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第3話 二回目の拉致

 高校生活が魔大陸浮上並みに急変した日の翌日。

 歩くこと十分ちょい、学校に到着。俺がこの高校を選んだのは家から近いからである。流川と同じ理由だ。やーんカッコイイ。

 さて、いつも通りアロエドリンクを買おう。まずは売店に向か


 っていたはずが、いつの間にか生徒指導室に連れ込まれていた。


「せんせー、二日連続で拉致しないでください。その巧みなロープ術はどこで会得したんすか。師は誰ですか」

「しんちゃんの声優さんって変わったらしいわね」

「話の逸らし方が下手すぎますよ」


 ひと振るいでロープを解き、優雅にコーヒーを飲む三十路の先生。

 昨日、俺にとんでもない任務を言い渡した人だ。俺の中であなたはカルマ値が高いですよ。


「連れてきた理由は分かるわよね」

「昨日の今日ですからね。俺は考察力も中の上レベルなのですぐに察しましたよ」

「君はおかしな生徒ね」

「俺よりおかしい生徒が一人いるでしょ」


 俺がソファーに座って睨みつけると、先生はおどけたように微笑を返した。


「その様子だと早くも洗礼を受けたみたいね」

「昨日の出来事を報告してあげましょうか? 白土と寄り道した俺は河川敷で『夕日が目に染みるぜ』を延々と言うハメになりました」

「ちょっと何を言っているのか分からない」

「ですよね~」


 だが事実だ。中二病を超える辱めを受けたんだぞ。

 さらに恨めしげに視線をぶつけると、先生は俺が昨日だけでどれだけ精神をやられたのかは理解してくれたらしく&わざとらしく肩を(すく)めた。


「辛いのは最初だけ。慣れたら平気よ」

「ブラック企業の常套句ですよそれ。あの、もう辞めたいっす」

「まだ始まったばかりよ? マ○オで例えると1-1よ」

「1-1でコントローラを投げたくなる難易度だから言っているんすよ。というか? 事の経緯を一から説明してください」

「話したら彼氏教師を続けてくれる?」

「聞き終えたらすぐにゲームオーバーします」

「じゃあ話をコンティニューするわね」


 先生は『極秘』と書かれたファイルから数枚の紙を取り出す。あ、この人また8切りするつもりだ。


「まずはこれを見て」


 テーブルに広げられたのは答案用紙だった。どれもこれも赤点だし一桁の点数もあるイズ酷い。


「これは白土の?」

「そうよ」


 先生は頷いてコーヒーを啜る。昨日も思ったけど俺の分のコーヒーはないの? なんで自分だけ優雅に飲んでいるのだろうこの三十路は。

 カルマ値を高めつつも俺はお粗末な答案用紙から視線を逸らして鼻で笑う。


「進学校にあるまじき点数ですね。あいつの親は何も言わないんすか? どんな教育しているのやら」

「あの子の両親は何が起きても『優里佳は世界一可愛い』としか言わないわ」


 ああ、親も頭がおかしいのね。どうした白土家。勘弁してくれよ白土家。CMの白土家も何気に奇天烈だし、どうなっているんだ世の白土家は。


「まあ昨日、あのポンコツっぷりを見たばかりなので驚きはしません。ですが白土は勉強が出来るというイメージが一般生徒には浸透しています。現に先日のテスト返却で先生はあいつに満点の答案用紙を渡していましたよね」

「あれはダミーよ」

「そんなことしていいのかよ進学校ぉ」


 学校ぐるみで白土の本性を隠蔽しているらしい。教育委員会が黙ってないぞ。


「よくこれでウチの高校に合格しましたね」

「裏口入学よ」

「一般生徒をドン引かせて楽しいすか?」


 先生は躊躇(ちゅうちょ)なく次々と衝撃の事実を語っていく。

 それは一般生徒が知ってはいけない不正の数々であり、それを聞く俺は自分が犯罪グループの輪に引き寄せられていく感覚に襲われた。


「聞いたからには君もおしまいね」


 ほら悪代官みたいな顔をしてる。ボマーが自身の念能力を話すことで能力が発動するみたいなことしやがって。

 要するに白土は勉強面もポンコツ。安心したよ。あのポンコツっぷりとイカれ具合で勉強が出来たら俺は世の不条理を恨んでブス達と同盟結んで神様に向けてFU○Kを連呼してやった。


「白土がアホなのは分かりました。ならどうして」


 ならどうしてそれなりの進学校であるこの高校に白土を入学させたのやら。まさか教師の身内だからという理由ではあるまい。

 俺が言いたいことが途中で分かったのか、先生は再び頷いて説明を続ける。


「アホでポンコツだとしても、それを知らない人からすれば優里佳は文句なしの美少女なの」

「見た目は完璧ですからね。見た目だけは」

「あの子が入学すれば我が校の宣伝になること間違いなしだったわ。現にパンフレットで優里佳の写真を使用したら今年の受験者は何十倍にも増えたのよ」

「俺、一つ下の代に生まれなくて良かったです」


 倍率増えまくりだ。復活したエルレのライブかよ。


「端的にいえば特待生枠ね」

「学校サイドが白土を歓迎したと?」

「そうね。県外の有望選手をスカウトする強豪校と思ってちょうだい」

「野球留学とは訳が違います。バレたら問題になりかねないですよ」

「バレなければいいわ」

「Are you really a teacher?」

「大丈夫よ。その為に君がいるのだから」


 先生が任せたと言わんばかりにウインクしてきた。俺はすぐに視線を逸らす。

 はーい俺には無理でーす。勘弁してくださーい。あと三十路のウインクは冗談抜きで勘弁してください。ゲボがノックアップストリームする寸前でしたよ。


「それに優里佳がこの学校にどうしても入りたいと言ったのよ。なぜなら……いいえ、なんでもないわ」

「なんでもないわ、じゃないわ。最後まで言ってくださいよ」

「君が全てを知悉(ちしつ)する必要はない」


 片目ではなく両目を閉じ、ファイブツアーズジェットで出題されるような難しい単語を放った先生は口も閉ざした。

 うーわ話さないつもりだ。ムカつくなあ。明らかに秘密があるのにそれを隠してひたすら「お願い私を守って」と言ってくるRPG序盤のヒロイン並みにムカつくぅ。中盤に世界の命運を握る秘密が明かされるパターンね。

 白土にはこの高校にどうしても入学したい理由があったらしい。まあそれはどうでもいいや。


「前置きはこの辺にして、なぜ俺が指導係に選ばれたのか話してください」

「じゃあ次は君のを見せるわね」


 先生が白土のお粗末な答案用紙の上に一枚の長細い紙を乗せた。あ、俺のテストの点数だ。うーん低い。赤点がいくつかある。

 ザッと見終えると、今度は先生が鼻で笑った。


「君こそよくウチに受かったわね」

「中学の頃は頭良かったんすよ。勉強しなくても良い点が取れました」

「あぁ、中学校までは通用するけど高校生になった途端に授業についていけなくなる中途半端に頭が良いタイプね。何人も見てきたわ」


 ねえ今の何キロ出てた? 教師とは思えないキレキレのストレートを投げてきたよ。まさにその通りだけど直接言われるとイラッとくる。広告スキップするのもめんどいし十五秒ならいいやと思って放置していたら四分以上の大作だった時くらいイラッとくるぅ!

 先生は完全に見下した目で追撃を放つ。


「君もポンコツよね。これのどこが中の上なのかしら?」

「甘いっすね。ウチは進学校ですよ。俺は進学校の底辺、つまり上の下。世間一般的な基準で見れば中の上を余裕でクリアしています」

「ほら君もポンコツでしょ。性根が」

「やだ照れちゃう~」

「話を戻すわね。優里佳のポンコツを治すなら優秀な人に頼むべき。実際そうしたわ。けれど治らなかった。そこでいっそのこと同類に頼んでみようと決断したのよ」

「そしてアホの俺が選出された。アホですねー、俺も白土もこの学校もな!」


 というか進学校のレベルについていけず(くすぶ)っている生徒なら俺以外にもいたでしょうに。例えば豆史とか。


「分かってもらえたかしら」

「指導係については納得してあげますよ。で、恋人役としてなぜ俺が?」

「あら? 恋人役に関しても不満が?」

「そりゃ二郎並みに盛り沢山」


 すると先生は今日一の微笑みを浮かべる。なーんすか?


「彼氏の役とはいえ、優里佳と付き合えるのは役得でしょ?」

「言いましたよね。俺のモットーは中の上です。上の上、その頂点と付き合う気はありません」

「やりすぎたらストップをかけるけど多少のボディタッチはしていいわ。例えば手を繋いだり、ぎゅっとハグしたり」

「はは、そんな特典で俺が釣られるとでも思いましゅたか」

「噛んでいるわよ」


 俺は滑舌に喝を入れる。喝だ! かーつ!


「ね? 君にもメリットがある」

「い、嫌ですって。あくまで彼氏の役だ。レンタル彼女を利用した後みたいな虚無感は味わいたくないです」

「昨日はすんなり観念したのに今日は抵抗するわね」

「あのポンコツは手に負えないと思い知ったので。てことではーいギブアップしまーす」


 経験上、こういうのは早めにキッパリと断るべきだ。何を言われてもこの場で彼氏教師を辞めて中の上ライフを取り戻してみせる。

 固い意志を見せる俺に対し、先生は唇を薄く伸ばした。あ、また嫌な予感がする。


「ところでこのテスト表、見ての通り赤点があるわよね。けど君は補習を受けていない。なぜか分かる?」

「……さあ?」

「私が庇ったからよ。その気になれば今すぐ君に補習を課すことが可能よ」


 ここで補足。ウチの高校の補習は小テストで満点が取れるまでエンドレスで続く鬼畜仕様なのだ。去年に一度受けたことがあるが二度と思い出したくない。

 俺は自分の唇が渇いていくのが分かった。


「ほほぉ? それで脅しているちゅもりですか」

「彼氏教師、やってくれるわよね?」


 先生は残りのコーヒーを飲み干す。これ以上は話さないし、話さなくても大丈夫だと暗に勝ち誇っていた。

 まさにその通りで、俺は深々と頭を下げる。もとい項垂れた。


「もうちょい頑張ってみます……」

「じゃあ学校での注意事項についても説明するわね。ありがとう」

「ウインクやめてください。ノックアップしますよ」

「ちょっと何を言っているのか分からない」


 ゲボのノックアップストリームを抑え、渾身のギブアップスクリームは通じず、俺は共犯の輪に引き込まれて挙句に手綱でガッツリと繋がれてしまった。

 この先生は8切りだけではなくジョーカーも所持していたとさ……。

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