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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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43 協力関係

 真面目な顔でフリーシアの話題を出し、話の転換を図る気でいるマイラを前にして、私は本当に彼女と協力していいのか迷っていた。

 迷わざるを得なかった。


 私が彼女に懸念していたのは私利私欲の為にマコトくんを利用し、私やアリサがその渦中に巻き込まれることになるかどうか。

 そしてやはり彼女の目的は私利私欲の為でしかなく、彼女が動く時には巻き込まれるだろう未来が見えた。


 ただ、そういった未来が見える程の言葉だからこそ、その放たれた言葉には真実味もあるように思える。


 マイラに対している私達も結局のところ私利私欲で動いているのだから、当然彼女の目的を否定する事もできないし、そんな権利もない。

 仮に付き合いは短けれど友人という立場から彼女を見てみれば応援して然るべき理由にも聞こえた。


 だけれど、どこかでマイラの話を信じることができない自分がいるのも、また確かなのだ。


「あぁ……あの旦那様ならありえますね。

 なんせ私の初物に随分とご執心でいらっしゃいましたから。」

「貴族間では噂にもならないけれど、騎士団にいるとよく噂を耳にするよ。『お盛ん』だとね。さてどうしたものかな。」


 このまま先のマイラの話が流れていきそうな雰囲気に、私もある程度は聞けたという少しの満足感もあり、その空気を受け入れようとしていた。


 その時、アリサが口を開く。


「ねぇマイラ。その話に移る前に一つ聞きたいことがあるんだけれど、いい?」

「うん? ……なにかな?」


「質問の前に、少し話をするわね。

 ……うちの姉についてなんだけど、私達に血のつながりがない事は知っているわよね?」


 驚いたような顔をして見せたあと普通の顔に戻すマイラと、片眉だけを上げて見せるフリーシア。

 この中で一番驚いているのは『なぜ急にそんな話を?』と思わずにはいられなかった私だけのようだった。


 思いのまま口を挟みそうになったけれど、アリサの真意が掴めずに口を噤む。

 アリサは普段、一歩引いてみている分、わざわざ話をする時には無駄な話をすることがなかったからだ。今の話にも何かの理由がある可能性があった。


「『知らなかった……』と言った方がいいかな? と思ったけれど、これでも一応色々と責任のある立場にいるからね。調べて知っていたよ。君たちはこの街のハンターの中では有名な方だからね。」

「そっちの方が都合が良いから構わないわ。

 ご存知の通り、私はテオの保護の下で生きてきたの。

 そしてウチの姉はね……血が繋がらないからこそ、それを感じさせないほどに私を大切にしてくれている。とっても過保護なのよ? テオって。私ももういい大人なのにね。」


 言葉を放って一人クスクスと笑うアリサ。

 ひとしきり笑ってからゆっくりと目を細める。


「あまりに過保護すぎてね、自分の事よりも私の事ばかり優先して考えるの。

 今のテオの顔を見てもわかるでしょう? 頭の中で、さっき聞いたあなたの話から私に危害が及ばないかどうかを考えている顔よ。今の顔。」


 少し困ったような表情を浮かべるマイラ。

 そんなマイラをじっと見据えるアリサ。


「だから私は貴方に問わなきゃいけないの。

 貴方が私達を殺そうと思うのはどんな時なのかを。」


 肩を竦め両手を前に出すマイラ。


「いやいやいや! 私がそんな手段を使うはずがないだろう? 怖いこと言わないでおくれ。」

「えぇ。そうね。

 私は一緒に地竜と立ち向かった貴方の姿を知っている。

 私が見たマイラは、命の危機にあって尚、清廉なまでの潔さを持っていたわ。

 例えそれが貴族の娘という立場からくる悲観が生んだものだったとしても、あそこまでの真っ直ぐさはそれだけで得られるものではないと思う。マイラという人間の本質だと感じた。

 だから、例え『彼』というマイラの悲観から逃れる術を得たとしても、貴方の持った正々堂々とした性質まで変わることはないと私は信じている。」


 マイラの表情から笑みが消え真剣さが表情に現れる。


「もちろんマイラという人が暗殺を企むような人間ではないとしても、彼の存在の特異性からが、貴方の性質を超えたところ。貴族という立場を反映しなくちゃいけなくなるかもしれないことは充分に理解できる。当然よね。

 だからこそ私達は、貴方から見て『私達が何をした時に私達の排除を考えるのか』を知っておく必要がある。

 そしてマイラ……貴方もまた私達にとって踏み込むべきではない領域を知るべきなの。貴方が私達の処分を考える自由があるように、私が貴方の処分を考える自由もあるんだもの。

 私の剣の腕は知っているでしょう? 一対一で戦ったとして無傷で生き残れる自信はある? 貴方自身が褒めてくれた腕よ?」


 緊張感が一瞬だけ漂う。

 だけれどアリサはすぐに笑顔を作り、次いでマイラが両手の平を上に向け、その緊張感は消え去ってゆく。

 そのままアリサは続けた。


「この限られた人数の中で真に協力関係を築きたいのであれば誰一人として裏表を作るべきではない。

 毎回こうして腹の探り合いをして無駄に時間を浪費するの? そんなのは私は御免よ。面倒くさい。

 お互いに、きちんと『これだけはやるな』という落としどころを話し合いましょう。

 そして望む結果になるように、協力できるところは協力して行けばいい。 どう? 違う?」


 アリサの話を聞いて溜息が漏れる。

 余りに一直線で正論。シンプル。


 単純に考えすぎている。

 貴族という人間は、それ(・・)をうまく操ってしまう人間達なのだ。


 そう思いながら私はマイラへと目を向ける。

 すると、マイラは珍しく目を閉じて耳の後ろを小さく掻いていた。


 そしてわかりやすく口から息を細く吐いて目を開いた。


「……私があなた達3人の排除を考えるとしたら、今のところ『故意に有力者への密告につながるような行動を取る事』かな。」

「ん~……その定義は範囲が広いわねマイラ。もっと分かりやすくならない? 私みたいに『私を含め、私が親しい者の命を脅かす行為を取る事』とか。」


「あのねぇアリサ……これでも私かなり譲歩しているのよ?

 私は要は、彼の情報をとにかく漏らしたくないの。は。

 とはいえ彼自身がどう動くかもわからないから、そんな中でどうしようもなく漏れるような部分は我慢して飲み込むって言ってるの。

 つまり簡単に言えば彼の絡む件に対して、私が敵対していると判断する行動を取らない限りは我慢するってこと。」

「そんなのはおかしいわマイラ。

 あなたが間違った行動をとっていたとしたら敵対行動はとるもの私。」


 間髪入れずに返答したアリサに、椅子をぎしっと鳴らしながら呆れたようにマイラが答える。


「何を言ってるのよ。アリサの顔についている口は飾りなの? そう思ったのなら、敵対行動を取る前に、まずは私と話をして私にそういった行動させないように説得なさい。貴方が貴方の口で私に道を説いて、正しいと思う方向に正せばいいだけの話でしょう?」

「それもそうね。話す余地があるのならそうしましょう。」


「余地はあるわよ問題なく。

 そもそも私の本家は遠い。このカーディアが領地からどれほど離れていると思うの?

 そんな私が秘密裏に動こうとしたら他の貴族の協力が必要になるのは明らかでしょう? 協力を願えば腹を探られることにもなる。

 今だってわざわざこんな店で話をしているくらいなんだから、そんな面倒になりそうな事は私だって最後の最後までしたくないのよ。だから余地はある。わかった?」

「えぇ。理解できたわ。」


 ニコリとほほ笑むアリサ。

 諦めたように小さく息を吐くマイラ。


「私は……『マコト様に対して色目を使う』でしょうか。」


 ポツリと呟くフリーシア。

 ジト目で見るマイラと、呆れたような顔のアリサ。


「あぁもう驚いた。なぜフリーシアは私達と対等な立場で話ができるつもりでいるのかが分からないんだけど……アリサは分かる?」

「さぁね。私みたいに戦える力があるでもなし、マイラに条件を出せる程の隠し玉を持っているのかもしれないわよ。

 まぁ……どちらかと言えば、されるがまま受けいれるしかないような立場には思えるんだけど。」

「だよねぇ。」


「あら? 私を甘くみないでください。

 マコト様に愛される為なら私はなんでもやるつもりです。そう遠くない内にあなた達がどれだけ邪魔をしようとも、マコト様の中に女として存在するのは私だけにしてみせますから。」


「ふふっ、まだ実現できるかどうかも分からない宣言ではあるけれど、そう言われると私は色目を使うわけにはいかないな。

 それに元々応援する立場でもあるから。安心していいよ。フリーシア。」


 小さく笑い始めるマイラ。

 和んできたような空気と、『素』と感じられるマイラの表情に、アリサの言うように真にマイラと協力関係が築けそうな気がしてくる。

 私の取り越し苦労をあっという間に解消してくれた、頼りになる妹に一つ苦笑いをこぼしながら私も口を開く。


「でもフリーシア。こちらが使わなくても彼が色目を使ってきたら、それは止められないわよ?」


 目を見開くフリーシア。

 半笑いの私の顔をみて呆れるアリサとマイラ。


 私はいつも通りの笑顔に戻り、マイラに向けて口を開く。


「私の条件は『アリサと私、そして私に関わる人間を脅威に晒さない事』……これが守られている内はマイラ。貴方への協力は惜しまないわ。約束する。

 それに今日話をして、私自身マコトくんに興味も沸いたから。私達はいい関係を築けると思うわ。」


 右手をマイラに差し出す。


「……嬉しいよ。私達が真に協力関係を結ぶ事ができたのは。」


 マイラは右手を取り、固い握手を交わす。

 そしてマイラは手を放してすぐにアリサに右手を伸ばす。


「アリサの言葉がなければ、こうはならなかった。

 ……なんだかんだ言っても、いつもアリサには助けられているような気がするよ。有難う。

 そしてこれからも宜しく。」


「私は単に面倒なことが嫌いなだけよ。私は私にできることをするわ。

 ……これからよろしく。」


 一人放置されていたフリーシアが机を両手で叩いた。


「いーでしょう! テオさん! いいえテオ! マコト様に関わることで貴方に負けるわけにはいきません! 色目なんて使わせないんだから!」

「はいはい。これから仲良くやっていきましょうねフリーシア。流れとは言え貴方にもハンターについても教えることになっちゃったし。それに男を落とすには客観的な目も大切よ? お互いによく見て話をしていきましょう。ふふっ。」

「お断りよ! ハンターはマコト様に教えて頂くわ!」


「いやいや、フリーシア。さっきの話に戻るけれど、君、狙われているんだよ?

 勤めていたお屋敷の主。ヴィニス・アークラム・ハギンスに。断るよりも先に協力を仰ぐべきだろう? 味方は多いに越したことは無い。」


 マイラの言葉にフリーシアは鼻息荒く言葉を飲み込んで席に座るのだった。



--*--*--



「くぅっ! なぜこんなにも違う!」


 マコトは自分の胸を揉んだ。

 固かった。



「ここならどうだ!」


 二の腕を揉んだ。

 筋張っていた。



「……ええい。ならば」


 ケツを揉んだ。

 なんとなく近い気がした。


「くぅ……」


 だけれどケツは、どこまで行っても自分のケツでしかなく。

 ただただむなしいだけだった。

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