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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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76/100

76 御馳走

「上の方を納得させる必要がある……手間をかけるが説得に協力してもらえんか?」


 テオや狼たちの待っている場所に戻り、ぐったりと横になりながら、そんな言葉を口にするベン。


「いいですよ。」

「ちょ、マコト殿!?」


 小隊長の困惑したようなセリフに独断決定をしたことが少し申し訳なくなる。だけれど、どうしても譲れなかった。

 どうしてもこの狼たちに協力しなくてはならないのだ。



 ――国境沿いでのヒト側の動きの確認を終えて戻ってみると、ベンの配下であろう本隊が合流していたらしく騒がしい状態となっていた。

具体的にはアリサと1対1で殴り合いをする狼や、それをボクシングの試合のように観戦しながら囃す者。テオと小隊長と話しこんでいるような狐の獣人。その脇でフリーシアに回されたであろう顔を青くして倒れ込んでいる猫の獣人と様々。


 ベンは本当はフラフラなコンディションだろうにも関わらず、本隊をビシっと一喝して混乱を締めてみせた。その姿を見ていると群れのトップとはこうあるべきという威厳が放たれていたように思う。

 落ち着きを見せるとベンとコンの親子は隊の全員に人が攻めてくる意思が無いという事を伝え、そして進軍の中止が宣言した。

 無駄な争いが無くなった事で嬉しい反面、ベンが進軍の可否を決定して問題ないほどの権力者だという事にやはりちょっと驚く。なんせ初見から見ていたほとんどの状態がグロッキーだったのだから。


 こうして獣人の進軍は訓練へと変更され、帰還を始める前に一旦休憩を取る運びとなったのだが、その休憩の時に見てしまった。見つけてしまったのだ。



 獣人の兵が、携帯食で『ちまき』を食べているのを――



 ちまきとは、笹の葉などで米をくるんで解けないようにい草など結び、そのまま蒸した食べ物。


 つまりどういう事か。

 『米』があるという事だ。


 カーディアの街で食べたパンもクレープも美味しかった。

 素材の味を活かした……否、素材の味しかなかったサバイバル料理と比べれば涙が出るほどに美味しかった。


 だけれども『米』。米は無かった。

 本当は米があるのであれば食べたかった。食べたくて仕方が無かった。

 なんせこの世界に来る前までの主食。日本程の品質、ジャポニカ米じゃなかったとしても構わない。心底米が食べたかった。


 1年以上『米』という存在から離れ、この世界には無い物と諦めていた米。その米がすぐそばにあるのだ。

 そんな奇跡を見過ごす訳には行かない。


 この世界に来て初めて真剣に相手と対峙しベンを見据える。

 雰囲気が変わったのを感じ取ったのか小隊長が口を噤み、そしてベンも身体を起こす。


「ほう? その様子……ただで協力する気はない……そう言いたいのか?」


 値踏みをするような視線を向けてくるベン。

 その問いにコクリと頷き


「ふん。だが、そちらは戦いたくなかったのだろう? その願いを叶える為に、こちらはわざわざ一肌脱いでやろうと言っているのだぞ?」


 『なんなら戦ってもいいのだぞ?』と言わんばかりのベンの言葉にピリっとした緊張感が漂い始める。

 だがそんな空気など関係ない。

 ゆっくりと息を吸い思ったままを言葉に変える。


「協力するのでご飯を食べさせてください。」


 ――沈黙が訪れた。


「…………は?」


 沈黙を破ったのはベンだった。


「協力するのでご飯を食べさせてください。」


 再度大きな声で願いを口にする。


「は?」


 次に疑問符を投げかけてきたのは小隊長だった。

 構わず再度口を開く。


「協力するのでご飯を食べさせてください。」

「お……おう…………えっ?」


 ベンが戸惑いながら小隊長を見る。

 小隊長もその視線を受けて首を振った。

 その様子は無言ながらも『聞き間違いか?』『いいや間違ってない』と会話したようにも見える。



 そう。間違ってなどいない。

 でも念の為にもう一度。


「協力するのでご飯を食べさせてください。」

「いや、わかったから!」

「フゥーッ!」


 ベンが少し焦りながら答え、了承が貰えた事で自然と歓声とガッツポーズが出た。

 米だ。米が食べられる! ヒャッフィーー!


「……なんだ……その……ヒトの国ではメシも食えんのか?」

「そんなわけないだろうが……」

「だよなぁ……」


 ベンと小隊長が呆れながら現状を飲みこむのだった。



--*--*--



「うまっ! うまっ! うまーっ!」

「えぇぇ……」 


 『臭くない?』という言葉が続きそうになり慌てて飲みこむ。

 彼がこんなにも感情を露わにして喜んでいるのは珍しい。その喜びに水を差すのはどうやっても気分を害する物になるだろう。


「あああ! うまーーー! まさか糠漬けまであるなんて! ああああウマーーっ! 沢庵! からの米っ!」


 ポリポリポリポリと物凄い速さの咀嚼音が聞こえてくる。

 ベンの指示で分け与えられた食べ物を指でつまみ一口齧る。


「辛っ……酸っぱい……ニオイも独特……」


 毒か、それとも腐った物かとも思ったが、彼の回復魔法で毒の治療も可能な事は理解しているから本当に毒だったとしても問題は無い。

 だが、彼の反応を見ている限り、コレはこういう味の食べ物なのだろう。


 つい私の舌がおかしいのかと思い、アリサやテオの様子を伺うと二人も眉間に皺が寄っていた。

 ただフリーシアだけ様子が違う。


「コレはどうやって作るのですか?」

「あんた糠漬けを知らないの?」

「知りません。マコト様がお好きなようなので覚えたいのです。」

「ふぅん……まぁ、別に教えるのはいいけど糠は手間かかるって聞くよ?」


 フリーシアは自分の舌で味を確認するや否や、すぐに狼のアルマに問い掛けていた。

 多分フリーシアにとっては彼の好物が知れた事に価値を見出しているのだろう。

 この冬ともに過ごしていてそれがよく分かった。


「うぅ……米……美味しいよう……美味しいよう……」

「えぇぇ……」


 とうとう泣きだしてまでいる。

 正直ドン引きだ。


 彼は時々変なスイッチが入るのは分かっているけれど、今回はこれまでに無いほどのスイッチの入り方を見せている。


「おうおう! なんだよマコト! おめぇそんなメシがうめぇのか?」

「うめぇ……うめぇよう。」

「がはは! 泣くほどうめぇってか! しゃーねぇなぁ、おもしれぇからオレのとっておきをやろう。」


 コンが葉にくるまれた包みを開いて中身を取るように差しだした。

 よくよく見てみれば白いチーズのような物に見える。


 彼も見覚えが無いのか首を捻りながら一かけら手にとり、口に運んでビクっと背筋を伸ばした。


「……まさか……豆腐? 豆腐の糠漬け?」

「お? なんだ知ってたのか? 元は豆だぞソレ。」

「知ってる知ってる! 豆茹でて絞って出した豆乳ににがりを加えて混ぜるやつでしょっ!? えっ!? ってことは何? 海あるのっ!?」

「作り方なんざしらねぇよ。だがまぁ海はあるぞ? ただ俺達の所からはかなり距離があるからな、こっちには日持ちするその状態で少しだけ来るってわけよ。だからこれは貴重なとっておきさ。」

「うひゃあぁ! 海があれば海産物があああ! 夢が広がりんぐっ!」

「がはは! なんだそりゃ!」


 非常にマズイ。

 なんだか知らないけれど狼とマコト殿が意気投合しているような感じがする。

 ついでにこのままだとマコト殿は獣人の国に居つきそうな気がしてきた。それだけはマズイ!

 人と獣人の中は悪い! このままいけばどっちの国にも問題が起きる。最悪の場合、人とマコト殿が敵対するような事態にでもなれば絶望的だ! それだけは何とか回避しなくてはならない!


 チラリとテオに目を向ける。

 彼女とはこの冬を通して考えを察し合える関係を築けていると思う。


 アイコンタクトを通し余り芳しくない状況に向かっているような雰囲気を察し合う。

 共通の認識を持って行動すれば向かうべき方向の修正は可能だ。


「マコト様。私にも味見を。」

「ちょ! やめ! とっておきって言っただろ! ちょっとずつ酒のあてにすんのが楽しみなんだよ!」

「……私にも味見を。」

「…………はい。」


 ちょっと待ってフリーシア。

 ちょっと大人しくしていてくれないかなぁああ、ならないよねぇえ。分かってます。フリーシアは彼の側に居るのが目的だものねぇ! それ以外は関係ないですよね!


 でもそんな貴方も私が知る限り最強の魔法使いに近い存在になっているんですけどねぇ! フリーシアまでこっちの国に居ついたら眼も当てられない……


「なに? そんなに美味しいの? ちょっと頂戴。」

「あぁ! やめろよ筋肉まで! 俺の大切なツマミが……」

「筋肉呼ばわりは止めてよ。」


 アリサァアアア!


 何とか妹の乱入を止めてほしい一心でテオを見る。

 すると、テオは、なんだかもううっすらと笑顔を浮かべていた。

 その笑顔の意図するところが分かりやす過ぎて思わず天を仰ぐ。


 『あぁ、これはもうどうにもならないわね』だ。


 大きくため息を吐いた私の肩が叩かれる。

 目を向ければテオ。


「なるようになるわよ。」


 ならねーよ!


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