98話
ハイラントでの話。そしてアルスターのトレンティーノ領での話は其々進んでいた。
ハイラントではテオが歯噛みする狐の獣人を相手に可能な限り禍根の残らないように努める。
テオが狐の獣人に対して求めた内容は、新しく生まれる国の内政にハイラントが干渉しない事。そして流通や人の流れを過度な制限を行わない事。
狐の獣人は領地を奪い取られた形となるけれど、実際に本丸を攻め、全てを乗っ取るだけの力を示した相手に対して反抗する術が残されておらず無条件降伏に近い状態で妥協をするしかなかった。
獣人の国ハイラントでは、食料を生産する者、物を作る者、運ぶ者、戦う者、そして考える者と言ったように階層や役割がしっかりと別れているからこそ、識者である狐の獣人さえ納得させる事が出来れば問題が解決される事を、ベンの領地の狐の獣人と話をした時に理解したからこそ、テオは強引な手段を取ったのだ。
狐の獣人から見て敵う相手ではない事を理解させ、何よりも友好関係を結ぶことこそがハイラントにとって有益となるという事を国一番の識者に理解させる為に。
この有益となる事が何かと問われれば、マコトから得た知恵であったり、まだ検証前では狼の獣人に対する特訓による戦力の増強。アルスターの国との商品や製品のやり取りとしての中継国としての存在。
そしてなによりも新しく生まれる国は、どちらの国に対しても中立であり武力侵攻に対しては絶対の力で抵抗する国となり、そしてハイラントに対して絶対の不可侵を宣言するとなれば、その国自体がアルスターに対する防壁となる。
二国間の歴史を紐解けばハイラントはアルスターに侵略され続けていた国であり、それが本当に出来るのであれば存在する価値は大きかった。
狐の獣人はテオの話を聞いてすぐに興味を示し、そして実際にベンの領地を訪れて自身の目で見定める事をテオに約束した。
アドは気を失ったままだったが、その内に離れてくれて構わないと進言もあり、目的の狐の獣人の子供も手配を整えてくれてテオは役目を終えた。
こうしてテオ達は、狐の獣人の子を預り、アリサが必要以上に抱えてモフモフしながら帰路に着いた。
アルスターの国では、新しく生まれる国に対してマイラが自身の父親に対してミト、コンと共に様々な話し合った。話し合った内容については新しい国における人と獣人の共存の可能性に対する模索。新しい国の方向性についての検討ばかりだった。
様々な内容が話され、おおよその議題を出しつくしたのか、最後の最後にマイラは笑顔で告げた。
「ふぅ。これで近い将来トレンティーノ領が新しい国に飲み込まれる事になっても問題ないな。」
と。
この言葉に一番驚きの声をあげたのはミトとコンだった。
対してトレンティーノ領を治めるギデオン。そして防人であるブラッドは『まぁそうなるんだろうな』という事を理解しているような素振りすらあった。
2人の反応はアルスターという国に仕える領主、防人としては背信でしかない。
だけれども、そもそもとして現状のアルスターの国におけるトレンティーノ領の役割は防人としての機能のみを求められているのだが、マイラの能力や話しぶりからして敵対して到底守り切れるものではない。
そして最も重要な事だが新しい国は『トレンティーノ家』にとって敵となるか? というとそうではない。
なにせ血を分けた血縁者が国の幹部として頭数に入っており、中枢を握っているのだ。だからこそ侵略されたとしても自領の民たちが殺されたりする心配もない。話を聞いている限り獣人の自治も認めているのだから、侵略されたとしてもこれまで通りの自治を認められる可能性が高いだろう。
つまり、敵対し戦った場合は滅ぶ。
敵対しなければ被害は軽微、そもそも被害とならない可能性すらある。いや、むしろマイラの話ぶりからすれば逆に大きく戦力を増強することすら可能となるだろう。
この二択でどちらかを選べと言われたら、最初から答えなど決まりきっているような物だ。
トレンティーノ家は武の家系。
戦う事についてはアルスターの国においても指折りの地位にある。だけれどもその力は自領の民を守る為に身につけた力。
民を守る為の力であればこそ、守るために力を振るわない選択肢もまた有り得たこと。
もちろんアルスターは人の国であり、トレンティーノ領はいざという時には国の為に捨石とされる可能性すらある領地。だからこそ当然アルスターの国はトレンティーノ家の離反に備えて領主の血縁関係者を各所に人質のように取っている。
マイラが今回やってきた主な目的も、新しい国が出来、情報が走り始める前にトレンティーノの血に連なる人質となった者達に対して、領に戻るか、それとも危険を理解した上でその場に留まるかの意思を確認する時間を取ったということが大きかったのだ。
こうしてアルスターの国トレンティーノ領での話し合いも終わった。
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話を終え、マイラは報告の為にベンの領地へ、ミト、コンと共に戻りながら、アルスターの国は、獣人のハイラントの国程単純には事が運ばないだろう事や、抗う者が必ず現れる事を考えていた。
これまで敵として見ていた獣人だが、実際に話をしてみれば単純で分かり易い。
そして単純ではあるが各々が自分の役割をしっかりと理解し、個々がそれをしっかり務めようとしているからこそ強い。
ベンの反旗にしても、ベンの確固たる『戦い守る者』としての役目から生まれた気持ちがあったからだと感じた。
若干別の気持ちが入っていたとしても、それは狼の獣人は根幹が『戦い』や『統治』『率いる』というところにあるように思える。
アルスターはそんなシンプルで強い個性の呪人ではない人の国。
中枢にいる人間はシンプルとは程遠い者が多い。
『守るために剣を取って戦え』と言いながら略奪していたり、その守る物として掲げられた物が単なる個人の欲望の為だったりするのだから性質が悪い。
そんな人間達の相手を国単位でやらなくてはならない事になると考えると、余りの面倒さに眩暈しそうになる。
先を思うと溜め息も漏れた。
「お疲れですか? マイラ?」
「あぁミト。ちょっと考え事がね。」
もうすでにベンの領地に入り、てくてくと歩きながら話している。
「これから陰謀やら策略やらが渦巻く所に突っ込まなきゃいけないのかと思うと……あぁ~……もう面倒だなぁ~!」
というか愚痴った。
「おいおいなんだ? 面倒な事が出てきた時の解決法なら俺が教えてやろうか?」
「……殴って解決とか言い出したら、それを言う前に私が殴る。」
コンの言葉にうろんげな目を返しつつ言葉を返す。
「バッカ! 俺がそんな事を言うかよ! いいか? 親父殿からの直伝なんだぞ!? 馬鹿にすんな!」
「へぇ? どんな?」
少しでも参考になるかもしれないと思い、聞くだけ聞いてみようと目と耳を傾ける。
すると『ふふん』と誇らしげに鼻でも鳴らしそうな顔になるコン。
「いいか? よーく聞けよ? 面倒事の解決法はなぁ……」
「解決法は?」
「できるヤツにやらせるんだよ! ワハハハっ!」
しょーもない回答だった。
溜息をついて片手で軽く頭を抱える。
貴族に名を連ねる私が知恵を回し気を回してもそれでも足りないだろう事を、一体誰に任せられるというのだろうか。
すぐに戯言と切って捨てた。
だけれど、切って捨てた破片頭に残り、もし誰かに任せて解決できるとしたら一体誰だろうか? と頭が勝手に考え始めてしまう。
するとすぐに解決できるだろう人物に行き当たった。だけれどその人こそが最難関の敵だった。
だけれど、ふとその時、一つの考えが思い浮かぶ。
そのヒントとなったのは、あのアリサの変貌ぶりだった。
もしかして……味方にできるのか?
いつしか私の頭はその方法と、もし味方につけた場合のメリットとデメリットを考え始めていた。
すみません。少し端折りました。
早くマコトのスーハースハー的な変態行動を書きたくて仕方なくなったんです。
ユルシテクダサイ。




