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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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86 嵐


 ピチョン、ピチョンと葉の上の雨が流れ、しずくとなって落ちる。

 落ちた先にはみぞれの混じった水たまり。

 降らせたであろう雲からは光が差しはじめていた。


 突然の嵐がなんとか去った事を感じ取ったのか、農家だろう鼠の獣人たちが少しずつ壊れた家屋から顔を覗かせる。

 顔を出している家屋は藁葺屋根が吹き飛び土壁も崩れている箇所が多く嵐の凄まじさを感じさせる。


 農家が抱えて守り切ったであろう家畜の鶏は、光景を確認し力の緩まった懐からすぐに飛び出し、飛ばされたであろう備蓄の米や種まきに使われる予定だったであろう種籾などをついばみはじめた。


 鼠の獣人は鶏の動きに気づくこともなく、しばし呆然と、ただその場に立ち続ける。

 だが何とか自分を取り戻し、大事な種籾を守ろうと動き出した。

 ただ、その背中からは自分の家が半壊した事の悲しさがどうしても滲み出ている――


 ベンはそんな領民の姿を自分の目で見てしっかりと確認する。

 領主の供としてついてきた狼の獣人も、あまりの自領の変わりように憤りを止める事が出来ない。


「……お前らも人数を集めて手伝ってやれ。この状況だ……手はどれだけあったって足りねぇ。」

「お館様っ! これはあのヒト共が!」

「おう分かってる。みなまで言うな。それについては俺を信用して任せろ。

 今、大事なのは原因を締める事じゃねぇ。領民が絶望しないことだ。備蓄を使って炊き出しをやってもいい。俺が原状回復の為に動き出したと声をかけてやれ。

 女狐にも都に嘆願を出すように言ってあるから支援もその内来るだろう。」

「……分かりました。」


 怒りを堪えるように目と口を閉じ、供の者は考えを切り替えたのか配下だろう者達に慌ただしく声をかけ動き始めた。

 自分の周りから配下の者が散っていき、数人が残る。


「……くっくっくっく。」

「親父殿? ……大丈夫ですか?」


 突然小さく笑い始めたベンに対してコンが心配したように声をかける。

 治めていた自領が自分の連れてきた人のせいで滅茶苦茶になったのだ。気が触れたとしてもおかしくはない。


「これが笑わずにいられるかよ。」

「親父殿……」


 話しぶりから、さも愉快そうであることが伝わってくる。

 話し方に芯があった事から破れかぶれになったとか気がふれたような雰囲気はない。そのことがコンには救いだった。


「確かに笑う事しかできません……」

「おい、コン。お前は勘違いしているぞ?」

「……は?」

「これは好機なんだ……しかも絶好のな。」


 訝しげに眉間に皺を寄せるコンに対して、不敵に笑うベン。


「どういう事です?」

「わからねぇか……まぁいい。俺たちはあの男のふりした女と話をしてただろう?」

「えぇ……密約を結んで、この国の天下をとる為に力を蓄えると。」


 ベンが鼻を動かし周囲の匂いを嗅ぎ取る。

 そして周囲に探っている者がいない事を確認してからコンに対して小さく口を開く。


「実のところ、あの話には幾つかの嘘がある。」

「嘘……ですか?」

「安心しろ。お前を育てようってのや環境を整えるってぇのは嘘じゃあない。」

「では?」

「まずは俺が引く気はさらさら無いってぇとこだな。俺もまだまだ強くなる。そして俺がこの手で天下を掴みとってやる。」


 ギュっと拳を握るベンに対してコンはどこか納得したように頷いた。

 自分の父が引退を口にするような男ではない事を知っているからこそ密約の話し合いに違和感を感じており、その正体がはっきりしたからだ。


 大胆不敵な笑みを浮かべたままベンが続ける。


「いいかコンよ。ここでしか、そして一度しか言わない。

 この嵐を起こしたのはヒトの女だ。だが、この強さはあまりに異常過ぎる。そしてこの異常にはあの男……マコトが鍵を握っているのは間違いない。

 ……マコトは優しい男だ……そして甘い男。

 自分達がどれほどの被害を出したか理解させれば責任を感じるような男! そしてその責任を無視できない男だ。だからこそこの事態を突くことで俺達が強さの秘密を手にできる可能性がある! 考えてみろコン! 俺達がこれを起こせる程の力を手にしたらどうなるかを!」


 目を見開き、ゴクリと喉を鳴らすコン。


「そこで……だ。俺はどうしてもマコトを責めざるをえん立場だ。だからお前は俺からマコトを守る盾になれ。」

「『盾』……ですか?」

「そうだ。守ってくれる存在というものに対して関係を悪くしようと思う者はおらん。マコトと親交を深める絶好の機会ということよ! 恩を売って売って売りまくれ、友人としてな! そしてその恩を強さの秘密で返してもらうのだ! そしてお前が得た強さの秘密で俺達一族に広めるのだ! さすれば我らはもっともっと強くなれるっ!」

「なるほどっ! このコン、親父殿の思考の深さに感服いたしました!」


 すっと目を細めるベン。


「コンよ……領を治めるというのは力だけではどうにもならんことも多い。頭を使うことを覚えるんだ。奥の手はいくつも持たねば命を失う。」

「はい。」

「女狐の知恵は助けにはなる。だが狐共は信用するな。決して信用するな。能力だけを信頼して利用しろ。

 あいつらを信用すれば全てを乗っ取られる……今のアド様を見てみろ自分では気がついていないだろうが、ただの傀儡ではないか。」

「親父殿……声が過ぎます。誰かに聞こえるかもしれません。」

「……そうだな。熱くなった。」


 ベンが晴れ間が見え始めた天を見上げる。


「……狼の誇りを……取り戻すぞ。俺達の手でな。」

「はい。」


 コンもベンの隣に立ち、天を仰いだ。



--*--*--



 時を少し遡りベンとコンがまだ館で嵐を迎えた頃、小高い丘の中でマコト達の騒動は別の局面を迎えていた。


 テオとアリサにも嵐が来る事を告げなくてはいけなかったのだ。

 フリーシアが平静を取り戻したとはいえどアリサの様子がおかしいままであれば、さらに大きな戦いが発生するかもしれない。


 だが万里を見通す目で見てみれば、崩れ落ちて顔を隠したままのアリサがテオの慰めに対してイヤイヤと顔を振っているだけ。なんとなく大丈夫そうな雰囲気を感じ、もし万が一暴走したとしてもテオが隣に居れば大事には至らないような気がして、腹を決める。


 通路を広げてなかなか離してくれないフリーシアを嵐と聞いてからと言って地蔵のように固まった小隊長に任せて移動してみる。念のためにフリーシアが通ってこないように自分が穴を開けて通った後は塞いでおく。


 アリサの後ろの回るように移動し、こっそりと聞き耳を立ててみる。


「もう死にたい……」

「そんな事言わないの!」

「でもぉ……」

「だから何をしたのか姉さんに言ってみなさい。聞かないと分からないから。」

「い、言えないわよぉ~! 姉さんだからこそ言えないのよぉ!」

 

 半泣きのような声質で言葉を詰まらせながら、なんとか話しているアリサ。

 ちゃんと会話をしている。キスをされたり頬を叩かれたりした時、フリーシアと対峙していた時のような攻撃性は微塵も感じられないアリサの後ろ姿。


 これまで森などで生活を共にした中でもアリサが半泣きで愚図る姿など見たこともないから異常事態が続いている事だけは間違いがないけれど、顔をぶたれる事は無さそうだ。


 テオがアリサの隣にいることで何かあっても止めてくれるだろう安心感もあり、フリーシアを鎮める事が出来たことをテオに伝えなきゃいけない義務感から勇気を振り絞って声をかける。


「……ぁ、ぁのう」


 声に反応したアリサが素早くこちらを見た。

 テオもすぐにこちらを見たけれど、アリサの首の動きの早さに少しびっくりして言葉が詰まる。


「にゃ! にゃああああああああああぁっ!」


 アリサが叫んだ。


 余りの叫び声に密室に声が響きすぎて視界が細くなる。


「やっ! やっ! いやぁあああ! ごめんなさいぃっ!」

「どうどうどうどう落ち着いてアリサ! 大丈夫! 大丈夫……よね? マコトくん?」

「は、はい!」


「やっ! やぁああーーーー!」

「ちょ、ま、マコトくん!? アリサがどうしてこうなってるかわかる?」

「あ、はい!」


 小隊長に説明した時にまとめたから、多分それを言えばいいはず。


「顔を見られてアリサにキスされて頬を何度も叩かれたらフリーシアが激昂しました。あと、嵐が来ます。というか来てます。」


「は?」


 時が止まった。


 テオが少し呆けた顔をした。

 アリサはプルプルと下唇を噛んで赤面している。


「ちょっと待ってね。情報を整理するから。」

「姉さん、整理しなくていいから! 私の方は忘れていいから! 忘れてっ!」


「キスした……のは、うん。まだ分かる。そこから何度も頬を叩くって行動につながらないんだけど……」

「考えないでったらぁっ!」


「……往復ビンタされました。」

「なんかフリーシアが見たら怒っても当然の行動してるわね……」

「もうやめて……ごめんなさい。謝るから。謝るからぁ! フリーシアにも謝るからぁ! もう掘り下げないで!」

 

「あ、うん……えっと、マコトくん。なんかちょっと落ち着いた……というか限界みたいだから、うん。ありがと。」

「あ、はい。」

「うぅ……」


 アリサはもっと小さくなった。


「で、あと嵐って何?」

「フリーシアの魔法の影響ですよ。ほら、上昇気流とか気圧の話とかでしたことあったと思うんですけど、それを参考にしたみたいで沢山の竜巻で上昇気流の流れ作ってその中心に流れ込むようにポケット作ってたんですよフリーシア。周りにも流れると思いますけど、多分中心に一気に流れ込むかと。」


「……それって…………まずくない?」

「はい。やったことないんですけど、多分結構強い風が吹くと思います。竜巻の威力と数からみてもかなり強そうでまずいですね。」


「いや、そうじゃなくて、ここベンさんの家……獣人の国の領主の館なワケでしょう? 私達の魔法のせいで全壊なんてことになったら、人と獣人の戦争の合図になりかねないわよ……」


「…………あ。」


 アリサとフリーシアの事しか考えてなかった。

 テオに言われて人の国と獣人の国の関係を思い出して青ざめる。


「ち、散らして! マコトくん! 嵐を散らして! 早くっ!」

「は、はいぃっ!」


 急いで外に出て魔力を嵐を散らす。


 だけれども時すでに遅かった。

 風は既に大きな被害を出してしまった後だった。



間があきあきの更新ですみません。

次回からペースアップ頑張ります!

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