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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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93話

「なるほどねぇ……そうきたか。」

「うふふふ。」


 渋い顔をしたベンさんは、どこかしてやられたというような顔をしているような気もする。


「さてはお前さん……最初からこうするつもりで、あの小隊長さんと示し合わせてたんじゃあねぇのか?」

「そこはご想像にお任せするわ。私はただ小隊長様と今後、極力波風を立てず、良い方向に向ける方法が無いかを話し合ったくらいだけど。」


 でも、ベンさん以上に自分の方が変な顔をしているはずだ。


「いや、テオ、ちょっと待って。」

「なぁにマコトくん?」


 自分が色々と我儘を言っている事や、みんなが気を使ってくれてる事は分かる。

 だけれど、テオがベンさんにした提案は流せそうにない。


「なんで『マコトの国』って変な国を作る話になってんのっ!?」

「だって、マコトくんは殺し合いをさせたくないんでしょう?」

「それは……そうだけど……」


「ベンさんは、そのアドっていうトップの人と勝負しても勝てないって言うし、ベンさんとアドって人が話せば、どうしても戦いは避けられない……でもマコトくんは戦わせたくないのよね?」

「うん……」


「フリーシアとコンさん達が戦った時の力の差を見ても分かるように、私達なら直接戦わずに戦意を折ることだってできるのは分かってるわよね?」

「うぅ? ……うん。」


「となると矢面に立つのはベンさんより、私達が立ったほうが安心できるわよね?」

「うぅ……? うぅ……

 ……いや、やっぱりおかしいって! ベンさんは独立するって言ってたもん! それだとまるで占領されたみたいな感じにならない!?」


「ベンさんは『領民を守る』為の独立って言ってたじゃないの。例え占領みたいだったとしても実際に占領するわけじゃあないでしょう?

 体面だけ占領にして自治権はそのまま渡せばいいし、マコトくんはこれまで通りでいい。ちょっと名前を貸すだけよ。」


「マコト様の国……素敵……」

「もしかしなくても……王妃になるって事?」


 フリーシアとアリサが不穏な事を呟いた。

 なんだか放置しておくとフリーシアとアリサが乗り気になってしまいそうな気がする。そうなれば100パーセント押し切られる気がしてならない。


 務めて冷静に、なんとか阻止しようと頭を働かせる。


「えっとえっと! あ! ほら、もし国なんて作ったら、ベンさん達の国と小隊長さんの国の板挟みの国が新しくできるって事でしょ!?」

「うんうん。そうなるわね。」

「そうなったら、どっちの国からも厄介者が出来るってことじゃない?

 通行制限されたり経済制裁されたりとか、物凄い嫌がらせされるんじゃないかな! いや、きっとされちゃうよ! あ~、これじゃあご飯とかが! ムリだー!」

「それもそうよね。」

「でしょ!?」


「でも小隊長がね、友好的な国で制裁するよりも取引した方が美味しいと判断すれば制裁はしないだろうって。」

「えっ? いや、ええ? ……そんな美味しいと思えるようなメリットみたいなのってあるの?」


「マコト君が国を作ったとしたら、そこの国でどんな売りができるか……心当たりはあるわよね? ベンさん?」

「……あぁ、あるな。」

「あるの!? えぇっ!?」

「あんな力を見せつけられたんだ。そりゃ理解すれば喉から手が出るくらいに欲しい旨みだろうさ。」

「えぇっ!? 何が!?」


「それにね、小隊長様は敵国同士の境界線を飲みこんだ上で、敢えてどちらにも所属していない地域を作り上げられれば、それだけでも価値があるって言ってたわよ。」


 混乱しつつも『中立国ってどんなものだっけ?』と頭に思い浮かべる。

 なんとなくスイスが思い浮かび、銀行? などと首を傾げる。


「とりあえず私が聞いたのは、マコトくんが大好きなご飯の事ね。

 私達の国とこっちの国には食文化の差があるし食材も違う。どっちの国もお金持ちは居るみたいだし、そういう人達は希少で変わった食材を求めるものでしょう?

 そういった物を売り買いする国にする手もあると言っていたわ。」


 どちらの文化も混じり合う場を提供するって事?

 いや、確かに世界史とかから見たら、そういう風に発展した文化も多いけど……


「いや、でもやっぱり侵略とかされ――」

「あのなぁマコト。この嬢ちゃんは、これからどれだけ力があるかを見せつけに行くって言ってるんだぞ?

 『あぁ勝てないな』と思う力を見せつけられて、その相手が『喧嘩しないで仲良くしようぜ』って言ってるのに、わざわざ喧嘩を売るような真似をすると思うか? 大人しくしてりゃあ暴れないと理解できてりゃあ、じっくりと機を伺う方を優先するだろ……俺がそうだったようにな。」

「うぅ……」


 なんだかどんどん包囲網が迫ってくる気がして、とりあえず頭を抱える。


「あ! ベンさんの国がうまくいったとしても、ほら、人の国の方は――」


 自分で言い訳を言いつつも小隊長殿は人の国の貴族……隣の領地の有力者に名を連ねてる人だった事を思い出す。


「あれ? ……もしかして……」

「そうね。小隊長様も自分の領でマコトくんの国設立の為に根回しを始めるんじゃないかしらね。」


 だめだ。なんだか包囲網がもうギリギリな気がしてどうにもならない。


「べ、ベンさん! ベンさんは嫌だよね! 独立できないんだもんねっ! ねっ!」


 とりあえずもう思いつかなかったので感情に訴えかけてみる事にした。


「まぁ……な。」

「だよねっ!」


 よかった。味方だ。ベンさんは味方だ。


「なぁマコトよ。この嬢ちゃんは自治権を俺に渡すってな事を言っていたが……お前はどうなんだ?」

「ふぇ!?」

「お前は自分の思うように自由に国を作りたいと思うか?」

「いや、そんなの絶対やだよ面倒くさいっ!」


 つい本音が漏れた。


「ふ…ふははは!」


 笑い出すベンさん。

 つい、なんで笑ってんの!? と身構えてしまう。


「よぉしいいだろうっ! お前の国ってことでいいぞ!」

「ええええええっ!?」


 突然の裏切り。

 そのままテオの方に向き直るベンさん。


「だが話の通り自治権はもらうぞ。その他の条件は事がうまく進んでからだ。」

「ええ。もちろんよ。それじゃあどう話をアドって人に持っていく?」

「占領されたってんなら話は簡単だろう。まっ正面から行けばいい。」


「ええええ……」


 話が進んでいく様子に身体から力が抜け、つい膝をつく。


 だけれど、ベンさんとテオの注意を引くことはできなかった。

 そしてアリサとフリーシアも、こっちを見て微笑んでいるだけ。


「……あの、せめて……名前は……名前だけは違うものを……お願いします。」



--*--*--



「マイラ。お前の強さの秘密が、その飾りにあると?」

「その通りです。お父様。」


 俄かに信じがたい言葉。

 だが、お嬢様の人間離れした力を見てしまった今、それを冗談と切って捨てることもできない。


「ブラッド。コレを。」


 お嬢様が下手したてに投げた物が放物線を描きこちらに向かって飛んでくる。光の反射具合から石のようにも見え武器とは思えない。

 一抹の不安を感じつつも左手で掴む。


 左手に収まったソレに特段の異常は無く、一体何なのかを確認すると鱗のように見えた。一度、鱗だと認識すると、似たような何かを見たことがある気がして、記憶の片隅からそれを掘り返し始める。

 そして記憶に思い当たる物があった。


「……これは……まさか、とは思いますが……地竜の鱗ですかな?」

「流石はブラッド。その通り。だが、ただの鱗じゃあない。」

「たしかに私の記憶にある物は、このような不思議な色味はなかったように思いますね……」

「そう。そこが肝なのだ。この地竜の鱗は、これ自体がとんでもない魔力を保持しているんだよ。」

「これが……魔力を?」

「あぁ」

「それがマイラ様が、短期間で強くなった秘密にございましたか……」


「マイラよ。父である俺にもわかるように頼む。」

「もちろんですとも、お父様。

 私は信じられないような短期間で強くなりました。普通の人間なら不可能な程の速度です。」


 ギデオン様が、一言も聞き漏らすまいといった雰囲気でコクリと頷く。


「……が、厳密に言えば『強くなった』というよりも『コレの使い方を理解した』という方が正しいでしょう。」

「と、言うと?」

「これは魔力の塊であり、そして私は騎士団で自己強化の魔法を学んでおりました。」

「ふむ。」

「簡単に言えば、私は普通の人間であれば不可能な魔力をこれから流用して常人ならざる力を得ているというのが正しいのです。」

「なんと……」


 驚きの余り自然と声が漏れていた。


「と、いうことはこれを持った魔法を使える人間は、皆、化け物のような力を持つことになる……そういう事なのか? マイラ。」


「いえ、持ってすぐそれを理解できるわけではありません。

 どう使うか知り慣れる事も必要です。私は一冬かかりました。それになにより地竜の鱗ですからね。そうそう持ち歩ける物でもありません。」

「確かに地竜の鱗を使って作った鎧は国宝ですからね。その素材を持ち歩くなんて正気の沙汰じゃあできません。

 ふふっ、いや、お嬢様は今、持ち歩かれてましたな。失礼。」


「いや、私もこの冬の間に自分の常識が何度もひっくり返ったから、すでに正気ではなくなっているのだと思う。なんせ私は地竜の肉まで食べたからな。」

「ふふふっ、なんと。まぁ、そのあたりも影響も調べたくなったのでしょう?」

「否定はしない。そして食した影響もあったと思う。」


 ギデオン様が天を仰ぎ、大きくため息をつき諦めたような表情。


「これはもう女に勝つ術がなくなったな。なぁギデオン。」


 ギデオン様の言葉はもっともだ。

 男は筋力に優れているが、魔力は弱い。女は筋力が弱いが、その分魔力が強い。

 だからこそ魔法を使えるのはほぼ女に限られているのだ。


 この不可思議な色をした地竜の鱗が魔法使いを超人へと変貌させる物であれば、その効果は女しか受け入れられない。

 

 お嬢様の持っている飾りが、この地竜の鱗を原料にして作られた物なのだとすれば『加工が可能』ということ。

 割れも欠けもしなさそうな硬度だが、お嬢様はこの加工法を握っておられるのだろう。


 薄切りにした薄片一枚でも充分強化されるのだろう。

 ひょっとするとお嬢様が考えているのは、トレンティーノ領の魔法使い全員の強化なのではないだろうか?


「そうでもありませんよ。お父様。」


 考える頭を止めてお嬢様を見る。

 ギデオン様も片眉を上げながらお嬢様の言葉を待っている。


「お父様もブラッドも魔法を使えるようになれば良いだけではありませんか。」


「ふ……ふふふ……うわっはっはっは!」

「ふふっ。」


 ギデオン様の笑い声につられ、私も笑いが漏れる。


「あ~っはっはっは。

 ふぅ……マイラよ。お前ができぬ事を口に出すとは思えん。きっとできると確信してのことなのだろう。

 だがマイラ。我らも超人の力を手にしたとして、その先に何を望むのだ?」


 あぁ、またお嬢様が悪だくみを考えた時の顔をされている。


 だがこのお嬢様の悪だくみは、きっと面白い事になるに違いない。

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