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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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51 あったか休憩

 秋口の森の冷え込みは、太陽がいかに偉大であるかを理解してしまうほどに早い。

 たき火を焚いていても火のあたらない場所はじわじわと冷えていき、その冷えは食事を終えて温まった体であってもじんわりと身体をむしばんでゆく。


 マコトは森で暮らしていたからこそ慣れており、テオやアリサもその備えと心構えに憂いは無かった。

 ただ一人、フリーシアだけは森という環境での寒さは知らない。


 そして食事を終えての魔力談義においても、魔力の扱いに最も長けているテオと質問者であるアリサは、マコトの説明で感覚的に理解できる事も多く、まだ分からないことだらけのフリーシアは周りの理解に追いつく為に懸命に頭を働かせて質問し、遅れまいとする為に神経を使った。


 結果として気付いた頃にはフリーシアの身体は冷え切っていた。


 異変をいち早く察知したテオが「温めた方がいい」と発した事で、女の人と沢山話をする事が出来て浮かれていたマコトは調子に乗った。


「身体を温めるなら、やっぱり風呂が一番ですよね。」



--*--*--



「はぁ……」

「ふぅ……」

「ほぉ……」


 テオ、アリサ、フリーシアが続けて吐息を漏らす。

 ちゃぷっと水音を立てる水面から手が出てくると、その手からホカホカと湯気が立ち上ってゆく。


「森の中って事を忘れちゃいそうねぇ……」

「ほんとに……」

「流石マコト様です……」


 マコトは森の中に脱衣所付き浴室を作り上げていたのだ。

 屋根もきちんとついていて小さな換気口には網も設置されていて虫が入ってくることはない。

 そして浴室は3人が同時に入っても足を伸ばす余裕のある広さ。


 浴槽のふちに腕を乗せ、その上に顔を乗せるアリサ。


「正直、家よりも快適だわ……」

「ほんとねぇ……家にお風呂なんてないものね。」

「あったら驚きですよ……」


 3人の顔から警戒の色はまったく見て取れない。

 それどころか温かくなっている事で、アリサまで角が取れたような顔をしている。


「それで……アリサは何か発見があった?」

「えぇ。あったわ。彼の話を聞いてて何となくだけど。」

「ちなみにそれはどんな内容?」

「私にも分かるように言ってくださいね~。」


「……私はこれまで魔力による身体強化は『筋力の補助』に目が向いていたのよ。

 自分の動きをサポートするのが魔力。そう理解して研鑽を積んでた。」


「うん。」

「は~。」


「でもそうじゃないのね……人間の筋力の限界なんてどれだけ鍛えてもたかが知れている。それに鍛えれば鍛える程に身体は重くなってしまったりもする。」


「うんうん。」

「は~。」


「彼は規格外の魔力を持っているからだろうけれど、根本的な使い方からして違っていたのよね。

 彼の場合は『筋力の補助』として肉体があるんじゃなくて『魔力の補助』として肉体があるのよ。

 あの超人的な跳躍にしてもそう。足で跳んでいるんじゃなくて魔力で跳んでいるの。」


「ふ~ん。」

「流石マコト様です。」

「ちなみにアリサは真似できるようになりそうなの?」


「魔力量が違いすぎるけれど、彼自身が意識しない程度の魔力しか使っていないみたいだから、出来ると思う……いいえ。出来るようになってみせるわ。」


「そう……良かったわね。

 ちなみにそれに気づけた事はどれくらいの価値があると思う?」

「……これからの私次第だとは思うけれど、私の限界だと思う壁が遥か遠くに行ったくらいの価値はあったわ。」

「そう。それじゃあ気づかせてくれたマコトくんに、お礼しないとね。」


 テオがニコっと微笑み、その微笑みを見たアリサがヒクっと顔を引きつらせる。


「マコトくーん!」

「……はーい。」


 換気口からやや遅れて返事が聞こえる。


「とっても温かくて、いい気持ちよ。ありがとー。」

「……い~え。ゆっくりしてください。」


「一緒に入る~?」

「……うっ、ひぇい!?」


「それは良いですね! マコト様! 是非っ!」

「ちょ、テオっ!? 止めてよ。」

「なに? すごく為になる事を教えてもらったんだから、そのお礼にはちょうどいいでしょう? 男の人は喜ぶわよ~?」

「いや、それは……そうだろうけど。」


「い、い、いいえ結構ですっ! ば、番しなきゃですから!」


 予想通りの声が返ってきた事にテオがくすくすと笑い、再度口を開く。


「遠慮しなくていいのよ~。」

「そうですマコト様! 遠慮せ――」


 浮かれ気味で立ちあがったフリーシアが、言葉の途中で何かに気付いたようにその視線を、テオの胸、アリサの胸、そして自分の胸へと動かす。

 そしてゆっくりと自分のおっぱいを両手で触り、そして再度テオの胸を見て、ゆっくりと浴槽に沈んだ。


「……遠慮してくれてもいいです。」

「ほ、ほら、フリーシアもこう言っているから! ね、テオ?」


 フリーシアの言葉にアリサが立ち直った。

 それを見て楽しそうに笑うテオ。

 テオの笑顔に苦々しい表情を作ったフリーシアが口を開く。


「うぅ……その自信はなんですか!? このオッパイですか!? このっ! このっ!」

「ぁん! ちょっと止めなさいフリーシア、揉んじゃダメ~。あぁん。」


 わざとらしく扇情的な声を上げるテオ。

 余裕があり尚且つマコトをからかっている事を理解したフリーシアはブチ切れた。


「い~でしょうテオさん……前のお屋敷で奥様へのマッサージで身につけた技を披露してあげましょう!」

「あ~れ~。ああ~ん。きもちいー。」


「流石にわざとらし過ぎでしょうテオ……彼もきっと呆れてるわよ?」


 アリサは一人呆れたような顔をして肩まで浸かって、そう呟いた。



--*--*--



「ぐぅっ――」


 前かがみになっている男がいた。

 突如賑やかしくなった浴室から聞こえてくる嬌声。

 それもさっきまで親しげに話していた女人達のキャッキャウフフの声。さらに壁一枚向こうで全員が裸という状況だ。


 正直辛抱たまらんかった。


 朝からムラムラしていたのを我慢し、ご飯の前にムラムラしそうだったのを我慢し、ここに来ての百合百合しいキャッキャウフフ。

 どれほどの我慢を強いられるのか、強いられてしまうのか!


 既に一分前にお誘いを断ってしまった事を心底後悔してしまっているくらいだった。

 こんな思いをするなら、思い切って誘いに乗って入ってしまえば良かったのだ。


 そして気づく。


「あぁ……ハーレムチャンスでござった……」


 血が滲まんばかりに歯を食いしばり拳を握る。


 『そうですか! じゃあご一緒に! 誘われたから仕方ないよね!』と陽キャの如きノリで入ってしまえば良かったのだ。

 頭では理解できていても、どうせ本気じゃないという事を理解してしまっている自分もいる。

 考えている事はできても行動には移せない。言うは易いが行うは難いのだ。


 これまでも『こうしておけば良かった』『ああしておけば良かった』と思った事は多々ある。

 だが、今回の後悔は、久しぶりのビッグウェーブだった。


 後悔のビッグウェーブの波紋は、心をざわめかせる。


 『今からでも入っていいんじゃないか?』

 『いやいやいや、一度断ったし。』


 思考に引きずられるように足も右へ左へと足踏みをする。


「あ~……そこそこ……とってもいいわぁ……」

「何してるでござるっ!?」


 小声でツッコミながら換気口を見る。

 あの先では、桃源郷な光景が繰り広げられるいるのかもしれない。


「フリーシア……上手~……」

「何がでござるっ!?」


 再度小声でツッコミながら壁を見る。

 今、この壁を壊せば桃源郷な光景を見ることができるかもしれない。


 行き場のない思いが溢れだし、たまらず両手で顔や髪をぐしぐしとまさぐる。


 正直発送準備は3人が風呂に入り始めてから想像だけで完了してしまっている為、脳内はピンクな妄想のオンパレード状態。

 一緒にお風呂に入り「うふーん」やら「あはーん」やらの言葉を呟きながら、裸でまとわりついてくる3人の妄想で占められている。


 限界に達し、ふっきれた。


 弄るのを止めて、一人ごちる。


「……誘われたし……いいよね。」


 そして、ふらりふらりと脱衣所に向けて歩きはじめるのだった。


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