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第29話 文化祭に向けて

 残りのGWはチャップマンのストレート並みの速さで過ぎ去った。

 というのも、ラッキーなことに白土からデートの誘いがこなかった。俺がふざけ半分でほざいた「用事がある。法事がある。工事がある」を真に受けたのだろう。アホである。

 おかげで気力は完全回復。気分は絶好調。素晴らしいね。

 以前の自分に戻れた気がして休み明けの学校も苦じゃなかった。


「凌、次の授業は文化祭の話し合いだね!」


 とはいえ、俺以外の人も憂鬱そうではなかった。なぜなら来月に文化祭があるから。

 年に一度のビッグイベントを意識し始め、学内は浮き立っていた。


「凌、次の授業は文化祭の話し合いだね!」

「聞こえてるよ。リピートするな」


 中でも一段と高揚しているのは豆史。とてもうるさい。まあ文化祭関係なく常にうるさいんだが。

 やたらと騒ぐ豆史は俺の机に尻を乗せ、俺を横目で見下ろして笑う。


「だって凌がぼんやりしてるからさ」

「記憶をぼんやりどころか丸々失った奴が言うなっての」

「記憶? 何のこと?」


 これまたラッキーなことに、豆史は河川敷での一件を忘れていた。

 転げ落ちた際に記憶を落としたのだろう。まるでオブリビエイトの呪文を食らったみたくあの日の記憶を失った。これまたアホである。


「気にするな。お前は変わらず今のままでいてくれ」

「? よく分からないけど任せて!」


 よく分からないくせして笑顔でサムズアップ。白土よりアホなのでは?


「でさ、話を戻すけど凌は文化祭で何がしたい?」

「何でもいいしどうでもいい」

「あーあ、出た出た」


 俺が即答すると、豆史が咎めるような顔つきで嘆息を漏らした。


「何だよ」

「いるんだよね。クラスは盛り上がってるのに『俺、文化祭なんて興味ないね』とか言って捻くれる奴がさ」

「や、そういうわけじゃ」

「非常に嘆かわしいよ。文化祭の雰囲気が苦手だとしてもさ、最低限の仕事だけして後はテキトーにやり過ごせばいい。どうして嫌悪感を出して突っぱねるのさ。数年後に後悔するよ」

「随分と語るじゃないか。まさか経験談か?」

「……男子校の文化祭なんて虚しいと言って準備をサボり、当日楽しそうなみんなの輪に入れず遠目に眺めるしか出来なかった中学の思い出」

「……マジで経験談だったのかよ」

「今思うと男子校も結構楽しかったんだろうなぁ……」

「非常に嘆かわしいよ」


 今度は俺が嘆息する&すると豆史が耳を赤くして吠えた。


「だからこそ高校は謳歌したいのさ。しかも男子校と違って女子がいる! 女子と文化祭だよ? うっほぅだよ!」

「お前はあっほぅだよ」

「でさでさ、凌は何がしたい? 何かあるでしょ?」

「そう言われてもなあ」


 何でもいいしどうでもいい。

 これは別に強がっているわけではない。

 どうせ俺はクラスの催し物には参加出来ないのだ。あの人に激務を押しつけられて……はあ。


「コーヒー豆を噛み潰したような顔をしてどうしたのさ」

「俺はともかく、豆史は何がしたいんだ」

「水着喫茶がしたい!」


 豆史もまた即答し、続けざまに語る。


「水着の美少女が見たい。日暮さん水浪さんそして白土さんの水着姿が見たい!」

「欲望に忠実だな」

「その為にも有志を募ってくる。とうっ!」


 豆史は机から降りると手当たり次第に「へい旦那、水着どうだい?」と男子に声かける。何その繁華街のキャッチみたいな誘い方。


「およ~? 楽しそ~だね」

「豆史だけだよ。俺は違う」

「水着喫茶が何だって~?」

「あいつが是非やりたいんだと」

「あたしの水着姿が見たいって言ってたね。海月君はキモイな~」


 ホントな。俺もそー思……。




「うぎゃあ!?」


 足元にキュウリを置かれた猫みたく体が飛び跳ね、後頭部を床にぶつける。

 だが俺は目を見開き続ける。突如現れた女子を見続ける。


「あはは、刄金君が転げ落ちた~」


 柔和な声と温和な表情。語尾の緩ませ方と笑みの緩さ。

 なぜ。なぜだ!?

 日暮香織が俺の隣に立っていた。俺に話しかけてきた、だと……!?


「お、お前……」


 俺は凝視する。猫被った日暮を。キャラ作った日暮を。

 本当の日暮は違う。正体は悪女だ。こいつは口も態度も悪いクソ性悪女ぁ!

 ファミコン並みにガバガバな豆史と違って俺は頭を強打しても忘れないぞ。失恋と共に脳裏に深く刻み込まれている。


「どうしたの刄金君?」


 お前の方こそどうした。二度と話しかけんなと言ったのはお前だろうが。……何が狙いだ。


「……今日も眠そうだな」

「そうかな? 今日もノリノリだよ~」


 探りを入れてみるも、日暮はいつも通り。ああ、いつもと変わらない姿だ。


 しかし気づいた。見てしまった。

 おっとりと細める瞳。その奥では……っ、どす黒いものが燃えていた。


 本性を知ったからこそ分かる。ハッキリと感じ取った。

 何より、俺は受け取った。



 バラすなや。普段通りにしとけ。



 メッセージを受け取った。目の奥で本当の日暮が歯を剥き出して唸っていた。

 ……鳥肌がスタンディングオベーション。血の気が引く。

 バレても、それでも、これからも、学校では友達の関係を続けるつもり。このキャラは崩さない。

 だからテメーも合わせろ。そう俺に強要して、俺を脅迫してきた……。


「そ、そうか。それは良かった」


 悪女のメッセージと自分の唾を飲み込み、俺は首を振る。

 すると目の奥の悪女はさらに奥の巣穴に引っ込んだ。


「あ、休み時間が終わる。またね~」


 日暮はサッと去って、白土の元へ向かう。


「次は文化祭の話し合いだって~」

「そうですね」

「海月君がメイド喫茶やりたいって。馬鹿だよね~。ユリは何がしたい?」

「そうですね」


 お淑やかな笑みを浮かべる白土。人懐っこい笑みを浮かべる日暮。

 ……ポンコツと悪魔の二人が仮の姿同士で談笑するを見て、俺は机に突っ伏す。豆史が尻を乗せた直後だが気にする余裕もない。

 ……女って恐ろしい生き物なんだなあ。


「是非とも水着喫茶に一票を! うっほぉう!」


 全回復した気力を削ぎ落とされた俺は耳を塞ぎ、より深く机に沈み込んだ。











 その後、文化祭の話し合いが行われた。

 結果、ウチのクラスではタピオカジュース店をすることになった。豆史は「お願いせめて衣装は水着で!」と必死に足掻いたが、女子に却下されていた。


 さらにその後、現在は放課後。

 クラスメイト達は早速、準備に取りかかる。


「タピオカは常温と冷凍どちらにする?」

「仕入れ先はどうしようか」

「他にもシロップと専用ストローが必要だ」

「タピオカの茹で方を調べるね。ついでに必要な道具も見ておく」

「店内レイアウトと衣装デザイン決め担当の人はこっちに集まってー」


 とまあこんな感じで一致団結している。学生らしい&微笑ましい光景。


「聞いてよ凌。俺さ、当日は唇を縫い合わせてこいって女子達に言われたんだ。おかしいよね」

「女子の言う通りだと思うぞ」

「マジで!?」


 不満げにやってきた豆史。同調してもらえると思っていたのか、俺に否定されて狼狽する。

 その間も女子数人がテープメジャーを持って豆史を囲み、そして豆史が「でも女子に採寸されて幸せぇ!」と叫ぶ。うるさ。


「我慢しろよ。豆史はウェイターとして貴重な戦力だ」

「まぁ接客は頑張るつもりだけどさ……」

「怖がるな、文化祭が終わったら抜糸してもらえる」

「いやまず縫われる時点で相当怖いよ!?」


 お店をやるからにはホールで働く人が必要となり、せっかくなら集客を見込めるカッコイイウェイター&可愛いウェイトレスが望ましく、となれば男子からは豆史が真っ先に選ばれる。

 喋ればアホ。黙ればイケメン。これを使わない手はない。


「ま、頑張れ」

「ぎえー、当日は鼻呼吸かよ……」

「普段は口呼吸なのかよ」

「そういや凌は?」

「俺?」

「俺と同じホール係なら一緒に頑張ろうよ! それとも調理?」


 俺は両腕をダラリと下げる。


「知らない。てか聞いてなかった」

「おいやめとけって。後悔するよ」


 諭すようにして俺の肩を叩く豆史。女子から動くなと注意されて「女子に注意されてハッピーぅうぃ!」と叫ぶ。女子の方々、そいつの口を直ちに縫い合わせていただけます?

 俺は豆史の手を弾き、一応言っておく。


「勘違いするな。俺は文化祭のノリが嫌いとか強がっているとかではねーよ」

「ならどうして自分の仕事内容すら把握していないのさ」


 違うんだよ豆史ぃ。把握していないのではなく把握する必要がないの。

 俺だってやる気はあるし、中の上程度には文化祭を楽しみたいよ。

 でもなあ、


「今から呼ぶ生徒は生徒会の仕事を手伝ってもらうわ。白土さん、水浪さん、刄金君。私について来てちょうだい」


 そら見たことか。木賊教師からのご指名だ。

 俺は鞄を持って席を立つ。


「凌が生徒会の手伝い?」

「人手が足りないんだとよ」

「ほえー、大変だね」


 そうだよ大変だよ。こうやって友達に嘘をついて生徒会室ではなく生徒指導室に行かなくてはならないのだから。


「じゃあな豆史」

「凌も頑張れよ。凌の分の仕事は俺が片付けておくよ!」

「助かるよ」

「俺に任せろ!」


 キラキラ笑顔でサムズアップする豆史。女子から動くなと注意されて頭を叩かれ「女子に叩かれたぶっひぃ! もっと叩いてくださいブヒブヒぃ!」と恍惚の歓呼。

 俺は木賊先生の元へ向かう。


「みんなで協力して大成功させよ~。お~っ」


 誰よりも笑顔で誰よりも動く女子生徒、日暮。みんなをまとめて元気に指揮を執る。

 さすがクラスの姉御的存在。……表面上はね。


「男子ファイト~。あたしも手伝……」


 教室を出る間際、日暮と目が合った。


「……」


 時間にして一秒未満。周りの男子達は気づきもしない。

 日暮は黙り、こちらを鋭く睨みつけてきた。俺にしか視認させない一瞬のうちに全てを込めて放った。



 やっぱお前はそっち側なんやな、と。



 怖いなあ……。

 俺は目を背けて退散。


 日暮の悲願はミスコン優勝。

 ああして良い子ちゃんぶってクラスをまとめ上げているのも全ては票を獲得する為、不名誉なトリスコを払拭する為、真っ向勝負で白土に勝つ。

 あいつの意気込みとライバル心がすごかった。


「アルパカジュースわたしも飲みたいっ。楽しみーっ」


 当の本人はライバル視されていることすら気づいてねえけど。

 生徒指導室に入り、白土は両腕ブンブン鼻息フンフンで興奮する。


「何だよアルパカジュースって。パしか合ってねーぞ」


 恐らくカピパラと間違えている。まずタピオカとカピパラを間違えて、さらにカピパラとアルパカを間違えているのだろう。どんな思考回路してんだおいー。


「好きなところに座ってちょうだい」

「りょー」

「わたし凌君の隣っ」

「私は優里佳様の隣に座ります」


 先生に言われ、まず俺がソファー端っこに陣取る。すぐさま白土が真横に来て、水浪は白土の横に腰かける。


「では始めるわよ」


 最後にコーヒーを持った先生が向かい側のソファーに座った。

 さて、俺達の文化祭はここからがスタート。

 ミスコンに向けて秘密の会議が始まる。俺は気を引き締めた。


「凌君むぎゅーっ。久しぶりの凌君の腕ーっ。でへへぇ」


 あ、気が抜けてきた。

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