第46話 文化祭・うんヤバイ
文化祭が幕を開ける。
一般の方が入ってきて、生徒が活溌溌地にお出迎え。たちまち人でごった返す廊下のワイワイガヤガヤは普段の放課後の十倍増し。誰もがワクワクテカテカと胸躍らせる。
とはいえ、来訪者は行く先に困る。
大規模のイベントは午後に詰め込まれており、現在はやや手持ち無沙汰。飯を食べようにもまだ早い。あぁどこで時間を潰そうか、となってしまう。
そんな人にピッタリ。ようこそタピオカジュース店へ。
ドリンクのみで椅子に座って休めるし、テイクアウトも可能。ちょっと立ち寄るならこれ以上にないお店だ。
てなわけで二年一組は開始早々に人気を博す。
活況を呈する要因は他にもいくつかあるが、一つはウェイトレスだろう。
ホール担当の女子は皆、手作りの衣装を着ている。某クラスの姉御的存在が率先して作ったらしく、完成度は中の上レベルに高い。そんでそれで十分な効果があり、吸い寄せられるように男が入店していく。
と思いきや、男だけではなく女性客も多かった。
その理由こそ、盛況の要因の一つであり、それは一人の男子によるものだった。
「いらっしゃいませ。三名様ですか?」
美男子ウェイター豆史。ドリンクの前にまずはスマイルをご提供し、席へご案内。
すると女性客は頬を赤らめる。座った後も豆史に熱い視線を送り、中には紙切れにIDを記入して渡す人もいる。黄色い声援が廊下にも届いてきた。
予想通り、豆史はモテモテだった。
そして思惑通り、豆史をウェイターにして正解だった。
イケメン万々歳である。面白い程に女性客が釣れる。軽くフィーバー状態だ。
そんな教室内をチラ見し、俺は小さく笑う。
廊下で一人、肩を揺らしながら。
……ん? ああ、俺?
基本的にホールは女子がいれば集客は十分に見込める。ウェイターはイケメンが一人いれば事足りる。
よって俺は早々に戦力外通告を受けた。やっぱお前いらねぇわ、だってさ。
仕事を失って廊下に叩き出され、現在は、
「Check it out! ここはdoor to heaven! 可愛い子が選り取り見取り、俺は呼び込み一人~!」
呼び込みをさせられている。
「だけど寂しくはねぇぜ。俺は人が好き、お前らは一休み♪ 今日は文化祭、熱気がうんヤバイ! バイブス上げろ! ここが終点、そぉら入店、中はまるで宮殿さ♪」
仕事を全うするべく元気良く。絶えず口を動かす。
「店内で涼しむのが吉。タピオカの美味さはお前らも既知! よってらっしゃい、ほっぺ喝采! 一杯でいっぱいの幸せ! クールに啜るジュースに夢中販売中! 喉越しが爽快Yo! 喜びが到来Yo!」
リズムに乗って肩を揺らし、キャップを被ってステップを刻む。
「美味しいジュースと恋しいガール! アガる! 魂ライムと共に可愛いがいるparty time! タッピオカでhappy more! エモさ爆発、えぇもんさ! 幸せのスパイラル旨み増す!」
解放しろ。己の全てを。
底尽きるまでぶっかまし、なりふり構わず叫ぶ。
「え、女性店員ばっかでいやらしい? エモイっつーかキモイ? あー分かる分かるそれ分かりみ深し。マジ勘弁、てかあっかんべー。非難囂々? ならば美男登場! そうっ、俺だZe!」
サムズアップ。立てた親指で顔を差す。
ターンを決め、両膝曲げてポージング。両手でピースサイン、前に突き出してイェァ!
「ようこそタピオカジュース店へ!」
全てを言い終え、息をつく。
目の前には、二名の女性。
「うわキモッ……」
「他のお店にしよ」
一瞥し、軽蔑し、女性二人はそそくさと去っていった。
……。
俺はゆっくりと立ち上がる。
帽子を手に取り、力と怒りを込めて、
「凌、調子はどう? 俺が作ったラップは最高でしょ?」
「ああああぁぁああぁ!」
「凌!?」
帽子を地面に叩きつけた。
「もれなく最低最悪だよ馬鹿野郎!」
「おい! ラッパーの魂、キャップを捨てるなよ!」
「いやこちとらプライド捨てちゃったんだけど!?」
客寄せは分かる。それくらいはやる。
だがなぜラップ!? なぜラップで呼び込み!? 赤っ恥にも程があるだろ。ここ数分の俺の惨めっぷりすごいぞ。不倫がバレた直後に始球式をやったソロアーティストくらい惨めだわ!
「全てを出してこそだよ。底尽きるまで己を解放しろってアドバイスしたでしょ」
「ああしたよ。した結果がこれだ! いやだからなんでラップ? なんでお前が考えたラップを俺がやって俺がドン引きされるハメに!?」
「これくらいは身を削ってやってよ。凌はクラスの手伝いにほとんど参加しなかったのだから」
んだと? それで論破したつもりかよ。でも言い返せねーからやめてくんない?
俺は両膝を深々と曲げ、床に座り込む。
「キツイ、これキツイよ……。急にウェイターの格好をさせられたかと思えば、お前如きじゃ戦力にならねぇとクラスの女子に貶され、異動させられてラップで呼び込み。何このコンボ? 人をここまでコケに出来るコンボがあるの!? フルボッコなんだが!?」
「凌が惨め、でもそれケジメ♪ 屈辱でもグッジョブ♪」
「ラップやめろクソ豆ぇ!」
何がムカつくって女子の言い分だ。あいつら鼻で笑って「刄金君も良い線いってるけど海月君がいるとねー」とぬかしやがった。
はぁん? A級イケメンがいればC級の奴は不必要ってか!? うんそうだよね!
「まぁまぁ、凌のおかげで集客は良い感じさ」
「全然だよ。今しがた逃げられた」
「あぁあの二人? 俺が引き止めて射止めたけど?」
サラリと告げて教室を見る豆史の視線の先、店の中では先程の女性二人がこちらにむけて手を振っている。
こちらというか、豆史のみに。
豆史がすぐに爽やかな笑みで対応し、手を振り返す。女性二人は骨抜きにされた。
「……すげーな」
「俺もビックリさ。俺、黙ったらモテるんだな」
「俺それずっと述べてきたわボケが」
「『俺』『それ』『述べ』『ボケ』で韻を踏んだつもり? 甘いよそんなんじゃ」
「いいからお前は接客してこいよ……」
イケメンの背中を押し、それで最後の力を使い果たした俺は崩れるように再び床に座り込む。
俺、惨めだな。でもこれケジメ……♪
開幕から二時間が経過。
食べ物系の模擬店が勢いづく頃合いとなった。が、依然としてウチのクラスは軌道に乗ったまま確率変動が続く。
ウェイトレス女子とイケメン男子の効果は絶大だ。
いや、効果絶大なのはあいつか。
この場にいない。なのに、だ。
活況を呈するいくつかの要因。その最たるは、看板だ。
「ミスコン優勝者!? 白土さんのことか!」
「白土さんのウェイトレス姿……み、見たい!」
「うぉおおぉ!」
看板を見るや否や、男子生徒は問答無用で入店もとい突撃していく。
せめて廊下で店内を確認してから行けよと思うが、そんなこと考える余裕もないのだろう。
二年一組には昨年のミスコン優勝者がいる。
この宣伝だけでイケメンモードの豆史をも上回る集客力を誇る白土がいかにヤバイか。見ての通りだ。
しかし野郎共よ、残念だな。
入店しても「白土さんは今いません」と言われておしまいだ。しかも今だけではなくずっと来ない。詐欺ですまんな。だから廊下で確認してほしかった。
でも致し方ないんだ。ポンコツちゃんに接客はどう考えても無理です。
なので木賊先生が上手いこと言い訳を作って白土は模擬店に参加出来ないことにした。
申し訳ないと思う。男性客に限らず、クラスメイトに対しても。みんな、戦力が大幅にダウンすると嘆いていたなあ。
ただ一人を除いて。
「タピオカミルクティ~です~。美味しくなぁれ~」
それはクラスの姉御的存在、日暮だ。
客に向けて両手でハートの形を作り、満面の笑みも放つ。うっわあざとい。でも人一倍働いていますね。
サービス精神旺盛なのは立派だし、白土の分をカバーしようとしている風に見えなくもない。
俺は看破してるけどな。
「あたし、ミスコンに出るんですよ~。観に来てね~」
客と話す際、日暮は必ず自身のアピールと宣伝を入れ込む。
最後の追い込み、か。やりたい放題だな。
白土が不在。それは日暮にとって好都合なのだろう。自分が一番目立てるから。
おまけにあいつだけ衣装が違う。あいつだけクオリティが段違いだ。他の女子と比べてスカートが短い気がするし。
……やりやがったな。
他の女子を引き立て役にして自分をより良く見せようとしてやがる。
「え~、写真ですか~? どうしようかな~……じゃあ、ミスコンであたしに投票してくれたらいいですよ~!」
姑息な手も使っている。クラスでの催しを利用してまで勝ちたいのかよ! ズルくねーか? そんなんアリかよ。
まあ実際、白土がいなければ日暮が目立つよな。
中身はクソでも容姿は上の上。加えて男心を転がすスキルはお手の物だ。
「はいチーズ。ではミスコンよろしくです~」
ぽわぽわ笑顔が場を支配し、男性客はデレデレだ。日暮の独壇場となりつつある。
だが誰もあいつを止めることが……。
「刄金凌」
「ん? ああ、水な……水浪?」
現れたのは水浪。
でもただの水浪ではなかった。
他の女子と同様にウェイストレス衣装を着た水浪だった。
「お前もホール担当なのか」
「さっき渡されました。どうです?」
水浪はその場でクルリと回転し、スカートの裾を軽く摘まむ。
他の女子と同じ衣装なのだが、他の女子とは違う。
銀色の髪と白い肌によく映えており、メイドのような雰囲気がある。ハーフの良さが存分に引き出されていた。
廊下を行き交う男子が水浪をチラチラ見る。店内の連中も気づいて視線を向け始めた。
「ん、まあ良いんじゃね?」
「あっそ、です。刄金凌の意見はどうでもいいです」
「じゃあ聞くなよ」
「刄金凌はウェイターですか。なぜ廊下にいやがるのです?」
俺のことは無視してどうぞ。
答えずに黙ると、水浪が新たな質問を放った。鋭利な声で。
「日暮香織が調子に乗っていやがりますね?」
「その通りだ」
「白土優里佳がいない間に自分をアピールし、ここぞとばかりに票を稼ごうと目論んでいやがります」
「お前も見抜いたか。俺もそう思う、けど理由はどうであれ白土の分も働いているんだし、勝手にさせとけよ」
「駄目です。なんかムカつきます」
「お前の個人的な感情」
「邪魔してきます」
水浪はスッと進み、教室に入る。
おぉあの子も店員だったのか、といった声が上がって全男性客の視線は一時的に水浪に集中する。
「……。フラヴィア~、やっと来てくれたんだ~。一緒に頑張ろ~ね」
あ、日暮が露骨に嫌な顔をした。表には出していないけど俺には丸分かりだった。
察したに違いない。水浪が自分を妨害しに来たことを。
すぐに日暮が負けじとぽわぽわオーラを増やす。これでもかって程に笑顔も振りまく。
それによって日暮に注目が戻る。けれどせいぜい半分程度。残り半分は水浪が奪い取った。
「こちらの席へどうぞです」
水浪もまた上の上の存在。
端麗な容姿とクールな対応で男性客を魅了して、日暮を妨害しまくった。わーお。




