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第30話 長期ミッションの始まり始まり

 場所は生徒指導室。

 議題はミスコン。

 メンバーは白土、俺、水浪、木賊先生の四人。


 さあ対策会議の始まり始まり。


「あ、あれれー? なぜか急に力が抜けて倒れて凌君に膝枕してもらう体勢になっちゃったー。……えへへっ♪」

「俺、アロエドリンクを買いに行きたいので一旦抜けます。二十四時間後に戻ってきまーす」

「刄金凌、私の分もジュースを買ってきやがれです。肉汁サイダーが飲みたいです」

「……この三人で大丈夫なのかしら」


 おっと早くも先生が暗然としております。片手で顔を覆い、指の隙間から俺ら三人を見つめる。

 アホな奴ばっかで大変っすね。あ、俺も含まれているのか。てへっ。


「まあ俺らを選出したのはせんせーなのでせんせーのせーですよー」

「君達はキセキの世代なの? クラスの日暮さんや海月君を含めて君達はアホのキセキの世代なの?」

「だとしたら先生は幻の六人目(シックスマン)といったところでしょうか。まあ先生は」


 シックスマンではなくサーティーウーマンですけどね。

 途中で口を噤んだ俺は学習能力高し君である。年齢イジリは死を意味する。なので心の中で馬鹿にしておこう。やーいサーティーウーマン~。


「私が? 何?」

「いえ何もー」

「凌君の膝枕っ。おスリスリーっ」

「それよか会議に集中しましょう」


 キセキの世代最強の白土が俺の膝の上でスリスリしてきた。

 テメェこの野郎、股間付近でスリスリするな。向きと位置がズレたらエロイやつになるだろうが。

 俺が促し、先生が話を始める。


「まず君達は放課後、クラスでの居残り作業はしなくていいわ。ミスコン対策に集中して。同じ一組の人に何か言及されても生徒会の手伝いがあるの一点張りでいい。私が上手く誤魔化す」

「必死っすね」

「当然よ。優里佳の二連覇がかかっている」


 高嶺の花と称される以上、求められるのは常勝のみ。

 何が何でも白土を優勝させる。先生の声はかなり熱を帯びていた。

 まあ俺と水浪はひんやりしてるけど。


「せんせー、対策つっても具体的に何をすればいいんすか」

「刄金凌、私はお腹が空きました」

「校庭の石をめくってこい」

「ダンゴムシは美味しくないです」


 食べたことあるんかーい。ズコー。


「ダンゴムシ? いいねっ、アルパカの代わりにダンゴムシを入れたらコストダウンっ」


 お黙り白土。それは経費削減云々のレベルにも達していない。つーかアルパカじゃねえんだよバーカ。


「あ、そうだ、アロエドリンクにタピオカを入れたら美味しいかも。アロエの粒とタピオカのダブル食感、美味の予感」

「君は真面目に聞きなさい」

「なんで俺だけ厳しいの?」

「あと五秒で真剣にならなければ」


 俺だってたまにはボケたいんすけどねえ……分かりましたよ。

 膝元に倒れ込む白土を水浪の方に押しやり、背筋を伸ばす。


「で、去年と違う要素ってのは確定的なものになりましたか?」

「そうね。とても厄介よ」


 豆史語で言うところの、コーヒー豆を噛み潰したような顔した先生が『極秘』と書かれたファイルから一枚のプリントを取り出す。


「何か資料をお持ちで?」

「ミスコンに関しては実行委員に一任している。けれど当然、教師はその全てを把握してある。情報の入手は容易よ」


 教師の権限を使って自分の姪っ子を勝たせる。ズルイよね。

 でも白土のおかげで受験者が増えて学校サイドは色々と潤っていることだろうし、これくらいのアドバンテージはありがたく貰っておきましょ。


「見せてもらいますね」


 プリントを受け取り、目を通す。GW中に先生が仄めかした不穏の詳細がここに記載されている。

 さて、どんなことが待ち構、って……あー……なるほど。

 鏡で見ずとも自分の顔が歪んだのが分かる。

 俺が読み終えたのを察し、先生が口を開く。


「昨年のミスコンの流れを覚えているかしら」

「うろ覚えですが、ステージの上で自己紹介。でしたっけ? 出場者が一人ずつ喋った後すぐに投票が行われていましたね」

「その通り。企画と呼べる程のイベントや要素はなく、簡単な挨拶のみ。おかげで優里佳は難なく優勝出来たわ。自己紹介文を覚えさせるのに相当苦労したけどね」

「でも今回はそう簡単にはいかないと。……確かにこれは厄介ですね」


 俺はプリントをテーブルに放り投げる。

 プリントに書かれていたのは企画の大まかな内容とタイムスケジュール。

 その中に『特技披露タイム』という文字があった。

 特技披露……うへえ……。


「ミスコンをより盛り上げるべく実行委員が立案したらしいわ」

「ま、こういう要素があれば見る側は楽しいでしょうよ」


 いかにもコンテストって感じの、俺も口開けて眺める立場なら面白い企画だと思う。

 無論、やる側にもメリットがある。例えばダンスや英会話。自分の個性や長所をアピール出来る絶好の機会だ。

 観客と出場者、どちらもプラスになる。

 だが残念なことに白土だけは例外。プラスにはならず、ひたすらにマイナスでしかない。

 なぜなら白土は……。


「凌君?」


 俺は隣の女子生徒を見る。アホの子、ポンコツ少女、白土優里佳を。

 こいつの、特技ぃ……?


「凌君がわたしを見てる……で、でぅふへへ~♪」


 ……今回の優勝は無理かもしれませんね。

 目で伝えてみるも、先生は意に介さず強引に俺に問いかけてきた。


「優里佳の特技は何かしら? 彼氏なら当然知っているでしょ」


 んな無茶な。叔母の方が知っているでしょって言い返してやろうかな。てか彼氏じゃなくて彼氏役だっての。

 とりあえず考えてみる。白土の特技、得意なことは……。


「あ、白土は折り紙が異様に上手ですよ。ゲートガーディアンやメガカメックスを作らせるのはどうでしょう」

「高嶺の花はゲートガーディアンやメガカメックスを作らない」

「ザ・ご尤も」

「それに折り紙だと地味ね。もっとステージの上を飾るに相応しい華やかな特技が良いわ。例えば歌はどう?」

「こいつの歌唱力は壊滅的&破壊的です」


 会場にいる人間もれなく全員を巻き込むテロ行為に等しきリアルジャイアンリサイタルの地獄と化すだろう。

 大惨事は避けたい。よって歌は却下。

 なら他に何があるかと言われたら……うーむ。


 というか、何をしても駄目な気が……俺は手を挙げる。


「先生、一ついいですか」

「何かしら」

「前提として、こいつに特技をさせること自体がマズイです。下手するとポンコツが出ますよ?」

「そう。それ」


 先生は「そう。それ」をめっちゃ力強く強調した。やはり先生も最悪のケースをしっかりと危惧されていたようで。


 白土の特技が何なのか。何が出来て何が出来ないか。それらは一旦置いとく。

 最たる問題は。最も厄介なのは。全校生徒の前でポンコツがバレる危険性が高し君ってことだ。


「もしダンスをさせたら白土は躓いて『ひゃう!?』と声出します」

「英会話をさせたら優里佳は噛んで『ひぎゅ!?』と泣くわね」


 特技披露ではなくポンコツ露呈。

 大勢の生徒が見守る中、盛大にやらかして正体がバレる。そうなれば言い逃れは不可能。まさに現行犯逮捕。ジ・エンドである。

 そうっすね……えぇーと……思っている以上にヤバイですよねぇ。


「どうするんですか」

「そうね。どうやって特技披露タイムを乗り切るか。今回のキモよ」

「キモキモの実の全身キモイ人間~」


 遣る瀬なくなってきたのでふざけてみる。全身をくねらせる~。

 すぐさま先生が『幻術・首縛り』を放ち、ヘラヘラ笑っていた俺はベイダー興のフォースよろしく喉を絞めつけられた。


「げほげほっ!?」

「凌君!? だ、大丈夫? 息が苦しいの? わたしが人工呼吸を……ん、んちゅーっ」

「水浪、こいつを引き剥がしてくれ」

「百円です」


 迫る白土の顔を寸前で押さえ、百円玉を投げ捨て、俺は改めて先生の方を向く。


「冗談っすよ……真面目に考えます」

「ではどうするべきか言ってみてちょうだい」

「華ある特技を今から習わせても付け焼き刃では意味がない。そもそも完成度が低い状態で人前にやらせるのはあまりに危険すぎる」


 映える特技を白土に習得させる難易度もさることながら、大切なのはミスをさせないこと。


「つまり?」

「求められるのは白土でも簡単に習得が可能、且つポンコツが露呈する恐れが限りなくゼロで、そして出来るなら華やかな特技……を、俺に考えろってことでしょ」

「その通り」

「出ましたお決まりのパティーン。無理難題キタコレ」

「文化祭まで残り一ヶ月。時間はあるようで短いわ。寸暇(すんか)を惜しんで君が今言った条件を満たす特技を優里佳に習得させなさい。最悪の場合を考慮し、地味でもいいから100%安全な特技も一つ用意させておいて。それが君の任務よ」

「前にも言いましたが、無茶無謀を押しつけてる自覚あります?」


 特技を習得させる。ミスコンのステージで披露するに値する、白土でもお手軽に出来る、そんな夢みたいな特技を。

 はい、今回もクソ案件でございやす。クソだよクソ。クソがあー。

 通常デートの数倍は大変だった遠足。その遠足よりもさらに過酷な今回の任務。

 え、何このバトル漫画みてーな展開。やっとの思いで強敵に勝った直後に、その強敵を一瞬で倒すさらに強い敵が現れたみたいな? 無理難題のインフレやめろよ。


「君なら出来るわ。頑張って」

「あ、そういう病院食並みに味薄い応援はいらないんで」

「ならウインクしてあげようか?」


 それはパンチが強すぎるんだよ。マジ勘弁だよミアちゃんんん。


「クエスチョン。水浪は? 俺一人なの?」


 三十路のウインクは必要ないが、せめて協力者が欲しい。一人は心細い。

 縋るようにして尋ねる。すると水浪が上体を前に倒してこちらを見てきた。

 サラサラの髪をテーブルにつけ、水浪は百円玉を愛おしそうに握りしめながら淡々と答える。


「私は優里佳様が着る衣装の準備、当日のメイクアップ等の仕事があります」

「そうね、フラヴィアさんには特技披露以外の面をケアしてもらうわ」


 分担作業ってやつ? そりゃ男の俺に衣装やメイクの作業は無理だからな&だがなあ、にしても俺の負担が大きすぎません?

 ……毎回毎回よくもまあ厄介でヤベェ問題をポンポンと用意してくれますね。ホント暴君の才がありますよ。このサーティーウーマンめ。

 まーたしても超高難易度の極秘任務を任せられ、俺はいつものように項垂れる。


「凌君、わたし頑張るよっ。よく話を聞いてなかったけど頑張るっ」


 そんな俺に白土が微笑んできた。

 これまーた呑気に笑っている。いや聞いてなかったのかーい。ズココー。よく聞いていなかったくせして笑顔でピースサインかよ。豆史よりアホなのでは?


 やれやれだな。遠足と違って今回は一ヶ月に及ぶ長期ミッション……本当にやれやれだな。

 時間はあるようで短い。となれば早めに始めよう。


「はあ~……では今から取りかかりますね」


 ミスコン対策会議は終わり、さあミスコン対策の始まり始まり~。やる前から気力は底尽きた感あるけどな。

 俺は重い腰を上げ、白土を見下ろす。


「凌君、帰るの? じゃあ一緒に帰ろっ」

「そうだな。とりあえず白土」

「ん?」

「今から俺の家に行くぞ」

「……ふぇ!?」

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