表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/100

41 探究者同士の会話

「…………」

「…………」

「流石ですマコト様!」


「……あ……はい。」


 フリーシア以外の沈黙。

 この気まずい沈黙にマコトは覚えがあった。


 日本にいた頃、なぜか自分が喋ると周りがしんと静まり返る事があったのだ。

 こういった場が凍ったような空気が漂うと、自分が他の人達の気分を害してしまったしまったように感じ申し訳なくなってしまう。


 そして


 『楽しい空気を壊してしまってすみませんでした』

 『空気が読めなくてごめんなさい。』

 『あれ? もしかしなくても……みんなから嫌われてますか?』


 という思いが一斉に沸き起こり、今すぐこの場から逃げ出したくなる。


「流石ですマコト様!」

「…… ()…… (あ、りがとう) (ございます)……」


 何となくどう反応していいのか分からないけれど、とりあえず好意的な雰囲気を発してくれるフリーシアの存在に少しだけ救われる。

 ただ、これからなにをどう発言していいのかが分からない。

 また自分が発言したことで同じような空気が続いたら思うと怖くて仕方がなく、ただ下を向く事しかできない。


 下を向きながらもどうしても気になって、チラチラとテオとアリサに目を配る。


 テオの開いていた口は閉じ、代わりに目を閉じて俯いて頭を抱えていた。

 アリサはといえば考えるのを放棄したのか、潰れた獣を見て固まっている。

 その二人の姿に、ただ『ごめんなさい』という気持ちだけを抱えて下を向き続けるのだった。


 ――しばらくしてようやくその空気に気づいたのか、テオが顔を上げ口を開く。


「あ、ごめんなさいマコトくん。

 ……私には貴方の話が難しすぎたというか、喋るのが早くて理解が追いつかなかったというか……興味はあるんだけれど、あまりに消化できない事が多すぎたの。

 そのせいで変な空気を作っちゃってごめんなさい。決して貴方の話に濡れ毛布を被せるつもりはなかったの。」


 テオが動いた事で、アリサも動き出す。


「……ねぇ……今のって、魔力を使ったのよね? どういうやり方でああなったの?」


() (あ、れは、その)…… (すみません)

「いや、別に責めてるわけじゃなくて、どうやったのか知りたいと思っただけ。私でもできるかどうかとか――」

「ちょっと貴方ねぇ、物を教えてもらおうって立場のくせに随分とマコト様に対して無礼な口を聞くのね!」


 憤慨したようにアリサに向き直り口を開くフリーシア。その言葉はあからさまに怒気を孕んでいた。


() (あ、ああ)……」


 さらに空気が悪くなるような気がして、一層声が小さくなってゆく。


「はいはいっ! 待ちなさい。」


 空気を割るようにテオが数度手を叩く。


 そしておもむろに近づいて来たかと思うと、両手でしっかりと手を包み込むように握って口を開く。


「マコトくん。

 あなたの魔法についての話は、とてもすごいと思うの。

 だけれど私はあまり理解できなかったのがとても悔しい。

 だからお願い。もう一度説明してもらえないかしら? できれば私が分からない所が出てきたら質問させても欲しいの。」


 ぐぐぐと手が胸に触れるほどに接近する。

 もちろんそれを見たフリーシアは目をひん剥くが、当事者のマコトがその事に気づく事は無かった。


「は、はい! かかか、かまいません!」


 そしてマコトがお姉さんのお願いにも抗えるはずがなかった。



--*--*--



「ちょっと待って、今のマコトくんの話だと、私達が魔法だと思って使っているのは……なんていうの? 自然現象みたいな物ということ?」

「う~ん? 自然現象……いやちょっと違うかと。

 自然現象と呼ぶには不自然過ぎるから……人為的に起こす現象の方が相応しいかと。」


「いや、そういう意味じゃなくて……私は自分の身体から魔力を放出して、その私から出た魔力が形を変えていると思っているのよ。

 例えば私が火を起こす時は、魔力を放出して火を作り出しているじゃない? この火は私の魔力を使って燃えている物で、この火が自然にある物が作用して作り出されているというのは納得いかないんだけれど。」


 テオの立てた指先の少し離れた所に、ポっと灯火が灯る。


「あぁ、魔素の絡みの点でしたか。

 ん~……『火』が起きるというのは『何か』が燃焼しているから火が起きているワケですが……分かり易く例えるなら『たき火』を想像してもらえばわかるように、木を燃やして火が発生しているでしょう?

 では、今のテオさんの作り出した火は『何を』燃やして火を起こしているのか? テオさんはこの燃料となっているのは自身の魔力だとおっしゃった。ですが、もしそれをテオさんの魔力だけで賄っているとしたら、今現在とんでも無いエネルギーをテオさんは消費し続けている事になるはずだと思うのです。でも事実として、この程度の火はそんなに負担にはなっていないのでは?」


「そうね。この程度で疲れる事はないわ。」

「その『疲れない』という事が何よりも証拠だと思うのですよ。結局魔力というのは今、燃えている火の『燃料』なのではなく、その燃料を『くべる為に動いている力』の方こそが納得しやすいのです。そしてそれが魔力の本質なのだろうと。」


「だとしたら私の認識している湯気のような魔力のイメージはどう説明を? 人によって捉え方も違う。一律して存在する物だとしたら捉え方が違うのはおかしいと思うの。自身から漏れ出ている魔力だからこそ、その人によって捉え方が違うというのが道理ではなくて?」

「う~ん……その湯気と捉えている物が『燃料』となる魔素だと思うのですよ。おおよそ魔素の中にも『燃えやすい状態になっている魔素』『水になり易い魔素』『物質化しやすい魔素』など様々な魔素が存在しているのではないかと思うのです。そしてそれを捉えることができる人だけが共通したイメージを持つのだと――」



--*--*--



「いや、だからマコトくん。そのちょいちょい出てくる変な単語は何? ソナー? とか言われてもお姉さんわかんないの。」

「んん~……まぁ確かに感覚的に使っている物に名前がついててもわかるはずがござらんわなぁ……

 ええと、あ。そうだ。こうして話をしていて『声』が聞こえるのは何故か考えた事はあるでござるか?」


「え? ないわよ。そういうものだから。としか答えようがなくない?」

「んっふっふっふ。甘いでござるなぁテオ女史は、『声』とは『震え』。つまり音の波なのでござるよ。」

「んん? ちょっとよくわかんない。教えて。」


「うぃ。声は、とどのつまり人の声帯から発せられる音……あ、声帯は喉のこの当たりにあるでござる。

 この声帯が震える事で音を出すのでござるが、なぜ震えることで音が発生し、そしてまた相手に届き、聞こえるのか。

 これは、空気がその震えを伝播し、声帯から発生した震えを耳の鼓膜まで届けるからでござるな。」


「ん? 伝播って?」

「失敬失敬。伝えることでござる。」


「ん~? 喉から出た震えを、空気が伝えて、耳まで届く……駄目だわ。なんだか当たりまえのように思えて理解できない。」

「分かり難い時は実験でござるな。ちょっと壁を作るでござる。」


 土魔法で作りだされた壁がテオの四方を覆う。


「テオ女史~。テオ女子~。聞こえるでござるか~。」

「なんとか~」


 壁を消し去る。


「今の拙者の声は壁ではなく上から聞こえてこなかったでござるか? そしてテオ女史は感覚的に上に向けて声をかけていたはず。

 これは壁が何かを遮っていたからそういう行動をしていたはずでござるが、一体何を遮っていたのでござろうか?」

「……音の震えを壁が遮った。そして唯一開いている上からだけ震えが伝わってきたということ?

 あれ? でも空気が震えるってどういうこと? 何か震えを伝える物質があるって事?」

「あぁ、それはでござるな――」



--*--*--



「なるほど総合して考えると、確かに大気中に魔素が存在して、それに作用する力が魔力であると考えるのは筋が通っているわね。いいえ。むしろそうでなければ成り立たないとも思える。」

「おおっ! 分かってもらえて拙者感動!」


「私も驚いているわ。こんな見方があったのね……尊敬するわ。マコトくんのこと」

「いやいや、テオ女史こそ感覚だけだったはずなのに、理解力が凄まじい物があるでござるよ。」


「あらお上手ね。ありがと。」

「いやいやいや。にゅふふ。」


「でもマコトくん。ここまでの話は『私達のような魔法に限って』とも言えるわ。アリサのような身体能力強化や武器に魔力が使えるのはどういう仕組みと考えたらいいのかしらね?」

「ふむ? 身体能力強化でござるよな。たしかにコレは魔素説でどう説明したらいいか拙者もよくわからんでござる。ちなみに実際の魔力の流れを見ることは?」

「ええ。もちろんよ。アリサ。」


「…………」


「アリサ?」


 テオが目を向けた先には、イスを拵えてそこに腰掛けているアリサが居た。


「あ、呼んだ? なに?」


 気怠けだるそうに顔を上げるアリサ。


「マコト様ぁ……」


 声のした方向を向けば今にも泣きだしそうな顔をしているフリーシアの姿。


 ようやくテオとマコトは自分達の置かれている状況を把握した。


 自分達以外が置いてけぼりになっている現状を。



「「 ご、ごめんなさい。 」」



 陽も傾いていたので解散する事になった。



--*--*--



 街に戻って皆で食事を取り、嫌がるフリーシアをマコトから引っぺがして別れたテオ達。

 帰り道を歩き、分かれ道に差し当たって貴族区画へと向かおうとしたフリーシアの肩をテオが止めた。


「……ねぇフリーシア。今日は夜。マイラは居るのかしら?」

「ハァ? 居るんじゃないですか? 多分。

 どうせ何があったか私に事細かに聞き取りするつもりなんだろうし。」

「そう……じゃあ私も行くわ。」


 テオの言葉に眉間に大きく皺を寄せるフリーシア。


「はぁ? 何言ってんですか? いきなり行って会えると思ってんですか? あの人一応お貴族様なんですよ?」

「居るのならば会えるわよ。それだけの理由があるもの。

 マイラは彼の圧倒的な力しか見ていない。私もそうだった。

 だけれど今日彼と話して分かったわ。彼が異常なのは力や魔法だけじゃなく、その知識も相応に異常よ。」


「マコト様を異常とか言わないでもらえますか?」


「気に障ったのなら『稀代』でも『非凡』でも『例外』でも自分の頭の中で変換しなさい。

 彼が街に打ち解けて、他の誰かと話をしてその知識を広める前に対応を考えておかないと、マイラにとっても私にとっても良くない結果になる。

 それはもちろんフリーシア。あなたにとってもなのよ。」


 スっと目を真剣な物に変えるフリーシア。

 それはテオの言葉が嘘偽りない事を確信したからだった。


「かしこまりました。マイラ様のご予定を確認して参りますので、こちらでお待ち願えますか。」

 

 フリーシアはすぐさま貴族区画へと動き出す。

 フリーシアの姿が遠くなるのを確認してからアリサが口を開いた。


「……マイラは信用できないんじゃなかったの?」

「えぇ。信用すべきじゃないわ。」


「だったらどうして?」

「アリサは彼の話はどこまで理解した?」


 両手の手の平を小さく上に向けるアリサ


「正直よくわからなかったわ。なんでテオがあそこまで話せるのか不思議に思ったくらい。」

「だと思った。

 私も彼が質問に答えてくれなかったら理解は進まなかったと思う。」


 苦笑いをしながら答えたテオの表情が真面目な物へと変わる。


「重要なのは、彼が質問に答えてくれた。そして『教えて』くれたということ。丁寧に私が理解できるように補足説明も加えてね。

 ……人に教えるという行為は、教える事について完全に理解しているくらいの知識が無いと出来ない事よ。

 彼は森で暮らしていたはずなのに、私の知らない事を沢山教えてくれた。どうして? どこでそれだけの知識を得たのかしら?」


「…………」


「今日沢山話して彼自身が害のない性格をしているのは理解したし、私が最初懸念していたような酷い事は起こらないようにも思える。

 だけれど彼の周りの人間がそうだとは限らないわ……だって私自身、今日彼と話して得た知識のおかげで前よりもずっと効率のいい魔力運用を思いついているくらいだもの。

 彼にとって何気ない話であっても、私達にとってはとんでもない価値がある可能性がある。それだけの人なのよ。彼。

 だからこそ、彼をかくまうつもりなら、信用できなくても信頼できる相手とは協力する必要がある。」


「……降りるという選択肢は?」

「……ないわね。」


 そこまで話すと、テオの表情が悪戯っぽい物へと変わる。


「それに……私個人としてもマコトくんに興味が沸いてきたからね。

 知性的だし……話してると意外と可愛いわよ? 彼。」


 アリサはただ驚いた顔をするだけだった。



--*--*--



「にゅふふふ……今日はテオ女史といっぱい話したでござるなぁ……楽しかったなぁ~」


 ゴロンと銀流亭のベッドに横になるマコト。

 顔は自然と笑顔になる。


「……あれ?」


 なぜかテオの事しか考えられなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ