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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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68 売買

 テオと情報を共有したことで変色した地竜の鱗の価値を知り、心底テオの機転に感謝した。

 もし切り札に変色した地竜の鱗を出していたら、ソフィア様は今回のような訓練を兼ねた遊びではなく、本気で調査を開始したはずだったからだ。


 テオの提案した地竜の鱗の枚数は多すぎるようにも感じたけれど数のインパクトで目を他に向かないように眩ませる意味もあったのだろう。そしてさらに鱗よりも希少価値の高い爪のかけらも出したことで隠し玉も何もかも全て出し切った印象は与えられたはず。

 それだけでなく私の地竜の鱗素材の隠匿という弱みまで握られる事になってしまったのだから、お遊びの訓練の成果としてはもう十分過ぎる戦果だ。


 私はこれらの現状を踏まえ、こちらの持っている情報とエンカンブレンサー達の得ているだろう情報の辻褄を合わせる為のストーリーを考え上げた。

 作り上げたストーリーはこうだ。


 森の異変調査に際し私とアリサは地竜が何かと戦った跡を発見し、大量の鱗や爪のかけら、そして提出した牙を拾得。

 私とアリサは拾得物を秘匿し、こっそり持ち帰り利を得ることを企む。

 騎士団に直接持ち帰るにはリスクが大きすぎることからアリサに物を預けていたのだが、アリサから後追いでこれらの情報を得たテオが裏切り森に物品を隠蔽してしまう。これは私がアリサを亡き者にして利を独占しようとするのを防ぐというテオの思いからの行動だ。


 私は騎士団の重軽傷者も多く、その混乱や地竜の素材の発見、さらに赤熊を討伐までできたことに浮かれてしまっていたからこそテオの裏切りを予期しきれず隠蔽に気づけなかった。

 この森を生業としているハンターに隠されてしまえば、いくら貴族の権力があろうとどうしようもなく渋々テオから高い金額の素材を購入することにした。


 もちろんテオもハンターギルドに届けて報酬を受け取ることは現状難しく、また私を裏切るという事でのリスクから、売買を継続。暴利をむさぼるつもりはなく。あくまでも公平に発見者同士で利を分け合うという前提での売買だ。


 万が一私が裏切った場合には、私が不正し横流しした物品について各所に報告されるように段取り済みで、私がテオを用済みと判断しても、安全を保障する人質を確保している状態。


 そしてフリーシアについては『赤熊のお方』に惚れたことを騒いでいたことは隠しようがない為、その『赤熊のお方』は、私がテオ達から秘密裏に素材の回収を目論んで頼んだ凄腕のハンターとしておくことにした。

 フリーシアはしつこく付きまとったことで私とテオ達の関係性を偶然突き止め、私が見目麗しいフリーシアを『赤熊のお方』の貢物にしようと目論んだところ、思いの外に有能だった為囲い込むことにした……


 という筋書だ。


 もちろん設定の全てをつまびらかにするつもりもなく、あくまでも裏の設定でしかない。

 ただ、いざという時にこういった共通認識を持っていないと、回答の食い違いからエンカンブレンサー達には気づかれてしまう。特に今ミレーネ様が金額の相談に行ったであろうソフィア様というお方は、そういった嘘を見抜く力はすさまじいものがある。


 私はフリーシアに真剣な目で伝える。


「多分この後、ソフィア様がやってくるだろう……フリーシアはこの設定をしっかり覚えておくんだ。でも何も喋らなくていい。

 いや違うな……正確に言おう。彼女の前では口を開くべきじゃあない。緊張で言葉を忘れたことにして首を振って答えるんだ。いいね?」


 フリーシアも私が真剣にしているのが珍しいのか、いつもの虚勢は鳴りを潜め口を開くことなくコクリと頷いて見せた。

 テオはそう無駄な事を喋ることは無いだろう。

 少しだけ彼女をハンターのままにしておくのはもったいないと感じなくもないが、そう思ってしまったことで、自分の根っこには貴族のアイデンティティが染みついているのを感じてしまい、少しだけ憂鬱になった。


 だけれど落ち込んでいるヒマなどない。

 すぐに気を取り直し、気合いを入れる。


 『来るなら来い。ソフィア・サルバドール・クレイトン! もう覚悟はできている!』



--*--*--



「というわけで用意する金額は大金貨30枚です。」

「そうですか。それだけの大金を頂けると言うのであればこちらが断る理由もございません。」


 金額交渉をしているテオの隣で、やり取りを眺めながら思う。


 『来んのかーい!』と。


 交渉のテーブルについているのは変わらずホックホクの顔をしたミレーネ様。

 おおかたソフィア様に物凄く褒められたのだろう。喜色が滲み出てきてしまっている。

 フリーシアに探ってもらったけれど、すでにソフィア様は街に向けて移動を始めていた。


 吐き出した息が、肩透かしを食らって出たため息なのか、それとも安堵の息を漏らしたのか自分自身でも混乱してしまう。


「ただ、大金貨なんて大金を頂いてしまうと管理が大変になりそうです……小金貨などで頂くことは難しいでしょうか?」

「そこはご安心くださいテオ。代金はマイラ様にお預けしますので。両替はマイラ様にお願いしてくださいな。」

「……え?」


 テオが疑問の声を漏らすのも当然だろう。

 商品を買ったのに代金は別人に支払うと言われたのだ、疑問に思って当然の事、ミレーネも意地が悪い。すぐにわざと省かれた点の補足説明の為に口を開く。


「つまりミレーネ様はこう言いたいんでしょうか。

 『私が今回得るはずだった利益分を取ってからテオに渡せ』と。」

「当たらずとも遠からず……とだけ御返答いたしますわ。」


「マイラ様がきちんと払ってくれる保証なんてないじゃない。」

「そこは安心して頂戴テオ。マイラ様は私達が絡んだ取引を履行しないほど愚かな方ではないですから。

 もし不満のある事態になった際は、いつでも私を訪ねていらっしゃいな。王都の騎士団で私の名をだせば必ず私に伝わりますから。」


「あぁテオ。ミレーネ様の言った通り安心していいよ。なんせ私など相手にならないほどの権力を持った方々がこの取引を知ってしまっているという事だからね。

 弱みを握られてしまったのにお咎めもなく見逃すと仰られてくださって、しかもお金もしっかり払ってくださるというのに、そのような方たちの約束すら守れないような事態になるなど考えただけでも恐ろしい。

 つまりはミレーネ様が言いたいのは『私が元々テオから買い取る予定だった金額に少し色を付けて渡してやれ』『きちんと利を与えてやれ』と言っているんだよ。

 もうこの際だ。禍根が残らないように利益は折版といこうじゃないか。折版でも大金貨15枚だぞ。あぁ、たかが平民風情にはなんとも過ぎた額だねぇまったく。」


 わざと言葉にトゲを残す。

 不本意だけれど従わざるを得ないという雰囲気を表現したのだ。


「あらマイラ様?

 そのお言葉は元より利益を均等に分けるつもりがなかったという言葉にも聞こえますが?」


 テオが言葉に冷たい視線を乗せて応える。

 私のポーズを察して乗っかってきたことは分かっていても、こういう視線は良い物だ。ゾクゾクする。


「どうぞご自由に解釈してくれて構わないよ。」

「まぁまぁ良いではないですか。私達という第三者が入ったことで誰も損をせずに全員が得をするという結果に繋がったのですから。それともお二人はこの提案に不服がおありですか?」


 ミレーネの仲裁にすかさずテオが口を開いた。


「マイラ様とミレーネ様が共謀して私を騙している可能性がある以上、物は渡せませんね。」

「あら、そう言われるとそうですね。

 でもその場合、こんな回りくどい事はしませんわ。単純に私の部隊にテオを監視させれば良いだけですもの。」


 暗に提案を拒めば全て無くす(・・・・・)と言っているのだ。もちろん命も含めて。

 テオは口を閉ざし、ミレーネは微笑みを崩さない。

 クロージングのタイミングが近い事を察し口を開く。


「私に不服なんてありませんとも。

 なにせミレーネ様はテオと直接やり取りでき、別の選択肢の行動もできるはずなのに、わざわざ元々の取引の形を維持する為に私を噛ませてくれているんですから。

 私にしてみればミレーネ様に知られたことで諦めていた利益を得られるだけでなく、私自身無駄な労力をかけずに大金を手にできる。上々の結果ですとも。有難うございます。」


 一度礼をした上で続ける。


「私の不正を見逃し、テオにも多大な利益を与えるという事は『今後この森で地竜の鱗を発見したら受け渡す相手は確定している』という意味で宜しかったですよね?」


 ミレーネは何も言わず、ただニッコリと微笑んだ。

 テオも2度『なるほど』と言わんばかりに頷き全員が共通認識を持ったことを確認し締めに向けて進める。


「では商品と代金の受け渡しはいかがいたします?」

「品物は2~3日で用意できるかと。」


 私の言葉にテオが続き、ミレーネが一つ頷く。


「では先に私が品を受け取り王都に運びましょう。金額はその後、マイラ様のお屋敷に届けさせていただきます。」


 こうして地竜の鱗の取引は終了し、小隊の訓練も終える事となった。



--*--*--



 森から街に向けて移動を進めるソフィア達一向。

 まとまって歩みを進めている白髪の女達の一番髪が長く肉付きの良いビクトリアが口を開いた。


「ミレーネに任せて宜しかったのですか? ソフィア様。」

「えぇ。私もまだ情報が足りないんだもの。

 マイラが地竜の鱗を大放出してまで隠したい物が一体何なのかという事がね。

 変に勘づいた状態で話して、もし間違えたら、あの子は二度と尻尾を出さないように対応してしまうでしょうからね。まだ会うべきじゃあないの。」


「では、情報を探るので?」

「そうね。この街で動いてくれそうな子たちもいるし。」


 ソフィアは、そういってすぐに前方を歩くハンターの娘たちの所へと向かって声をかける。


「そろそろ休憩にしない?」

「「「 はいっ! 」」」


 ビーナ、そして双子のハンターオルワとブルナが待ってましたとばかりに振り向き元気よく返事をした。


「あらあら、そんなにも続きが気になるのね。

 わかるわぁ……恋って生きる活力みたいなものですものね。」


「はやく」

「続きを」

「お願いしますっ!」


 双子が言葉を繋げ、ビーナが一際大きく嘆願する。


「はいはい。わかりました。

 えっと、どこまで話したかしら?」


「男ががっついてきて」

「のらりくらり躱し続けていたけれど」

「そろそろ夜を共にしてもいい頃合いになったところまでです!」


「あらあらうふふ。」


 ソフィアは色恋話と、そして『マル秘、男はこうやって落とす! 一撃必殺テクニック短編集その1』という自らが記した秘伝書を引き換えに恋に悩む乙女を味方につけたのだった。


「「若いっていいわねぇ……」」


 ロレーナとビクトリアが目を細め、その光景を後ろから生暖かく見つめていると短編集を手に取りキャイキャイとし始めたビーナ達を置いてソフィアが戻ってきた。


「若いっていいわねぇ。」


 戻って開口一番同じことを呟いてから二人の間に座りなおすソフィア。

 白髪のトリオでキャピキャピとしているハンターの乙女たちをほっこりとした眼差しで愛でている。

 ふいにソフィアが微笑んだまま口を開く。


「王都に戻ったらちょっと動いてもらっていい?」

「もちろんです。」


 ビクトリアが答えロレーナが頷く。


「じゃあ、隣国ハイラント国にトレンティーノ家が領地拡大を目論んで侵攻準備にかかっていると噂を流して。」

「どの程度で?」


 すぐにロレーナが確認する。


「ん~……ハイラントの犬っころが怒ってちょっかい出してくるくらい? 局地的ないさかい……領地間の紛争止まり。国家間の戦争にまでは繋がらなくてもいい感じかな? 根回しは任せるわ。」

「諍いの起こる時期は?」


 ビクトリアも確認する。


「この冬は無理だから春……かな? 春になったらマイラには隠している人たちと一緒に私達の前に出てきてもらいましょう。」

「かしこまりました。」

「それにしても……」


「「「 若いっていいわねぇ。 」」」


 白髪の女たちは短編集を見て顔を赤くしているビーナを見てほっこり微笑むのだった。


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