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第39話 神ってる折り紙と噛みまくりの撮影

 食事会から一週間が経った。

 来週には中間考査がある。が、生徒達は素知らぬ顔して文化祭の準備に没頭する。

 本番まで残り二週間ちょっと。何気に迫ってきたとあり、先週の時点で浮き立っていた学内の高揚はさらに上昇。生徒のフレッシュでありエネルギッシュな一挙一動(いっきょいちどう)は熱を増し、活気がナポリピッツァのコルニチョーネみたく膨らむ。既にお祭り騒ぎだ。

 これが通称『文化祭は準備している時が一番楽しい』である。ちなみに類似語は『RPGは正規ルート進む前の寄り道が一番ワクワクする』だ。


 ウチのクラスも盛り上がっていたな。

 今日も忙しそう&楽しそうだったし、放課後は試作会をやると言っていた。いいなあ、ホンマ楽しそうやでなあ。

 今頃は誰かの家でタピオカを作っているであろう級友達に思い馳せ、俺は天井を見上げる。


「なのに俺は何をしているんだか……」


 キツく締めたネクタイを外した時のような息遣いで愚痴をこぼし、麻痺してきた指先を擦る。

 この作業をして累計で何時間に達するだろう。

 視線を下げ、テーブルの上で山を築く大量の物体を見る。

 大量の物体とは、折り紙だ。


「サボりやがらないでください」


 対面のソファーで険のある叱責が飛ぶ。水浪だ。手を動かしながら半目でこちらを睨む。

 俺も目を細め、抗議する。


「少しくらい休んでもいいだろ」

「寸暇を惜しんで折りやがれです」

「つってもこれ終わる気がしねえよ」

「刄金凌が提案しやがったことです。責任を持ちやがれです」


 わーったよ。お厳しいですこと。

 数秒の休憩を終え、俺は正方形の紙を手に取る。

 丁寧に折り目をつけ、手順通りに折っていき、十五分以上を要し、はい完成。

 出来上がったのはウサギ。折り紙で作られた立体的なウサギさんだ。


「わーウサギさんだー。きゃわいー。……あと何個作ればいいんだ」


 作ったウサギを忌々しげに放り投げ、痛む指先を丸めて背も丸める。とっておきの秘策が思いついたと言った先週の自分が憎たらしいぜ。


「優里佳様を見習いやがれです。私達が一つ作る間に三つは作っています」


 水浪に咎められ、視線を横に向ける。


「折り紙楽しいっ。むっふーっ」


 俺の隣には白土。目を輝かせ、目にも止まらぬ速さで手を動かす。効果音をつけるなら『シュバババッ』かな。

 得意の折り紙とあって秀抜(しゅうばつ)な手捌きだ。神ってる。


「どうしてその器用さをけん玉や手品では発揮出来ないんだ?」

「完成っ。ボルボロスっ!」

「クオリティ高いの腹立つぅ」


 白土が作り上げたのは土砂竜。俺はイラッとしつつもその精巧さに惚れ惚れしてしまう。

 どこから見てもボルボロスだ。ボルボロスだよこれぇ。よくもまあ紙でこんなのが作れるよな。


「次は何を作ろっかな。オラ楽しくなってきたよっ」

「ま、その調子でどんどん作っていけ」

「任せてっ」


 放課後。生徒指導室。いつもの三人でとある作業の真っ最中。

 俺が考えた、特技披露タイムを乗り切るとっておきの名案。その下準備だ。

 俺らは折り紙を作る、作りまくる。延々と。頭がイカれそうですぅ。


「この作業を始めて一週間が経ちました。今更ですが、本当に大丈夫なのです?」


 パンダを作る水浪が淡々と尋ねてきた。

 白土程ではないにしろ水浪もかなり上手い。内職で培われた技術なのだろうか。

 俺は新たに折り紙を一枚ドローし、得意げに答える。


「心配するな。最高の特技披露を演出してやるよ」


 下準備はしんどいが、これさえ終われば当日は簡単だ。

 白土の良さを存分に発揮させ、観客を虜にする。俺が思いついた秘策は完璧。成功すること間違いナッシング。


「分かりました。刄金凌を信じます」


 水浪はやや訝しげに口を尖らせるも、それ以上の言及はせずに頷いた。


「そうそう、俺を信じろ。ついでに崇めろ」

「絶対に嫌です」

「言うと思った」


 投げやりに言い放ち、作業を再開。気合い入れて頑張ろう。

 何せ、白土はノリノリだ。


「むふふーっ。タチコマ完成っ」


 次々と逸品を完成させていく。シュバババッ。

 これまたマニアックなのを作ったな。それ知っている高校生ほとんどいねーだろ。なぜお前は知っている。

 まあいいよ。作る物は何でもいい。重要なのは、お前が作ったという事実。

 当日が楽しみだよ。たぶんすごいことになるだろう。


「よし、今日はこの辺でやめておくか」


 俺は立ち上がる。背を反らす。骨を鳴らす。

 作業して二時間。テーブルには山積みの折り紙。四十個くらいか? これまでの分を合わせるとおよそ二百を超える。

 それでも全校生徒に配るとしたら……考えるのはよそう。


「疲れました」

「お疲れフラーちゃん。よしよししてあげるっ」

「優里佳様はお優しいです」


 白土がナデナデして、ナデナデされる水浪は無表情のまま目を閉じる。

 女子二人のキャピキャピしたイチャイチャを余所に、俺は作った折り紙を袋の中に入れていく。


「凌君もお疲れ。は、ハグしてあげるっ」


 ナデナデを終えた白土が俺に近づいてきた。目を先程以上に輝かせている。お前がしたいだけなのでは?

 うわ、白土が飛びかかってきた。


「あぶね」


 俺は全力で回避。弾丸タックルがトラウマになった腹部がサトシばりに「躱せえぇ!」と叫ぶんでね。


「ほ、ほほぉ? 良い動きだね凌君」

「なぜ上から目線だ」

「今日の作業はおしまい? じゃあ帰ろっ。凌君のお部屋でお部屋デートしたいなっ」

「バァァァカ」

「ふぇ!?」


 舌巻いて馬鹿を咎め、鞄を漁る。


「やることは他にもある」


 先日、白土のエントリーをしてきた。

 一般的に、ミスコンに出るには実行委員の推薦と審査が必要となる。来る者拒まずのフリー参加にしたら身の程知らずのブスが申し込む可能性があるからだ。辛辣なのは許せ。事実だ。

 出場するには審査が必須。白土を連れて実行委員の元を訪れると、実行委員長が「あぁ! 白土様! お待ちしておりました!」と叫んだ。この学校ヤベェ奴ばかりだよホント。


 それはともかく、エントリーは難なく済んだ。

 実行委員長が「白土さんなら審査しなくていい。寧ろ出ていただき感謝申し上げます」と言って頭を床に擦りつけていたよ。男が簡単に土下座するなプライドねーのかよ。


 で、その際、用意するものを指示された。


「凌君、それってビデオカメラ?」

「おう。PR動画を撮影するぞ」


 俺は取り出したビデオカメラを白土に向ける。

 電源ボタンを押すと、小さな画面に体を揺すってハテナマーク浮かべる超美少女が映し出された。


「ぴーあーる?」


 出場者紹介としてSNSにアップするんだと。って説明を実行委員長がしてた場にお前もいたよな? 何も聞いてないのね。


「自己紹介と意気込みを喋るだけでいい。楽勝だろ?」

「うん楽勝だね。折り紙でマムタロトを作るくらい簡単っ」


 それ一般人なら超難関です。まず折り紙でマムタロトを作る発想がないしスキルもない。SNSでバズりたいんすかー?


「台本は俺が考えてきた」


 ビデオカメラの操作を確認する傍ら、メモ用紙を差し出す。

 白土が「おお」と声を出して拍手する。


「おお、凌君はデキる男だねっ」

「だろ? もっと言え。俺を褒め称えろ」

「刄金凌はアホです」

「くたばれ水浪」

「見せやがれです」


 会話に割って入ってきた水浪がメモ用紙をひったくる。

 目を通し、すぐさま糾弾してきた。


「やはり刄金凌はアホです」

「んだとコラァ」


 俺が中間考査前の貴重な授業を聞かずに考えた台本に文句があるらしい。


「何ですかこれは」


 水浪は用紙を俺の眼前に差し出す。

 そこに書かれてあるのは、


『二年一組、白土優里佳です。特技は折り紙とお菓子を作ることです。よろしくお願いします』


 というシンプルな文章。

 改めて見ても素晴らしい。俺は胸を張る。えっへん。


「シンプルイズベストだ」

「シンプルにも程がありやがります。まるでソシャゲの初期プロフィール欄です」

「ソシャゲやったことねーだろ貧乏ハーフ。スマホ持ってね~だろ貧乏ハ~フ」

「くたばれです刄金凌」


 憮然(ぶぜん)とした声で尚も批判。いやいや待ちなさいよ。俺なりに考えてこうなったんだよ。

 動画の持ち時間は十五秒以内と指定された。どうせ大したことは喋れない。ならばシンプルイズベストが最もベストだ。日本語どうした俺?


「いいか? この簡素な文を実際に喋るのは白土。ご存じ、この白土優里佳だ」

「えへへ~」


 微塵たりとも褒めてねえよ。

 照れくさそうに笑う白土は無視。水浪に説明を続ける。


「こいつは常軌を逸している。地球儀を渡したらリフティングを始めるような奴なんだ」

「出ました、刄金凌の十八番『俺、例え上手いでしょドヤ?』です」

「悪かったな」

「刄金凌は優里佳様を馬鹿にしてやがります。優里佳様は優秀です」


 白土の背後に回った水浪。二つ結びの髪を持ち、ぽんぽんと跳ねさせた。


「えへ~っ」


 気を良くした白土自身も跳ねだした。笑みがさらにとろける。

 言っておくけどその従者、お前がいないところでボロクソ貶してるぞ。お前のスペックは人の十分の一とか言ってたからな?


「はあ……なら試しにやってみるぞ。準備しろ」


 太鼓持ちする水浪まとめて白土に合図を送り、ボタンを押して撮影スタート。

 水浪が音もなくフレームアウトし、俺はカメラの横にカンペのメモ用紙を添える。


「う、うん。えっと……」


 白土はその場で直立。跳ねたりとろけていたのが全てカチコチに固まった。

 しばらく経ち、ようやく口を開く。ぎこちない笑みと共に。


「し、しししし、白、優里、よろしゅくお願いしまっ、っ、ひゃうぅ」

「はいカットぉ」


 停止ボタンをプッシュ。

 俺が「ほらな?」を添付させた目で見ると、水浪は肩を竦めた。


「知っています」


 だよな。こうなるのは予想するまでもなかった。

 名前と趣味を述べてよろしくお願いします。たったそれだけの文すら言えないのが白土優里佳がポンコツたる所以だ。


「い、意外とムズイね。三桁の暗算くらい難しい」


 マムタロトの百倍楽勝だよ。

 白土は舌をベーッと出し、涙目になる。

 噛みすぎだろ。よろしゅくって何だよ。ちょっときゃわいーじゃねーかー。

 俺は咳払いし、テイク2を告げる。


「もう一回いくぞ。さん、にい、いち……はい」

「しししし、白、優里、よ、よろしゅく」

「はいカットぉ!」


 ほぼ変わってねえ! 撮った動画を再生したのかと思ったぞ!?


「また舌かんひゃ……ひゃう~」


 去年、こいつにセリフを覚えさせるのに苦労したと言った三十路の気持ちがよく分かる。ミアちゃんしゅごい。


「……PR動画を撮り終わるのに数日はかかりそうだな」

「当日、ステージ上で喋るセリフの練習も必要です」

「さらなる絶望をどーも」


 俺は嘆息と共にカメラをダラリと下げた。

 文化祭まで残り二週間ちょっと。やること尽くし、山の如し。やっぱ終わる気がしねえ~。

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