83 危機
取り急ぎの更新で短めです。スミマセン。
何とか明日はもうちょっと書きたいです。
「らめぇぇっ!」
目を覆う、ふにっとした感触。その感触はどこか人の手のような弾力があった、だけれども触れている指は太く大きい。
そして、ふぁさっとした毛の感覚もする。
なぜこんな状況で目隠しをされるのか疑問に思いながらも声を発したのがミトであることは分かった。
どうやらふにっとした感触は手の形に進化した肉球のようだ。
「このヒトの顔を見ちゃらめぇえっ! あ、あ、あのヒトみたいにおかしくなるからぁっ!」
そう叫びながら顔を抑えるミトの力は強い。
そこでようやく現状を理解した。
テオがやってきた事、そして自分が素顔を晒している事。
アリサは、この顔を見ておかしくなった。
テオもまた同じ道を辿る事になる寸前だったのだ。それをミトが止めてくれたのだ。
「あ、あ……」
「後ろを向いて!」
テオの戸惑うような声と、叫ぶように指示するミトの声。
とりあえずテオがこちらを見ていることを察し、ミトの手が外れることがないように、動かないよう気をつける
「早く! 向くの! 後ろをっ!」
ミトの声が怒声へと変わり、ようやくテオが後ろを向いたのか自分の視界が晴れると、どこかもじもじと足を動かしているテオの後ろ姿が見えた。
すぐにミトが布を拾ってくれたので受け取り、慌てながら顔に巻き、きつく結ぶ。
「見たっ? 見たの!? 大丈夫!?」
「あ、す、少しだけ……」
結んでいる間に移動したミトがテオの肩を掴み確認すると、戸惑いながらも答えるテオ。
「少し…………だ、大丈夫! 少しなら大丈夫よね! 貴女は幻を見たのよ! うん! 大丈夫! きっと見ていない!」
「あ、そ……そうよね! うん! そう! 幻っ! 私が見たのは幻!」
ミトとテオがお互いに慌てながら確認を進め、自己暗示のように大きな声で同じ言葉を繰り返している。その異常な様子にこちらもどうしていいか分からずに慌ててしまう。
「それで! 貴女は! 何をしに! きたの!?」
「あっ、そうだわ! マコトくんに止めてもらいに来たのよ! そうだった! マコトくん!」
「はひっ!」
自身の戸惑いを振り切るように、ずんずんと近づいてくるテオの姿。顔を見られた事で変貌したアリサの事が頭を過りつい身構えながらテオを注視する。
近づいて立ち止まったテオをじっと見ていると、テオの目が明らかに忙しく泳いでいた。
その様子からチラ見だろうけれど顔を見られた事が理解できてしまう。
テオが頭を押さえ、目を閉じて大きく息を吐ききり、再度目を開いた。
「え、えっと、マコトくん! 二人を止めて! 二人を止めて欲しいの!」
泳いでいた目が落ち着きを取り戻し、視線が定まっていた。視線と共に思考が元に戻っていっているだろうことが分かる。その様子に少しだけ自分も落ち着きを取り戻せた。
「と、止める、そ、そうだ! 止めなきゃ! で、でも、どうやってっ!?」
正直本気でケンカをしている二人が怖かった。
止めなきゃいけない事が分かっていても身体が動かないのだ。行きたくない。止めたくてもどうしたら止められるのか分からない。
「しっかりしなさいっ!」
テオの両手が両頬を強く抑える。
「いい? よく聞いてマコトくん! マイラが回復が出来るようになったと言っても、二人が戦い続ければ一生消えない傷が残るくらいの事にはなるわ! そして二人の心にも大きな傷が残るっ!
いいえ……あの二人をこのままにしておけば取り返しのつかないことになるわ。
いいマコトくん? 私が止められるなら止めてる! 無理なのよ!
私やマイラでも本気のあの二人を止める事なんて出来ない! マイラじゃアリサの体術を抑えきれないし私はフリーシアの魔法には勝てない! 今! あの二人を止められるのは貴方だけなのよっ!」
いつも優しいテオから初めて真剣な顔を向けられていた。
顔を抑える手には力が増していて、その目からは怒気が滲み出ているような、これまでに見たこともないテオらしからぬ姿。
そんなテオも怖いと思えてきてしまい、指が意思と反して勝手に無駄に動く。
だけれども二人を止めなきゃいけない事も充分にわかっているからこそ逃げたい気持ちをなんとか堪えて口を動かす。
「で、でもどうやったら……」
「方法なんてなんでもいいの! マコトくんなら色んな方法を思いつけるでしょう!? とにかく二人を動けないようにするの! それで充分よ! さぁ行って!」
「うぇっ!」
テオに引っ張られ、最後に背中を押され、その勢いで足をもたつかせながらも修羅場へと足を踏み入れる。
「アーハッハッハっ! 筋肉ぅ! 今細切れにしてやりますからねぇっ!」
「この程度の風で私をどうにかできると思ってるの? アーハッハハ! 笑っちゃうわ! 全部まとめて受け止めてあげるわ!」
8つの竜巻がじわじわとアリサに近づいていた。
ゆっくり動いているけれど、その一つ一つの竜巻の凄まじさは一目でわかる
そしてその中心にいるアリサが竜巻の風以外の要因で死ぬことになる事も理解できてしまう。本気だ。本気の殺し合いだった。
自分のせいで殺し合いになっている。
自分のせいで誰かが死ぬ。
今はアリサ。
彼女が死ぬ。
そう確信した瞬間、脳裏に初めて彼女を見かけた瞬間や酔ってキスをされた事、不満そうな顔、不機嫌そうな顔、訓練で活き活きしている顔などが次々と瞬間的に思い出されてゆく。
「だ、だ、駄目だーっ!」
「「っ!?」」
自然と身体が動いていた。
強く地面を殴りつけ、そして魔力を解放する。
すぐにアリサが、そしてフリーシアも土に飲み込まれていった――




