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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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97話

 テオの「慰めなきゃ」の言葉を受け取ったフリーシアが抱き着いてきたのを背中で受け止める。

 離れそうにない抱き着きっぷり。腰を曲げて背負いながら、でべちゃと落ちたままピクリとも動かず生気のなくなったアドの様子が気になり、そろそろと近づいてみる。


 近づいてみれば、銀色でふわふわだった毛が火で焦げちぢれてみっともなくなっていて、なんだか可哀想だった。そしてやっぱりそっと近づいても何も反応がない。


 背中に抱き着いたままぐりぐりと顔をこすり付けてくるフリーシアの「ん~」という声を聞きながら、ゆっくりと人差し指でアドをつんとついてみる。するとヒヤリと冷たい。


「し……死んでる……」


 直感的にアカンと感じる温度に、つい口から洩れていた。

 その言葉を拾った狐の女の人と、鳥の人が勢いよくこっちに向き直った気配を感じ『自分じゃないです。犯人自分じゃないです。』という気持ちからその人達に向けて何度も小さく顔を横に振り無実をアピールする。


 「ん~」と顔をぐりぐりしているフリーシアと同じ動きをしている事には気が付かなかった。


「死んでないわよマコトくん。変な事を言わないように、そろそろ落ち着いてね?」

「はいすみませんっ!」


 テオの少し呆れた様な顔と言葉に、思わず『申し訳ございません軍曹様!』という上司に怒られたような気持ちになり姿勢を正す。

 背筋を伸ばした事でフリーシアが落ちるかもしれない事に姿勢を直してから気が付いたけれど、フリーシアはまっすぐのびても変わらず背中に「ん~」とグリグリしていた。正直フリーシアの抱き着いている手の指がワキワキ怪しく動き出していて、なんだか嫌な予感がしています。


「フリーシア……あのそろそろ離して……」


 シュバババ と音が聞こえてきそうなスピードで前に抱き着いたまま回り込んできたフリーシアが、目尻に涙を溜めたような表情を作りながら上目使いに見てくる。


「マコトしゃまぁ……フリーシアはマ(りょく)を使いすぎたので、補充しなくてはいけないのです。どうか許してください。」

「はい? ……いや、フリーシアならあれくらいの魔力使っても全然元気でしょう?」


 目尻に涙を溜めたような上目使いだけれど、実際に涙が溜まっている訳ではないので、少したじろぐ程度でほぼ普通に答えられた。


「い~え。深刻なマ(りょく)不足です。

 もちろんマコト(リョク)。略してマ(りょく)の不足ですが。これはスキンシップによって吸収できる生きる力なのです。ん~~」


 次は前からグリグリされた。


 正直こういう感じが嫌じゃないから困る。本当に嫌じゃないからこそ困る。

 だってなんか『かわいい』とか思っちゃうんだもの。


 今の自分にできることは、ただ目を閉じて棒立ちになる事だけだった。

 そして、自分の胸や腹から伝わってくるフリーシアの感触を堪能するために神経を集中すると、そのついでに強化された聴力がテオの言葉を捉えた。


「さて、それじゃあお話なんだけれど、私達が貴方たちにとってどれだけ脅威と成りる力を持っているのかは理解頂けたわよね?」


 フリーシアの頬はやわこい。

 でもそれ以上に、ぎゅっとされて押し当てられている細やかな膨らみが素晴らしいと思います。

 意外とあるのよね。ぷにっとした感触が。


「でも安心してね。特に侵略しようだのそう言う気持ちは全然ないから。むしろ貴方たちにとっても、現状から考えて利のある提案をさせてもらうつもりよ。」


 あ。だめ。

 ちょっと膨らみの当たってる位置とか意識しちゃうと血が巡る気がしてきた。

 って、だめだ、こういうの考えたらもっと血が巡るのは当然じゃまいか。あ、あ、あ。


「ベンさんちょっとこっち来てくれる? あとアリサー? ちょっと煩いからもう少し静かにやってね。」

「わかった~。」

「あと加減忘れちゃだめよ~?」


 うん。よしここは一つ、ゆっくりと腰を少しだけ引かせてもらお――


 そう思った瞬間、背中に回っていたはずのフリーシアの手が、いつの間にか腰をがっちりとホールドする位置に移動している。


「なん……だと……」

「マコトしゃまぁ。うふふふふ。ん~~」


 一つ鼻から息を大きく吐きだしながら、真剣にマッチョメンたちが盆踊りをする絵を想像する。

 なにせフリーシアにモロバレの位置で抱き着かれたまま血を巡らせるわけにはいかないのだ。


 いつのまにか男の尊厳をかけた静かな戦いが始まっていた――



--*--*--



「トレンティーノ領からも新たに生まれる国からの入植をさせようと考えている。」


「マコト様の力量から見て新しい国が成立するだろうことは心配しておりませんが……マイラの言っている入植については間違いなく大きな摩擦が起きますよ?」

「あぁミトの言う通りだぞ? 俺達ハイラントの国は多様性はある。あるが、それは皆、各種族を認め合ってるから成り立ってる。

 そしてどの種族もヒトは認めているが、それは『敵』と認識しているという意味だからな?

 マコトみてぇな敵意のないヤツらならともかく、お前みたいに腹に一物いちもつ抱えているようなヤツが集団で来てみろ。絶対に問題が起きるぞ。」


「そこのコンという者の言うとおりだな。一般人にしろお互いに敗戦者として捕えた者を奴隷として使ってきた歴史がある。この染みついた思いや認識はそう易々とは消えん。」

「敵同士を無理に混ぜあうのは、いざという時に必ず火種になり結局火傷するハメになりますね。」


 会議用のテーブルを囲み話合いが行われていた。

 長テーブルを挟んで向かい合うようにマイラの父であるギデオンとブラッドが並んで座り、そしてその対面にコンとミトが並んで座っている。

 マイラはどちらにも所属しない中央に立って司会のように話している。


「私は今回ハイラントに行って文化の違いに驚きました。食事からして大きく違う。違いすぎるからこそ受け入れるのに中々に苦労することもあるだろうと思えた。

 アルスターの文化を持って行ってもハイラントの国の者達は私が感じたように思うだろう。

 だからこそ新しく生まれる国では、境界にある国らしくどちらの文化も混ぜ合わせた国の文化を生み出すのが良いと思うのです。

 そうする事でどちらにもない新しいモノが生まれるだろうし、そして生まれたモノは、どちらにも与していないし、またその逆にどちらにも与していると言える。

 つまりアルスターとハイラント、どちらにとっても良い緩衝材と成り得る。」


 全員の意見をきいてから話しだしたマイラに注目が集まっている。

 誰も反論はないのか口を挟まずに、続きを話すよう目で促している。 


「もちろん入植というのは将来的な話です。

 ブラッドの言う通り今の段階で無理に進めれば火種になるのは間違いない。だけれど住み分けならば今からでも可能なのではないかと。

 もし可能であれば早くから進めておく方が良いはず。なにせこれから10年、20年の間であれば、間違いなくどちらの国が総力戦を挑んできたところで返り討ちにできる程度の戦力を新しい国は確保するでしょうからね。」


「まぁトレンティーノ家の当代としては、友好を結んでおくべきである事は重々理解しているからな。

 私の采配でどうにかできる部分では協力はする。入植者が必要ならば手配もする。なにせその入植者が今後を左右する可能性があるから優秀な者を選ぼうとも。」

「えぇ。お父様。私達はあくまでも自治権をもつであろう、コン殿やミト殿のお父様にお願いする立場でしかないですからね。」


「はぁ……下手に出ているのか上からなのか判断できんな。

 お前ならマコトを通して話をさせることもできるだろう? マコトが言えば親父殿が断る判断をするはずがないだろうに……」

「兄様……マイラは、マコト様を通さない方法を望んでいるんだと思いますよ。私達自身が動く形でお父様に話をつけさせたいのですよ。」


「あ?」

「要はマコト様は絶対的な力の持ち主ですから、マコト様を通してお願いする事は『断れないお願い』と同義。事ある毎にそれが続けば、私達にとって不平不満に繋がりかねないでしょう?

 お父様がアド様に対して反旗を翻す機会を探っていたように、お父様は自治に対してこだわりが強い方です。だから可能な限り反感を買わないように進めたい。そういう事なんでしょう。」


「あ~……で? ミトはどう思う?」

「私ですか?

 そうですね……基本的に気を使ってくれている事も分かりますし、新しい国の為にもなると思いますから賛成です。ですが、やはり問題は大きいでしょうから少なくとも年単位の計画で少しずつ段階を踏んで行くべきかと。」


 その時、ミトの頭の中にフリーシアに話をした事、ハイラントの国で奴隷として捉えられたヒトの女が産んだ者達の事が思い出された。


「いや……混血の子らを迎え入れてみるという手もあるかもしれませんね……お兄様はどう思います?」

「うむ……うん! 俺もそれで良いと思うぞ!」


 マイラはコンの返答を聞き、直感的にミトに100%選択を任せている事を悟った。


「混血とは……合いの子のことか?」


 訝しげなギデオンの声に、ハイラントで捕えたヒトの女性が生んだ混血児であることが伝わったのだろうと、少し申し訳なさそうに向き直るミト。


「えぇ。私達の国で生まれた混血児のことです。」


 そこまで言葉を発して、ふと気が付いたように申し訳なさそうだった雰囲気がミトから消え、そのまま言葉が続く。


「合いの子と仰ったという事は……こちらの国にもいると?」

「……あぁ。」


 深くは言わずに、ギデオンはただ一言そう答えただけだった。

 その対応にミトは、すっと目を細める。


 沈黙が舞い降りたその時、マイラだけが嬉しそうに口を開いた。


「これはお互いにとって最も良い人材がいたという事だね!

 混血同士であれば共通点も多いだろうし、これは良い!

 それじゃあ物流の方法についてだけど――」


 課題が解決できたような弾んだ声で次の課題に移るマイラだった。

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