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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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96話

「「「 ああああああああああっ! 」」」


「バターになっちゃえぇっ!」

「や、やめたげてよぉフリーシア! もうやめたげてよぉ!」


「はーいマコトくん? 優しさと甘さは違うのよ~? ここは甘くしちゃだめなと・こ・ろ♪

 フリーシア? 分かってるわよね? いくらマコトくんの言葉でも、マコトくんを殺すなんて言ったヤツはまだ許しちゃだめよ?」

「当然ですっ!」


 おろろ、おろおろとしながらも、なんとかフリーシアに手を伸ばそうとするマコト。


「アリサ。マコトくんがフリーシアの邪魔をしないように捕まえておいて。」


 マコトの行動にすかさずアリサに視線を送り指示を出すテオ。

 アリサはといえば、姉の視線に含まれた何かを気付いたような顔をし、ゆっくりと頷いてから行動を開始した。


「ほらマコト。フリーシアの邪魔をしないの。」


 アリサは一度だけギュピーンと目を光らせた気がしたが至って普通にて、マコトを後ろから拘束する。


「――っ!」


 マコトの意識は背中に集中してしまう。

 なぜなら手を伸ばしかけていたからこそ、アリサの拘束は脇から腕を通してギュっと拘束する形となる。

 つまり、後ろから抱き着いている状態なのだ。


 ということは、当然『あててんのよ』状態となる。


 アリサはマコトを確実に意識しており自分の武器である胸を分かり易く押し付けないはずがない。そしてそれを邪魔するであろうフリーシアは前方に夢中。姉もむしろやってしまえと言わんばかりだった。

 つまり邪魔するものはなく当て放題なのだ。


 そしてマコトもまたムッツリであるからこそ『やめたげてよぉ!』という可哀想と思う気持ちよりも、自身の背中に当たる柔らかさがどのような物かを分析し感じ取る為に全神経をそそがないはずがなく当然の如く硬直する。


 まるで3人の性格を全て把握し、手の平で転がす様なテオの采配だった。

 そしてテオは、ニコニコしながら突風吹き荒れる方へと手を伸ばす。


「フリーシアの風の中に霧も混ぜちゃいましょ。どうなるかしら?」

「「「 ああああああああああっ! 」」」


 ベンは、自分もフリーシアにやられた時の事を思い出したのか、そっと静かに回れ右をし、遠くの山を眺める。

 その顔色は少し青かった。


 

--*--*--



「ぐっ……あ、あたまが割れるようだ……」

「く、くるしい……」


 地面に倒れ、青い顔で苦しげにもがく2人の狼の獣人。

 そしてその獣人達を立ったまま冷たい目で見下す人間の姿。


 その人間はすっと膝を折って、仰向けに倒れている女の狼の獣人に顔を近づける。


「私の歓待は気に入ってもらえたかな? まぁ……聞くまでもないようだけれど。」


 声の主はマイラ。

 そして声をかけられたのはミト。その隣でもがき苦しんでいるのはコンだった。


「もう……だめ……」


 ミトが顔を顰めながら声を発し口元抑える。


「ミト……君にはガッカリだよ。」


 折っていた膝をまっすぐに伸ばして見下す。

 その顔には失望が浮かんでいた。


「だって……お父様に、食事は残しちゃいけないって……躾られたので。」

「だからって、全部を食べる必要はないだろう? これだけの量を食べれば当然そうなるだろうさ!」


 二人が倒れている横には、かなり無くなってはいるけれど、いくつもの大皿に盛られた料理や酒が並んでいた。

 半分空いたガラス瓶を掴み持ちあげ中身の量を確認するマイラ。


「この酒は酒精が強すぎて少量を楽しむものなのに……コン! きみは一体どれだけ飲んでるんだ!」

「うぇ……ップ……デッケェコエダスナ。」


 頭がぐわんぐわん鳴っているだろうことが容易に推測できるコンの返し。


「まったく……ちょっとお父様と話してくる間だけだと言うのに、どうしてこうなるんだ。君たちに警戒心という物はないのか!?」


 マイラの言葉を聞いている様子もなく、ぐでんと口の端から舌を垂らすコン。

 もう返答する気力すらないようだ。


「はぁ……」


 その様子にため息を漏らしながらコンに魔力を流しはじめるマイラ。

 状態回復の為にコンの治癒力を魔力で促進しているのだ。


 少し楽になったのか、舌を口の端からだらしなく垂らしたままコンは白目を剥いて寝はじめる。

 その様子を眺めていたミトは半身を起こしながら口を開いた。


「兄さまは……マイラ様の事を信頼しているのです。

 もちろんマイラ様が内に敵意を秘めている事は分かっています。が、それを踏まえた上での信頼です。

 私もその事を分かり易く伝える為に、出された物にはできる限り手を付けようと思いました。」


 コンに魔力を流しながらマイラは一度ミトに目を向け、そしてまたコンに目を戻す。


「君たち狼の獣人は単純だな。」

「そうですか? 実は私の今の言葉には嘘が混じっていましたよ?」

「……それはどんな?」


 再度目をミトへと向けるマイラ。


「私は、こちらの国の料理に興味があったので、実はとにかく味見をし続けたかったんです。」


 真剣な顔でそう告げるミト。

 マイラはミトの『見ぬけなかったでしょう』と言わんばかりの満足そうな顔に思わず鼻を鳴らす。


「ふっ……そう言えばミト…ミト殿は狼の獣人には珍しく料理などに長けているとベン殿が言っていたな。」

「ミトでかまいませんよ。マイラ様。」

「そうか? ならば私もマイラと呼んでくれ。

 これから長く付き合う事になるかもしれんないからな。」


 顔を見合わせて軽く笑いあう二人。

 コンはとうとういびきをかき始める。


「まったく……で? こっちの料理は口に合ったかい?」

「えぇ。とても美味しかったです。

 私達の国の主食とは随分違うので、最初は心配でしたが、どれも複雑に味付けがされていて、とても美味しく新鮮でした。

 可能であれば簡単なレシピや調味料を教えてもらえれば料理の幅が随分と広がりそうです。」


 ミトのにこやかな声に軽く笑うマイラ。

 ふと笑いが止まり、考えこむように固まる。


「……マイラ? どうかした?」

「いや、ふと、新しい国が出来るのであれば、その国に合った新しい料理があってもいいのかな? なんて思っただけだ。

 なに、些事だ。気にしないでくれ。」


 マイラの言葉に真剣な顔になるミト。


「マイラ。些事だなどと。それはとても大事な事だと私は思います。

 私達は獣人であれヒトであれ、生きる為には食事は欠かせません。

 私達の身体は全て食べた物、飲んだ物で作られていくのですから、私達の国……いえ、マコト様の国でしょうかね。どちらであったとしても新しい国ができるのであれば、その国の者は、その国らしい料理を食べるべきではありませんか?

 やがてそれが故郷の味となり、いつしか自分達の国であるという意識になるのだと思うのです。私は今日こちらの国の料理を食べて、そう思いました。」

「なるほど……」


 ミトの言葉にマイラは感心していた。

 いや、感心というよりは感動と言ってよい程の衝撃だった。


 自身の考えでは物流を盛んにさせる為など、新しくできる国に人を呼び込む為の名物であったりという、外に向け発信しやすい情報として考えての提案だった。

 だけれどもミトの考えは、その国に生きる中の者を思っての言葉。


 同じような領主の娘という立場で、料理という同じ題材を考え、新しい料理があれば良いと同じ方向の結論を出していたのだけれど、その向かう先は、真逆を考えていたという事に驚嘆したのだ。


「私は狼の獣人ですから、残念ながら、こちらの国の人に近い程度の舌しかないでしょう。

 ですが私に料理を教えてくれた兎の獣人であれば、より繊細な味に仕上げてくれます。きっとヒトに合った味にもなるはずです。」

「となると私はまず、これまで防衛に主力を置いていた自領の仕組みを少し生産に向けるよう助言を進めていくべきだな。そして物流もか。」


 ニコリと微笑み合う2人。


「なんだか楽しくなりそうだ。」

「えぇ。とても……ですがその前に――」


 ミトが立ち上がる。


「お手洗い借りていいですか?」


 力なく微笑むミトの顔は、どこか青くやつれていた。



--*--*--



「もう……いや……」

「はねが……ワシの羽が……」


 ぐったりと顔を青くして倒れ込んでいる女の狐の獣人と、壁にもたれかかるように白くなりながら自身の風で飛ばされた羽を嘆く男の鳥の獣人


「まぁなんだ……おつかれさん。」


 二人に向けて腕を組みながら遠くから声をかけるベン。


「ん~……結局ベンさんの所の狼の方が強い気がするんだけど?」

「ぐぁあっ!」


 わらわらとやってきた狼たちを相手取り、一人、また一人と殴り飛ばしているアリサ。

 敢えて魔力を使わずに身体能力だけで戦い、訓練しているような様相だが、少し物足りなさそうだ。


「そりゃ当然だろう? ここは色々絡んでるから親の七光りだけのバカも多いからな。」

「はぁ……」


 溜息をつきつつ、また怖気を感じながらも周りに押されるように前に出てきた狼の獣人を殴り飛ばすアリサ。


「………………」


 そして無言のまま、未だ回されているアド。

 だけれどさっきまでと違うのは、フリーシアに伸ばされるマコトの手を止めているテオは、もう当てていなかった。


「や、やめたげてよぉフリーシア! もうやめたげてよぉ!」

「そうね。そろそろいいかもね。

 フリーシア。マコトくんがもうそろそろ本当に泣きそうになってるわ。慰めてあげなきゃダメかも。」

「マコトしゃまぁっ!」


 ひとり最後まで延々と回され続けていたアドが、一気に解放され どべちゃ。と久しぶりに地面を味わう。

 アドを回していたフリーシアは、すでにアドに一切の興味がないとばかりにマコトの方へと向き直り動き出し、地面に落ちたアドも、その意識は既に途切れており、焦げた毛と、脱力しきって力なく崩れた体勢が哀愁を誘う。


「さ。お話しましょ? 狐さん。」


 テオがにっこりと微笑みながら向き直ったのは、青い顔をしている狐の獣人の方だった。


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