷なまでに一目瞭然だった。

 光が多いところでは影も強くなる。偉人が言ったセリフそのまんまだね。


「ミスコンの出場者は六人です。その内、四人は実行委員による推薦または数合わせの為に集められやがった人です」


 水浪は淡々と話す。

 知ってるよ。木賊先生が情報を流してくれたよな。そんでよくある話だ。

 ミスコンを開くにあたり、参加者がある程度は揃わなければ盛り上がりに欠ける。なので前もって実行委員が相応の人をピックアップし、出てくださいと頼む。


「要は半ば仕込みだ」

「そうです。あとwinwinです。推薦されやがった女子は『出たくなかったけど頼まれたから仕方なく出るのー』という大義名分を得て、そして嫌がりながらも内心では密かに優勝を狙っていやがります」

「ミスコンあるあるだな」


 自薦ではなく他薦。この違いは大きい。リスクリターンが雲泥の差だ。

 勝てば儲けものだし、負けても「私は頼まれたので出場しました」と言って自分を守ることが出来る。少なからず出たいと思っている女子にとって推薦や数合わせでの依頼は願ってもない参加チケットだろう。


 よくある話だよ。通常のミスコンならね。

 だが我が校のミスコンは通常ではない。現に異常だろ今?

 無理やり出場させられたと言い訳しても恥をかくのは避けられない。現に他の出場者は恥をかいているだろ今? 可愛いor綺麗と言われる存在なのに、まるでいないかのような扱いをされている。まさに公開処刑。屈辱的な仕打ちだ。

 こんなことなら断れば良かった……という彼女らの胸中が伝わってきた。ご愁傷様です。


「やはり哀れです」

「言うな」


 水浪と俺は現状の惨さを俯瞰し、対して白土しか見えていない野郎共は未だに叫び続ける。会場内はカオスだ。

 頑張れ司会者。なんとかしなさい。


「お、お静かに! 押し寄せるのはおやめください! 皆様が静かにならなければ危険性を考慮し、ミスコンを中止せざるを得ないですよ!」


 某国の「オーダー!」より響いた声がコンマ数秒で場内を静かにさせた。観客は全員ピタッと止まる。何その一体感……。


「ゴホン……では出場者に自己紹介をしていただきます」


 ようやく落ち着いた後、司会者は一番端の女子にマイクを渡す。

 マイクを渡され、一人目が自己紹介を始める。






 笑顔で挨拶&アピール。一人目の自己紹介が終わった。二人目もそれに続き、三人目四人目とトントン拍子&パチパチ拍手で進んでいく。

 四人共、良く出来ていた。

 登場した時点でプライドをズタズタにされたにも関わらず、笑顔で自己紹介をするミスコン女子達の精神力には皮肉なしに賛辞を送りたい。立派だね。


「続きましてエントリーナンバー5の方……なのですが」


 司会者がこちらをチラッと見た。

 俺は首を横に振る。それを確認して司会者は肩を竦める。


「まだご到着されておりません」


 出場者は全部で六人。現在ステージにいるミスコン女子は五人。

 一人足りない。エントリーナンバー5がいない。

 エントリーナンバー5は、日暮だ。


「あいつどうしたんだ? 俺らより先に出ていったよな?」

「さあ、です。怖気づきやがったのでしょう」


 怖気づく……その線は限りなくゼロだ。

 とっておきの秘策があると言い、あれだけ殺る気満々だった日暮が棄権するとは到底思えない。

 ならば考えるべきは、これもあいつの計画である可能性。

 わざと遅れている。出るタイミングを窺っている。あり得るね、あの性格クソ女なら。

 だとしたら……まあいいか。ご勝手にどーぞ。


 日暮の番は飛ばされた。

 続いて自己紹介するのは、白土。


「なので次の方お願いし……お、おふっ」


 司会者がよろめく。

 が、耐えた。よくやった。サングラスあって良かったな。でもサングラス越しでもよろめいちゃうのね。どんだけだよ。


 白土はマイクを受け取り、一歩前に出る。

 その姿を観客全員が息と目を凝らして見つめる。微かな息遣いをも聞き逃さまいと集中して注目する。


「エントリーナンバー6、白土優里佳です。よろしくお願いします」


 五人の中で最も短く、簡素な挨拶。


「「うおおおおおおおおおぉおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 他の四人とは比べものにならない拍手と歓声が鳴り響いちいちうるせえなこいつら! 近隣住民から苦情が殺到するぞ!? ウチの母さんがキレるぞ!


 ともあれ、セリフは完璧だった。

 練習した甲斐があった。でも今の簡素な挨拶を噛まず間違えず言えるようになるのに何時間かかったか。考えたくもないね!


「はふぅ…………あっ、で、では続きまして……」


 サングラス越しでも恍惚とした表情が読み取れた。しっかりしろ。トリップすな。


「今年より新たに用意された特別イベント! 特技披露タイムの始まりでございます!」


 立て直し、司会者が声を飛ばす。


 さあ、ここまでは順調。このままいけば白土の優勝は100%だ。

 唯一にして最大の難関はこの特技披露タイム。

 下手すればポンコツがバレる。全てを失ってしまう。


 だが心配しなくていい。大丈夫だ。


「今から出場者の方に特技を披露していただきます。早速、エントリーナンバー1の方からお願いします!」

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