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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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63 魔女たち

 夜の帳が降り、人々が一日働いた鬱憤を晴らさんとばかりに飲み食いを始め、それぞれの店の厨房にも熱が入り始めた頃、貴族街区の手前にある『ふるき銀流亭』と格付けで肩を並べる宿『香る銀輪亭』の一室に12人の同じフード付きのローブを纏った女と銀髪の女3人の合計15人が集まっていた。


 女達は3つのテーブルに別れ、その内の一つのテーブルには銀髪の女が3人と、ミレーネ、そしてフリーシアを確認した後に街に出ていった内の一人の女の姿。

 銀髪の一番身体が小さな女とミレーネ、そして街に出た女の前にはパスタ料理が、セミロングの銀髪の女と一方のテーブルの5人にはパンと手間がかかっている事がよくわかる野菜と肉の煮込み。最も髪が長く肉付きの良い銀髪の女ともう一方のテーブルの5人の前には香草と共にローストした肉料理が並び、それぞれが料理を楽しんでいる。


 女達が集まっているだけあり、目の前の料理や街で見た物、買った物や出会った人などの会話が飛び交い、とても賑やかな食卓の雰囲気。だけれど銀髪の女達の居るテーブルだけは言葉が無く、もくもくと料理を口へと運んでいる。

その様子は、各テーブルから聞こえてくる会話に耳を傾けているようにも見えた。


 やがて銀髪の一番身体が小さくボブカットの女が、ちろりとテーブルを見回し、口の中の物を飲みこんでから、ゆっくりと言葉を放つ。

 

「だいたい皆の集めた情報も分かってきましたし、そろそろ報告を聞きましょうか。ミレーネ?」

「はい。かしこまりました。」


 食事の手を止め、ミレーネがニッコリと微笑むと合図もないのに賑やかだった両側のテーブルがゆっくりと静かになってゆく。

 完全に水を打ったように静かになり、ミレーネは懐から地竜の鱗を取り出してテーブルに置いた。


「ご指示の通り、マイラ・ナバロ・トレンティーノの件はつつがなく処理を終え物品を受け取って参りました。

 予定通り解散し、少数でマイラ・ナバロ・トレンティーノが実のところ何を守ろうとしているのかを探りました。彼女が『ソレだ』と言ったフリーシアという少女については、能力の将来性を加味すれば、そう言っても良いと頷ける及第点と言える能力でしたわ。」


「具体的な能力は?」

「風を操る魔法を得意としていました。が、注目すべきは箱の中身すら探る事ができる程に優れていた察知の能力でしょうか。

 これから能力を磨き鍛えれば、隠れている者を見つけだす程度はもちろんの事、その者が服の下に何を隠しているのかすらも見通せる程になるかもしれません。

 見た目15歳程にも見えましたが聞けば13歳という若さですから、どの程度成長するか、その伸びしろや将来に期待し守ろうとするだけの価値は納得できるかと。」


「確かに人材としては地竜の鱗を出しても惜しくないわね。」

「はい。それにフリーシアは、とても可愛いんですの。」


 両の手の平を合わせて首を傾げ、フリーシアの可愛さに悶えるようなジェスチャーをしてみせるミレーネ。その表情のまま続ける。


「フリーシアはとても素直な子のようで、あっさり引いてみせると、それはもうどこか肩すかしをくらったような反応をしてましたわ。

 私も貴族を相手にしている意識は極力させないよう話を進めましたが、どうにも必要以上に気を緩めないよう注意しているようでした。その割には彼女の事を聞けば無警戒に答えるようでもありましたから、なんとなく自身の勧誘よりも他に気にすべき点があるのだろうなと感じましたわ。

 それが何かまでは掴めませんでしたが……申し訳ございません。」


「ふうん。面白いね。

 マイラ・ナバロ・トレンティーノの動きは?」


「彼女は7割ほどで今の状況を怪しんでいると思いますわ。もちろん旧友の私だからわかるレベルでですが。

 私が想像するところですと、きっとフリーシアの能力を使って今集まっている事も把握し、人数の違いに誰が増えているのかを探っている頃……でしょうか。

 そして私がこの『地竜の鱗』を出した事で、この鱗が誰の手に渡るのか気を揉んでいるという具合かと。」


 ミレーネの言葉に一番銀髪の長い肉付きの良い女が口を開く。


「あら、その娘も面白いわねぇ。

 用心深く慎重。仮面を被る事もそれなりに得意ときたら……貴方が好きそうな娘じゃない。」


 そう言葉を放ち、ちょうど真ん中に座っている銀髪のセミロングの女に目線を向けた。


「ふふ。そうね。エンカンブレンサー(こっち)に勧誘した事もあるわよ? フラれたけれどね。」


 セミロングの女の言葉に驚いた顔をする一番銀髪の長い女。


「あらまぁ、貴女の誘いを断るなんて勇気もあるのね。」

「ナイトを目指す理由も丁寧に話してくれたし……自分の意思に反する事を無理強いさせても良い結果にはならないでしょう?」

「それはそうね。」

「それに、そこでナイトとなったからこそ、今、こういう面白そうな事にもなっているんだから。」


 言葉を放った後、セミロングの女が上に向けた右手の人差し指を二回動かす。

 それを見た、銀髪の一番身体が小さくボブカットの女が席を立ち、ミレーネの前に置かれていた地竜の鱗を手に取って運び、そしてセミロングの女に渡した。


 銀髪のセミロングの女は地竜の鱗を受けとり、光を反射させ輝きを楽しむようにゆっくりと確認し、一息ほうっと溜め息を吐きだす。


「なんて綺麗な鱗……劣化も見られず、汚れも無く、ここまで綺麗な状態の物は初めて見たわ。うふふふふ。これだけの質の物がうふふふふふふ。」


 笑い始めたセミロングの女に、ボブカットの女が呆れた様子を隠すことなく声をかける。


「ソフィア様。研究は後にしてくださいね。なんなら私が持ってましょうか?」


 その言葉にババっと動き、地竜の鱗を抱きしめるソフィア。


「嫌よ! こんな面白そうな素材ロレーナには渡しませんっ!」

「あたしは別に取りませんよ……」 


 必死の抵抗の様相に、さらに呆れた様子で溜息を吐きだすボブカットの女。ロレーナ。

 その様子を確認し、ソフィアは再度うっとりと地竜の鱗に光をあててじっくりと眺め、そして大切そうに懐にしまい、口を開く。


「さて……ミレーネの予想通りであれば、これで私が来ている事を理解したマイラはどう動くかしらね?

 う~ん……彼女が動きやすいように状況を整えてあげなきゃいけないし、一旦状況をまとめましょうか。ビクトリア? 貴方がまとめて。」


 ビクトリアと呼ばれた一番髪が長く肉付きの良い銀髪の女が目を閉じて一つ頷き、そして口を開く。


「はい。それでは皆の情報を基にした状況の整理を行っていきましょう。

 まず事の始まりはマイラ・ナバロ・トレンティーノより専用連絡があり、その内容は『貴族に狙われる娘の保護の助力嘆願。対価として地竜の鱗を進呈』というものでした。

 その対価と内容に不可解な点が多い為、少数での調査に乗り出すことを決定。

 先行してソフィア様とロレーナ、私がカーディアに入り、私は領主の管理する資料の調査を行いました。

 資料を精査したところ大森林の奥で『燃えさかる大蛇』が発見された事に対してマイラが小隊長を務める騎士団が地元ハンター達と行動し調査に乗り出した事を確認。

 そしてその『燃えさかる大蛇』については地竜が原因の火災と考えられる旨の報告がマイラの署名入りで報告されていました。

 尚、地竜が起こしたと推測した根拠は近辺に落ちていた鱗と牙だそうで現物が提出され保管されています。

 さらにこの時彼女達は赤熊と遭遇し仕留めており、その際に数名が負傷しております。その為、その事実を確認したのはマイラと案内を行ったハンターのアリサのみのようです。」


「牙……」

「ソフィア様。」


 ポツリと呟いたソフィアに、戒めるような声を送るロレーナ。


「分かってます。続けて。」

「はい。この情報の裏を取る事はロレーナに担当してもらい、ハンターギルドに向かってもらいました。

 ロレーナから報告を聞きますか?」


「そうね。皆も居るからお願いロレーナ。」


「かしこまりました。

 私はハンターギルドに向かい記録を確認しました。

 騎士団の調査要請を受けた者は3名。ハンター内で『世話焼き』という二つ名持ちのテオと『剣客』と呼ばれているアリサ。そしてメリナという娘です。

 テオとアリサという娘は現在、大森林に入っているようで帰りは少なくとも後4~6日はかかるだろうという未定の状態です。

 メリナという娘は水魔法を得意としている為、その他の仕事に忙しそうでしたので、まだ接触はしておりません。

 飲用の水魔法要員のメリナを除くと、索敵と案内で評判の良いのはテオとアリサの2名と考えられます。一緒に暮らしている姉妹との事。」


「ハンターなのに剣を使うっていうのが魅力的よね。」


 ソフィアの言葉を無視して続けるロレーナ。


「引き続きハンターギルドで情報収集に当たりましたが、少し引っかかる点がありました。

 現在ハンターギルドでは大森林の奥まで行かない所でマンモレクというモンスターが発見された事からハンター達に充分警戒するよう指導が入っています。

 そして多くの大森林に入るハンターは虫除けの準備に追われており、虫除けの不足が深刻になっています。中には状況が落ち着くまで様子見で森に入るのを控えるハンターもいる程です。

 また奥地には地竜による火災など未知の報せもあり、現在の大森林はある種、得体の知れない魔物のような状況になっていると言えます。」


 ソフィアはクスクスと笑い口を開く。


「マイラと一緒に調査から帰ってきた彼女達は、そんな危険な森の中へ入っている……しかも私達が来るのを見計らったようなタイミングで。

 これは偶然なのかしらね? ビクトリア。」

「偶然と考えるのは無理がありますわね。

 もし関係が無かったとしても、なぜこの時期にそんな危険な森に入るのか興味もわきます。」


 ロレーナがまたも白けたような顔をする。


「ソフィア様……マイラが大森林に地竜の鱗をいっぱい隠してくれてたら嬉しいって本音が隠せてませんよ。」

「だって私だったら地竜の鱗が沢山あったら隠すもの。絶対に。」


 そう言って、ただニッコリと微笑むソフィア。

 少し微笑みを崩して言葉を続ける。


「だからこそ分からないのは、テオとアリサというハンターが未だこの街に住んでいるという事。

 そしてマイラはフリーシアという娘の為に私に連絡を行った事なのよね……鱗が目的であれば、そんな事をするはずも無い……ミレーネ。フリーシアについてはどう?」


「はい。私の小隊はフリーシアの顔を確認してから当人の情報を集めました。

 ひとつはっきりと分かった事は、彼女が恋をしているという事でしょうか。」


「「「 あらあらまぁ。 」」」


 銀髪の髪をした女達が皆、ほっこりした顔でゆっくりと頷いた。


「一時噂になっていたようで、すぐに同じような情報が手に入りました。

 彼女は赤熊の毛皮を纏ったお方を一目見て惚れ、そして後先考えない程の勢いで勤めていたお屋敷を辞め、そのお方を探す為に奔走したと。」


 ロレーナが口を開く。


「そしてその奔走の為に、お屋敷の主から追われる事になり、今、マイラの所で落ち着いている……マイラも赤熊を仕留めたようですが、ハンターギルドで仕入れた情報から、フリーシアの想い人がマイラではない事は確認済みです。」


「そうね……フリーシアが奔走を止めた理由として思い当たるのは? ビクトリア。」

「それは想い人が手の届く所にいるから、そこに向けてだけ動いているからでしょう。」


 うっとりとどこか色香を感じさせる微笑を浮かべるビクトリア。


「そうね。そしてその為にはマイラの近くが良い。そしてマイラもまた彼女に利用価値を見出している……と。

 全ての怪しい情報がマイラと繋がっているのよね。」


 ソフィアの言葉にミレーネが手を上げる。


「マイラ・ナバロ・トレンティーノに監視をつけますか?」

「フリーシアの能力でバレるんでしょう?」

「えぇ。ですので。」


 微笑むミレーネに、微笑を返すソフィア。


「それは良いわね。

 では、大森林にはマンモレクを水の竜巻で吸い上げ、そして燃やしてしまうという驚異の魔法を使う銀髪の魔女がいるそうですから。その調査をお願いね。」


 ソフィアはニコリと微笑んで、そう告げた。

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