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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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94/100

94 話


「それじゃあ行きましょうね。マコトくん。」

「えっ、ちょ、えっ?」


 連れられて街に入ると同時に、狼や虎の獣人たちが遠巻きに因縁をつけている事が嫌が応にもわかる。

 ベンさんの領地の人達は、嵐のせいで混乱していた事で、そんな暇もなかったのだろうけれど、ここはあそこと比べてずっと都会だ。

 なにせ『街』

 農家や田園があって、庄屋のようにドンと目立つ大き目のお屋敷があるベンさんの領地とは違う。


 人の街と同じように沢山の獣人が住んでおり、長屋のように人が寝泊まりする場所、飲み食いする場所、食材を扱う市場など、街としての都市機能をしっかりと備えている。

 そしてこの都市の主役は獣人であり人の姿は無い。


 当然、警邏も居るし、人は敵国の者という認識であるという事が向けられる視線からも伝わってくる。

 正直獣人はファンタジー要素が強すぎるせいで、人間程に怖くはないけれど、そこかしこから敵意を向けられれば怖いと感じてしまう。


 さて、なぜ敵意を向けてくるのに襲ってこないのかと言えば、肩で風を切りながら先頭を進んでいるのがベンさんという事が大きいだろう。


 先の自分だけが、ただ了解するしかない一方的な国づくりの会議が終わってすぐに行動を開始する事になったのだけれど、まず飛んでいた鳥の人をフリーシアが風の魔法で乱気流に飲み込ませて落として捕獲。


 ベンさんが、フラフラになった鳥の人の上に座りながらこう言った。


「俺ぁヒトとの境界を守ってる領のベンってもんだがな、俺の領が他国に落とされた。これから落としたヤツらを連れて説明に行く。」


 鳥の人は鳶みたいな顔なのに、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、促されるまま報告に飛んで行った。

 こちらの人数や人となりをきちんと見ていた、ベンさんの領は人間が落としたという風に伝わったのだろう。


 それからすぐに移動を再開したけれど、すぐに偵察らしい鳥の人が飛んできて遠目に様子をうかがっていたから、きちんと伝言は伝わったらしい。


 上に伝わったようだったので、そのまま街に侵入。

 もちろん街の入り口に関所みたいな入り口はあったけれど、そこの狼の獣人さんはベンさんの顔を知っていたようで、ベンさんが「こいつらは俺の客だ」と言ってくれた事で通してくれた。


 ……通してくれた……というよりは、ベンさんの迫力に負けて通したと言った方が良いんだろうか?

 衛兵の狼さんが、耳を折って不安そうに小さくなってたから多分ベンさんが怖かったんじゃないかと思う。


 街を歩きながら、向けられてくる視線から逃れる為に、ベンさんに声をかけてみる。


「べ、ベンさんって有名なの? さっきの狼の人も知ってたみたいだし。」

「あぁ? ありゃあ俺の事なんて知らねぇクチだろ。単純に自分より格上だと判断しただけだ。」

「え? ……そんなんで通っていいの?」

「言ったろ? この国の頂点は狼の一族だって。そして強い狼は基本的に上の役に居るからな。あんなとこに居る狼なんて弱い弱い。」


 そんな事を話していると、通りが騒がしくなってくる。


「ええぃどけどけどけいっ!」

「おっ?」


 ざっざっざっ、と、明らかに戦闘を得意としていそうな狼や虎を率いた狼の獣人が街の中心の方からやってきたのを見て、ベンさんが口角を片方上げながら嬉しそうな目をした。


 率いてきた狼は、敵意を隠す事も無く、不満を全面に押し出しているような表情。

 どこかで見たことがある気がして思い返すと、初めてベンさんに会った時の顔だった。出会い頭にコンを殴ったベンさんと同じ顔だ。


 止まる気がないような様子でどんどん近づいてくる。

 それを見ていたベンさんも一歩前に出て、首を軽く横に曲げ、コキっと関節が鳴る音が響いた。


「ふんぬっ!」

「ははっ!」


 やってきた狼は一切の躊躇なく剥き出しにした爪で切りかかる。

 だがベンさんは笑いながらその爪を弾き飛ばした。


「いきなり元気のいい挨拶だなぁおい。」

「何をぬかすか。」


 返答と同時に逆の手の爪で攻撃をする狼の獣人。

 だけれどベンさんは、それもまた半笑いのまま弾き飛ばす。


「なぁ、俺はさっさと用事を済ませてぇんだけど。」

「田舎者がここで出来る事などありはせん。立場を弁えろ。」

「田舎ものねぇ……まぁ、間違っちゃあいねぇがな。」

「ふんっ!」


 そう言ってまた爪を弾かれ、距離を取るように離れた狼。

 その狼はベンさんと同じように、ほんの少しだけ笑った気がした。

 そしてすぐに視線を横に動かし真正面に戻す。

 何かベンさんにだけ分かるようにアイコンタクトでもしたように見える。


「ベン。お前が負けて占領されたなどと言う報せがきて、とうとう腕が錆びついたのかと思ったが、どうもそういうワケではないようだな……」

「あぁ当然だろう。俺はお前らの言う田舎……最前線に立ってるんだぞ? お前らみたいに都会でぬるま湯に浸ってる狼とは違うんだよ。」


「貴様……負け犬の分際で我らを愚弄するか!」


 爪を振るった狼とは違う後ろについてきていた狼が怒声を上げた。

 さっきベンさんに爪を振るった狼の人がチラリと視線を動かした方向に居た狼の人だ。


「あっはっはっは! 事実だろうが? 俺の腕はなぁ、お前らみたいな御飯事おままごと遊びとは違うんだよ。」

「言わせておけばっ!」


 すぐに喋っていた狼が動き出し爪を振るった。

 振るわれた爪はベンさんの肩口から首を狙い袈裟切りのように迫る。


「――がっ!」


 だけれど苦しそうな声を漏らしたのは迫った狼の方だった。


 ベンさんは身体を反転させながら前へと踏み込み、迫る爪を躱して肘を相手の胴に入れた。

 さらにそのまま流れるようにベンさんを切ろうと伸びていた腕を掴んで投げ、そのまま相手は背中を地面に打ち付けた。

 打ちつけられた衝撃で息が止まっただろう事が表情から伝わってくる。だけれどもベンさんの動きは一切止まる事なく、倒れた相手の腕を膝で抑えつけ、そして爪を相手の喉元に当ててから止まった。


 ベンさんの口元がすぐに半笑になり、明らかな力量差があった事が誰の目にも一瞬で理解出来ていた。


「おいおい……お前は今、俺に最低で2回は殺されてるぞ? 流石だなぁ御飯事遊びの成果が十分に発揮されてるじゃあないか。」

「ぐっ――」


 力量差を理解したのか反論も出来ず、屈辱に耐えながら口を噤んだ狼の獣人。

 連れ立ってやってきた狼たちもその姿に動揺を隠せないように狼狽えている。


「お前達が最前線に居る俺達と比べて、どれだけ遊んでいるのか分かったか?」

「……」

「俺は『分かったか?』と聞いたんだぞ?」


 ぐっと爪が進む。

 痛みが走ったように口が歪む狼の人。


「わ、わかったっ!」


 回答に満足したようにベンさんが組み敷いていた狼を解放すると、すぐさま起き上がる。

 そしてすぐに自分の仲間に向き直り告げた。


「こいつは我らを愚弄した! 汚辱は償わせなければならんっ!」


 ベンさんは鼻を鳴らし、最初にベンさんに殴りかかった狼も残念そうに眼を閉じて小さくかぶりを振った。


「はぁ……潔く敗北を認めるだけの度量もねぇのかよ。」

「ええい黙れ! 俺は卑怯な手を使われただけだ! 負けてなどいない! それにお前こそ国を守る気概もない負け犬ではないか! 皆よ! こいつは誇り高い狼ではない! ただの負け犬だ! 負け犬になどに礼儀を払ってやる必要もない! アド様にあだなす不遜の輩ぞ! 皆で排除してしまおうではないか!」


 どう見ても負けていたにも関わらず、正義は我にありと言わんばかりの鼓舞。

 10人はいるであろう狼達もその鼓舞に賛同しているようで、このままだとベンさん対大勢の戦いになりそうに思える。

 つい不安から、気もそぞろになり、わたわたとしてしまう。


「マコト様? 私が場を治めましょうか?」

「いや、私がやるわよマコト。」


 フリーシアとアリサも不穏な事を言いはじめ、わたわたが加速する。

 だけれどすぐにベンさんが片手をこちらに向けた。


「まぁ待てよお前ら。こんなガキ共の相手なんざ俺に任せとけ。」

「――がっ!」


 そう言うや否や、すぐに扇動していた狼を拳で殴り飛ばしていた。


 空中を飛ぶ狼。


 なぜかその飛んでいく様がスローモーションに見え、地に着くまでの間、対峙していたはずの大勢の狼達が何が起こったか分からないと言わんばかりに、一様に口が半開きになっているのが、とても印象に残った。

 

「はっはーっ!」


 笑い声と共に次々と殴り飛ばしていくベンさん。

 やだ、なにこの狼。つおい。怖い。味方でよかった!


 一人ひっそり震えながら嵐が過ぎ去るのを待つのだった。

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