第47話 最強最高の美少女
イケメン豆史。愛嬌ある日暮。クールな水浪。
この三人によって店は大盛況。スタートダッシュの勢いそのまま客足が伸びて遂には廊下に行列が出来上がる。わーお、である。
圧倒的だ。売り上げトップもあり得る。他クラスからすれば「白土さん抜きでこの強さ……!?」といったところかな。サファテ不在で日本一になったホークスのようなものだ。
クラスの連中はさぞや鼻高々だろう。この調子で午後も独走したいと思っているに違いない。
しかし確変は終わりだ。
「あ、あのっ、一緒に写真を撮ってください」
「ごめんね。俺、そろそろ抜けるんだ」
多くの女性をメロメロにしてきた豆史が申し訳なさそうに撮影を断る。その横で日暮がそそーっと教室を去り、水浪も廊下に出てきた。
主力の三人が一斉に抜けた。店内及び行列が「えーっ!」と落胆する中、俺は時計を見て納得。
長針と短針が真上で重なるまで残り十分。
「刄金凌、時間です」
「だな。行こうか」
慌ててやって来たクラスの女子が「出番だよ刄金君っ」と都合良いことほざくのを無視して俺も抜けると告げ、水浪と共に去る。
「白土優里佳は今頃、木賊未彩と着替えの最中です」
「生徒指導室で?」
「んなわけないです。生徒指導室から会場に向かうまでの間に騒ぎが起こります」
「それもそうか」
「その辺は木賊未彩がしっかりやってくれていやがります。なので私達は制服に着替えたらそのまま会場に向かいます」
「了解。凌がりょー」
「面白くないです」
「あいつに言えよ」
目指すは体育館。
いざ、決戦の舞台へ。
「刄金さんと水浪さんですね。どうぞこちらへ」
体育館の前に到着。
話は事前に通してある。
実行委員の生徒に誘導してもらい、俺らは関係者専用の通路へと進む。食べ歩き、飲み歩きながら。
「ん~っ! 美味しいですー!」
口元には涎、手元にはクレープとベビーカステラ。破顔一笑の水浪。
その横で俺はアロエドリンクを啜る。
「ったく、今日も催促しやがって」
「文化祭です。何か買うべきです」
「お前に良いことを教えてやろう。文化祭の模擬店ってのは大抵が既製品をそのまま販売、またはレンジでチンした品を提供してるに過ぎない」
ウチのクラスもタピオカを茹でて市販のジュースにぶち込んだだけだったろ? 衛生面の問題上、一から調理して本格的な品を出すなんざ不可能。アニメや漫画のようにはいかねーのよ。
「でも美味しいです」
「どれも普通のお店で買えるものばかりだ。それを高校生が一丁前に設定した高値で買うのは馬鹿げているってことだよ」
「刄金凌は冷めています。あなたこそレンジでチンされやがれです」
「皮膚が火傷するわ」
「文化祭で買うからこそ美味しく感じるのです」
尤もらしいこと言っているが、お前は飯を食いたいだけだろ。
「まあ昼時だしいいけど。腹が減っては戦は出来ない」
「そうですそうです。私達もステージに立つのでエネルギーを補充すべきです」
「俺らは大したことしねーけどな」
「緊張しないのです?」
「しないね。俺らはドンと構えておけばいいんだ」
まあ、ね。多少は緊張するよ。数十秒とはいえステージの上に立つのだから。
でも俺の緊張なんざちっぽけなものだ……あいつに比べたら。
俺以上に緊張するはず。重圧は半端じゃないはず。
そんな状態であいつは大舞台に立つ。ポンコツを隠し、高嶺の花を演じ、堂々と。
なら俺もドンと構えるべきだ。
心配することはない。見守るだけでいい。
あいつは俺がいれば……。
「刄金凌、着きましたよ」
「ん……ああ」
関係者用の扉から館内に入り、ステージ横の道具置き場を利用した待機室に案内される。
出入り口はカーテンで閉ざされ、室内はやや薄暗かった。
「しばらくお待ちください。他の出場者が来られた後、ご説明をさせていただきます」
ここまで案内してくれた実行委員の生徒がそう言い残し、ステージ側のカーテンをめくって出ていく。
待機室には椅子が用意されていた。数は六つ。出場者の数しかねーのね。気が利かねーな実行委員。
俺らが一番乗りみたいだし、誰か来るまで座って待とう。
「よいしょ」
俺は椅子に座る。
で、すぐに立ち上がる。
……何だ、今の異様な気配は……。
今しがた実行委員が出ていったカーテンの隙間から少しだけステージが見えた。
まもなくあそこでミスコンが開催される。それは問題ない。今は照明が落とされ、暗闇で数名の実行委員が設営をしているのも気にならない。
問題なのは、気になったのは、異様な気配。
ステージではなく、恐らく館内の客席。尋常ならざる気配と熱気を感じた。カーテンが開かれた一瞬でこの待機室にまで届いた。
いやなんとなく分かるけど……。
何なのかはまだ分からないってことにしよう。見るまでは。
俺はカーテンをめくる。すぐにステージ袖へと通じており、数歩進めばステージに上がってしまう。
あと一歩のところまで歩を進め、俺は眉を曇らせ、顔だけを出す。
……。
「おおおぉ!」
「おぅ! おぅ! おぅ!」
「ミスコンひゃっはー!」
体育館の前半分を人が埋め尽くしていた。男が密集していた。
パイプ椅子が置かれた席も、立ち見エリアも、男が群がって尋常ならざる熱気に包まれていた。
異様な気配の原因はこれだ。
……そりゃそうじゃ、だよな。今朝あった長蛇の列がそのまま体育館に収容されたようなものなのだから。
でもまだ始まってねーんだぞ? 開始までまだ一時間近くあるんだぞ?
なのに、なのにだよ……!?
暗くてよく見えないが、サーモグラフィーで見れば一面真っ赤だろう。そして肉眼とサーモグラフィーで見ずとも分かる。客席は既に興奮状態だと。
汗の濃い臭いがする。汗が蒸発し、それは熱気と混ざり放たれて俺の顔面にバックドラフトよろしく直撃。皮膚が火傷した。あまりの熱さに曇らせていた眉が燃えたかと思った。
「この日の為に生きてきた!」
「この日の為に生まれてきた!」
「白土さああぁん!」
「うっほぅ! やっほぉ! 白土さーん! 一番良い席で見てるよー!」
いやだからまだ始まってもねーんだよ。なんでもう盛り上がってんの? つーか今、豆史いなかった? あいつの声したよね!?
「し・ら・と。し・ら・と!」
「せーのっ」
「「し・ら・と!!」」
とうとう白土コールが巻き起こった。
俺は後ずさりし、苦りきった顔を引っ込めて隣を見る。
「……ヤバくね?」
「キモイですね」
さすがの無表情女子も動揺していた。分かる分かるそれ分かりみ深し。このキモさには雨神宮を通り越して呆れてしまう。
こいつら俺に何回ため息をさせるつもり? 異常だろおい。アニメや漫画でもありえねえ光景なんだが!?
「大人しく待っておこう……」
「ですね」
この中で設営をする実行委員のメンタルがすごい。気が利かないとか言ってごめんなさい。
ステージ上で作業を行う数名の実行委員に頭を下げ、逃げるようにして待機室に避難。
中には、女子が二人いた。
「あっ、出場者の……」
ボソッと呟き、俺は水浪を連れて端に寄る。その間にも新たな女子が入ってくる。
三人共、華やかな装いをしていた。ドレスやワンピースを着て、メイクやらマニキュアで自身を彩り、髪はセットされてこれまた華やか。
この三人はミスコンの出場者だ。
ミスコンに出るだけのことはある、と言っておこうか。衣装や化粧を抜きにしても顔面偏差値は高く、常日頃から可愛いor綺麗と言われているに違いない。『○の○』でランクをつけるなら『上の○』に位置する存在だ。
そうか、こいつらか。
今から公開処け、失礼、白土と競うライバル達は。
「皆さん綺麗です」
隣で水浪が耳打ちしてきた。
俺も声を落として返答する。
「そうかもな」
「でも哀れです。今から公開処刑されます」
おい! 俺は心の中でも噤んだフレーズを声に出すな!
とかやっている間に四人目のミスコン女子が到着。四人目も華麗にドレスアップされていた。
我が校の容姿端麗ちゃん達が集結しつつある。それを間近で拝める俺イズかなり僥倖。
開幕まであと二十分。続々とやって来るミスコン女子。
まだ来ていないのは、
「白土と日暮か。日暮は俺らより先に出ていったよな。支度に手間取っているのか?」
「興味ないです」
確かに。それよか白土はどうした。
些か心配になっ……。
「っ……? 何だ、今の凄まじい気配は……」
野生動物みたく俺の耳はピクッと動いた。
何やら外が騒々しいような……。
「た、大変だ! 実行委員長が倒れた!」
「誰か担架を持ってきて!」
「いや無理! 次々と……ぐはっ!?」
「あ、あ、あっ、こっちに来、はふぅ!」
「はぁああうわあぁぁ……!」
……え、なんか、どえらいことになってね?
外で何が起こっている。人がバッタバタと倒れる音がするぞ。
その音は次第に近づいてくる。
待機室の前で止まり、次に聞こえてきたのは入口側のカーテンが開かれる音。
そして、あいつが俺を呼ぶ声だった。
「刄金君」
お淑やかな声。
物言う花が俺の名を呼ぶ。
待機室が静まり返る。俺は何も聞こえなくなる。
ミスコン女子達が息を呑む顔や腰を抜かす姿が視界の端に映ったのは一瞬のみ。一瞬で俺の目は一点に集中してそれ以外は何も見えなくなる。
顔を上げた先、そこに立っていたのは、白土。
綺羅を飾り、輝き、君臨するかのように立つ、絶世の美少女がいた。
純白のロングドレス。パールの装飾。ほぼ一色のみで白くて眩しい。
非常に良く映える一方で、それらに負けない白土自身の輝き。白よりも白く、白よりも眩しい。ただそこに存在するだけで薄暗かった待機室を照らす。
二つ結びの髪は解かれ、一歩進む毎に宙をフワリ、サラリと流れてその度に光の粒子が舞う。白土が歩めば世界の中心が動く。
容姿端麗。羞月閉花。美しき女性の意を持つ言葉全てを使って褒め称えるに相応しい。それでも足りない。他のミスコン女子なんて一瞬にしてモブキャラへ降格させてしまう美しさ。
花嫁のように。天使のように。
圧巻だった。
めちゃくちゃ可愛くて、とてつもなく綺麗だった……。
「揃いましたか? では出場者の方にご説明を、ぐはっ!?」
待機室に戻ってきた先程の実行委員の男。吐血し、ぶっ倒れる。
……ああ、さっきの騒ぎはそういうこと? 白土を見て実行委員の男達が卒倒していたのか。
気絶した実行委員が動かなくなった。
誰も動けない。この場にいる全員が固まり、白土の姿を見て息も出来なくなる。
「優里佳様、お綺麗です」
まず最初に動いたのは水浪だった。白土の元に寄り、優しく笑みをこぼす。
水浪が無表情を崩すのは飯と銭とキモイ男に対してのみ。
その水浪が笑みをこぼした。嬉しそうに笑って白土を褒める。
「ありがとうフラーちゃん」
白土もまた微笑みを浮かべて……その姿も……。
何だよ……な、何だよそれ。最強最高にすっげー可愛……っ~……!
「刄金君」
再び名前を呼ばれ、俺の意識は寸前で体内に戻ってきた。
あ、危なかった。今、意識が吹き飛ぶ寸前だった。
「ぉ……ぉ、お、おうっ、やっと来たか!」
こんなに必死になって声を振り絞ったのは産声の時以来だと思う。
必死にならなければ出なかった。圧倒されて声も意識も失うところだった。
今朝見たのに。見るのはこれで二回目なのに。
俺の顔はまたしても真っ赤になった。
「? 顔を背けてどうしたの?」
「ふと首の運動をしたくなっただけだぜ!」
嘘です。直視すると俺も実行委員共みたく失神しそうだったんで。
……すううぅ、はあぁぁ…………。
深呼吸をしてみたが動悸は静まらない。心臓は今にも破裂しそう。
でもやろう。
俺は手を前に差し出す。
「白土、水浪。準備はいいか?」
「うん」
「いよいよです」
白土が頷き、俺の手に自身の手を重ねた。水浪も手を乗せる。
俺ら三人は円陣を組み、声を揃える。
「絶対に優勝するぞ!」
「「「おー!!!」」」
ミスコンが幕を開けた。




