表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/100

56 救済

12話『地竜』に挿絵が入りました。



 小屋に入り、目頭を親指と人差し指で押さえながら黙りこむテオ。


「……テオ?」


 アリサの恐る恐る伺うような声が響く。


 これまで「いいから来い。」というような口調で命令された事は数える程しかなかったからだ。

 普段ぽやっとした優しい口調のテオが厳しい声を出すという事は、それだけのことをしたという事に他ならないからこそ機嫌を伺うような声になるのも仕方がない事だった。


 フリーシアもマコトの事となると平常心を失うけれども、元来鍛えられた観察眼の持ち主であり、人一倍空気を読む事には長けていたからこそ、大人しく従うべきであることは否応にも理解してしまっており口を噤み様子を伺っている。


「……フリーシア。」

「はいっ!」


 テオの声が小屋に響いた。

 冷たさすら感じさせる声色にフリーシアは背筋に冷えた鉄が押し付けられたように体を跳ねさせながら返事をした。


「貴方がマコトくんのどんな動きを感じ取ったのか私に説明しなさい。」

「え? あ、え?」

「時間が無いから早く。」

「あ、はい。」


 マコトのように意思を感じさせない追従の返事を放って以降、フリーシアはただ伝える為の機械のように自分の感じた事を話すのだった。

 そしてテオは目を閉じて聞き終え、その行為が示す事が何かの説明を始めた。



--*--*--



「うううぅうぐ…う…うふ…! ぐ……ううぅぅうぅうぅぐぅ! ぐ……う…ぅぐうぅぅぅ…ぅ」


 涙は悲しいから流れるのではない。

 自分の意思とは無関係に溢れてくるもの。



 ――心が痛かった。


 身体ではなく、ただ、ただ心が痛かった。

 そして心の痛みは体にも広がり動けない


「ふぅぅぅ…っふぅふ………ぅ!う……うぅぅう!」


 大地に膝も手もつき、五体投地のような体勢。

 ただ手だけは零れる涙で濡れた布が地面につかぬよう、涙が零れぬように押しとどめんと目元にある。


 終わりだ。


 もう終わりなのだ。


 カッコよくあろうと努力した。

 あわよくばハーレムチャンスまでとは行かなくとも、おっぱいを揉めるくらいには好かれようと努力した。


 だが、それは全て崩れ去ったのだ。


 『蟻の穴から堤も崩れる』という諺もあるように、大丈夫だと過信し迂闊な行動をとったせいで全てを不意にしてしまった。

 ロリータの感知能力が凄かったのは誤算。だが、そもそもここは異世界であり魔法のある世界。そういったことも忘れて一時のスリルと快楽に身を任せた己の愚かさを呪う。


 崩れ去った後に残ったのは、ただ一つ。


 恥。


 生き恥をさらすのみだった。

 進んだ時計の針を戻す術は無い。



--*--*--



 アリサは顔を一瞬だけ覆い、そしてその手を閉じて鼻だけを隠して目を羞恥から解放した。


「やだもう……なんで我慢しないのよ…最低。」

「アリサ。男の人はそういうものなのよ。

 貴方だって男達と移動してて日に日に私達を見る目が怪しくなっていくのはよく分かっているでしょう?」

「それはそうだけど……」


 アリサはまた目を隠した。

 一人指を噛んでいたフリーシアが口を開く。


「マコト様ったら……それほどなら私がいつでも喜んでお相手したのに。」

「ほんとにね。私もなんだか怪しい感じがしてたから、ちょっと誘ったりもしたんだけど乗ってこなかったし……」

「……まさか、お風呂に誘ったのは、からかっていただけじゃないんですか!?」

「さぁ? 半々ってところかしらね? 本当に限界だったら乗ってくるかな? と思ったし、乗ってきたらフリーシアも嬉しかったでしょう?」


「アナタも筋肉も一緒じゃないですか!」

「ふふっ。」

「もう止めてよ! 私を巻き込まないで!」


 アリサが羞恥に悶えるように声を放つと、テオは厳しい視線をアリサに向けた。


「……あのね。アリサ。貴方何を言っているか分かっているの?

 貴方は自分から誘っていたじゃない。食事した時に。忘れたの?」

「誘ってなんて……」


「私はきちんと覚えているわよ。

 銀流亭でマコト君に、女が好きなんだろって確認して、自分の顔が好みか聞いて、あまつさえ『命を救ってやった礼に相手をしろって言え』とまで言ったのよ?」


 静寂が訪れる。


「それに触ってもいいと言いながらキスもしたわね。」


 フリーシアが思い出したように少し恨みがましい視線をアリサへと向ける。


「それは……」


 アリサが口を開きそうになった瞬間にテオが口を開く。


「アリサ。貴方マコトくんの立場に立って考えたことはある?

 自分を誘った女が3人も裸で側にいたのよ? そして私は直前に『入ってきていい』とまで直接的に誘ったわ。

 なのに、彼は我慢したのよ? 彼を迎えにいった時から、ずっとムラムラしていた感じがしていたけど、それを抑え込んでみせたの。」

「……」


「ハンターの男達を見なさい。彼らは街に戻ってすぐに情館へむかうでしょう?

 マコト君にしたら私の誘いなんて情館に誘われたようなものでしょう? なのに彼は我慢したのよ。

 それを貴方ったら、なにも考えもせずに『最低』とまでいうんだから……いくらなんでもマコトくんが可哀想だわ……」


 テオはそう言って首を振った。

 そしてすぐに止めて二人に向き直る。


「……いい? 彼は今、辱しめにあったも同然の状態よ。

 ハッキリ言うけど、彼はこのままだと辱しめに耐えかねて逃げ出しかねない状況だと理解しなさい。私達だと彼が逃げ出したら二度と捕まえる事は出来ない。

 私はまだ彼を逃がすつもりはないからね。」


 テオは強い視線を見せるのだった。



--*--*--」




「もう……」


 逃げよう。


 食料が心細かろうが、これ以上の羞恥を味わいでもしたら、もう生きていけない。

 アリサやフリーシアが、この場に戻ってきてどんな反応を見せるかも分からない。

 いや、どう反応しようが年頃の女子であることから良い反応はしないだろう。

 そんな反応は絶対に見たくない。


 そう思い、身体を起こそうと手で地面を押そうと動かした瞬間、自分の肩に手が触れた。


 ゾクリと肌が粟立つ。

 肩に触れているのが明らかに女の手。


 だが怖くてその手の持ち主を確認する事は出来ない。

 1人がいるという事は、ここに3人いる可能性があるのだ。


 顔を上げれば否が応にも見たくない顔が目に入ってしまう。


 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ




 嫌われたくない――



「うぅっ……」



 止まっていた涙が、また零れはじめていた。



 やはり好きだった。

 アリサに唇を奪われて、フリーシアにも唇を奪われて慕われて、テオと沢山話ができて……皆が好きだった。


 それが終わりになるのが、ただ怖かった。

 誰かといる楽しさを知ってしまった今、一人は寂し過ぎる。


「貴方……」


 肩に乗せられた手の持ち主から発せられた声。

 その声はアリサの物だった。


 優しく触れてきた事からテオだと思っていたのに、よりにもよって一番こういった事を軽蔑してきそうなアリサ。

 軽蔑され、見下され、侮辱的な反応を見せそうなアリサが、肩に手を置き声を発している事実に恐怖心は一層強くなり、またも涙が止まる。


 もし『最低』とでも言われてしまえば、もうこの場から全力で逃げ出す事しかできそうにない。


「意外と紳士だったのね。」



 ………



 ……



 …



「えっ?」


 思わず塞ぎ込んでいた顔も上げてアリサを見てしまう。

 若干目を逸らし恥ずかしそうな顔をしながらも負の印象は少ないように見え、聞こえた言葉が幻聴ではなく事実として、そう言ったのだろうことが伺い知れた。


「テオから聞いたのよ。

 その…………私達の負担にならないように……その……自分で処理してくれたんでしょう?」


「えっ?」


 意味が分からなかった。

 ただ欲望に任せて浴室で手慰みに励んだだけなのに、どこがどうして負担にならない云々の話になるんだろう。


「も、もう! 私こういう話は苦手だからあまり喋らせないでよ!」

「あ……」


 ぷいっと、顔を逸らし明後日の方向に向いて会話がシャットダウンされてしまう。


「マコト様ぁっ!」

「うごっ」


 首にダイレクト抱き着きアタックが炸裂した。

 勢いに押されて仰向けになってしまうが首から手は離れない。


「フリーシアの無知を叱ってください! 本当に申し訳ありませんでしたっ!

 マコト様がお涙される程に傷つけてしまうなんて、フリーシアは耐えられません! あぁ、マコト様ぁ! どうかフリーシアに罰を!」

「うえぇっ!?」


 首に抱き着き、顔に頬ずりしてくるように激しく密着してくるフリーシア。

 すでに恰好は押し倒されているような状態にも思える。


「是非罰を! フリーシアは悪い女です! ですのでマコト様が私にお気を使う必要は無いのです! どうぞ是非、欲が溜まった際にフリーシアをお使いください! 未熟で経験もございませんが、ご満足いただけるよう精一杯お相手を勤めさせて頂きます! なんなら今から――ぐぇ」


 服を脱ごうと手をかけたフリーシアが襟首を引っ張られて離れていく。

 その引っ張った手の持ち主はテオだった。


「まったくもう……ごめんなさいね。マコトくん。

 ちゃんと二人には、マコトくんが私達の事を大切にしてくれたんだって事を話しておいたから。」

「大切……に?」

「だってそうでしょう?」


 申し訳なさそうに微笑むテオ。


「だって、あなたがその気になれば私達を好き放題にだってできたのよ?

 でもそうはしなかったじゃない。」


 ……テオは二人にきちんと説明した上で、行為したことを良い風にいてくれたのだ。

 どうやって説いたのかは分からないけれど、アリサに至っては嫌われるどころか若干好感度が上がった感すらあった。


 あまりの変化に、テオに後光がさして見えた気さえした。

 いや、朝日を背景に後光が差している。


 実際の神も目にしたけれど、それよりもずっと女神のように神々しく思え、気が付けば手を合わせて合掌していた。


 心にかかっていた暗雲は、テオという女神によって振り払われたのだった。



 まだ、ここに居てもいいんだ――



「はい。この件はお終いよ。ね?

 それで考えたんだけど今日は予定を変更して、折角だし昨日の夜の続きをしてみようと思ってるの。

 マコトくんは夜の番までしてもらったのに負担をかけちゃうけれど……いいかな?

 その方がマコトくんと沢山話せるし、私達はもっと話をして打ち解けるべきだと思ったから。」


「……はい。」


 合掌したまま頷いた。



--*--*--



 女神の隣で朝食の準備を手伝い。甲斐甲斐しく働く。


 今この場があるのは、この女神のおかげ。

 広い心をもった胸の大きな女神のおかげなのだ。


 ……


 広い心をもった器の大きな女神のおかげなのだ。


「ど、どうしたのマコトくん!? 急に自分の頬を叩いたりして。」

「いえ、邪念が沸いたので。すみません。」


 戸惑ったように笑うテオ。


「そ、そう? でも、アレよ? あまり自分に厳しくしないでね?」

「え?」

 

「だってマコトくんって、結構『こうでなきゃいけない!』とかって思いつめちゃいそうだし。

 なんとなく肩に力が入っているような気がするのよ。」

「そう……でしょうか?」


「私が見ててそう思うくらいにはそうね。」

「はぁ……」


 思い当たる節は多々あり、顔が自然に下がる。


「別に責めてるわけじゃないのよ? 勘違いしないでね?

 マコトくんは力があるのに驕らないし謙虚だから、物凄くできた人だと思う……私が見習わなくちゃいけないと真剣に思うくらい。」

「いや、そんなことは……」


 謙遜しながらも褒められると、つい照れる。


「ふふっ、本当なのよ?

 私がマコトくん程の力を持っていたら、もっと横柄に生きている自信があるもの。『俺様を崇めよ、奉りたまえー』ってね。」


 男を真似たような低い声を出して偉そうな素振りをしたテオに思わず鼻を鳴らす。

 笑ったのを見て微笑むテオ。


「……本当はね、マコト君自身が他の人と比べて、まだどれだけ優れているかを理解できていないから、そう振る舞っているというのは分かっているの。」


 核心をつく言葉に少しドキリとする。


「だってマコトくん。興味のある事について話す時の話し方とそれ以外が全然違うでしょう?

 あの時の方が素のマコトくんなのよね? で、今は仮の仮面を被ってる。」


「えっ? えぇっ? 今も素のつもりなんですが……」


「そう? ふふっ、もちろん私は、そうあるべく振る舞ってくれているマコトくんも理知的で好きよ?

 でも普段から、もう少し肩の力を抜いて思ったまま話してくれる方が、もっと好きになれると思うわ。

 だから遠慮しなくていいのよ?」


 『好き』という単語が出てきた事に、すごくドキンとした。

 衝撃でいえば、除夜の鐘を鳴らす突き棒で盛大に突かれたような衝撃を受けていた。


 フリーシアに愛を語られたりもするけれど、彼女の場合はこの呪われた顔の呪いを受けた様なもの。

 だけれどテオは違う。顔は関係なく話をして好意をもってくれた。


 きちんと自分自身が好かれたように感じた嬉しさは隠しようが無く溢れだし『自分もテオの事が好きです』と、言葉が口から漏れそうになる。


 だけれど顔をぐっと寄せてきたテオの行動に驚き、言葉が止まる。

 テオの顔が近づいて止まった。


「私も遠慮しないで聞く事にするんだけど、マコトくん……なんでフリーシアを抱かなかったの?」

「へっ!?」


 小声で囁くように問うてきたテオ。

 顔は真剣で、真面目に聞いてきている。戸惑っているとテオはそのまま続けた。


「だって、あの子はマコトくんに抱かれたがっているでしょう? なのにマコトくんはその気はなかった……でもその割に、そういった興味はあるみたいだから、ちょっと気になっちゃって。ごめんね。」


 思いもよらぬ問いに焦りながら口を開く。


「い、いや、だってフリーシアは、まだ幼いじゃないですか!」

「そう? 今年14で来年には15になるわよ? お風呂に入った時に見たけど身体は随分と大人びているようにも見えたわよ?」


 あっけらかんとしたテオに焦りは更に増す。


「いやいやいや、14歳になるって事は今は13歳って事でしょう!? もろ犯罪ですやんか! 犯罪はアカンて!」

「犯罪? ……いえいえ、犯罪にはならないでしょう?」


「のののの! NOタッチ対象ですって! ほらそんな年だと結婚も出来ないし完全に保護対象ですってば!」

「結婚? ……結婚は親が認めれば良いでしょう?」


「いやいやいやいや! とにかく鉄の掟は守らなきゃダメですって!」

「……そう。」


「ロリータは遠くで愛でて楽しむ物であってタッチしてはならないのです!」

「ふぅん……」


 テオは返答を聞き、難しい顔をした。

 そしてしばらく考えるような素振りをしてから口を開く。


「でも、マコトくん。正直なところちょっとは触りたかったんじゃない? この国では手を出しても大丈夫なのよ?」

「いやいやいやいやっ! 滅相もない! ロリコンに寛容な国だろうと関係ないですって!」


「正直に言っちゃいなさいよ~う。」


 肘でグリグリとされる。

 これまでにない、ちょっとしたスキンシップに心がウキウキとし始める。


「ちょ、や、や~め~ろ~よ~。」

「ほれほれ~、正直に言いなさ~い?」


 止まらないグリグリスキンシップに顔が自然と崩れにやけてしまう。


「や、やだよ~。べ、別に、ロリコンじゃないしぃ~。」

「んん~? その割にはフリーシアに抱き着かれると嬉しそうな気がするんだけどなぁ~?」

「そ、そりゃあ、まぁ? ……男だからぁ?」


「あ~! やっぱり嬉しいんじゃないの~。

 フリーシアー! マコトくんはフリーシアに抱き着かれると嬉しいんですって~!」

「ちょっ!」


「マコトさまぁぁぁあっ!」


 ロケットが飛んできた。


 フリーシアにもみくちゃにされながら、かなり薄い抵抗をする姿を、何かを考えるような視線で眺めるテオの姿があるのだった。





 そしてアリサは、一人、いまだ赤い顔をしているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ