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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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46 張りつめた尻の

 ウンコを我慢している時と、恋をしている時は似ている。



 考えないように、考えないように。

 どれだけ考えないようにしても、ふとした拍子に意識してしまったり、その事で思い悩んだり苦しんだりする。

 いっそ衝動のままに動けたらと思いつつも、常識やプライドがそれを拒んで動く事が出来ない。

 だけれどもその苦しい胸の内は止めようがなく、いつしか身体が勝手に動き出すのだ。




 『まずい』



 意思とは関係なく動いている身体の異変が脳に伝わり、すぐに締めるべき所を締めて制御する。

 しっかりと意識して締めながらも、その異変を考えないように違う事を考えようと周りの自然へと目を向けて気を落ち着かせる。


 やがて意思に反した身体の動きは鳴りを潜めてゆき、脳も山場が過ぎたことを理解して小さな安堵の感覚が広がる。

 その感覚に鼻からゆっくりと息を吐きだす。


 山場を乗り切り、少し落ち着いた頭で考えると『まずい』と感じる周期が徐々に短くなってきている気がしていた。

 だが、まだ森に入って1時間も経っていない。


 いつまでも続きそうな苦しみに眩暈しそうな気分になる。


「あ、フリーシア。アレを見て。

 あの木に絡みついてる弦は丈夫でね、ロープが無い時とかに便利なのよ。」

「……あぁ、あれは街でも時々使っている方を見かけますね。」

「えぇ。森だと気をつけて探せば、すぐに見つけられるからみんな使うのよね。

 街のハンターは、また生えてくるように根から遠いところから切って使うのよ。」


 話している二人の様子は、まるで森林散歩のような雰囲気で緊張感はあまりない。

 おおよそ森の浅いところという事もあり、それほど気をつける獣もいないからこその余裕なのだろう。


 山場を乗り越え少しだけ気持ちが落ち着き多少の余裕が出たことから、やり取りを眺めていると、テオがナイフを取り出して弦を切り木から剥がし始めた。そして剥がした弦を手と肘にかけるようにして腕に巻きつけてまとめていく。


「弓を使うハンターは木登りが出来た方がいいけれど、フリーシアは木登りをあまりやった事ないでしょう?

 枝の少ない木の時は、こういう足縄を作ると木に登り易くなるの。」


 ロープのようにまとまった弦を少し切り取って結び、両足の先を入れて少し余る程度の大きさの輪っかを作った。

 首を傾げているフリーシアに大して、自分のつま先を輪っかに差し込んでそのまま足で木の幹を挟み込むようにして木にかけ、するすると木登りの実演を始めるテオ。

 がにまた尺取虫のような動きで、するすると上ってゆく。足縄が足と幹に引っかかることで、体重がそのまま足で木を挟みこむ力に変換されていて上り易そうになっていた。


 テオはある程度上ると、上る時よりもずっと早いペースで降りてくる。


「さ。フリーシア。実戦あるのみよ。」


 そう言いながら使っていた足縄をフリーシアに渡す。

 一瞬だけ『うっ』と戸惑ったような顔をしたフリーシアだけれど、こちらをチラリと見てから決意したように口を開いた。


「マコト様! ……フリーシアは立派なハンターになりますから!」


 そう宣言し、テオのしていた事の見様見真似で足縄を装備し木にかけ、木登り尺取虫の練習を始めるフリーシア。


 ソレを眺めながら『あの動きは……できないな』としみじみ思った。


 ダッコちゃん人形のような恰好で、上る際に腰を後ろに突き出し、上へと伸びる際にどうしても力むから、どう考えても腹筋を使う。つまりウンウンが直腸を刺激する行為。とんでもない危険行為だ。


 最悪の事態を想定し、厳しい顔にならざるをえない。


「……何を難しい顔をしているの?」

「ふぇっ!?」


 声の方向を向けばアリサがいた。

 あまり話しかけてくるイメージもなかった為、慌ててしまう。

 また変な返答をされたアリサも同様に少し慌てながら口を開く。


「いや、その……難しい顔はおかしかったわね。顔が見えないんだものね。

 口の形よ……そんなに力が入っているような顔は珍しいと思って。」


 『アリサに結構気にして貰えてた!』『アリサに声をかけて貰えた!』という驚きの気持ちが喜びを生み、ほんの一瞬ウンコの事も忘れ喜びの気持ちが天に昇る。


 だけれども『カッコよくあろう』と決めていた事から、すぐに意識を取り戻して慌てる気持ちを心の中に押し込み、わざと平気な顔をしてクールな感じで返答を返す。


「いや……ちょっと気になる事があってね……いや、なんでもない。」


 本当に特に何もない。

 お腹の具合しか気になっていないが、森に気になることがあるような意味深な雰囲気を発する。

 謎多きミステリアスクールはカッコイイはず。そう思っての言葉だった。


「気になるって……なにが? 何かいたの? 異変はすぐに共有してくれない?」


 そう返される事を考えていなかった。

 てっきり「そう……」と意味深ヒロイン的な流され方をして終わりだと思っていたけれど、よくよく考えれば今は協力して探索しているのだから聞き返されて当然だった。


 何も考えずに雰囲気で発するという自分のミスに気づいてしまった。だけれども、ミステリアスクールは慌ててはいけない。謎多きミステリアスクールは決して慌てないのだ。


 とにかくカッコつけてオッパイチャンス……いや、好感度を上げるのだ。


「いや……本当に大した事じゃないんだ……多分思い過ごしだと思うから……」


 吸水速乾の顔の布で良かった。


 この布でなければ、いつもと違う言動を頑張っている事が流れる汗でバレていたかもしれない。きっと泳いでいる目も見られていただろう。布万歳!


 じっと見られている視線を感じながらも顔を動かさずに固まり続ける。


「…………ふぅん。」


 納得したのかしていないのか分からないような返事で木登り尺取虫フリーシアに視線を向けるアリサ。


 内心でホっと一息つく。


 だがこの安心がいけなかった。

 この隙を逃さず、変則的なウンコしたい波が襲ってきたのだ。


「――んっ!」


 波の衝撃に少しの声が漏れ、すぐさまキュっと尻を締める。

 アリサがこっちの変化に気づき視線がこちらへと向いた。


「きゃあっ!」


 だが同時にフリーシアの驚いた声が響く。


 こちらに向いたアリサの視線も声に引き寄せられていく。

 フリーシアの使っていた足縄が切れてバランスが崩れ、テオの身長程の高さから落ちそうになっていたのだ。

 だがなんとかフリーシアは落ちずに堪えて踏ん張り、そして体勢を整えてから降りてきて問題は無かった。

 そしてこっちの変則的な波もキュっと締めた事で山場はスッと通り過ぎ、ホっと胸をなで下ろして小さく息を吐く。


 息を吐き終わるとアリサがまたこっちを見ている気がした。


「……まさか足縄が切れるのを察知したの?」


 隣から聞こえた声に顔を向けると、アリサが難しそうな顔をしていた。

 正直、襲ってきた波のせいで何も考えられなくなっていた事から何が起こったかを把握しておらず、ただアリサと見合ってしまっただけになっているので愛想笑いを返しておく。


 愛想笑いを受けたアリサは目を閉じて首を軽く振り、前を向く。


「ほんとにどこまで別次元なの……」


 そう小さく呟いた。



--*--*--



 木登り特訓は中止となり、また移動しながら探索を続ける。

 本日の探索のメインは『食べられる物探し』となった。


 季節が秋ということもあり、自生する植物の中にも食べられる物を見つけ易く、量も十分に確保できる。もちろん食べてはいけない物もあり、きちんと食材かどうかを判断できるのもハンターにとっては重要な知識。

 そして何事も経験して知るのがもっとも身に付くというテオの持論だったので、みな自分で採ってあつめている。


 こっちとしても何かをしているのは気が紛れた。

 意識が逸らせるだけでも有難く、とりあえず食べられそうと思った物はとにかく色々採ってテオやアリサに見てもらう。


 ただ、驚いたことに食べたことのある幾つかの食材に毒性があると言われて少し怒られたので、もう誰かが一緒の時は茸だけは取らないことを心に誓った。


 フリーシアも木の実や小さな果実、むかごなんかを集め満足そうな顔をしている。


「さて、とりあえず私達が食べるには十分な食材も集まったし、今日のところは日が高い内に野営準備にかかりましょうか。

 さて、ここで問題ですフリーシア。場所に関わらずきちんと体を休める事が出来ないと良いハンターにはなれませんが、身体を休める一番の方法は何でしょうか?」

「それは……眠る事でしょう?」


「そうね、眠る事。正解よ。

 でも森には危険な獣がいるから安心して眠る為には工夫と協力が必要になるわ。

 例えばこの辺りの獣であれば、ハーブの煮詰め液を撒いて火を炊いていれば向こうが避けてくれるようになるから、念の為に一人が番をしてれば充分に休める。

 ただ、森の奥になると逆に火を目印に集まってくる獣も出てくるから、あくまでもこれは森の奥では通用しないという事を覚えておいて。」


「えっ?」


「ん? どうかした? マコトくん。」

「いや……その、普通に火を獣避けに使ってまして……結構衝撃的な事実だったというか……あ。あそこはまだ奥地ではないとか?」


 テオがどう反応したものかという顔をし、フリーシアが私に嘘を教えたの? という疑惑の顔をテオに向けた。

 それを見たアリサがすぐに口を開く。


「貴方の場合は、獣の方が貴方を避けているんじゃないかしら?

 奥地に行けば行くほど、獣も生存の為に工夫する賢いのが多くなるもの。」

「あぁ……それとても納得だわアリサ。

 地竜の気配を感じたら赤熊も逃げ出すっていうものね。地竜より強いマコトくんなら……当然かも……」

「流石です! マコト様っ!」

「あ、はい……」


 なんとなく人間扱いされていないような疎外感を感じつつも、とりあえず納得しておく。


「さて、じゃあこの季節、快適に眠る為に必要なのは防寒よ。地面からの冷えや風を防ぐ必要があるわ。

 なので簡単にでもベースキャンプを作る事が必須よ。」


 とりあえず意識をウンコから逸らすべく、何かしらの行動をしていたい気持ちから手を上げる。


「はいマコトくん。」


 まるで先生のように質問を許可するテオ。


「よかったら防寒の為のキャンプできる所を作ります!」

「あら……ちなみにマコトくんが作るのはどんな感じを考えているの?」

「こんな感じです。」


 膝を折って地面に手を付ける。


 もちろんかかとで肛門をがっちり押さえこんで、パーフェクトな安定感だ。

 肛門ロックをしたことで気持ち的に余裕を得たことから、集中して魔法を使う。

 土で壁を構築し、そして屋根も作りだす。ついでに暖炉と空気穴、窓枠も作っておく。


 段々楽しくなってきた。

 楽しくなっていれば、ウンコしたい気持ちは忘れられる。


 石を集めて溶かしたら窓枠に入れるガラスが作れないか気になり、火魔法の高熱を石にブチこもうとした――


「はいはいはいっ! そこまでそこまでっ!」

「流石ですマコト様っ!」


 テオの大きな声に中断され我に返る。


「マコトくんスゴイ。

 あなたがいてくれたら本当に快適に過ごせるのね……頼もしいわ。

 ……だけど、今日はフリーシアに街とは違う不便さも理解してもらいたいから……折角用意してくれたけれど…あまり快適すぎても勉強にならないの。ごめんね。」

「流石ですマコト様っ!」


 キラキラと興奮し、同じ言葉しか発しなくなったフリーシア。

 そういえば初めて魔法を使っているのを見せた様な気がする。


 鼻息も荒く、今にも抱き着いてきそうな雰囲気だ。


 だが、今は抱き着かれるのだけは勘弁してもらいたい。

 なぜなら、かかとで押さえこんでいる安心から、逆に立ち上がれなくなってしまったのだ。



 そして切り替えて立ち上がろうとして理解する。



 今は『あ、やばい』状態なのだ。

 動いてはいけない。


 もちろん抱き着かれて肛門ロックが外れるようになることも非常に危うい。


 肛門ロックの安心感のせいで『よしっ! 通れ!』と肛門が平和ボケをしているのだ。

 その隙を逃さず、お腹は既に痛い。腸の中で『早く出せ!』と叫びながら暴れ、腹痛へと変化している。

 このままでは間違いなく立ち上がり脱糞してしまうかもしれない。


「ほらフリーシア。

 あなたはまずは一般的なキャンプの仕方を学びましょう。

 木の枝を切って葉をかぶせたりしてベースキャンプを作る方法を学びなさい。」

「流石ですマコト様っ!」


 動いたらマタドールに狙いを定めた闘牛のようにフリーシアが飛んでくるかもしれない。

 だが、今は華麗なマタドールのように動くことなどできはしない。


 急激な変化に脂汗が滲みはじめる。


 腹痛は急激に悪化し、盲腸にでもなったのではないだろうかと錯覚しそうな痛みに進化した。

 かかとでロックしたまま前かがみになり、なんとか波が去るのを祈る。


「……どうかした?」


 アリサの声だった。

 だが、今は返事を返す余裕もない。


「……マコトくん?」


 アリサの声で、テオが変化に気づいてしまった。

 様子を伺うような声色である事が否が応にも分かる。


「マコト様? いかがされました?」


 フリーシアまで正気に戻ったのか、心配そうな声。



 言えない。

 とても言えない。


 この状況で『ウンコしたい』だなんて。


 泣きたい気持ちを堪える。

 だがもう腹も尻も限界は近い。


 このままではウンコ漏れ太郎コースだ。


 それだけは避けなくてはならない。


 だがもう無理だ。

 我慢できそうにない。


「……すみません…………ちょっとだけ……離れます。」


 もう言葉に出した時に腹は決まっていた。


 漏らす位なら、離れてノグソして戻ってくると。



 最後の力を振り絞り、ケツに力を込めて締め上げる。そしてクラウチングスタートのようにゆっくりと腰を上げる。


 ロックが外れた。

 だが、まだ辛うじて括約筋の力で漏れはしなかった。



「う……ぉおぉおおっ!」



 走った。


 無我夢中で走った。

 最後の力で耐えきれる限界までこの場から離れようと走った。


 走りながらズボンを緩めて脱ぐ準備をすすめ、パンツとズボンに同時に手をかける。

 一気に膝までずり下ろし、しゃがみながら両足でブレーキをかける。

 慣性の流れにのり、しゃがんだ体勢を保ったままドリフトをかけ、くるんと半回転して止まる。そしてようやく解き放つのだった。

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