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序章
バサルカン地方ヴエナ山。
山頂から中腹までが縦に崩れ岩肌が剥き出しになった断崖の、その根本部分には積み重ねた様な建築物があった。
『バルファス城塞跡』
その昔、ロザリア王国の国境がこの付近にあった頃、国の護り、隣国を睨む位置にこの城塞は建てられた。
やがてロザリア王国が肥大し国境線が押し上げられた為に戦略価値は幾分下がったものの、しばらくは王都の盾としての役割を担っていた城塞である。
断崖を背にしたその姿は攻めるに難い事をうかがわせる。
往時には騎士団が駐留し、ヴエナ山の裾野を睥睨していたものであった。
廃城となっておよそ百年。今では訪れる者はほとんどいない。稀に冒険者と称するならず者、遺跡荒らしの類いが無謀にもこの廃城に足を踏み入れる程度である。
そして、そのほとんどが消息を絶っていた。
わずかに生還した者の話では、真夏でも冷気が漂い、城内には黒い霧が常に立ち込めているという。
それは自然現象では無い。
ヴエナ山麓の集落では、バルファス城塞最後の領主ドラゴの娘クローディアの呪いなのだ、と噂されている。