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第38話 わたしは凌君がいれば無敵

 オシャレなネーミングに面食らうも、すぐに夢中になって食らう。

 料理は素晴らしかった。見た目も味も、センスある内装に相応しくハイクオリティ。美味い、美味すぎる。美味すぎて荒野に花が咲くわ~。味のアークプリーストや~。グルメリポートって難しいね。

 ともあれ心置きなく心ゆくまでご馳走を食らい尽くそう。

 俺は種類豊富なイタリア料理に舌鼓(したづつみ)を打つ、打ちまくる。どれくらい打つかって? 昨シーズンのギータくらい打ちまくる! 3150ぉ!


「あ、ありえねえくらいピザが美味しい……!」


 ナポリピッツァ。文字通りナポリのピッツァであり、最たる特徴は縁部分のコルニチョーネ。縁が厚く、窯で焼く時に空気が熱で膨張してモチモチに膨らむ。

 と店員が説明してた。うるせえ知るか。そういうのはソーマさんに任せておけ。

 ピザはトマトベースやチーズベースとあり、マルゲリータは絶品。他にもパスタやスモークサーモン等の料理が盛り沢山。当然どれも驚異的な美味さ。

 旨みの極み。目を閉じて唸る程に実に見事。胃が満たされて癒されていくぅ。

 ……ん? そういや腹の痛みが……。


「お腹の調子はどう?」


 木賊先生が声かけてきた。グラスに注がれた赤い液体を飲みながら。


「それワインすか?」

「そうよ。ヴィノ・ノビレ・ディ・モンテプルチアーノ」

「もういいですって」


 頭に全く入ってこねえ。覚える気も起きないし、あなたも覚えさせる気はないでしょ。

 というか教師が高校生の前で飲酒していいんすか? 今時のニュースは舌鋒(ぜっぽう)鋭く糾弾(きゅうだん)しますよ?

 ま、諫言(かんげん)したところで8切りされる。大人しく最初の質問に答えておこう。


「回復してきましたよ」

「それは良かったわ」

「俺の腹がヤバイことを知っていたんですね」

「君、私に土下座して泣きついてきたこと忘れたの?」

「そーいえばそーでした」

「優里佳の手料理を食べたことは聞いたわ。ここに連れてきたのは君に美味しい物を食べてもらう為よ」


 そう言って先生はワインを飲み、酔いの余韻で笑みを作る。

 意図を汲み取った俺は目を丸くして驚く。


「せ、先生……!」


 俺、今なら分かります。

 あなたは聖母です。聖母マリアです。ミアちゃんマジ聖母っ。


「それともう一つ。あなたと話したかったのよ、日暮さん」


 先生は視線を横へ。日暮に声かけた。


「っ、あたしですか?」


 フォカッチャとやらを食べる日暮が手を止め、肩をビクッと震わせた。

 顔に汗が滲み、そんな日暮を先生がロックオン。


「あなたもミスコンに出場するそうね?」

「……はい~。あたしもってことは、もしかしてユリも出るんですか~?」


 声も震えており、それでも主導権を握られまいと抵抗する日暮。

 もしかしてユリも出るんですか~? だってさ。知ってるくせに。

 だがエスパー使いにはお見通し。先生もわざとらしく答える。


「ええ、実はそうなの。叔母として優里佳の二連覇が見たいわ」

「そうなんですね~」

「あ、もちろん担任として分け隔てなく日暮さんのことも応援するわよ。優里佳と一緒に文化祭を盛り上げてね」


 ワインの香気を漂わせて舌を這わせて、先生が日暮の肩に手を置く。

 微笑みは崩さず、出ました蛇の如し眼光。


「せ、先生~……?」

「いい? セコイことはせず、正々堂々とね? でないと補習が……うふふ、なんでもないわ」


 ……今の言葉を俺なりに訳すなら、きっとこうだ。


 白土の秘密を知っているからといって、それを利用して勝とうとしたらテメェ地獄のエンドレス補習だからな。真正面からぶっ潰してやるから大人しくボロ負けしとけ。


 って感じ。

 ……怖っ。ただの脅しじゃん。

 障害となり得る要素は些細であっても徹底的に毟り取り、容赦なく釘を刺す。

 前に先生のことを無能と評したが、訂正しておこう。

 この人は中々にキレ者。そしてキレさせたらいけない人だ。


「は、はぃ~……」


 Yo~、雅致のある店内でガチの脅し、ガチガチだYo~。ラップも難しいね。

 日暮はガチガチに怖じ恐れ、表情は強張る。

 それを見てた俺は黙ってピッツァを頬張る。今のは見なかったことにしよ。


「フラーちゃん、ボーノだね」

「はい。とてもオッティモです」


 同じテーブルで同級生が担任の教師に恫喝(どうかつ)されているとは知らず、白土と水浪は呑気に食事を楽しむ。君らは平和でいいっすね。











 二日に(わた)って苦しんだ。腹が痛くて腹イタリアだった。何これクソおもんねえ。

 だが絶品料理のおかげで完治。腹いっぱいイタリア料理を食べて腹イタリアだ。何これクソおもんねえよ。


「刄金凌、私は幸せです」

「奇遇だな、俺もだ」


 店を出て、水浪と俺は膨れ上がった腹をさするイズ妊婦かな?

 満足&満腹だ。ドレスコードなしのお店でこんなにも美味い物が食べられるとは。


「満足してもらえたかしら」

「それはとても」


 会計を済ませた先生に対し、ゴチになりますのポーズで感謝を述べる。

 美味しかったなぁ。料理名は一つも覚えてねーけど。何だっけ? アーロニーロ・アルルエリだっけ?


「私は優里佳を送っていくわ。君達はどうする?」

「あたしは一人で帰ります~」


 即答したのは日暮。一刻も早く帰りたいのね。

 先生は朴訥(ぼくとつ)とした口調で「そう」と返し、俺と水浪を見てきた。


「君達は?」

「ある物を買いに行くので俺もここで失礼します」

「私は食後のデザートを食べに行きます」


 水浪よ、俺を見ながら言うな。奢らねえよ?


「じゃあここで解散っすね。今日は本当にあざーした」


 飯を奢ってもらった以上、相応の働きをしないとな。

 地図アプリを開き、行き先を確認。では行こうか。


「刄金君」


 と、白土が俺を呼ぶ。手をヒョイヒョイと動かして。

 三十路がやる手招きと違って非常に可愛らしい仕草ですこと。


「何か言ったかしら?」

「俺、閉心術を会得することを決意しました」


 エスパー使いから遠ざかるついでに白土の元へ。

 俺が寄ると、白土はモードを切り替えた。


「あのねあのねっ」

「待て待て、日暮がいるだろ」


 まあ日暮にはバレてるけど。


「特技披露は何をする予定かしら?」

「当日まで秘密で~す」

「うふふ、良い度胸しているわね」

「あ、あはは~」


 あ、先生が日暮に詰め寄っていた。ホント容赦ねーな。

 両者は微笑の仮面を着けて圧力をかけ合う。やはり先生が優勢で、日暮は憔悴(しょうすい)していく。お気の毒に。

 俺は見るも無残なワンサイドゲームから視線を逸らし、白土の方を向く。


「で、どうした」


 尋ねると、白土はコショコショと小さな声で囁く。さっきから擬音が可愛らしくて困る。


「昨日はごめんね」


 暗然とした顔で俯き、白土は声を落として詫びてきた。


「わたしの料理、あんまり美味しくなかったよね」


 あんまりどころかゲロ不味かったぞ。


「気にするなよ」


 飛び出そうになったセリフを喉元で止めた俺は優秀だと思う。

 白土は「ホント?」と言って顔を上げる。

 少しだけ間を置き、俺を見つめ、


「わたしね、頑張るよっ」


 手をグーにして控えめに突き出した。

 たぶん話の流れが変わった。けど俺は分からないので首を傾げる。


「頑張る? 料理を?」


 たぶん努力してもお前の料理スキルは変わんねえよ?


「違うよ。ミスコンだよ」

「ああ、そっちね」

「だからね、凌君にサポートしてほしいの」

「言われなくてもするよ」


 飯を奢ってもらったし、それが俺の任務。

 やるからにはそれなりに頑張るつもりだ。


 ……頑張るつもりだけど。

 でも……。


「なあ白土。お前、無理してミスコンに……」

「あのね、凌君」


 俺の言葉を遮り、白土は笑った。




「凌君がいればいいの。わたしは凌君がいれば無敵なんだよ」


 ……はい?


「優里佳、帰るわよ」


 木賊先生に呼ばれ、白土は俺から離れた。意味深なこと言い残して。

 俺がいれば無敵? また訳分からんこと言いやがったな。


「刄金君、フラーちゃん、香織ちゃん、また明日学校でね」


 木賊先生と白土は並び、帰っていった。

 場に残されたのは俺、水浪、日暮の三人。


「あんのクソ教師が……!」


 ……日暮がモードを切り替えた。

 三年がいなくなった途端に一年に威張り散らす二年のように態度が豹変し、今にも地面に唾を吐き捨てそうな剣幕だ。


「ああぁウザ! なんで学外でもユリの相手せんといけんの!? ざけんな殺すぞ!」


 仮面を捨て、唾を吐き捨ててうわあ汚い、日暮は俺を睨みつけてきた。それこそ殺す勢いで。


「しかも釘を刺されたんやけど! 言われんでも最初から正々堂々とユリをぶっ倒すつもりやけど? ムカつく! 終始ムカついた! 刄金ぇ!」

「俺に言われても」

「きいいぃぃ!」


 や、やめろって。トリスコとはいえミスコン準優勝の女の子が街中で吠えるな。


「あたしが不正すると思ってんの? そんなんせんでも、言われんでも、あたしは真っ向勝負でユリに勝ったる!」

「……」

「何か言ぃよ。黙んなや」


 えぇ……? 何か言ったら怒るくせに黙っても怒るの? 何それ雨神宮ぅ。

 あーやだやだ。アイコンタクトで水浪に助けを求めよう。


「んーっ、お腹いっぱいですっ!」


 しかし水浪は未読無視。夜空を見上げ、幸福のあまり放心状態だ。

 よって俺がソロでこのヒステリック悪女の話し相手を……さっさと逃げるべきだった。


「そうやって余裕ぶっていられるんも今のうちやけん。絶対に負けん」

「は、はあ」

「あたしには、とっておきの秘策がある」

「……秘策だと?」


 思わず聞き返し、日暮を見る。

 そんな俺の反応に気を良くしたのか、日暮は口をガパァと開いて嘲笑う。


「言うわけないやん。バーカ! キメェキメェ! 死ね!」


 小学生かよ。


「当日は震え上がりぃ」


 さっきまで震えていた奴が言うかね。


「そしてひれ伏しぃ! あたしの秘策によって惨めに負けるユリと共になぁ!」

「いや、それならこっちも」

「今に見とけユリの従者共! バーカ! カス! この無個性男と貧乏女が!」


 捨てセリフを吐き、ついでにもう一度唾を吐き捨て汚ねえんだよお前ぇ、日暮は去っていった。


「俺は従者じゃねえけど」


 ため息混じりに呟き、少しショックを受ける。

 無個性男って俺のこと? 何気に傷つくんだが。


 ……秘策、ねぇ。

 俺らがミスコン対策を始めたように、日暮も準備を進めている。

 あいつの秘策とは一体……?


「日暮香織に何を言いかけやがったのです?」


 危惧する俺を揺する水浪。


「なんだ、話は聞いていたのか」

「私は優秀ですので」

「はいアウト。自分のことを優秀と言う奴は優秀ではない」


 数分前の自分へブーメラン。あらやだっ。


「で、何を言いかけていました?」

「ん? ああ」




「奇遇だな、俺もだ。と言うつもりだった」


 答えてニヤリと笑い、今度は俺が夜空を見上げる。


「と、言いますと?」

「思いついたよ。特技披露タイムを乗り切る、とっておきの秘策がな」


 微かに光る星に向けて手を掲げ、その手を握りしめる。


「行くぞ水浪。買う物がある」

「分かりました。デザートですね」

「ちげぇよ!」

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