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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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53 職人

 職人は、夜にその思考を加速させる。

 喧騒も無く動物も植物も静かな時を過ごす夜は、職人が構想を練るのに最も相応しい時なのだ。


 手早く仕事を済ませると、職人は腰を落ち着け瞑想にふける。


 身に着ける人となり。

 今、使える素材。

 使える道具。


 そして納期。


 職人とは芸術家ではない。

 どちらも最高の物を作ろうと情熱を燃やす人間に違いは無いが、最大の違いは『自己満足』と『他者満足』のどちらを追及するかなのだ。


 職人は他者の満足を優先する。

 そして今は風呂上りまでに、パンツを仕上げる事が他者の満足への道だ。


 頭の中で手早くそろばんを弾く。


 時間がない。

 とにもかくにも時間はない。


 だがそれを嘆き妥協するような事は職人としての矜持きょうじが許しはしない。


 各、個人個人の体型は職人の視点から既に記憶しており、その推測と事実の誤差は小さい。

 だがこれは完璧ではない。


 時間の無さに、体型の不正確さというハンデ。

 だが現行品のハンドリングの悪さや使い勝手の悪さを考えれば、頭に描いているパンツはアドバンテージを得ている。


 そして圧倒的に足りていなかった色気を加味し、自然と導かれる答えに職人は目を開く。


「……ヒモパン。」


 そう呟き、確信したように一つだけ頷き、再び職人は目を閉じる。


 一口にヒモパンと言ってもその範囲は広い。

 女性用ということから、女性特有の広い骨盤を利用してずり下がりを阻止できるように考えるとどうしてもデザインが野暮ったくなってしまう気がした。

 野暮ったさが増すということは色気が減るという事になりかねない。


 だが、色気とはそもそもなんだろうか。

 装飾やレース、透けが入ったラインの細いヒモパンがセクシーだと思う女性も多いだろう。

 つい面積が小さい事がセクシーであるという風に思いがちだが、男心はそんなに単純ではない。


 違うのだ。


 どれだけパンツ自身にセクシーさを演出しようが、それは男の心には響かない。

 なぜならそれは


 『見せるパンツ』


 でしかないのだ。


 『勝負下着』などと言う言葉があるが『見せるパンツ』など、見せている時点で既に勝敗は決している。

 男の興味は、見せるパンツを見れる状況になれば、既に違う方を見たくて仕方がないのだからパンツに興味は無いのだ。


 そう。


 『見えるパンツ』 よりも 『見えたパンツ』


 この『見えたパンツ感』こそが、とても重要なのだ。

 『見えたパンツ』でさえあれば、パンツの面積等は大した問題にはなりはしない。

 この結論にたどり着いた事から職人はパンツの面積による色気は小さな問題と据え置いた。


 そして、この森の探索においてズボンを履いているからこそ『見えたパンツ感』をどう演出するかというところに職人の意識は向く。


「……紐を出すか」


 なんということでしょう。

 今、職人は職人から匠の域へと、一歩踏み込んだのです。


 ズボンでは見えないはずのパンツ。

 屈んだ時に後ろから少し見えるかもしれない程度しか期待できなかったズボンチラ見えパンツに、新しい息吹を吹き込もうとしているのです。


 パンチラならぬヒモチラ。

 ヒモもパンツの一部なのだと知っている人だけ『あ、パンチラだ』と感じる事ができる特別な『見えたパンツ感』

 パンツを纏っている人もベルトでズボンを固定する際に結び目が当たれば痛いからこそ、自然とベルトの上に結び目を持ってくる事を加味した恐るべき戦略。


 そして紐状だからこそ、ふとした拍子に横からチラリと見える可能性は高く、ソレを引っ張ると脱げちゃうかもしれないという緊張感は新しい領域での『セクシーさ』を演出できる。



 だが、これは使用者が不満を感じる可能性も高い諸刃の剣でもあった。

 探索でよく動くからこそ紐に引っかかって解けてしまえば一大事。

 ベルトをしている事で一気に下がったり脱げる事は無くても、気にはなってしまう。

 手製のゴムヒモを準備する時間もない事から、着脱可能な結び目を準備する時間もない。


 つまり身体の横で結ぶタイプのひもは、使用者の快適さを求めるとデメリットが多く、匠の頭を悩ませる。

 匠は頭を抱えたが、すぐに解決策を探りだし、すぐに閃いた。


「固結びにして紐を切るか、はたまた紐が解けるかもしれないリスクを抱えるかは使用者の手に委ねたらいいんだ……」


 使用者が紐が邪魔だと感じたら紐を切ってしまえばいい。

 調節と不便さを天秤にかけて、その結論は使用者の選択に委ねればいいのだ。


 見えたパンツ感が消えるとしても、それは使用者の本位。

 職人としては使用者が満足する事が第一なのだ。


 もちろん『調整出来る方が便利だから』と切らない人が多数なのを見越しているのは内緒だ。


 さぁ、決まってしまえば後は手を動かすだけ。

 シュババババっ! とでも音が聞こえてきそうな速さで手を動かし作り上げられてゆくパンツ。

 初の女性用パンツで、股布をどうするか一瞬だけ悩みはしたけれど布の強靭さを信じてシンプルに作り上げてゆく。


 そして完成した。



 完成して気が付いた。


 どうやって勧めたらいいか、まったく考えていなかったのだ。

 もうすでに、風呂を上っても良い時間。


 折角本気で作ったからこそ履いてもらいたい。

 だが、


 『ぱ、ぱぱ、パンツ作ったから……履いて、ほ、ほ、ほしいんだな。』


 とでも言おうものなら、


 『変態だー!』


 という言葉が返ってきても仕方ない。

 そして気づく。


「そもそも『パンツ』ないんじゃ『パンツ』って言っても分からないじゃん!」


 その事実に愕然とした。

 ますますどう説明していいか分からなくなったのだ。


「どうかした~? マコトくん。」

「はぅえっ!?」


「何か言ってなかった~?」

「あ、あ、え、あ、あの、下着作ったんです!」


「……え?」


 テオの反応にサーっと顔から血の気が引くのが自分でもわかった。

 どう聞いても『何言ってんの?』『聞き間違えた?』的なニュアンスの「……え?」だった。


「ち、ちがっ! ちがくて、えっと、あの、あの繭が、そのパンツ! し、下着に最適な素材なんです! 自分は森で、あの繭で下着使って作ってて、なので、ちょっと暇つぶしに作っちゃって! だから、もし良かったら! 脱衣所に置いとくんで、使えるか一度、見てみてください!」

「あ……あ、そう? ……ありがと。」


 戸惑ったような反応に心ざわめき、ぐるぐる回りそうな目でとりあえず脱衣所に下着を置いて出る。

 何を言っていいか分からず、あわあわと落ち着かない時間を過ごしていると、やがて浴室の方で湯から上がり始めたような音が聞こえ、しばらくして脱衣所の方が賑やかしい雰囲気になった気がする。


 『変態だ』と思われてないかが気になって、つい聞き耳を立てて様子を伺っていると、中から声が聞こえた。


「マコト様! 服を綺麗にして頂いて有難うございます!」

「いっ、いえっ! 余計な事してごめんなさい!」


「余計な事だなんて、とんでもない! フリーシアは嬉しくて、いっそのこと着ずにこのまま持って帰りたい気分です!」

「着てください!」


 即答だった。


「ところでマコトさま……マコト様の作った下着……これは、下につける物でよろしいのですか?」

「あ、はい! 良かったらですけど、あの繭は肌触りも良くて湿気も通すしすぐ乾くし、下着で使うと快適なんです! だから、つい作っちゃったんです! はい! 紐を腰で結んで調整できるようにしたので、良かったら使ってみてください!」


「……」


 返事を返したはずなのに、突如途切れるフリーシアの言葉。

 『変態だー!』と思われているかもしれない恐怖に、つい扉の様子を伺う。

 ドキドキと心臓が鳴るけれど、推移を見守ることしかできない。


 その時、扉が開いた。


「――っ!?」


 ヒモパンだけを身に纏ったフリーシアが、身体の左側だけを見せるような恰好で扉を開けていた。


「こんな感じで宜しいですか? マコト様。」


 結び目を確認するように見せつけるように腰を上げるフリーシア。


「あら。」

「ちょっ! まだ着てないからっ!」


 アリサによって慌てて閉められる扉。 


 突然の事態にピクリとも動けないまま脳裏に焼き付いた今見た景色を思い返す。


 ヒモパンだけを身に纏っていたフリーシアの姿。胸は左半身を向けている事で左腕に隠れていたけれど、湯上りのしっとりしつつも水を弾く玉のような素肌は魅惑的だった。

 そしてそのフリーシアの後ろでテオの素肌も見えた様な気がして、ヒモパンを試しに来ているような感じだった。

 アリサだけは全く姿が見えなかった。


 フリーシアもテオも上も下も肝心な部分は見えなかったけれど半裸の姿。


 とりあえず、静かに両膝を折ってしゃがむ事しかできなかった。



--*--*--



「ありがとう。いいお湯だったわマコトくん。」

「マコト様。作ってくださった下着、とても肌触りがいいです!」

「……」


 ニコっと微笑むテオ、はしゃぐ様なフリーシア、そして『見た? 見たよね?』とでも言わんばかりの懐疑的な視線を向けてくるアリサ。

 皆の視線は下に向いている。


 なぜなら、未だにしゃがんでいるからだ。


 顔を向け続ける事が出来ないまま、とりあえず横に視線を移して口を開く。


「よ、よかったです。」


 察したようにテオがすぐに口を開く。


「じゃあ次はマコトくんの番ね。私達が番をするからゆっくり入ってきて。」

「お背中お流ししますっ!」


 叫ぶように黄色い声を上げたフリーシアの襟をテオが引っ張る。


「あのねフリーシア、ここは森なの。そして貴方は勉強中。

 マコトくんもゆっくりしたいだろうから邪魔をしないで、私達から学びなさい。」

「そんなぁ! マコト様のお世話係ですよ私は! 何から何までお世話するのが私の使命です!」

「ゆっくり一人で入りたいわよね? マコトくん。」


「そ、そうですね。じゃ、じゃあお言葉に甘えて!」


 返答にしゅんと肩を落とすフリーシアを尻目に、クラウチングスタートで脱衣所へと飛び込み扉を閉める。

 扉の向こうから「マコトさまぁ~……」「はいはい」という声が聞こえるけれど、密室という安心感から背筋を伸ばして立つ。


「……流石に限界だ。」


 下半身を眺め、風呂で色々スッキリしようと決意して、早速服を脱ぎ始め顔の布も外し、浴室へと向かうのだった。

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