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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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73 獣人の戦闘


 頭が混乱する。


「おうおう、コソコソ隠れとらんと出てこいや。」


 想像はしていたはずなのに、実際に目の当たりにすると混乱する。


「くっさい匂いでわかっとんのやぞ。」


 もっふもふの毛並みが人の言葉を話しているのだ。


「プンプン漂っとんのじゃ! はよ出てこいや!」


 しかもガラの悪い言葉を口ぐちに喧嘩ごしに吠えている。

 これが人だったら怖いのだろうけれど、今、言葉を発しているのは犬。大きい二足歩行の犬。

 大きい犬も普通は怖いのだろうけれど、この世界にやってきて以降、もっと大きい熊とかトカゲとかを普通に狩って生活していた事もあって、大きな犬の姿自体をあまり怖いとは思えない。


「風上だったか……マコト殿。どうやら近づきすぎたようだ。どうする? 引き返すかい?」

「う~ん……」


 小隊長の声に少し悩む。

 視線の先には行軍を止めた狼の獣人達の姿。約30人ほど居そうだ。

 万里を見通す眼を通して確認してみれば、後方で別働隊と思わしき犬以外の種族を混合した隊があり、先遣しているこの隊が偵察隊なのか、それとも精鋭なのかは分からない。


 30人程居るのが人間のパーリーピーポー達だったら怖くて逃げ出したくもなるけれど、どうみてももっふもふの犬。

 いや、獣人だから人なんだろうけれど見た目が完全に犬。それが服を着ているのだ。武器も持っておらず黒塗りの簡素な防具を身につけているだけ。


「小隊長は彼らの目的が知りたいんでござるよな?」

「あぁ。もし攻めてくる気であれば父に知らせ、私も防衛に参加しなくてはならないからね。」


 言葉を聞いていたアリサがこちらを向く。


「いま戦う?」

「うーん……アリサ? それは私達が言っていい事じゃないわ。」

「そうです筋肉。私達はマコト様の指示に従えばいいのです。」

「フリーシア。それもちょっと違う。」


「ワシらの縄張りに入ってきたんじゃ! 覚悟はできとるんじゃろうなぁ! おおう?」


 テオがアリサとフリーシアにツッコミを入れていた声が一際大きな声で掻き消される。見れば声を発したのは中でも一番身体の大きな狼。その視線は確実にこちらを見据えていた。


「う~ん……なんとなく大丈夫そうな気もするので、拙者ちょっと聞いてくるでござる。」

「え? ちょ、ほんとに大丈夫なのかい? 未だに知らない人に話しかけられると顔を逸らして聞こえていないフリをしているマコト殿なのに!」


 痛いところを突かれた。

 正直小隊長やアリサ、テオ、フリーシアには慣れてしまったけれど、他の人に慣れたワケではない。

 特にカーディアの街を歩いている武器を持った男なんかはやっぱり怖い。もう見た目が怖い。

 ソレを知っているからこその心配の声だという事は理解している。


 でも、だからこそのチャレンジなのだ。


 人と普通に話せるようになりたいし、もっと自分でできる事を増やしたい。

 そして今目の前に居るのは人のように見えるもっふもふ。

 これは仮想の人として練習相手にもってこいに思えるからこそ頑張ってみたいのだ。


「なんか……どう見ても犬だし……大丈夫そうだから。」

「はぁ……一応言っておくけどあの種族は『狼』だからね。『犬』と言うと彼らはかなり怒るらしいよ? 無駄に怒らせたりして火種を作るのは、それはそれで問題なんだが……」

「うぅ……」


 そう言われると、そこまで責任は負えないので及び腰にもなる。


「やはり私が行こう。マコト殿は念の為に横に控えてくれていると有難いな。」

「いやいやいやいや、やはりここは拙者が。」


 もしかすると、もう仮想の人と会う機会が無いかもしれない。

 いつだってそうだ。色気のあるからかいをされた時に、ちゃんと勇気を出せなかったからこそ、未だにひとりこっそりしなくてはならないのだ。

 ここは頑張って一つハードルを乗り越えるべきなのだ!


 潜むのを止め、道に出て歩きだすと結局全員で移動が始まっていた。


「ふん。逃げ出さずに出てきたことは褒めてやろう。」


 こちらの様子を見て鼻を鳴らしながら告げる一番身体の大きな狼。

 近くで見ると、こげ茶と白のグラデーションの狼の顔。横や後ろにいる狼達は身長なんかもバラ付きがあり、顔つきもシュっとした顔の狼や、のっぺりした顔の狼と、それぞれが個性的。

 ただ、皆が皆キリっとしていて凛々しい犬っぽい。


 犬っぽいからこそ、やっぱり言葉を話されると混乱してしまう。


「で、そっちはどいつが頭なんだい? って、メスばっかりだね。猫のヤツらみたいだ。」


 一番身体の大きな狼の横に居たシュっとした顔の狼が言った。

 なるほど。声の感じからシュっとした顔はメスの狼っぽい。


「ふむ。とりあえずは代表は私だ。」


 ぼーっとそんな事を考えていたら小隊長が一歩前に出てすぐに返答した。

 やだ、さりげなくリーダーって言っちゃうなんてカッコイイ。憧れる。


「あぁ? お前が?

 そこのオスじゃあねぇのかよ?」

「人間の世界は君たち程、単純じゃあないんだよ。私達はただ君たちの目的が知りたくて来た。」


 あら? 返答に若干のトゲが。

 もしかしなくてもケンカ売ってらっしゃる小隊長?


「はっ! 目的? 目的なんて戦いしかねぇだろうが!」

「それはこの先のヒトの国とか?」

「さぁね。俺らは言われた事をやるだけだよ。

 とりあえずはテリトリーを越えてやってきた不届き者達を懲らしめねぇとなぁ。」


 そう言って一歩前に出る一番身体の大きな狼。

 放たれている雰囲気は戦う気満々で交渉の余地はなさそうだ。


 ざしゅっと足元を鳴らし、仁王立ちした狼が胸を張る。

 

「やあやあ、吾こそは狼の一族、アド・アンガーに仕えしコンなり!

 親方様の命により、不届き者を征伐するためにここに参った!」


 思わず目を見開く。

 もちろん布に隠れているから分からないだろうけれど。単純に驚き、つい口が開く。


「名乗った……」

「あぁそうなんだよ。彼らはああいう風習があるんだ。

 バカみたいだろう?」


 少し賛同してしまうが、なんとなく戦国時代の武将のようにも思えて親近感が沸く。

 堂に入った口上には少しの感動すらあった。


 コンと名乗った狼はこちらの反応を待って、小さく首を振りながら鼻を鳴らす。


「……ふん。所詮名乗りも理解できん蛮族か。礼も弁えんようなヤツはとっとと屠ってくれよう。」

「しかもよくわからないけど、なぜか一対一を好むんだよね。」


 まるでコンの言葉など聞いていないように言った後、コキリと首を鳴らして、剣に手をかけ歩き出す小隊長。


「あ、あ、あ、ちょ、殺し合いとかは……」


 慌てて止めようと手を伸ばす。


「かしこまりました。マコト様。では私が。」


 そう言ってフリーシアが前へと歩き出す。


「え、え、え、」


 どっちに手を伸ばした方がいいか右往左往していると、小隊長が剣から手を離し歩みを止めた。


「フリーシアが出るなら……それはそれでいいかな。」

「あ、あ、あ、」

「ご安心くださいマコト様。殺さず無傷で場を収めれば良いのでしょう?」


 心配でオロオロしてしまう。

 ゆっくりと歩いてくるメイド姿の少女を見てコンと名乗った狼の顔が少し困ったように歪んだ。


「おいおい……降伏なんてつまんねぇこと言うなよな……」

「ご安心ください。」

「うぉ」


 フリーシアの返答の後、驚いたようなコンの一言が続いた。


「一対一での勝負なら、もう勝敗はついておりますから。」

「おぉおおお!? なんじゃこりゃあああっ!」


 コンの身体が下からの突風で浮いていた。

 バランスを取ろうにもグルグルと身体が回り、ペターンバタバタとなびく毛の動きから強力な風に吹かれているのが分かる。

 暴れて気流から逃れドスンと地面に落ちたかと思えば、またすぐにブワっと浮かされ回転する。


「降参しますか?」

「ちょ、ちょ!? おま! まっとうに戦いやがれっ!」

「嫌です。」


 グルグル回りながら真剣に訴えるコンに即答を返し、回転を激しくしていくフリーシア。


「あぁああああ! ちょっ! 回る! 目が回るからぁあああっ!」


 結局コンは目が回って、ぐったり動かなくなっても降参を口にしなかった。

 そして「も、もう、やめたげてよう! コンのライフはゼロよ!」とフリーシアに泣きつくと、ようやく解放されて完全にぐったりと横になるコン。


 フリーシアはこの冬の間、4人の中で最も火力が強く成長していたのだ。

 しかも繊細な操作も可能にするセンスの持ち主。


 まさかこんな使い方をするとは思ってなかったけれど、一瞬で思いつく発想の柔軟さからして末恐ろしい。

 ぐったりしたコンに片膝をついて介抱していた狼が、ざしゅっと足元を鳴らし仁王立ちして口を開く。


「この魔法使いが! やっぱり汚い手を使うね!

 狼の一族、コンの妻アルマ! ウチの旦那のかたき取らせてもらうよ!」

「嫌です。」


「ぁああああっ!」


 アルマも回った。


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