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5 初めて見る街

「ぬぉぉ……人の巣窟のヨカンん……」


 一週間程前に貯蔵庫を襲撃した人間を発見し『人の物を盗む不届き者に罰を』という建前で、黒髪ポニーテルのキツ目美人さん、柔和そうな顔つき全てを包み込んで許してくれそうなのお姉さん、ドジっ娘っぽいオーラがにじみ出ている頑張る系娘さんと、あと、無駄にイケメンな5人のパーティを追跡していた。


 本音はといえば美人とイケメンが何日も一緒にいれば間違いが起きて、リアルエロを覗き見できるかもしれないと思ったからである。


 いかんせんずっと一人で過ごし続けた為、脳内に保管されているオカズには飽き飽きしていたというのがあり、そこに降って沸いた美人となれば期待せずにはいられなかった。

 だが、その望みが叶えられることはなく、まったく別の発見に驚愕させられているのだ。


「しかし……急に森が開けて平野が始まったかと思えば人里まであるとは……拙者、行動範囲は家から5キロ圏内と決めていたでござるからなぁ……」


 森の木の上から街へと向かう男女混成パーティを見送る。

 結局彼らは貯蔵庫を漁って移動しただけだった。


 7日間もずっと追跡していれば排泄などの光景にも出くわしてしまうわけだが、そこはマナーで覗いていない。なぜならそれで折角ノーマルな性癖が歪んでしまうのが怖かった。

 ただでさえ女人の存在にテンションが上がっている今、そんな光景を目の当たりにしてしまえば歪んでしまうのは間違いないからだ。

 3次より2次を愛す精神は変えられないけれど、せめてわずかに残る3次の性癖はノーマルでありたかった。


 これは心の問題。信念の問題。

 一人木の上で腕を組み、誘惑に耐えきった自分の精神を褒める。

 そしてグッジョブ自分! と、満足した後、改めて街に目を向ける。


「むむむむ……」


 城壁があり街道もある。

 天気もよく街道を歩いている人影や馬や牛らしき動物が荷車や馬車を引いている姿もチラホラ目に入る。


 これまでの異世界生活に無かった人の営みの風景。

 街に入って生活できればきっと冬を乗り切るのも容易になるに違いない。


「むむむむむ……でもあの人達みんな見た目が外国人っぽかったしなぁ……言葉通じないかも。

 それに日本人は安全意識が低すぎて海外は危ないって言うし……やっぱり怖い……うん。君子危うきに近寄らず。帰ろう。」


 若干後ろ髪を引かれつつも家に帰る事にした。

 追跡しながら目印をつけておいた事もあり、急ぎ足で帰るとわずか半日で帰る事が出来た。


 とりあえず貯蔵庫を放置してきた事が気になっていたので向かうと特に違和感はない。

 ただ保冷が切れていたので中に入って氷の魔法で洞窟の壁を冷やしていると、盗人が持って行ったであろう干し肉のあった場所に刻印の入った2cm程度の円形の物があり手に取る。


「む? これは銀貨とかいう物でござるかな?」


 表には人の姿らしき刻印。裏には熊の刻印が入っている硬貨が4枚程あった。


「むむむ……」


 銀貨を手に取り思い悩む。


 盗人かと思えば、きちんと対価らしき物を置いて行っている。銀貨は金貨より価値があった時代もあるくらいだから価値は分からないけれど、それなりに高価な気がする。

 もちろん逆に日本人的な視点を参考にしているだけで、実際は銅貨的な価値で安い可能性もあるかもしれない。だけれども無人にも関わらずきちんと『支払い』をしていったという事は文化的な人間であるという可能性が高い。


 そして自分が使える銀貨という存在が手元にあるのであれば、街に入ってお金を使う事が出来る。

 さらに言えば、ここにおいてある肉は金に変える事できる可能性も高く、もしかすると街で暮らす事が出来るかもしれない。


「むむむむ……」


 なんとなく後ろ髪を引かれていた街という存在。

 そこに行ってみる理由ができた気がした。


「でも怖いからやめておこう。」


 少しだけだった。


 そう、君子は危うきには近づかないのだ。

 銀貨を内ポケットにいれ、お腹を満たす為に干した肉を取り、そして思い出した。


「あっ! 美味しい豚が!」


 持っていたモツも移動の7日の内、4日で食べきってしまい、すっかり存在を忘れていた。

 もうすでに食べる事が出来ないのは確定している。


 あの豚は美味しいのだ……本当に美味しいから他の肉食獣もよく狙っていて競争率が高い。

 今回はベーコンにして保存しようと思っていたのに、なんということか。


 あまりのショックに1アウトの凹み状態になった。 

 

 ションボリしつつももう川に行っても無駄だろうと思い、もしかしたらという希望から、血を流しておいた落とし穴に向かってみる。


「にょぉおおおっ!」


 落とし穴の中が、肉食獣の蠱毒と化していた。

 美味しいお肉らしき獣は、強くてマズイ蜥蜴が食ったっぽく残骸しか残っていない。

 とりあえず蜥蜴の上から土魔法で土をぶつけて生き埋めにしておいた。


 ただ、残骸の数から、なんとなくこの当たり一帯の美味しいお肉が蜥蜴に沢山食べられてしまったような気がして、精神状態は2アウトの凹み状態へと進化する。


「はぁぁ……今日は家に帰って大人しく寝るでござるよ。

 こういう日はとことんついてないから帰って動かないのが吉。」


 愛しの我が家。

 創意工夫のツリーハウスに帰ることにした。



「ひょわぁああああああっ!!」


 ツリーハウスがあの引っこ抜くと大暴れする触手プレイ植物の蔦の浸食で潰されボロくなっていた。


「ああああああああぁっ! 3アウトーーっ!」


 止められない怒り。

 安住の地を奪われる事に我を失い、気が付けば魔法で特大の火炎旋風を放っていた。




 この日、街では森の奥で燃えさかる大蛇が出現したという目撃証言が相次ぐのだった。


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