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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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52/100

52 パンツ

 脱衣所の前の扉。

 開こうか開くまいか、手が伸びては縮み、また伸びては縮む。


 浴室の方からは楽しそうなキャッキャウフフの声が聞こえ、突入したい気持ちはどんどん増す。

 だけれども『突入して気まずくなったらどうする』という将来を悲観する感情も生まれているのは事実。

 あと一歩で桃源郷へ入れる喜びの気持ちと、桃源郷の先の先に孤独が見える気がして気持ちが引けてしまう。


 『うわっ、ほんとに来たよ。』

 『空気よめ』

 『あ~……冗談を真に受けるとは……やってしまいましたなぁ……』


 もしこのまま入って、そんな意思がこもった視線で見られでもしたら、もうこの先一緒にいても楽しい時を過ごせそうにない。

 桃源郷は魅力的だけれど、それ以上に怖いのだ。


「嫌われるのは……辛いでござる……」


 顔が下を向いて、扉に向かおうとしていた手も下がる。

 だが、下に下がった視線は発送準備が整った様子を捉えてしまう。


 欲望が滾っている。

 荒ぶっているのだ。


「……つらい。」


 目と鼻の先には甘美なオカズがある。


 何か桃源郷へと踏み込む理由。

 全裸の女性達がいる所に入ってもおかしくない理由は無いか必死に頭を巡らせる。

 そしてピンと閃いた。



 彼女たちは全裸。

 つまり服を脱いでいる状態。

 その状態だからこそ不自然じゃない提案があった。


「あのー! すみません!」

「……なーに? マコトくん。」


 一拍遅れて聞こえる声に、大きく声を返す。


「なんだか手持無沙汰なので、折角なので魔法で服を洗濯してもいいですか!? 魔法で乾かしますから早いですし!」

「えっ!? ……洗濯?」


 ゴクリと息を飲んで反応を待つ。


「あぁ……そういえばマコトくんが着ていた服も魔法で洗濯してたわね。でも……流石にその……悪いわ。」

「いえ、その、暇なので、何かしておきたくて。もちろん、迷惑だったら、いいんですけど。」


 少しの沈黙。

 小声で何かを言っているアリサの声が聞こえた気がした。


「ふふふ、それじゃあお願いしてもいいかしら?」

「ちょっとテオ!?」


 アリサの声にビクリと反応してしまう。


「いいじゃない。綺麗になってる方が気持ちいいし。それにマコトくんの魔法でどれくらい綺麗になるかも実感したいじゃない。」


 そう聞こえた後に、小声でテオがアリサにだろうか何かを言った気がした。

 だけれどすぐさま言葉が続いてきた。


「というわけで、マコトくん。お願いしてもいいかな?」

「は、はいっ!」


 脱衣所への入場許可が下りた事で、勢いよく向き直り、扉を開く。


「ふおぉ……」


 さっきまで3人が身に着けていた服がそれぞれまとまって置かれていた。

 意外な事に、きちんと折り畳んで置いているのはフリーシアだけで、テオとアリサの服は、ざっくり畳まれているだけの状態だった。

 だが、そんな事よりも3人が着ていた服という事に意識が向いてしまう。


 やはり全裸。

 ぜん、ぜん、全裸なのだ。


「し、失礼しま~す……」


 鼓動が高鳴る。

 まるで時代劇に出てくる手ぬぐいを顔に巻いた盗人のように抜き足差し足で服の下へと向かう。


 そしてテオが身に纏っていた上着にそろそろと手を伸ばして拾う。


「ふわぁ……」


 着ている時には分からなかったけれど、改めて手に取ってみると自分の服と比べてやはりとても小さい。

 服の下に布とズボンがあり、その下には上着が敷かれていた。そこで気付く。


「……パンツが……無い?」


 別に期待していたわけでは無かった。本当だ。

 だけれども、ここにあるのであれば見たかった。


 静かに首を捻りながら考え、そして気が付く。


「まさか……この……布が?」


 恐る恐る手を伸ばそうとしたその時、第六感がキュピーンと働く。


 この感覚は中学生の頃くらいに感じた一人で頑張っている時に感じる親が部屋にやってきそうな空気感にも似ていた。

 危険信号を感じ取ったような感覚に慌てて伸ばす手を止め、向き直る。


 向き直った瞬間だった。

 浴室の扉が少しだけ開き、そこからアリサの顔が覗いた。


「……その、わ、私のは別にいいから! 触らなくていいから!」

「は、はい。」


 そう言葉を残してピュっと首が引っ込み扉が閉じる。

 ドクドクドクドクと脈打つ心臓。


 危なかった。


 もう少しでパンツ代わりの布に手を伸ばして広げて見ている姿を目撃されるところだった。

 ホっと息を吐きながら今見たアリサの姿を思い出す。

 髪などが湯に濡れて肩が少し見えたアリサは色っぽかった。


 そんな事を考えていると、またも扉が開き、ドキっと驚いているとテオの顔がゆっくりと覗く。


「……あら、私の服……ふふ。変な事しちゃ嫌よ?」


 そう言ってウィンクをして扉を閉じた。


「す、すみません!」


 なんとなくこの流れはマズイと感じ、一言謝罪してすぐに手早くテオとフリーシアの服を手に取り脱衣所を出ると、出た瞬間にフリーシアが浴室の扉から出てきたような感じがした。なので、脱衣所と外の扉を開かないように手でぐっと閉じる。

 すると開こうとする力を感じた。


「もう! マコト様! フリーシアの裸を見たくないのですか!?」

「い、い、いや、その! 外は寒いから! 風邪ひくから!」


 左手で服を抱えながら、右手で扉を締めきっておくと、やがて諦めたように力がかからなくなる。


「マコト様はお優しい……お気遣いに甘えて温まっておきます。」


 そう言って浴室へと戻る気配を感じ、小さく息を吐く。

 そして気づいた。


 左手で抱えた服を落とさないように顔で押さえている事に。


「ふおぉぉっ!」


 何かに目覚めてしまう気がした。


 だが踏みとどまる。


 本当は目覚めて欲望のままに弄んでみたかったけれど、テオに釘を刺されていたのが思いの外に効いていて、すぐに正気に戻り、大人しく魔法で作り出した洗濯水球の中に放り込み、渦を作り汚れを落としていく。

 渦を逆回転させたりしてみたりして洗濯している内容を確認するけれど、やはりパンツは無い。それっぽい布しかない。


 パンツが無い。


 こんなことがあっていいんだろうか。

 思いの外に色気がない事に落胆の気持ちを隠し得なかった。

 これではスカートを履いている女の人に一体何を期待したらいいのかわからない。


 そして気が付く。

 気が付いてしまった。


「ないなら……作ればいいじゃないか。」


 溜まりに溜まっていた欲望は、男をパンツ職人への道へと導くのだった。


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