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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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95/100

95話

「おらぁっ!」

「がっ!」


「ひっ!」


 ベンさんが拳で殴ると、狼の人が殴り飛ばされ転がり。


「うらぁいっ!」

「ぐぉっ!」


「ひっ!」


 ベンさんが足で、別の狼の人の鳩尾みぞおちを蹴ると、蹴られた狼の人はかなり苦しそうに崩れ。


「それぇいっ!」

「かはっ!」


「ひっ!」


 隙をついてベンさんに攻撃した狼の人は、ベンさんにその手を取られて投げ飛ばされる。


 もうやだ。こわい。


「大丈夫ですか? マコト様?」


 そっと心配そうな顔でフリーシアが右手を握りに来てくれた。

 正直心強くて安心できる。


「あたしがいるんだから怯えることないでしょう?」


 左腕をアリサが組んできた。

 顔を見られてから積極的で嬉しい反面悲しくもある。

 ただ、今は心強――


「筋肉? 何を勝手にマコト様の腕を?」

「何? マコトが嬉しそうだからいいでしょ?」


 安心できない。


「あ、あ、け、ケンカは――」

「分かってますマコト様。」「分かってるわマコト。」

「――ん。」


 二人同時に返されるとそれ以上言葉を続けることが出来ない。


「はいはい。ほら、こっちおいでマコトくん。ちょっと『例の目』で様子を見て欲しいの。」

「はいっ!」


 なんとなく助け舟が出されたような気がして振り解いてテオの下へと移動する。


「アドって人がこっちを見てるかどうか確認してくれる?」

「分かりました!」


 自分が今、何をどうしたらいいか分からない時に、やる事を与えてもらえると安心感が生まれる。

 すぐに万里を見通す眼を起動して城の本丸、塔のようになっている上層に意識を向ける。


「あ、いるっぽい。」

「どんな感じ?」

「屋上? 鳥の人に実況させてる? のかな? 目線はこっちに向いてるし、話してるのは鳥の人だけ。」

「そう。ありがと。ん~、私が手を振ったら、あの人達気が付くと思う?」

「ん~? わかんない。試しにふってみたらなにか反応あるかも。」

「それもそうね。」


 テオが微笑を浮かべたまま、ゆっくりと手を小さく横に振る。

 すると鳥の人が何かを喋り、そしてアドと思われる狼の人がピクリと顔を動かした。


「多分気づいたっぽい。」

「そう。それじゃあフリーシアに。この一帯の空気の流れを止めるように風で囲んでもらうように頼んでもらえる?」

「え? あ、うん。フリー――」

「かしこまりました! マコト様!」

「あ、はい!」


 テオの言葉を聞いていたのか、頼む前に了解をしたフリーシアの勢いに飲まれ返事をする。

 そしてすぐに街を囲むような広範囲の魔法の発動を感じた。


「じゃあちょっと冷えるかもしれないけど、ごめんね。」


 屋上の方を向いて手を振ったまま、そう言ったテオを中心に、まるでドライアイスを水の中に落とした時に発生するスモークのように霧が沸き始める。


 もくもくもくもくと勢いよく沸き出す霧は街を覆いはじめ、そしてフリーシアが作り出したであろう風の囲いによりその広がりは止まり、どんどんとその高さを増していく。

 平屋の屋根をも飲みこみ、高さを増していく霧。

 万里を見通す眼で見ている限りでは、鳥の人と狐の人が慌てている。その慌て振りと霧の高さから鳥の人がなにも確認出来なくなった事は確実だ。


「私がしたことだけど、これじゃあこっちっもこっちで見えないわね。どうあっちの様子は?」


 そう言いながらテオが手を繋いできた。 

 ちょっとドキリとしつつも平静を装いながら混乱の様子を報告する。


「マコト様ぁ~」

「ふんっ!」


 後ろから感じた接近するフリーシアの気配はアリサが間に入ったことによって阻まれた。

 そしてそのままにらみ合いが始まった感じがする。でもまずはそれよりもテオの命令をこなさないと。


「なんだこれは?」


 狼たちを率いてやってきて乱戦に参加していなかった狼の人が少しだけ慌てたような声を上げた。


「ボンよ。これがコイツらの力だよ。この俺が手も足も出ない程の力の一端さ。」


 その声に答えるようにベンさんの声が響く。どうやら戦っていない狼はベンさんの知り合いだったようだ。


「お前が手も足も出ない……ね。それじゃあ俺が戦ったとて同じ事だろうな?」

「なんなら試してもらうと良い。コイツらは別に殺し合いに来たわけじゃあねぇしな。なぁマコト、手合せくらいは問題ねぇよな?」

「あ、あ、あ、はい!」


 何も考えないままとりあえず返事をしてしまった。

 なんとなくボンさんって狼の人は、ベンさん並みに強いんだろうなと思わないでもない。そんな相手と手合せなんてゴメンだ。返事をした端から後悔し始める。

 


「ふん……それよりも殺し合いじゃあないというなら、まずは目的を知る方が先だろう。お前に勝つ程の人間がここに一体何をしに来たのか。」


 あぁ、このボンさん。きっといい狼の人だ。手合せなんてしたくないよね。うん。

 影と声くらいしか見えてないけど、きっといい狼の人。うん。

 殴り合いなんて絶対ごめんだもの。ごめんだよね。


「それは私が答えるわ。いいわよね? マコトくん。」

「もちろんです!」


 一も二もない即答。

 だって正直何をどうしたらいいのか、よくわかってないんだもの。

 テオ先生。宜しくお願いします。


「それじゃあボンさん? 私から説明するわね。

 簡単に言えば、ベンさんの領地と人をまるっと頂いて新しい国を作ると宣言しに来たのよ。

 そしてそれに従わざるをえない力を見せに来た。という事。」

「なん……だと?」


「さ。ベンさん行きましょうか。面倒な話はさっさと終わらせるに限るもの。」

「おう。違いないな。」


 そう言ってベンさんが隣にやってくる。


「待てベン!」

「ボンよ。すぐに戻ってくるから、ちょっとそこで待ってろ。」


 近づこうとしたボンさんに気迫を飛ばしたのか、ボンさんの足がピタリと止まった。

 それを見てテオが後ろを確認しながら口を開く。


「アリサ? フリーシア? ちゃんとマコトくんの近くに居るわよね?」

「当然です。」

「大丈夫よ。」


「よし。それじゃあマコト君。さっさと難しい話は終わりにして帰りましょうね。移動しましょ。」

「はぁい!」


 とりあえずこれまでの事を全てまるっと忘れて、会議の時に提案した通りにさっさとアドという狼の人の居る当たりにまで移動する。


 まずは細いロープ状土魔法を飛ばして城の壁にまで伸ばして設置させる。そしてそのロープをガイドにして繋がった先に向け自分達の乗った地面ごと移動させれば簡易土魔法のゴンドラだ。

 もちろんただの力技だけども。


 徐々にゴンドラのスピードを上げていく。

 テオの作り出した霧を抜け出す頃には50キロくらいの速度が出ていた。


 結局真正面からは城の構造上、時間がかかり過ぎるので空を飛ぶことにしたのだ。

 地面とは繋がっているから果たして飛んでいると言っていいのか、はたまたエスカレーターに乗っていると言った方が良いかは疑問だけれど、これなら目的地まですぐ。


 相手にしても予想外の移動方法の上、かなりの速度で移動する自分達に弓矢を射る事が出来る者はいなかった。

 到着地点が近づき、スピードを緩める。


 高所にある事で霧が無く、近づいてくる事を理解していた鳥の人や狐の人は身構えていた。だけれどアドという狼の人だけ、半笑の表情で腕を組んで見下ろすように仁王立ちで立っている。


「あれがアドだ……正直なところ腕だけで言えば俺が2人いて同時にかかればなんとかなるかもしれないくらいに強い。」

「ええっ!?」


 ベンさんの言葉に頬が引くつく。

 あれだけ蹴って殴って投げて好き放題していたベンさんよりも強いとか、なにそれ怖い。


「なにより情け容赦ない。

 同じ狼を相手に毛を剥ぎやがった事もある。生きたままな。」

「なにそれ怖い!」


 本心が漏れた。

 近づく速度もすぐに弱まる。


「大丈夫だから、ほら、マコトくん進んで進んで。」


 テオの声に嫌々近づけていく。

 仁王立ちのアドがどんどん近づく。近づいてしまう。


「ふん。面白い事をするじゃあないか、ひ弱な人間の分際で……どう殺してやろうか。」

「ひっ!」


 つい脅し文句に負けて動きが止まる。


「ふん。まずはそこの弱そうなオス。お前からだ。殺してくれと懇願するまで、じっくり切り刻んでやる。」


 ジャキっと爪が音を立てた。

 次の瞬間。


「ふぐぅっ!」


 アドは火に包まれた。


 すぐに火は消え去る。

 瞬間的に火に包まれただけ。


 だけれどアドの毛並みはチリチリと熱で縮れ、焦げている。

 瞬間的な火で身体的に大きなダメージは無くとも、見た目のダメージは大きい。


「私達の王に対して無礼な口を聞いたら駄目ですよ? 次、無礼な事を言ったら……懇願しようが火を消さないかもしれません。」


 テオが笑顔でにこやかなままそう告げた。

 アドは目を見開き、火だるまになる瞬間を見ていた鳥の人も狐の人もまた驚愕に染まっている顔だ。


 ちなみに自分の顔は一番驚愕で染まっているだろう。確信がある。

 あの優しいテオが、がが、が、がが


「私だって許しませーんっ!」


「「「 あああああああああ 」」」


 次の瞬間フリーシアの風で、3人が回っていた。

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