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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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91

サブタイトルは省略して数字だけにしました。




「ふぅ……」


 打ち疲れて倒れ込んでいる男達と折れた木剣が散乱した中心に立ちながら息を吐く。

 あぁ、なんと晴れ晴れとした心地だろう。結局真剣を使ってくる者は誰もいなかったが、木剣でもそこそこに気持ちがよかった。

 やはり気迫の乗った剣であれば木剣でも、硬化を使っていようが身体にそれなりの痛みを与えてくるのだから面白い。


 それよりなにより、溜まっていたイライラをかなり解消する事が出来た事が嬉しい。

 余りに向こうで色々あり過ぎたが為に、かなり心に不満が積もっていた。こういう状態になっていると、あまり良い結果を生む事が無いから本当に良かった。


「あなたは……化け物になってしまったのか? ……一体なにがあった。」


 真剣な眼差しで問い掛けてきたブラッドに、たまらず鼻から息が漏れる。


「ぷーっ! ふっふっふっふっふ! ゴメンもうダメ。あーっはっはっは!」

「なにがおかしいのです?」

「いや、ブラッドから化け物呼ばわりされる程に変わったのかと思うと、なんだか色々馬鹿らしくなってきて。あ~あ……」


 眉間に皺を寄せて黙るブラッドを尻目にため息を一つつく。


 トレンティーノ家の子供は男女の区別なく最低限の弓、槍、剣術を学ばせられる。そしてブラッドは子供に対しても容赦ない訓練を課し、その辛さに何度も泣かされたものだ。

 なにせあまりの容赦のなさで骨を折られた事だってある。ただ……ブラッドも流石にやり過ぎたと思ったのか嫌がらせのように見舞いに来たのだが、正直顔を見るのも怖かったのに、なんで何度も来るのかと、ひっそり泣いた事も思い出の一つだ。

 だけれど過酷に鍛えられていたからこそ、騎士の訓練も大したことはないと感じたし、余力がある分魔法の習得に力を注ぐことができた。

 騎士として赤熊を倒す事も出来た私だが、当時の力のままであればブラッドを前にしたら幼少期の思い出で体も固まり、同じ目にあわされたかもしれない。


 だがマコト殿と出会って以降の私と比べると力量差があり過ぎて話にならない。マコト殿と出会ってから得た力があまりに強すぎるのだ。


 もちろんこの強さには地竜に絡む仕組みがあるのだが、それでも出会う前までに長期間かけて積み上げてきた力と、仕組みから得られる力の差があり過ぎる。

 幼少期の私がこの仕組みを得ていたら、それだけでブラッドに勝てた可能性すらある。そう考えると出会う前までの研鑽の時間が、まるで無駄なようにも感じられそうで自嘲の念が起こり笑いに繋がったのだ。


 だが、すぐに自嘲は落ち着く。

 研鑽の時間は無駄ではない。仕組みにより短期間で強くなることはできる。だけれども同じ土俵に立った相手の場合、研鑽の時間の差で勝負が決まるからだ。


 私がブラッドに鍛えられた時間と経験は、私の中で生きている。きちんと生きている。


「大丈夫だよ。強くはなったけれど私は私。昔、何度もブラッドに泣かされた私のまま変わりはない。

 なにせトレンティーノ家の事が大事過ぎて黙っていればいいのに、ほいほい動いてしまう愚か者なのだから。結局のところ何も変わっていないのさ。」


 ゆっくりと呼吸をしてブラッドを見据える。


「お父様にトレンティーノ家の行く末を左右するだろう事を相談に来た。」

「なん……ですと?」

「これからこの国境を中心にして、激動の時が始まる事になる。

 風はもうすでに吹いた。そしてもう止まることもないだろう。ブラッドが私を脅威と感じたのであれば、言っておくがこれはただのそよ風だ。これからもっと驚く事になるぞ。」


 片方の口角が少し上がる。

 ブラッドの片眉がピクリと動いた。


「マイラ様? それは悪巧みをした時の顔ですよ?」

「おっと? そんなつもりはないのだけれど。」

「いいえ。貴方は小さい頃、いつも私を出し抜く為に手を考えた。そして思いついた時、仕掛ける時には、その顔をしてましたからね。小さい頃に何度も見たから見間違えるはずもない。」


「ふふっ、言った通り私は私のままだったということだろう。

 さて早速だがお父様の所へ向かいたいので馬車の用意を頼む……できればブラッドにも一緒に来てもらいたいんだが。」


 微動だにせずに目をじっと見てくるブラッド。しばらくの時の後、目を閉じ息を吐いた。


「いいでしょう。私も同行しましょう。」

「助かる。気になっている詳細は馬車で話そう。あぁ、彼らも一緒で構わないね?」

「拒めば私もこの場で倒れる事になりそうですからね。仕方ありません。」


 用意された馬車にマイラ、コン、ミト、そしてブラッドが乗り込み、トレンティーノ家に向けて動き出すのだった。



--*--*--



「マイラは雲隠れ。」


 頬杖をつきながら、セミロングの白髪に指を通しながら独り言のように呟く女。


「……この冬はよく訓練と称して単独で森に入っていたらしいです。

その都度戦果として熊などを仕留めていたと記録が残っているようですから、今回の訓練も嘘ではないのでしょう」

「ハンター達は?」

「依頼を受けて熊を狩ったという記録はありません。もちろんマイラを森で見つけたという報告もありません。ただ、あの姉妹もよく森に潜っていたようです。」

「ふぅん。」


側に立っていたボブカットの白髪の女、ロレーナの補足説明を聞き流すように受け取る。


「犬は動かない。」

「鎮圧されたという理由が人であるという根拠は魔法の発動を感じたのが理由のようですね。」

「大層な距離が離れているにも関わらずに検知できる程の魔法?」

「……はい。」

「ふぅん。」


 側に立っていたロングの白髪の女、ビクトリアの補足説明を聞き流すように受け取る。


 しばしソフィアが、ただ頬杖を突きながら髪に指を通すだけの誰も言葉を発しない時間が続く。

 ロレーナもビクトリアも表情一つ変えず、まるで何事も起きていないかのような雰囲気。


「マイラが怪しいのになぁ……全然繋がらない。」


 呟きにすぐにロレーナが口を開く。


「王都ライトリムからカーディアまでの移動には一週間はかかりますからね。王都からトレンティーノ領までも一週間以上見ておく必要があります。

 マイラが最後に訓練と称して森に入った日から考えて、向かう事は不可能でしょう。」

「そうなのよね。

 私達でもカーディアまで4日くらいかかるものね。」


 続いてビクトリアも口を開く。


「獣人とまともに対峙して、尚且つ強大な魔法で鎮圧して見せるなど人間には不可能かと。それこそ大森林に住んでいるだろう噂の白銀の魔女と呼ばれているような存在にしかできないでしょう。」

「そうなのよね。

 ただ、あの森には限りなく怪しい存在が居るのは間違いないのよね。」


 髪に手櫛を通し続けるソフィア。


「それに何より恐るべき情報網を持っていなければマイラが動く事自体がそもそも有り得ない。

 カーディアのマイラが、どうやって獣人の国の動きを知る事ができる? 不可能だわ。」


 両手を解放し、背もたれに寄り掛かるソフィア。


「一旦考えをとことん飛躍させないと駄目かなぁ。」

「ソフィア様は、どの程度飛躍させるつもりで?」

「う~ん……例えば森に神様が住んでてマイラはそれを見つけて利用できた……とか?」


「それは……また、なんとも。」

「言いたい事は分かるけど実際にマイラが動いたとして考えると常識に合わせると不可能だらけ。それでも実際怪しいと思えて、動く理由がありそうなのはマイラくらいなんだから、それくらい飛躍させないと辻褄合わせが出来ないでしょう?」


「でもそうなると、マイラが神様を利用しているということになると、もう私達の手の出しようもないのでは?」

「神様を利用するのもタダじゃあ出来ないとか? ……まぁ流石に飛躍しすぎか。何にせよ情報が足りない。」


「では、とりあえず森を探しますか?」

「そうね。カーディアの騎士とハンターの両方に依頼を出しておいて。名目は国からのマンモレクの脅威を鑑みての分布調査。本命はマイラと魔女の捜索。

 あと、マイラのここ一年の動きを再度精査。特に姉妹と接触後は念入りに。姉妹も同様。」

「かしこまりました。」


「犬の方はいかが致します?」

「う~ん……トレンティーノ領の隣は、ミリガン領……ミレーネの領だったわよね。」

「そうですね。トレンティーノ領はハイラントと戦う事が使命となっていますし、ミレーネ領は穀物などの生産でトレンティーノ領を支えるという関係を築いていたかと。」


「何かが起きているのは確実。だとすれば余波が及びそうなのはミリガン領。

 私はミリガン領に行きます。ここは……そうね。ロレーナに任せるわ。」


「私ですか? 取り掛かっている手術の方は?」

「待たせておきなさい。やりたければやってもいいわよ?」

「謹んでご遠慮致します。」

「あぁこの際、狐も使っていいから向こうの情報を集める指示を出しておいて。」

「かしこまりました。」


 指示を出し終えると、ソフィアはビクトリアとすぐに動き出すのだった。

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