57 外泊を終えて
前話にテオの説得描写を追記修正しました。
分かり難くて申し訳ないです。
良かったら追記部分をご確認ください。
テオがマコトから崇拝を集めつつも一日魔力操作の訓練に費やし、沢山話した事でマコトは大分打ち解ける事が出来た。
ただ前日徹夜していた事もあり、夜はぐっすりと眠りにつく。よく眠るマコトをアリサとテオが下半身に興味津々のフリーシアからガッチリとガードして夜が明けた。
当初の予定通りに街に戻る運びとなり、マコトは貯蔵している肉を取りに森へと消え、テオ達はそれを見送る。
そして女達は街の『魚鱗亭』へと足を向けるのだった。
--*--*--
「――と、まぁ、こちらの方は金で解決できたらよかったんだけど予定通りとはいかなかったよ。」
マイラの報告に耳を傾ける3人の姿。
テオとフリーシアは渋い顔をしているけれど、アリサは呆れた様な顔をしている。
アリサが呆れるのも分からなくはない。
ヴィニス・アークラム・ハギンスが、大金よりもフリーシアと寝る事を選んだことが理解できなかったからだ。
アリサ自身もマコトから地竜の鱗を変色した物と変色していない物の2枚もポンと貰った事で金銭感覚が狂いそうに思えていたけれど、それ以上に貴族の金銭感覚が狂っているように思えたのだ。
「それはちょっと面倒な事になりそうね……」
「あぁ大いに面倒だよ。正直なところ。」
「まったく旦那様も、もう私の気持ちはマコト様にあるというのに無粋な。」
「まぁ目的が体だものね。楽しめればいいんだろうから気持ちはどうでもいいんじゃないかな。」
テオの言葉とフリーシアの言葉に、少しどうでもよさげに相槌を打つマイラ。
その言い方から少しの疲れが見てとれる
「他の解決方法はありそう?」
「あると言えばある。だけれど、フリーシア次第というところだよ。」
マイラの言葉にフリーシアが強い視線を返した。
「私の身体はマコト様の物です! あんな男に触れさせません!」
「声が大きいよ。フリーシア……わかってるってば、そういう意味じゃない。」
「他にどんな意味があるというのです!」
「それを説明する為にも、フリーシアが魔法に目覚めたかどうかが重要になってくるんだけど……どう? フリーシアは魔法が使えるようになりそう? 手応えは悪くなかったんでしょう?」
マイラの視線を受けたテオは片方の口角の端を上げる。
ソレを見たマイラも片眉を上げた。
「ふふ……『使えるようになるか』という問いは、少し不十分ね。ねぇフリーシア。」
「はい。」
テオの呼びかけに人差し指を立てて応えるフリーシア。
マイラが顔を少ししかめるのを見たフリーシアは指をマイラに向けて倒した。
「……おぅ。」
頬に風を感じたマイラが、その風をフリーシアが起こしたのだと悟るのに、そう時間は必要なかった。
誇らしげな顔をするフリーシアを見たマイラは首を振り少しだけ笑う。
「まいったな……ついこの間まで魔法の『ま』の字も知らなかったはずだろう? 一体どんな技を使ったんだいテオは?」
「マコト様のおかげです!」
すぐに胸を張って答えたフリーシアを放置するようにテオは口を開く。
「マコトくんのおかげよ。あと、フリーシアのマコトくんに対する執着の力と言ってもいいかもね。
……ねぇマイラ。友人としてアドバイスをするけれど、貴方も魔法の力を磨きたいのであれば、マコトくんに教えを請うといいわ。
騎士団の魔法は私達とは違うのだろうけれど、これまでに無かった第三の目を開いてくれる事は間違いないと確信してる。」
「本当にどこまでも予想外に素晴らしいね。彼は。
それと同時に絶対に知られてはいけないとも強く感じてしまって、もう溜め息が出そうだ。
……ちなみにその口ぶりだと、テオもアリサもなにか発見があったのかな?」
「えぇ、もちろんよ。まだ多分だけど、私は火の魔法だけじゃなくて風と水の魔法も使えるようになるわ。それも近い内にね。もう少しで感覚が掴めそうなのよ。」
マイラはテオの言葉を聞いて微動だにせずに、ただテオの顔を見る。
テオはじっと見られているのをしっかりと味わってから、にっこりとほほ笑んだ。
マイラは静かに頭を抱えた。
「誰か嘘だと言ってくれないかなぁ……」
「あらあらマイラったら、少し素が見えてるわよ? マイラらしくもない。うふふ。」
「あぁ、もう勘弁してほしい……あのねぇテオ。あなたはハンターでしょう? 複数の種類の使える魔法使いはこの世にいるけれど、そういう人は王都騎士団で教鞭を取ったり名のある地位についている人が多いのよ? あなた今、この国のパワーバランスが崩れるような事を言った自覚はある?」
「他にいるのは知らなかったけれど、やっぱりいるのね。
もちろん重要さには気づいているからこそ秘匿してるのよ。それにアリサ?」
テオの促す様な声に、マイラは厄介事はもう勘弁してほしいという目をアリサに向ける。
嫌気のこもった視線に、少したじろぎながらアリサは口を開いた。
「えっと……多分、私、自分自身に限定する形だけど、マイラにかけてもらった魔法が使えるようになったと思う。『堅牢』だっけ?」
マイラはとうとう顔を覆い隠した。
そして抗いようもないとてつもない物に蹂躙されているような気持ちになり、少しだけ気持ちよかった。
「アリサ……」
「……はい。」
詰問が始まりそうな口調のマイラに、アリサが敬語になる。
「騎士団の魔法って、どういう類の魔法かわかってる?」
「え? ……変わった魔法だな? とは思うけど……」
「ふ、ふふ……そうよね。ええ変わってます。変わってますとも。真似できないように変わってるんですとも。」
「え? ええ?」
「問題です。私達騎士団の仕事は何でしょうか? 簡潔に答えなさい!」
「え? えっと……民を……守る?」
「広義の意味では正解だけど、望む答えじゃないですね~。もう一度。」
「ええっ? ……えっと。」
「第1ヒント。騎士団の要職は貴族が務める事が多いです。そういった貴族が魔法を覚えます。身元が確かですね~。裏切り難いですね~。」
「……う、うん。」
「第2ヒント。騎士団が戦う相手はどういった相手が多いでしょうか? ハンターと騎士団は違うわよね~?」
「え……えっと……」
「はい。人ですねー。基本的にハンターは獣と戦うし、騎士団は人と戦いますね~。
続いて第3ヒント。人と人が戦うという事で思いつく事は何でしょうか?」
「…………戦争?」
「はい正解!」
勢いに乗せられて思わず作り笑いをするアリサ。
「というわけで、アリサさん。貴方は騎士団だけが使う秘匿されていた技術。
いわゆる軍事機密を知ってしまったわけです。おめでとうございます。」
自棄になったように拍手をするマイラに対して、目が点になるアリサ。
テオも困ったように頭を掻きながら口を開いた。
「やっぱりそういう系統の話になっちゃうのね……」
テオの言葉に盛大に机に突っ伏しながらマイラが続く。
「なりますよ~。なりますとも。ならいでか!
……でも、分かってるから安心してテオ。貴方が私を信用して話したって事は分かってるから。
万が一アリサの事が知られたら、騎士団に押さざる得ないけど、それまでは黙っとく。
ああああ……もう懸念材料だけが集まってきてどうしたらいいの……」
マイラはとうとうおでこを机にくっつけた。
テオは同情するように頬に手を当てる。
「ありがとうマイラ。
そういう時は、とりあえず一つ一つ目先の事から解決して行くしかないんじゃないかしら?
フリーシアが魔法を使えたら、良い材料になるんじゃないの?」
マイラは突っ伏したまま顔をあげ、顎を机にくっつけながら口を開く。
「なりますよ~……考えたのは、王都の権力を持つ貴族にお願いして手を引かせる事だったの。
でも、その貴族は騎士団の有力者なのよ……それも勘の良いね! フリーシアがその若さで魔法を使えるから将来を見込んで保護したって言える好材料もあるのに、それ以上に不安材料の方が嫌と言う程増えちゃったから悩みもするでしょう……」
「あらあら。
それじゃあ、その不安材料は全員まとめて落ち着くまで森に潜んでましょうか? マコトくんと仲良くなったこともあるし彼が居てくれたら森でも快適だって事は分かったし。」
「あ~……それなら安心かなぁ……もうできるだけ奥に……それこそ絶対に行けない程の所に潜んで欲しいなぁ……あ、フリーシアは私と一緒に残るんだよ?」
「そんな! テオ……あなた……私がいない隙にマコト様に手を出すつもりでしょうっ!?」
「あらあら……うふふ。」
「図星っ!? せめて否定しなさいよっ! 許さないからっ!」
気色の違う話になった事を感じとったマイラが机から顎を外す。
「おっ? どうやらそっち方面も進展があった? もうこの際全部聞いておきたいから教えて。」
「えぇ。いいわよ。それと私もマイラに聞きたかったの。
13歳、14歳、15歳くらいの子に男が手を出したら犯罪になる国に心当たりはある?」
「え? ……」
「え?」
マイラは沈黙して思考を巡らせる。
フリーシアは自分が絡むような事に声を止めて耳を傾ける。
その思考にヒントを注ぐようにテオは続けた。
「あと、そういう年だと結婚も認められないらしいわ。
親の許可があってもダメだから明確に禁止されているみたい。」
「えぇ……」
フリーシアがなんの話か想像がついたのか落胆の色を見せる。
マイラは完全に身体を起こし、顎に手を当てて考える。
「それは『鉄の掟』と呼ばれているそうよ。どう?
もう分かっていると思うけれど、思い当たる国があったら、そこがマコトくんの居た国になるわ。
マコトくんはそれを守っているからフリーシアに手を出していないの。」
「そんなぁ……」
フリーシアは力なく崩れた。
沈黙が訪れる。
しばらく考えを巡らせたマイラは首を横に振る。
「駄目だ……全然心当たりがない……というか思い当たる国のほとんどが早ければ13くらいに貴族間で婚姻の話がでたりするんだ……少なくとも私が知らない国の話だよ……『鉄の掟』というのも心当たりがない。」
「そう……」
テオは遠くを見るように背もたれを鳴らした。
「マコトくん……貴方は一体どこから来たの?」
--*--*--
「うふふふふふ。みんなと仲良くなれたし幸せでござるなぁ……
それにパンツも気に入ってもらえてるみたいだし、折角だから素材をいっぱい集めとくでござる。」
マコトはこれから作るパンツの事で頭がいっぱいだった。




