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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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55/100

55 代償

 一人の賢者がいた。


「ほんと土魔法って便利よねぇ……マコトくんの見解だと、私も使える可能性はあるのよね?」

「あると思います。ただ土魔法は火、水、風と比べると特殊な点も多いので、まず風、水の操作をできるようになる方がよいかと。」


「その根拠は?」

「テオの得意とする火は熱を持っています。熱い。

 熱くなった物は空気だろうが水だろうが上へと昇る性質がありますし、空気が昇ればそれは風を生み出します。

 魔力の影響で発生した風であれば、風に影響を与える魔素にも何か変化が起きるかもしれませんし変化を観測できるかもしれない。観測さえできれば、その特徴を捉えることで『風の魔素』を把握し、使えるようになるかもしれないと思ったのです。」


「……なるほど……変化を認識できれば、変化させる方法も分かるかもしれないって事ね。自分で変化を起こす事ができるから確認もし易い……では水は?」

「水についても同じ事。冬場温かい部屋と冷たい外の気温差で結露した事はありませんか?

 あれは温かい空気の中の水の元である水蒸気が急に冷やされる事により水が発生したのですから、熱が水を生んだと言えます。

 魔力を元にして水を生み出す過程を再現する事で、同様に水の魔素の変化を捉える事が出来るのではないかと思ったのです。」


「……なんだか水は少し難しそうね……まずは風の方が練習しやすそう。」

「えぇ。確証はありませんので断言はできかねますが上昇気流を作り出す訓練を通して発見があるかもしれません。

 とにかく火で風を起こすと言う実験をしながら、自分の動かしていない魔力の動きを検知してみるといいのではないかと。そしてそれに影響を与えるよう工夫する……」


 テオはすぐに視線を地面に向けて火魔法の特訓を始めた。

 マコトは胡坐をかき背筋を伸ばした状態で目を閉じている。

 すぐに逆隣に座っていたフリーシアが口を開く。


「マコト様。私はテオ様の見立てでは風に魔力の適正があるそうですが、風を魔力で操れる事が出来たとしたらどういった事が出来るようになるのでしょうか?」

「風の利用法は多いです。揚力を得る工夫をすれば空も飛べますし、竜巻を作り出せばとんでも無い破壊力を生み出す事も出来ます。

 また竜巻を作れる程であれば、天候に影響を与える事が出来たりするかもしれません。」


「わぁ! そんな事までできるのですね! スゴイですマコト様!」

「使えればという仮定での話ですが。」


「では……なにか風を使うコツなどはあったりするのでしょうか?」

「『風』と捉えるのではなく周りにある空気を水のような物と思う事でしょうか。その空気が水のように動き風になる……と。」


「空気を……水? ですか?」

「はい。高い所から低いところに流れ落ちる水。それと空気が同じような物だとイメージしたら良いのではないでしょうか。

 そして魔力で通り道を作ったり押しだしたりする。」


「分かりました! マコト様がそう仰るのであれば間違いがあろうはずがありません。空気は水です!」

「空気が水なのではなくて、水のような『物』だと思ってください。」


「分かりました! 空気は水のような物です!」


 フンス! と鼻息を荒く両手を握るフリーシア。

 訓練を始めそうな雰囲気になったが、ふと思いついたように表情が変わる。


「マコト様……空気は水のような物という言葉で気になったのですが、先程のテオ様とのお話にあったように、私の風からも他の魔法を操れるようになったりするのでしょうか?」

「経過を見てから判断した方が良いと思いますが方法はあると思います。

 ただその為には風に充分慣れている必要がありますから、まずはそちらに慣れることから進めてみてはいかがでしょうか。」


「分かりました! フリーシアは魔法を使えるようになってマコト様のお役に立てるようになってみせますっ!」

「自分の為に頑張ってください。」

「はいっ!」


 すぐに集中し始めるフリーシア。

 もちろんマコトの発した『自分』はフリーシアを指していたが、フリーシアの理解した『自分』がマコトを指しているのは当然の事。

 本人公認の『マコトの為』という約束に凄まじい集中力を発揮し始めるのだった。


 それを見ていたアリサが口を開く。


「ねぇ……貴方の言っていた体内の魔力の使い方なんだけど、まだどうにも掴めないの。何かコツは無いかしら?」

「こればかりは体験して得るしかないかと思われます。

 ……ですが自分のイメージで良ければ、筋肉よりもその中心の骨の方に近い方に強い魔力があるようなイメージでしょうか。」


「そう……中心ね……わかった。

 あと、ずっと聞きたかったんだけど、前に森に入った時……ほら、テオと沢山話をしていた時に出した技があるでしょう?

 アレは私が今やっている魔力の使い方に慣れたらできるようになったりするのかしら?」


「……? あ。今、思い出しました。衝撃波の事ですね。すみません。

 はい。肯定します。あの技はどちらかといえば火や風系統の魔法の使い方ではなく体内魔力を瞬間的に動かす系統なので近いと思います。」


「わかったわ。とにかくまずは体内の魔力をうまく使えるようにならないと、貴方みたいな真似はできないのね。」


 一つだけコクリと頷く。

 それを確認してアリサは目を閉じ、魔力でのジャンプのイメージトレーニングに入るのだった。


 だが、閉じたと思ったアリサの目が開く。


「……ところで……一体どうしたっていうの? お風呂から出た途端、まるで人が変わったみたいな喋り方だし、雰囲気も変だし……お風呂で何かあったの?」

「いえ何もしてないです。」


 間髪入れずの返答だった。

 だが、返答を聞いたアリサは眉間に皺を寄せる。


「……何も……して(・・)ない?」

「あ……」


 怪訝な顔をするアリサ。

 明らかに狼狽えはじめるマコト。


「……『何かあった?』って聞いただけなのに、なんで貴方が何かしたって話になるの?」

「ぐっ!」


 狼狽えたかと思えば、次には無念を堪えたように両目を強く閉じて下を向くマコト。

 その姿にアリサは少し驚きながらも更に疑惑を深めてゆく。


 再度アリサが口を開こうとしたその時、テオが口を挟んだ。


「ほらほらアリサ。男の子には男の子の秘密があるものよ。

 それよりもマコトくんが折角『何かお役にたてる事はないですか? なんでも手伝います。』って言ってくれたんだから、今はじっくり教えてもらうチャンスでしょう?」

「でも……」

「でもじゃないの。

 ねぇ、マコトくん。」


「はいっ!」


 元気よく笑顔のテオに返事をする。


 その姿を見てアリサは少しだけ不満足そうに口を噤み、そしてイメージトレーニングへと戻った。

 アリサがトレーニングに戻るのを確認したテオも、軽くウィンクを残して実験へと戻っていった。  


 窮地を救われた事に感謝の念を抱く。

 流石頼れるお姉さんだ。


 だが次の瞬間、悪寒が走る。




 ―― ウィンクの意味は……一体なんだ ――




 その事に気づき驚愕の目でテオを見る。

 だがテオは目先の魔力に集中していてコチラに意識はない。


 問おうにも問えない。


 『アリサの意識を逸らせてよかったわね』という意味でのウィンクだとしたら、テオは『()から意識を逸らしたか』を知っているという事になる。

 単純に『煩いのを黙らせたわよ』的なウィンクかもしれないけれど、その可能性は低いように思える。


 しかも「男の子には男の子の秘密があるものよ」という言葉もあった。

 つまり男ならではの秘密だと暗に示している。


 と、言う事は……


「んっふ――」


 羞恥に身悶えるような感覚。

 『あああああああああああああ』と叫びながら転げまわりたい気持ちを押し殺すと、変な声が漏れた。

 プルプルと小刻みに身体が震える。


 もちろんバレたという確証はない。


 チラリとテオを見ると、変わらず集中しているように見える。

 だけれど声を聞いたせいか、チラリとこちらを見た。

 ドキリとする感覚に、つい背筋が伸びる。

 

 背筋を伸ばしたのを見て、テオはどこか困ったような顔で、にっこりと微笑んだ。


 『気にする必要ないのよ』とでも言わんばかりの表情に確信せざるを得なかった。



 『やっぱりバレてるぅうううっ!』



 羞恥から逃れたい一心で両手で顔を覆い隠す。


「マコト様? どうかなさいましたか? マコト様?」

「……いえ……なんでもないです…………ちょっとだけそっとしておいて。」


「マコト様? マコト様ぁ!?」


 フリーシアの声が響く中、夜は更けていった。



--*--*--



 結局、羞恥心から逃れたい一心で「どうぞ小屋で休んでください! 見張りは自分がしますから! 一人で! 一人で大丈夫ですからぁ! 寝てください!」と上げ膳据え膳のサービスを提供して夜が明けた。


 流石に一晩中、一人で番をしていれば羞恥に悶える心も開き直りもする。

 『えぇ。しました。しましたよ。しましたが何か?』という気分だ。


 朝日が見えはじめ、快適な睡眠の為に新たに作った小屋で動いた気配がしたので目を向けると、テオが目を擦りながら出て来る姿があった。

 『来るなら来い。でも来ないなら来なくても別にいいのよ? ね? それはそれでいいの。』という気分になる。


「おはようマコトくん……ふぁ……」

「おはようございます!」


「本当に一晩任せてごめんなさいね。ありがとう。

 今日の夜は、私とフリーシアで番をするから……」

「いえ! かまいません!」


「朝から元気ねぇ……私も森にいるにしてはちょっと寝過ぎちゃったけれど……ちょっと離れるわね。」

「ん?」


「もう……お手洗いです。」

「あ。はい……」


 目が泳いだ。


 昨日自分がアレ程秘匿しようと足掻いていた事が一言で済んだのだ。

 『え? あ、別にいいのか。』という心境。

 だが、考えてみれば人間だもの。当然のことなのだ。

 肩肘張らずに、ただ一言告げれば良いだけのことだった。


 だが、目から鱗が落ちるような心境にもなる。


「マコト様ぁ~!」

「ぐぇ」


 呆けていた横からダイレクトアタックならぬ、ダイレクト抱き着きを食らう。


「聞いてくださいマコト様ぁ! あのテオという女、酷いんですよ! 私がマコト様のお供をしようとする度に『眠れる時に眠るもハンターの素質』とか言って動けないように縛るんですよ! 私はマコト様の隣にいたかったのにぃ!」


 朝から柔らかくて幸せである。

 否。違う。そうじゃない。NOタッチ!


「縛るって……えっ?」


 フリーシアは少し離れ、自分の手首をくっつけるようにして見せた。


「こんな感じで縛ったんですよ? しかも足まで! そりゃあ私も隙を見て抜け出そうとしたりもしましたけれど、あんまりだと思いませんか!? もう動けなくされたら大人しく眠るしかないじゃないですか! 折角マコト様と一夜を共にできると思ったのに!」


 涙を拭うような素振りをするフリーシア。だけれどその目に涙は無かった。


「あぁ……マコト様ぁ~……」


 しな垂れるように抱き着いてくるフリーシア。

 正直なところ抱き着かれるのも大分慣れてきた感がある。

 自分から動かなければOKだ。向こうからじゃれついてくるのは仕方ないはず。


 されるがままに抱き着かれていると、フリーシアの視線がチラリチラリと顔を見ては下を見てという動きをしていた。


「ど、どうかした?」

「いえ……その、マコト様がお怪我でもされていないかと思って。」


「怪我?」

「昨日、浴室で大分(さす)ってらしたようですし……もしかしたら痛むのかと……」


 小声でそう伺ってきたフリーシアに、身体から血の気が引いていくのが分かった。

 血の気が引き過ぎて立てなくなりそうな程に足から力が抜ける。


「マコト様っ!」


 力が抜けるのを察して抱き支えるフリーシア。


「やっぱりお怪我を!?」

「……覗いた……のか?」


 漏れ出る声。


「いいえ! そんな事はしておりません!

 愛の力でしょうか……私はマコト様のいる場所や動きを何となく感じる事が出来るのです!」


 力強く答えるフリーシアからは微塵の悪意も感じられず、純粋な好意だけしか見えなかった。

 その態度に何も言えなくなり、ただ諦めたように返す。


「……そっかー……感じちゃうのかー……」

「はい! 感じちゃうのです!」

「そっかー……そうなのかー……」


 さらに力が抜ける。

 なぜなら、フリーシアが言ったのが事実だとすれば、人助けと偽って、ただウンウンしていたのもバレているという事だからだ。


「あぁ、マコト様! お気をお確かに!

 さすってよくなるのでしたら、私がいくらでも!」

「あ、あはは、もうさすってもらっちゃおうかな。

 さするっていうよりもこするだけどね。あはは。」


こすれば良いのですか? フリーシアはどこでもこすります!」


「ちょっと朝から煩いわね……なんなの?」

「邪魔しないで筋肉! マコト様の一大事なのよ!」


「別に邪魔しないわよ異常が無ければだけど……なに、なんの異常があったの?」

「マコト様のお怪我を擦って癒すのは私の仕事!」

「怪我? なに、アンタ怪我してたの? 見せなさい!」


 アリサまで詰め寄ってきた。


「あ、あはは、もうダメだ。」


「えっ、混乱してる!? 何かの攻撃を受けたの!?」

「あぁ、マコト様! お気を確かに!」

「ちょっと何事?」


 テオまで戻ってきた。


「あ、あはは、もうどうにでもなーれ。」


「マコト様のお怪我の様子をお伺いしたのです! マコト様! どこをこすれば良いのですか!」

「ちょ……こするって、フリーシア!? あなたマコトくんに一体何を聞いたの!?」

「姉さん。彼、混乱してる気配もあるわ!」

「あははは」


「全員落ち着けっ!」


 テオの気迫の籠った一喝により、全員が口を噤む。

 

「マコトくん。あなた怪我してるの?」

「……いいえ。」

「え? マコト様……でも昨日は浴室であんなに……」


「ぐっ――」


 両目を強く閉じる。


「――あぁ……フリーシア……もしかして貴方……距離が近ければ、マコトくんを直接見ていなくても、どんな動きをしているかとか……分かったりするの?」

「愛ゆえに!」


 YESでもNOでもない返答だけれど、その意味は『YES』と解釈するには十分だった。

 テオは全てを悟った。


「……はい。アリサ。フリーシア。ちょっと来なさい。」

「え?」

「でも」

「いいから来い。」


 テオは二人を有無を言わさぬ雰囲気で小屋へと連れて行った。



 一人残され、


 崩れ落ち、



 声を殺して泣いた。


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