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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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87 後始末


「あの程度で壊れる方がおかしいと思います。」

「うん。フリーシアが作った程度の風、大森林の木だったら倒れたりしないと思うし。」

「頭の中まで筋肉の女に言われると妙にイラっとしますが、まぁ些細な棘は無視します。大森林の木であれば貧相な物は少ないですし、そうかもしれませんね。」

「この無駄に生意気な小娘の中ではもう私は完全に筋肉という存在に変わったのね。まぁ小娘の言う事なんて気にする程でもないんだけど。」


 魔法で作り出した丘の上。

 嵐を止めるには止めたけれど、立派だった屋敷の屋根の一部が吹き飛び、庭木が倒れ、壁も飛んできた物や土砂が当たったせいだろう崩れや汚れがよくあった。

 だがそんなベンの屋敷はまだ被害が軽微な方で丘の上から周りを見回せば木々の倒壊や崩壊した家屋なども目につく。


 そもそも二人が大森林ならと言っているけれど、森が風に対して耐性があるのは常識だ。

 倒れた木は点在するように立っていたのだから影響を大きく受けたはず。もし同じ風がカーディアの街に吹いていればレンガや石造りが多いとはいえ結構な被害が出ていたはずだ。


 しかし……穏やかだった風景が……


 改めて惨状を把握してしまいフリーズしてしまう。


「この2人またケンカする気みたいよマコトくん。」

「は、はわ、け、ケンカはもう勘弁してください。」


 さらに後ろからテオの声が聞こえ慌てながら意識を取り戻し二人を止める。


「ご安心くださいマコト様! 私はまったく一切ケンカなどするつもりはございません! マコト様の嫌がる事をするわけがありませんから!」

「大丈夫よマコト! 私は全然ケンカなんてするつもりはないから! もう大丈夫だから! 正気だから!」


 アリサとフリーシアが同時に言葉を放ったせいで脳が一瞬混乱し瞬間停止する。

 2人はお互いに言葉を放ったのが気に障ったのか向き合う、だけれどもその表情はにこやかだ。


「うふふふふ」

「ふふふふ」


 笑い合った。

 異様な雰囲気を察し瞬間停止から立ち直る。


「あ、あの――」


「ご安心ください! マコト様が望まれる事は、このフリーシアが!」

「私に任せておけば大丈夫よ。安心して!」


 食い気味に再度2人の言葉がぶつかりあう。


「うふふふふ」

「ふふふふ」


 さっきよりも微笑みあう2人の距離が近づいている。


「まったく、これまでマコト様の事を遠回しにしていたというのに急に何の風の吹き回しかしら。私はアナタと違ってこれまでずっとマコト様のお側にあるべく、ご満足いただけるように努力を重ねてきたんですが? 」

「あらそう? その積極性の割には、まだマコトから手も出してもらえなくて時々泣き言を言っているみたいじゃない? あぁそう言えば娘だったわねごめんなさい。まだ私みたいに色々と大人になっていなくて幼いんだから仕方ないわよねぇ。」


「あらあら若さに嫉妬されなくても宜しいんですよ? 殿方は若い女を好むというのはよく言われることですもんねぇ。

 自分より若く身体が無駄に硬い訳でもなく魅力的な女が近くに居れば戦々恐々としてしまい、獣のように下品に威嚇しても当然のことでしょうけど、嫉妬なんて傍から見れば醜い以外の何ものでもないですよ?」

「硬い硬いと言うけれど引き締まっているだけよ。魔法ばかり使ってぷよぷよの身体よりは締まるところが締まっている方が良いでしょう?

 それにきちんと柔らかいところは柔らかいし……あぁ、そうよね。その柔らかい部分が娘よりもそれなりに大きいものねぇ私って。柔らかい部分が貧しいと若さくらいしか誇れないものね。あぁ女らしさが足りないって可愛そうなものね。大丈夫よ。フリーシアはまだまだ若いんだから。」


 笑顔のまま胸を張り見下すアリサに、笑顔のフリーシアのこめかみに青筋が一本入った。もちろん笑顔は一切崩れていない。


「あら。その部分だけでしか女を主張できないなんて、なんて可哀想な……それにマコト様がそんな所だけに注目する俗物だと思っているという点も理解に苦しみますわ。ねぇマコト様。」


 こっちに振らないで。


「あら? 男は本能で女を求める物でしょう? 女だって本能で男を求めているんだもの。男と女の違いで分かり易い部分を無視するなんて、やっぱり幼いのねぇ。ねぇマコト。」


 だからこっちに振らないで。

 でもおっぱいをぐいぐい押しつけられるのはちょっと幸せです。ごめんなさい。


「そろそろ私は怒ってもいいわよね?」


 睨みあう二人の間からテオが声をかけてきた。


 フリーシアはテオの胸とアリサの胸を交互に見て「くっ」と小さく呟いて斜め下を向き、アリサもテオを見た後、すっと視線を逸らした。


年齢としだの身体つきだのなんて、どうでもいいでしょう? まったく……人の話を聞かずに勝手にギスギスしている人達なんて私だって避けたくなるわ。ほら、まずはもう少し離れなさい。」


 ぐぐっと二人の胸を押して距離を取らせるテオ。

 その分、胸を張った状態になったテオが近づいてきて、ついその胸を凝視してしまう。


 ゆれて、ゆれて、弾んでいます。

 とっても…………おおきいです。


「それでマコトくん……これからどうする? 結構な被害になっちゃったみたいだし……もし逃げだしたいなら私が霧を作るわよ?」

「えっ?」


 ついおっぱいに夢中になってしまった。


「わ、私の風に乗れば飛んでいけますよ!? マコト様!」

「道を切り開くなら私に任せて! マコト!」


 離されたはずの2人がまた距離を詰めてくる。

 皆真剣な表情だ。


「え、いや、あの…………流石に、御馳走になったりお世話になった人達に自分達が迷惑かけたのに、なんの責任も取らずに逃げ出すのは……」


「そうよね。マコトくんならそう言うと思ったわ。」


 テオがすぐに口を開き、その反応にフリーシアとアリサが少し慌てる。


「さ、流石マコト様です。そうですよね。マコト様がお世話になったのですから、きちんと責任を取らなくてはなりませんよね。逃げるなんて事はありえません。」

「『道を切り開く』って言ったのは、別に逃げ出すって意味じゃないのよ? 力仕事は任せろって事で、マコトがそういうだろうことは私ちゃんと分かってたから。」

「あ、ああ、あ。」 


「ほら、貴方たちががっついて前に出てくるとマコトくんが話せないでしょう? 今は緊急事態なんだから貴方たちは少し大人しくしてなさい。ねぇマコトくん。」

「あ、あ、あい。」



 そんな4人の様子を遠巻きに眺めていたマイラは思う。


 『なんかテオまで夢中になってない? ……もうダメだ』


 完全無視と放置プレイ。そして想定外の事態によって蹂躙された理想。

 それらが相まって生まれた虚無感により新しい境地を開いてしまい、少しだけ気持ちよくなるのだった。



--*--*--



 あっれ~? 全然予想と違う方向に動いている気がするぞ?


 ベンは表情には出さずに小さく焦っていた。

 軽く被害状況の確認を終え、コンに話した通りマコトを、どう手の平で転がしてやろうかと考えながら屋敷に戻ったのだが、先手を打つように動いたのはマコトだった。


「本当にスミマセンでした。」

「お、おう……」


 土下座。

 昔から伝わる最上級の謝罪の姿勢だ。


 人間の国には無いはずの礼儀。それを顔を合わせると同時に繰り出された事で怒りをぶつける振りをしようとしていた牙が抜かれてしまった。

 それにマコトの他にも今回の元凶である女達も頭を下げているのだ。


 この女達は、あれほどの力を持っているからこそ敵対すれば、こちらが危うい、それにマコトと比べて好戦的で気性も荒い。だからこそマコトに怒りをぶつける事には命をかけるつもりだった。

 なのに最大限の謝罪をしている。つまり自ら非を認めているのだ。


 力を持つ者は大抵の物が傲慢になる。

 それは特に力が物を言うこのハイラント国においては顕著だ。

 だからこそ、あれほどの力を持った物が素直に謝る事を想定していなかった。


 少し後ろの方でテオと呼ばれていた女もしっかりと頭を下げている。ただ男装女だけが、まるで『もうどうにでもなーれ』といわんばかりの半目の顔で小さく頭を下げていた。


 この一瞬が、一瞬だけ状況把握に止まったことが命取りになった。


 ミトが口を開いた。


「父様。マコトさんが、今回の被害にあった場所を全て回復させてほしいと申し出がありました。あと力になれる事があればなんでもしたいと。」

「えっなんでも? ……じゃあ俺を鍛えてもらうとかは?」


 コンがそう口を滑らせた時は思いきり殴ろうかと思った。


「別にいいけど……他の急ぎが終わってからでいい?」


 いいのかよ。

 コンを殴りそうになった拳が行き場を無くして、つい崩れる。


「いや、お前、本当にそれ、いいの?」

「えっ? いいよ?」


 確認してみると顔を隠しているけれど予想外のこと言われた的なポカンとした顔をしている事は分かった。

 コンの言葉でこちらがどうしたいと考えているかを察したであろう男装女に視線をずらすと、なんとなく『……終わった』的な顔をしている事が分かる。


 いや、うん。気持ちは分かる。

 なんていうか、自分の奥の手があっという間に裏切ったというか、なんというか。考えてない故に、なんというか。制御不能だからこそ、なんというか。


 ――少しだけ男装女に同情心が沸いた。


「えっと……なんだ。トレンティーノの……」


 声をかけると、白けた目をこちらに向けてきた。


「お前も苦労してんだな。」


 そう言うと、小さく鼻を鳴らし頷いた。

 考えを巡らせるだけ巡らせて、それを無為にされる心境は察してあまりある。

 いけ好かない人間であり、壁の向こうの敵ではあるけれど、なんとなく少し仲良くなれる気がした。


 そんな状況を無視して課した使命を果たせる事にテンションが上がったのかコンが口を開く。


「じゃあさとりあえず、マコトはこんな山みたいなもん作れるみたいだし、簡単な家とかも作れたりする?」

「あ、うん。だいじょぶ。」

「今、一番困ってるのは倒壊した民家の建て直しだからさ、それってなんとかなりそう?」

「そりゃもう! なんとかするよ! ごめんなさい! こんな感じなら作れるよ?」


 丘が消えた庭に、今度は家が出てきた。


 嘘だろう?


 こんなんできるんだったらいつでも城とか作って籠城戦ができるんじゃないかコイツ。

 ていうか、ここ一応こいつらの敵国なんじゃないの? なんでそんな秘密見せてるの?

 あぁそうでした。多分なにも考えてないんですね。分かります。


「おいおい、なんだこれ? 滅茶苦茶硬いな」

「蹴っても体当たりしても大丈夫なくらいの強度はあるよ?」

「まじかよ。全然頑丈になるじゃん……これ内装は弄れんのか? 土間とか鶏の止まり木とかさ?」

「鶏の止まり木? よくわかんないけど、どこをどうしたいか教えて貰えれば弄れるよ?」

「すげーな! ちなみに何棟くらい作れる?」

「え? う~ん……多分どれだけでも。」

「おいおいマジかよ! じゃあ、さっさと片付けようぜ! こういう対応は早ければ早い程いい! まずは寝る場所だけでもあれば心のゆとりが生まれるからな! 前の家より住みやすくなれば、あれ?逆によかった? なんて思ってくれるかもしれん!」

「う、うん! わかった!」

「で、さっさと終わらせて俺を鍛えてくれよ! ほら行こうぜ!」

「う、うん!」

「よし! じゃあ行ってもいいですか親父殿!」


 全員の視線がこっちに向いた。

 無駄にキラキラしてるのが、ちょっと腹が立つ。


 あぁ、もう、

 なんかもうコンに任せてしまおう。

 それが良い気がしてきた。


「おうわかった。行って来い。」


 そう声をかけるとバタバタとコンが配下の者を連れ、マコトが女達3人を連れて出ていった。

 ただ男装女は残っていたので声をかける。


「お前は行かないのか?」

「なんか……マコト殿が動くって言った状態だと自分が動いても止めようもないし……どうせ戻ってくるし……もういいかな?って。」

「そうか……」

「それに私はここで、あんたとこそこそはかりごとしてる方があってると思う。」

「俺ははかりごとは苦手なんだと、つくづく思い知ったばかりなんだがな。」


 男装女が小さく笑う。


「でも謀らないといけないんでしょう?」

「まぁな。」


 小さく笑い返す。

 こちらの反応を見て、男装女の頬が緩み、口を開いた。


「それじゃあお互いの今後について――」

「まぁ待て。アイツらは俺達の予想の斜め上を行く。

 もうこの際面倒だから腹割って話そうじゃないか。どうせお互い自分の国じゃあ堂々と話せん内容になるんだろうしなぁ……だからせめて、その覚悟がある者同士は協力して行かんか?」


 しばしの沈黙。


「……それもまぁ……一理あるか。」


 そう言った男装女の目は、これまでと違い、ある程度信用しても良いように思えた。

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