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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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48 白銀の魔法使い

まったく別人の視点で始まっています。



「大丈夫かっ!?」

「だいじょばないよっ!」


 後方にかけた声に対して返ってきた返答が、状況が芳しくない事を否が応でも悟らせてくる。

 木の上から虫除け液を撒いているビーナの声に余裕が無い。


 こんな所にマンモレクの繭があるはずがなかった。

 マンモレクが住み着くのは奥地の方で、ここは近けれど、まだ奥地とは言えない場所。


 なのにいる。いた。


「ちぃっ!」


 自分の靴程の大きさの虫が目の前に跳び上がってきたのを切り飛ばす。


「おいおい! ペリー! マジでやべぇぞ!」


 切り飛ばしながら絶望感から愚痴をこぼす。


「分かってるよ! 喋ってねぇで手を動かせ手をハーディック!」

「そうだぞハーディック! マンモレクの怖さを聞いてねぇわけじゃねぇだろう!」


 チラリと目を向ければ、視線を地面から動かすことなく斧を振り下ろすペリーと、突き刺すように剣を振り続けるケイスの姿。


「聞いてねぇどころか会うのは二回目だよ俺ぁ! こんちくしょう! 剣の切れ味が落ちてきたらヤバイからな! ケイス! 隙を見て服でもなんでもいいからとにかく剣の汚れを落とせっ!」


 自分の剣を見ればマンモレクを切り飛ばした事で付着した虫の体液がベットリとついている。

 これがどんどん剣の切れ味を鈍らせていくのだ。攻撃が出来なくなれば終わりだ。


 数匹切り飛ばすと、マンモレクの襲撃が止まった。

 その隙にまた後方に声をかける。


「ビーナ! 虫除けの効果はっ!?」

「わかんないよ! 薄いから効くかも知れないし効かないかも!」

「効かなかったらマジでやべぇんだぞ!」

「分かってるわよ! でもどうしようもないでしょう!」


 愚痴っても仕方がない事には気づいているけれど言わずにはいられなかった。

 流石に切り替えて確認を進める。


「オルワ! ブルナ! 攻撃準備は!?」

「……とりあえず3回なら。」

「……私も。」


「合計6回か! あ~……もう頼りねぇー!」

「「 ハーディック煩い。 」」


 双子から同時に放たれた言葉を無視して前に意識を集中する。


「ペリー! ケイス! 虫除けを撒いてある木の辺りまで後退するぞ!

 気ぃぬくなよ! あと背中向けて走るなよ! アイツらこっちの動きを読んで動き出すからな! じりじり後退だ!」


 号令をかけると、二人はすぐにじりじりと後退を始める。

 靴の裏程の大きさの10匹程のマンモレクはその動きを見て、カサカサと一定の距離を保つように動きながらついてきた。


「頼むから効いてくれよ……」


「……なぁハーディック……効かなかったらどうなるんだ?」

「頼むからさ、今は余計な不安を煽らないでくれないかペリー。」


「いや、ケイスよう……お前だってマンモレクと実際に戦うのは初めてだろう?

 聞く話と実際が違うなんてのはよくあることじゃねぇか。ハーディックは知ってそうだしな。」

「聞く話で良い話が無いって事だけで、ハーディックからどういう答えが返ってくるか大体読めるだろうに……で? ハーディック。どう?」


 じりじりと後退し、そろそろビーナが木の上から撒いた虫除けの圏内に足を踏み入れた頃だ。


「そんなに聞きたきゃ教えてやる! 効けば助かる! 効かにゃワラワラ出てきたマンモレクに食われる! 今の内に狩りの神に効く事を祈っておけ!」


「おぉ……マジかよ……」

「聞いた通りでしたね……どうか効きますように……」


 じりじり後退しビーナ達が上っている木の下に辿り着く。


「オルワ、ブルナ……枝伝いに来られないように前方の近い木を吹っ飛ばせ。」

「「 分かった。 」」


 弓を構えた双子が左右に同時に矢を放つと、前方の木に直撃する。

 直撃と同時に爆発を起こし、木の幹が半分ほど爆散し、やがてゆっくりとその部分から折れ始めてゆく。


 メキメキと倒れてゆく木の音。枝がぶつかり合う音を鳴らしながら倒れた。


「後4発か……」


 靴の裏程の大きさのマンモレクがジリジリと近寄り、虫除けの圏内と思わしき境界でまごまごとし始めた。


「効いてくれよ……虫の餌なんてまっぴらごめんだぜ……オルワ、ブルナ、あいつらに狙いつけて準備しとけよ。でもまだ撃つなよ……」


 双子の火の魔法使いは新たに矢を構え、その先をマンモレクの方に向けた。

 ハーディック達が息をのみ、マンモレクの動きを見守る。


 マンモレク達は集まりはじめ、まるで相談するかのようにそれぞれの触角を合わせたりしている。


「このまま諦めて帰れ……帰ってくれ……あっち向いて帰るんだ……」


 そう願いを呟きながら剣を握り締める。


 一匹のマンモレクが境界の匂いを嗅ぐようにうろうろとその触覚と頭を動かす。


 そして境界を超えた。


 超えると同時にギチギチと牙を鳴らし、その音に他のマンモレクも一斉に共鳴するように鳴らし始める。


「くそっ! 撃てっ!」


 号令と同時にオルワとブルナが二人同時に鳴きわめくマンモレクの集団に向けて矢を放つ。

 息の合った矢はマンモレクを爆発で挟み込むように着弾し、一塊になっていたマンモレクは一斉に後方へと吹っ飛んでゆく。


 半分以上爆散し、静寂が訪れた。


「……終わりか?」


 ペリーが口を開く。

 その言葉にハーディックが小さく笑って答えた。


「終わりが始まるのさ。

 ビーナ! オルワとブルナを連れて今の内に逃げろっ! 俺達だと時間はあまり稼げない! オルワとブルナは最後の一発は念の為にとっとけ!」

「っ!? ――わかった……」


 苦悶の表情を一瞬だけ浮かべるビーナ。

 すぐに後方に顔を向け口を開く。


「二人とも行くよ!」

「「 ……わかった。 」」


 女達三人が木から飛び降り着地する。

 すると、まるでその着地音が合図になったかのように、6cm程の大きさのマンモレクが、ワラワラと現れはじめ侵攻が始まった。


「ペリー! ケイス! 気張れよ! 俺達がやるだけやらねぇと女達まで死んじまうからな!」

「クソッタレが! やってやんよ!」

「あぁ、もう! 最悪だ!」


 男達は構えた。

 だが現れたマンモレクは数百匹は居る。

 数の暴力の前に結果は見えていた。


「あぁ……こんなことなら、双子に一発お願いしとくんだった……惜しいことしたなぁ……」

「ははっ! わからんでもないなぁ! 双子を一緒になんざ男の夢だからな! なぁハーディックよう!」

「俺ぁ、それよりもビーナのヤツとやっときたかったぜ。」


「え? ハーディック……お前ビーナと付き合ってたんじゃないのかよ?」

「バッカ! 全然だよ!」

「そりゃあもったいない事をしたなぁ! アイツはお前に気があったぞ絶対。」

「マジかよ! くっそ!」


 最後の会話になるかもしれないことを悟った男達は遠慮のない言葉を交わす。


「じゃあ、何がなんでも生き残らねぇとな……準備はいいか? 手を止めたら死ぬぞ。」

「おう。」

「分かってる。」


 男達は静かに獲物を握りしめた。



--*--*--



「マコト様の移動が速すぎて掴めない!」


 フリーシアの叫び声に一斉に注目が集まる。


「どうしたの!?」

「マコト様が急に移動を始めて、追いきれなくなったんです! かなり遠くに行ってる……どうしよう! わからない!」


 親に置いてけぼりにされた子供の様に怯え始めるフリーシア。

 その様子から、また何か変化が起こったことを理解した。そしてもう一つも理解してしまった。


「……ねぇ……フリーシア。あんたもしかしなくても、覚えてからずっと彼を捉え続けてたの?」


 初めて見たフリーシアの絶望したような顔から答えを聞く必要はなかった。

 テオが呆れを隠し切れない笑顔をしながら、そっとフリーシアの頭をなでる。


「……う~ん……その、あれね……彼は戻ってくるから、もうちょっと様子をみましょうね。」



--*--*--



「おおおお! 大ピンチっぽいですな!」


 見れば男3人が多数の食人虫に狙われていた。

 だけれど、ここにきてどう助けた物か迷っていた。イケメン殿やテオに街に入った頃に他の人にはあまり力を持っていることをバレないようにした方がいいと忠告を受けていたからだ。


「う~ん……」


 木の上で眺めながら考える。

 だけれども余り考える時間もない。


「ま、いつものようにとりあえず流しますかな。魔法でやってれば多分ばれないでしょうからな。ほいっと。」



--*--*--



 握りしめたはずの剣が落ちた。


「なん……だ…こりゃ……」


 目の前には、まるで水の竜巻が起きたかのような光景。


 いよいよとなったその時に、突如水球がマンモレクの真上に現れたかと思ったら、すぐに渦を巻く竜巻のように変化し、大量のマンモレクを吸い上げ始めたのだ。

 圧倒的な光景に、言葉も消える。


 斧が地面に落ちる音が響く。


「……おい……ハーディック……俺は幻でも見てるのか?」


 ペリーの言葉に毒による幻覚ではなく、同じものを見ていることを悟った。


「どうやら幻では……なさそうだな……」


 次々と地面のマンモレクを飲み込んでゆく水の竜巻。


「おい……ペリー、ハーディック……見ろよ……あの竜巻の上……」


 ケイスの言葉に巨大な水の竜巻の上方へと目を向ける。


「なんだありゃあっ!」

「火っ!? おい、水の上に火がついてるぞ!?」

「おいおいおい! マンモレクが水で運ばれて火にくべられてるのか!? なんだあの魔法は!?」


 圧倒的な魔法によるマンモレクの掃討を、ただ見ていることしかできなかった。


「……俺たちは……助かったのか?」



--*--*--



「う~んまるで掃除機で吸い取るがごとく綺麗になってゆくと、ま~ストレス解消になるでござるなぁ……おっと、違った。人助けでござったなぁ。」


 吸引力の変わらないサイクロン的な物を想像し、それを風ではなく水で再現した。なぜなら風でやると男達まで吸い込みかねない可能性があったからだ。

 そして吸い込んだ物はすぐに汚物は消毒だーで焼却処分していく。


「そういえば、この虫がいるという事はパンツ素材があるという事でござるよなぁ……折角だから綺麗なところだけ回収していくでござる。」


 手早く掃除機を動かして虫退治を終わらせる。

 虫も危険を悟ったのか、方々に散り始めた。


「ん~……多少の取り残しはあるでござるが……まぁ、もう多分大丈夫でござろうな。うん。さて、パンツパンツっと」


 巣のある方へとジャンプする。


「おぉ……これは意外と立派な繭でござるなぁ! もう虫も殺してしまったでござるから全部回収回収っと。」


 必要な分だけを取っても繭は回復しなさそうなので、この際、全部回収することにした。

 水の刃でスパスパと両端を切り落とし、片方から水魔法を押し込んで、中を洗浄してゴミや卵、幼虫を押し出す。


 中がきれいになったら潰して折りたたんで端からグルグルと巻いてまとめ持ちやすい状態にする。両手で抱えれば持ち運びできるほどの大きさになった。


「思いもよらぬ臨時報酬でござったなぁ。

 これで言い訳の内容もできたし、その証拠も手に入った。うん。安心して帰れるでござる!」


 踵を返し来た道を駆け出すのだった。



--*--*--



「なんだ?」

「どうしたハーディック。」


「今……白い髪の毛のようなものが向こうで見えたような気が……」

「なんだと? …………いや、いねぇぞ?」

「もしや助けてくれた魔法使いでは? 会う気はないようですが……」


「……銀髪の魔女か……美しいな。」



 マコトの顔を隠すパンツ素材がたなびき、それが銀の長い髪に見えたことで、銀髪の魔女伝説が誕生するのだった。


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