4 付き纏う者
別人の視点で始まってます。
得るか、はたまた何も無いか。
ハンターの世界はとてもシンプルにできている。
狩る者と狩られる者。時にはそれが容易に逆転し、追い詰めたはずが追いつめられている場合もある。
だけれど私達ハンターは獲物を狩らずに生きていくことは出来ない。
ハンターは獲物となる生き物よりも優れた知識、知性を用いて『狩る者』である為の工夫を惜しまない。
言葉を用い仲間を作り、数の優位を用いて最小限の力で狩り、そして全てを得る。
得る力の無い者はハンターの世界では生きられない。
幸いな事に『身体』という商品があれば、男も女も身体が動く年までは街で生きていく事はできる。
それが辛酸を舐める生き方であったとしても、生きてさえいれば、そこにはきっと価値がある。
人間が生きる方法はハンターだけじゃないのだから。
……だけれど、ハンター程に誰もが挑戦でき、そして一獲千金の夢を掴める職業を私は知らない。
私の名前はアリッサ。
うだつが上がらないハンターの父と、名も知らぬ母の子。
それでも父はきちんと私を育ててくれた。
私は物心ついた時から父の背を見て育ち、自分もハンターになる物だと思い成長してきた。
だがある日、そんな父が帰らなかった。
帰らなかった父が私に引き継いでくれたのは、父に命を救われたと言う一人のハンター。
私は彼女の庇護の下、ハンターとして成長する事になった。
余り語らなかった父と違い、彼女は口から生まれた様な人で、私に色々な事を教えてくれた。
彼女の与えてくれた知恵の中で一番大きいものは性差を利用したハンターとしての動き方。父だけを見ていたとしたら今の私のスタイルは無かっただろう。
男と女は違う。
男は筋力、体力に優れている。
女は観察力、そして魔力に優れている。
今にして思えば父がハンターとしての成果が芳しくなかったのは、常に単独で行動していた事が理由だと確信できる。
単独での行動は得た獲物は一人占め出来るのだから見返りは大きい。取り分を決める必要もなく総取りだ。
だけれど、単独行動は限界がある。
そしてその限界は『諦める』という行動に繋がる事が多い。
大きな獲物は狩れず、狙う事を諦める。
そして獲物を狩っても運べずに必要な部分以外を諦める。
だから単独行動は手頃な獲物を狙うしか選択肢が無くなるのだ。
逆に集団になれば、男女差を活かしあって大きな獲物を狩る事もできるし、解体した獲物を分け合って運搬する事も可能となる。ハンターは集団で行動してこそ、真価を発揮するのだ。
集団では確かに取り分は少なくなるように見えるかもしれないけれど、実は一人で狩りをするよりもずっとずっと得る物は多い。
そして何よりきちんと仕事をすれば評価され、自身の名声も広がってゆく。
『アイツは役に立つ』
『アイツは信頼できる』
こういった評判は集団を形成するハンターにとって、とても重要な武器になる。
男女が組むということで時々間違いが起きる事もあるが、そういった事をした男のハンターは『アイツは手を出すヤツだ』と噂が立ち、耳ざといハンター達は男も女も遠巻きにする。
男も効率的な狩りの為には女の能力の重要性を理解しているからだ。
こういった事実を知った者は『私の父が女に手を出した』と思うかもしれないが、そんな侮辱は許さない。
単独行動のメリットはもう一つあり『自分の意思で家に帰る事が出来る』。
集団行動となると幾日も家を空ける事も多い。
単独は独断で帰る事が許される存在。
そう。私の父は、私の為に単独行動をしていてくれたのだ。
富や名声よりも私を選び、そして狩りをして育て上げてくれた。
散り様も人を助けて死ぬという立派な男。誇りある父。
私はそんな父を尊敬し、彼のようになるべくハンターとして腕を磨いている――
のだけれど……
「ねぇテオ……気づいてる?」
私は姉のように思っている女。父に助けられ私を庇護してくれたテオに小さく声をかけた。
「うん……どこからか掴めないけれど、見られている気がする。
敵意はあるような無いような……観察に近い感じかしら。」
「やっぱり。気のせいかと思ったけど私達がそう感じるって事は……そういう事よね。」
テオは一つ頷く。
「私、ロナンに伝えてくるわ。メリナは気づいていないっぽいから声かけておいて。」
テオはそう言って男達のリーダーであるロナンのところへと足を動かす。私もすぐに洞窟の中に気が向いている仲間のメリナのところへと向かう。
「メリナ……ちょっとメリナ。」
「アリサ! すごいわよあの中! 魔力で洞窟の壁の温度が低く保たれてるの! どれだけ魔力を使ってこんな仕掛けをしたのかしら!」
「凄いけれど周りに気を配ってみなさいな。」
「え?」
一拍だけ呆けたメリナは、すぐに視線を森へと向け探りはじめ、そして眉をピクリと動かし弓を握りしめた。
「なにこれ……いないような感じなのに、でも何かがいる気がする。気味が悪い……」
「テオもそう言ってたわ……つまり何かがいてこっちを見てる。判断はロナンに任せる事になるけど気は抜けないわよ。」
メリナが小さく喉を鳴らす音が聞こえた。
私もこれまでに感じたことのない気配に否が応にも緊張感が高まり、父が教えてくれた強張りを取る為の呼吸法を心掛ける。
膠着したような状況の中、テオがやってきた。
「すぐに動くって。」
「そう。」
チラリと目を向ければ男達は火を消し移動に向けて動き出していた。
私達が気づかなければ、戻ってきた人間と一杯やろうとでも思っていたのだろう。
ハンター同士であれば、ある種自然な流れ。
テオが森に注意を払いながら連絡を続ける。
「ロナンが言うには、貯蔵品は一級品ばかりで、この森に住んでいる事から、かなりの名のある男女ペアのハンターだと思う。姿を見せないで観察しているという事は顔を合わせる気は無い。放っておけということだろう。って。
今回の依頼の獲物の生息地の変動の理由もおおよそ察しがついたらしいから、これ以上観察者の機嫌を損ねない内に引き上げようってさ。」
私は森から感じ取れる気配に集中する。
「これが……ハンターの気配かしら?」
「さぁね。
でもロナンが補充分の食料の代わりに銀貨を多めに置いていくことにしたらしいから、その価値を理解してくれる人間であることを願うわ。」
「獲物がいなかったから食料が不足しているものね……許してくれるといいんだけど。」
「狩りの神に祈っておきましょ。」
こうして私達は誰も立ち寄らない森の奥深くの探索を終える事にし、街へと帰還した。
ただ気になるのは……7日間の帰り道。観察者の気配がずっと付き纏い、薄気味悪い感覚が離れる事がなかったこと。
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「くぅぅぅ! 男女混成とか! 男女混成とか! このパーリーピーポー共め! 拙者不純異性交遊は許しませぬぞ!
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ただの下心だった。