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第31話 お部屋に招待

 特技披露タイム。自分をより良く見せるうってつけの場であり、ミスコン優勝にグッと近づける絶好のチャンス。本来ならね。

 悲しきかな。白土にとっては足枷でしかない。

 白土の場合、大衆の面前でポンコツを晒すことになりかねないし、仮に特技披露が上手くいったとしても大した得がない。元より何をせずとも優勝が約束された圧倒的存在、高嶺の花なのだから。

 とどのつまりハイリスクローリターン。全くもって迷惑な話である。


「お、おルンルンっ。き、今日も凌君と下校ぉぅ」


 良かれと思って発案したにせよ、余計なことしやがった実行委員マジ許すまじ。ぷんぷんっ。

 が、先程サーティーウーマンが告げたように時間は限られている。愚痴る暇があるなら、それこそ寸暇を惜しんで働くべき。

 つーわけで俺は自宅の扉を開く。上ずった声の白土を連れて。


「入れよ」

「お、お、おぉふ、おお、お邪魔します。はわわっ」


 玄関に入り、白土は全身を強張らせる。靴を上手く脱げず慌てふためく。

 動きがぎこちないなあ。利き手とは逆の手でやる歯磨きくらい動作がぎこちない。見ていてこっちまで息詰まるよ。


「緊張してるのか」

「う、うん。初めてスタバに行った時くらい緊張してる」


 白土は苦労の末に靴を脱ぎ飛ばし、その拍子に玄関先の段差に躓いて「ひぎゅ!?」と悲鳴を上げる。

 俺は足のみで靴を脱ぎ捨て、白土の体を起こす。


「確かに初スタバは緊張する。Tが何サイズなのか、なんて読めばいいのか分からないよな」

「わたし覚えたよ。Tはね、トールハンマーだよっ」

「ハンマーいらない。お前は注文の際に『エスプレッソのトールハンマーください』って言うのか? ちょっとカッコイイなおい」


 アホな会話をしつつ、白土と共に階段を上がる。

 ……そういや女子を招くのは初めてだ。

 スタバ程ではないが、ちょっぴり緊張しながら自室に入る。


「わ、わわっ、ここが凌君のお部屋……!」


 俺に続く白土。首を忙しなく動かして室内を隈なく見渡すと、ガチガチだった全身を今度はプルプルと震えさせて荒々しく息をつく。

 うわ、目がギラついている。何だこいつ?


「テキトーに寛いでくれ」

「分かった!」


 そう言うと間髪入れずベッドにダイブ。

 今、一切の躊躇がなかったよね。なーにしてんのこの子?


「凌君のベッド……ベッド、ベッドベッドベッドベッドベッド……!」

「ヤベー光景」


 ベッドの上で転がりまくりのたうち回り。白土は大興奮。数十秒前までの緊張はどこへやら。

 あ、スカートがめくれかけている。パンツ見えそうだからやめなさい。


「凌君の枕……はぁうわぁ……匂いが濃い~……!」


 白土は両足をバタバタ、枕に顔をうずめてモフモフ。白くて細くてスラッとムラッとした太ももが際どいところまで露わになっているのに気づかず尚も転がり続ける。や、だからパンツが見えそうだっての。

 ……まあ? 見えるなら見てやってもいいけど?


「わたしもいつか凌君と二人でここで……え、えへ」


 いや決して見たいわけじゃないよ? そこまで積極的ではないよ?

 こいつが不用心なのが悪い。言わば事故だ。うん。


「すうぅ、はあぁ……凌君の匂いがいっぱい……んっ、フワフワしちゃうよぉ……」


 それにほら、俺は一応彼氏だからさ? パンツくらい見てもいいじゃん? 彼氏だからね? 彼女の下着を見たいと思うのは当然でしょ? 寧ろ目を逸らす方が意識している感じがしてカッコ悪い。

 よって俺はパンツを見てもいい。というか見るべきだ。うんうん。やれやれ。嫌だけど仕方なく見てやっても……。


「あっ、髪の毛が落ちてる。凌君の髪の毛! た、食べてもいいかな? 食べるのはアウトかなぁ? じ、じゃあ舐めておこ……!」


 クソぉぅ! さっきから凝視してるのにこいつ全然パンツ見せねーぞ!?

 なんでだよ。激しく転がり回っているだろ。ちょっとじゃなくもっとガバッとスカートめくれろよ。ガードが固すぎ。鉄壁スカートかよ!


「ぐっ……ま、まあいい。おい、俺の髪を舐めようとするな」

「ば、バレてた?」

「当たり前だろうが」


 枕についた毛を舌で舐め取ろうとする変態を制し、まあ変態は俺もなんだが、俺はパンチラを諦めてローテーブルと座布団を用意する。

 その間も白土はベッドでゴロゴロ。手足を使って枕をホールドする。

 と、不意に話しかけてきた。 


「ところで凌君、な、なんでわたしをお家に招いてくれたの? ミスコンの準備の為? ってことはミスコンが終わるまでは凌君のお部屋に来ても……?」


 おずおずとした口調。向けば、寝転がった白土が俺をじぃーと見つめていた。

 俺は組み立てたローテーブルに肘を乗せ、答える。


「いやミスコン関係なく今後ずっとだ」

「……ずっと!?」

「一緒に帰る時は俺の部屋に来てもらう。外が暗くなるまで俺の部屋にいてもらう」

「っ~!? い、いいの……?」

「いいも何も、それがベストなんだよ」


 ミスコンも厄介だが、それ以外にも問題は社畜のデスクよろしく山積み。

 一つずつ解決していこう。まず下校について。


 記憶に新しい河川敷での一件。

 豆史にバレなかったのは豆史がキセキの世代、稀代のアホだったから。馬鹿が相手なら誤魔化せるが、普通の生徒なら一発アウトだった。

 今後もああいったピンチは起きる。ではどうするか。


 答えは、俺の部屋で時間を潰す、だ。

 俺の家は学校から徒歩十分。とても近い。しかも彼氏教師になる以前の暇だった頃はよく登下校RTAをしており、故に家と学校間の最短ルートを熟知している。

 自慢じゃないが、俺は全校生徒の中で最速で下校することが出来る。ホント自慢じゃないなおい。

 ともかく、誰かと遭遇する前にさっさと家の中に逃げ込む。寄り道代わりに俺の部屋で遊べばいい。ナイス案だ。


 デメリットもあるけどな。

 白土を帰す際、外に人がいたらアウト。つまり外が暗くなるまで待つ必要があり、夜までこいつと一緒にいなくちゃいけない。

 クソめんどいが、俺が甘んじて受けてやる。クソしんどいけどなあ。


「い、いいの? 本当にいいの?」

「あ?」


 白土がまた問いかけてきた。さっきより熱っぽい声音で。

 息遣いも熱く荒く、こちらを見つめる瞳も熱を帯び、興奮と歓喜が渦巻いている。


「夜まで凌君のお部屋にいていいの? 夜まで凌君と一緒にいられるのっ?」

「ん、まあ、お前が帰るのが遅くなってもいいのなら」

「いい! 全然いいよっ。わーいっ!」


 白土は食い気味に声を被せた後、毛布を被る。 


「嬉しい。凌君と一緒にいられる時間が増えた。しかも凌君のお部屋……っ、こんなの、嬉しすぎて幸せすぎてわたし、わたしぃ……クンカクンカスーハースーハー毛布も凌君の匂いが濃ゅい~!」


 毛布の中に潜り込み、布越しにくぐもった声が聞こえてきた。

 不満はなさそう。オッケ、今後はそういうことでよろしく。


 下校問題は解決。では本題、ミスコンについて話そうか。

 まず本人に聞いてみるべく、毛布の塊に声をかける。


「特技はあるか?」

「特技? 折り紙が得意だよっ」

「折り紙以外で」

「ラーメンっ」


 ラーメンは特技じゃねーけどな。


「他には?」

「それ以外? んー、ないっ」

「上等ぉ」


 一から習得させることが決定。知ってたよ上等だよテメェこの野郎ぉ。


「あ、もう一つあった」

「マジか。何だ?」

「脇と手を使ってオナラの音が出せるっ」


 直後、毛布の塊からボフッボフッと生々しくて汚らしい音が鳴った。こ、このアホは……。

 毛布で姿は見えないが、恐らく手を挟んだ脇を閉じたり開いたりしているのだろう。


「今この時をもって封印して二度とやるな」


 こいつ、ちょくちょく下品だよな。なんつーしょーもないことを……。


「え、でも特技って凌君が言うから」

「じゃあ聞くけど、脇オナラを披露してミスコンで勝てると思うか?」

「たぶん勝てるよ?」


 ……うん、優勝出来るよ。お前なら。

 超絶美少女による脇オナラ。正直言ってインパクトはある。男子は「これはこれで良い!」や「さすが白土さん!」と言って喜ぶに違いない。

 でもやめておこうぜ。ポンコツがバレるとかよりも、脇オナラに負ける他の参加者が可哀想だ。日暮は一生のトラウマになるぞ。


「あー、脇オナラ以外は?」

「凌君は欲しがり屋さんだね。さすがにもうないよっ」

「何がさすがなのか知らんけど」

「ねぇ聞いて聞いてっ」


 ボフッボフッ!


「……とりあえず毛布から出てこい」


 姿が見えない分、キツさが増す。なんかマジで放屁していると錯覚してしまう。やめてくれ。


「い、今すぐ? ま、待って、服を脱いじゃったから、んしょ、んしょ……」

「脱ぐんじゃねえ。一応彼氏の部屋とはいえ、初めて来た日に服を脱ぐんじゃねえ!」


 はあ? 服を脱いだの? 脇オナラを披露する為に!?

 俺の気持ちを考えような? 毛布の中で脱衣した美少女が脇で奏でるオナラ音を聞かされた俺の気持ちを考えような!? ポンコツ女ぁ!


「んしょ、はいっ」


 毛布の隙間から顔を出した白土。笑顔を浮かべ、でもどこか悔しげに唇を曲げる。


「わたしの演奏どうだった?」

「最悪だ」

「ごめんね、昔はもっと綺麗な音を出せたんだよ?」

「いや音質について批判したわけじゃねえよ?」

「高校生になって胸が大きくなって上手く出来なくなってて……」

「分かった。それ以上言わなくていい」


 俺は木賊先生みたく片手で顔を覆う。

 つ、疲れた。気力をゴリゴリ削られた。あと悶々とさせられた。

 何なの君は? 実はエロイ子なの? パンツが見えそうになったり、毛布越しに服を脱いだり、お胸の成長を報告したり……あ、あぁん? 俺を誘ってんの?

 これ以上ペースを乱されてたまるか。


「凌君?」


 ここは俺の部屋、俺のホームだ。主導権を取り戻す。

 俺は座布団の上に座り、白土を手招きする。


「こっちに来い」

「なぜ?」

「そのセリフ、魔法の筒(マジックシリンダー)みたくそのままそっくり返してやる。俺らはやるべきことがあるだろ?」

「あ、そうだったね」


 本題を思い出してくれたらしく、ようやく白土は毛布から出てベッドを降りた。


「座れよ」


 もう一つの座布団を対面の方へ滑らせて促す。

 しかし白土はその座布団をすぐさま拾い上げ、俺の横に置いた。


「うんっ」


 隣で女の子座り。ピッタリとくっついて上目遣い。


「いや……正面に座れよ」

「いつでも凌君の横にいたい。駄目かな……?」


 毛布に潜り込んでいたせいか、白土の体温が熱く感じる。

 それに気を取られたせいか、必殺技・上目遣いを至近距離で食らってしまい……。


「へー。どうぞご勝手に」


 ……我ながらダサイ。クールに振る舞おうとするのがすげーダセェ。


「お布団やお枕も良かったけど、やっぱり生身の凌君が一番っ」

「生身って……」

「あぁ凌君~。……本当に久しぶり。GWほとんど会えなかったから補充しなくちゃ……♪」

「……あっそ」


 苦し紛れにそっぽ向く俺。対する白土は返事と共に腕を絡める。いつものようにくっつき、遠慮なく身を寄せて頭を乗せて……。

 ぐ……ぐぐっ、ここは俺のルーム、俺のホーム。なのに主導権を取り戻せないし普段より緊張してしまう。いつの間にか俺の方が緊張してるじゃねえか!?

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