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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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30 楽しいお昼ごはん

 本日2回目の更新です。

 昼前に1話投稿していますので、読まれていない方は、そちらからお願いします。




「ふ、うふ、ふふ、私とマコト様だけの秘密。ふ、ふふ、ふ、ふふう。」


 自動昇降機に乗り込み操作盤の横に待機している少女メイドが、聞こえるか聞こえないかという音量で訥々(とつとつ)と独りちている。


「……ね、ねぇマコトくん? フリーシアに何かされたの?」


 金髪ふわふわさんが、更にぐぐっと身体を寄せて耳元で囁いた。


 色々と考えなければいけないような気がするけれど、この体勢はいけない。

 なぜなら腕を組まれた上に耳元に口を寄せているのだから、腕が、肘が、幸せ柔らか二重奏に挟まれてしまっている。


 これでは何かを考えようにも何も考える事などできはしない。


 男の脳は集中して一つの事だけしか考えられないようにできているのだ。マルチタスク的な処理は難しく、シングルタスクな処理に適しているのだ。シンプルイズベストなのだ。

 つまり柔らか二重奏の事が気になってしまえば、それに全神経を集中するほどに気になってしまい、むしろそれ以外の思考は排除され、どう最大限に幸せを甘受するかを思考し始めてしまうという事である。


 さらに柔らか二重奏と耳元囁きという悪魔的なコンボ。

 これでは思考停止もやむを得ない。


(んんっ。)」 


 故に、結果としてどうでもない言葉しか漏れず、素っ気ない反応となってしまう。



 だがその反応にテオは、もしや何かの弱みでも握られたかと邪推する。これはフリーシアが何かしかねないという恐れからくるものだった。そしてそれを気にする余り、普段なら気が付くであろう男の反応を見逃したゆえに起こった事。もちろんマコトの反応が元々挙動不審過ぎて、あまりに分かり難いという点もあったが、それは仕方がない。


 だが、フリーシアはそんなマコトの声に耳ざとく反応する。


 なぜなら、このメイド少女の中では、事実は別としても、既にマコトとは秘密を共有する程の親しい関係。自分にだけ秘密を明かしてくれる関係であると脳内補完されてしまっており、妻への道を他の女とは7馬身以上離しているような気持ちになっている。もう本妻まっしぐら気分なのだ。

 だからこそやはり夫の声の変化には敏感である。他の女が絡んだ事には特に。


 フリーシアは、ギギギギ、と音がしそうな様子で首だけをゆっくりと動かし視線をマコトとテオに向ける。


 マコトも流石に綺麗な顔の少女に注目された上で柔らか二重奏で幸せを噛みしめる事などできるはずもなく、グっと体に力を入れて固まる。

 テオもまた耳打ち密着状態がフリーシアに見つかることはよくないと察して腕を組んだだけの状態に戻す。


 もちろん未来の夫の腕が取られている姿を見たフリーシアの心は粟立つ。 

 だが、すぐに7馬身以上離している事実を思い返し、この女は身体を使って無駄な努力をしているのだ。自分と夫の心は心で繋がっているのだと心の中で鼻を鳴らして笑顔を作る。


「マコト様。先ほどは突然の事でしたので……驚きのあまり取り乱してしまい大変失礼いたしました。またお気遣いも頂き感謝いたします。

 あの事……については、マコト様が秘密にされたいようですし……マコト様の秘密はフリーシアにとっても秘密でございますので一切他言は致しませんので、どうぞご安心くださいませ。」


 だけど、やっぱり意味深な言葉だけは発しておいて牽制はしておく。

 そして顔を元の位置に戻しながら、テオよりも女としてリードしている事を嘲笑って口角を上げた。


 テオはその言葉に『もうある意味他言してますけど!?』と内心ツッコミを入れつつ、やはり何かあったと確信するのだった。


 もちろんマコトは注目が外れたことで肘から伝わる柔らか独奏会に集中しているので『あ。なんか機嫌なおってるみたい。よかったよかった。』くらいにしか思っていないのだった。



--*--*--



「やぁ、マコト殿。部屋は気に入ってもらえたかな?」

(はい。あの) (ありがとう) (ございます。)


「そうかいそうかい。それは良かった!

 ほら……テオ殿。いつまでマコト殿の腕を取っているんだい? 困惑してるじゃないか。」

「えっ、そうなの? マコトくん?」


(え、あ、あ。)


 金髪ふわふわさんの、まるで子供が寂しがるような表情を向けられ、どう反応するのが正解か分からなくなる。

 腕から幸せが逃げるのは残念だけれど、正直、延々エスコートされているような……悪く言えば介護されているような気がして迷惑をかけていないか気になってしまうから腕を組まれているのは動き難くはあったのだ。


「ふふっ、冗談よ。

 街の中だと必要かもしれないけれど、今は他の人も見当たらないし気にしないものね。」


 あぁ、幸せが離れていく。

 悲しい気持ちにもなるけれど、ホっともしている。


「さてさて、お昼なんだけれども、折角『銀流亭』を利用するのだから食事もここでとろうと思って部屋を借りてあるんだけど、それでいいかな?」

(あ、はい。)


「良かった。マコト殿も街に慣れてくれば外に食事に出たりもするだろうけれど、それまでは銀流亭の料理を食べるだろうからね。今の内に、お勧めなんかの説明もしておいた方がいいかと思ってね。じゃあ行こうか。」


 ニッコリと微笑んでから歩き出すイケメン殿。

 ご飯の事とか気が回っていなかったから気遣い達人で有難い。

 感謝しながら後に続く。


 案内された部屋は8人くらいで囲めそうな円卓の置いてある会議室のような部屋だった。


「さて、まずは結論から述べるね。

 今日本来であれば会う予定の無かった『フリーシア』だけれど、話し合いの結果、朝から夕方までの時間に限定してマコト殿の世話係を頼む事にした。マコト殿はそれでも良いかな?」

「どうぞよろしくお願い申し上げます。マコト様。」


(あ、はい。)


 頭を下げられて断れるほどの豪胆さはない。


「とりあえず今日の昼食もフリーシアが世話係として動けるかの様子見も兼ねて、給仕係をフリーシアに任せる事にしてある。

 宿の人間はこの部屋に入ってこないように手配してあるから、マコト殿の見たことのある人間しかこの部屋にはいない。気を使う必要はないから気楽に食事を楽しもう。」


 そう言うとイケメン殿は自ら椅子を引いて腰掛け、金髪ふわふわさんも、ポニーテールじゃないけどポニテさんも自分で椅子を引いて座った。


「どうぞマコト様。」

(あ、あ。)

  

 なぜか自分だけ椅子が引かれ戸惑いつつも腰をかける。

 程よい木の堅さをクッションの下に感じられる良い椅子だ。


「はぁ……まぁいいか。

 さてっ! この銀流亭では何も言わなければその日のお勧めが出てくるけれど、メニューから食べたい物を選ぶ事もできるんだ。」


 少女メイドさんからメニューが書いてあるだろう薄い革製の本を笑顔と共に渡される。

 次にイケメン殿の所に少女メイドが同じ物を運んでいくのを見て、とりあえず開いてみる。


「ん?」


 アルファベットとギリシア文字とロシア文字が混じったような言葉が羅列されている。

 まったく見たこともなく分からないはずなのに、何となく読めてしまう事に違和感を覚えつつも口に出してみる。


「……『エストラゴンの香る野鳥のバター炒め』?」

「へぇ! マコト殿は文字が読めるんだね。驚いたよ。」


 大きな声に驚いて顔を上げると注目が集まっていた。

 少女メイドさん以外の皆が意外そうな顔をしている。特にポニーテールじゃないけどポニテさんの目は『信じられない』と言わんばかりに見開かれていた。


「マコトくんすごいのね! 私は『野鳥のバター炒め』程度なら読めたけど、その前にはなんて書いてあるのか分からなかったわ。」


 自分がこの世界の文字を読める事にも驚いたけれど、文字を読めないという事実に脊髄反射的に『もしかしてオバカさんが多いのかな?』などと思いそうになって慌てて首を振って思考を消す。


 そもそもこの世界ではまだ馬車が活躍している時代。識字率は十分ではないのだろう。

 前の世界だって日本の識字率は99%だったけれど、海外では30%に満たない国だってあったんだ。いくら文化的だからといって文字が読めるのが常識なわけがない。


「ほら見て。アリサなんて最初から開こうともしていないわ。」

「だって必要ないもの。使わない文字なんて読めても仕方ないでしょう?

 それにこういう所ならわざわざ読まなくても『私は今日はアッサリした肉が食べたい気分だわ』とか言っておけばそれでオーダーは通るんじゃないの? 違う?」


「いや、違わないよ。その通りさアリサ。

 私もその方法でマコト殿に注文してもらおうかと思っていたんだ。だけれど『もしかしたら』と思ってメニューを用意させたら、この通り。素晴らしいよ。」


 ニコニコとしたイケメン殿の表情と手放しの賞賛に少し照れてしまう。

 なぜか少女メイドさんが誇らしげに鼻を高くした気がしたけれど気のせいだろう。


「で、あれば、メニューからマコト殿が食べたいと思う料理を選ぶと良い。

 もし好き嫌いが無く選ぶのが面倒な時は、アリサのように好みの食材を伝えると良いよ。」


「私は『今日はアッサリした肉が食べたい気分だわ』。」

「承りました。」


 少し投げやりな感じでポニーテールじゃないけどポニテさんが注文をし、少女メイドさんが蝋板にメモを留めた。


「じゃあ私はマコトくんの読んだ『エストラゴンの香る野鳥のバター炒め』だったかしら? それが良いわ。」

「私は、そうだなぁ……『季節の野菜と仔牛肉の煮込み』をお願いしようかな。」


(お、お、お。)


 なんという即断即決の嵐。

 2~3ページとは言え、沢山のメニューがあると、それだけでかなり迷ってしまい選べない自分には即決は難しい事だ。


 みんなが決まって注文を進める中、自分だけが決められない事に焦り、焦り始めた事にも焦りはじめる。


 その時、隣から優しい声が聞こえた。


「マコト様。私が小耳にはさんだところによりますと今日は良い鳥が入ったそうです。

 『エストラゴンの香る野鳥のバター炒め』は料理人も勧めるのではないかと思いますが、いかがですか?」

(そ、それで。) (お願いします。) (ありがとう。)

「お役にたてて光栄です。」


「マコト殿。飲み物はどうする?」

「お姉さんはやっぱりワインが飲みたいな♪」

「私も銀流亭のワイン……飲んでみたい……」

「あら? アリサが強請ねだるなんて明日は雨かしら?」


 珍しく乗っかってきたらしいポニーテールじゃないけどポニテさん。イケメン殿に目を向けると『マコト殿がいいんならいいんじゃない?』という顔と手の動き。


(じゃ、ワインも。)

「う~ん。そうか~。マコト殿が飲みたいのなら仕方ないよね。私も飲まないと。

 それじゃあフリーシア。それぞれの料理にあったワインをお願いするよ。」

「かしこまりました。」


 いい笑顔をしたイケメン殿の注文を受けて、オーダーを通す為か部屋を出る少女メイドさん。

 彼女が出てすぐにイケメン殿が口を開いた。


「マコト殿。一応、私達の話合いで、朝から夕方までの時間限定でフリーシアが世話係になる事に落ち着いたんだけど……何か粗相はなかったかい? 大丈夫かい?」

「そうよマコトくん。何かされたりしなかった?」


 急に真顔で心配され焦る。

 逆にこっちがYESロリータNOタッチに関わる粗相をしてしまったような気さえしていたので、急いで首を横に振っておく。


「「 ……そっか。」」


 二人そろって残念そうな顔を見せた。

 なんだかその反応に悪い事をしたような気がしてきてしまう。


「もういいじゃない。

 彼だってさっきみたいに注文を助けてくれる人がいた方が安心できるでしょう? フリーシアがいればとりあえず食事の心配はないわ。」


 ポニーテールじゃないけどポニテさんの呆れたような声。

 さっきの注文の焦りを見透かされていたような気がして恥ずかしい。


「まぁ……確かに私もマコト殿に冬の間、ずっと付きっきりというのは難しいからね……」

「私も。用事入ることが多いから助かると言えば助かるけど……」


「なぁマコト殿。とりあえず何か支障を感じたらすぐに私に言って欲しい。変わりの世話係とか、すぐに対策を取るから。」

「そうよ。マコトくん。何かあったら私でもいいからすぐに言うのよ? いい?」


 二人の言葉を聞いて、ポニーテールじゃないけどポニテさんは目を閉じて天を仰ぎながら小さく首を振った。

 自分でも過保護な感じがしてやっぱり恥ずかしくなり、自然と肩がすぼまってゆく。


 空気を読んだイケメン殿が一つ手を鳴らす。


「よし。じゃあ、この話はここまでとして食事がくるまでマコト殿が気をつけるべき注意点でも話しておこう!

 テオ殿もアリサも気の付くところがあったら言ってほしい。

 そうだな……まずは魔法についてだけど、マコト殿の魔法は規格外過ぎて目立つ。だから人前では極力使わない方が良い。できるだけ魔法を使わずに、なにか困ったことがあったら世話係に相談すると良い。」

(あ、はい。)


「そうね。あと身体能力も規格外だと聞いてるわ。

 できるだけ普通の人らしく振舞っておいた方が安心だと思う。」

(あ、はい。)


「この街の常識も知らないと思うわ。多分。」

(あ、すみません。)


 こうして食事が運ばれてくるまでの間、イケメン殿達から街で過ごすうえで気をつけた方が良いと思われる点の指導がまったりと続き、とにかく自分からは何もしないことが大事なのだと思う事にした。

 やがてフリーシアがカートを押して戻ってくる。


「失礼します。

 オードブルをお持ちしました。

 レバームースです。バゲットと共にお召し上がりください。」


「おおお……」


 フランス料理かと思う程の料理の出来。

 感動のあまり声が漏れる。


 夢中で眺めているといつの間にか自分以外の配膳も終わっていた。


「さぁ頂こうかマコト殿。」

「はい!」


 元気よく返事をしてから、輪切りにされて2つだけ並んでいるバゲットを手に取りムースをに塗って口に運ぶ。

 濃厚なのに軽いレバー。玉ねぎの甘味やハーブの風味も心地よく、程よい塩味が全体を締めている。


「んまい……」


 正直泣きそうになった。

 文化的なご飯。


 素材を活かすだけではなく、様々な工夫を用いて味に変化をつけて、味覚を喜ばせることに特化したご飯。


 最高だった。


「マコト様。オードブルには赤ワインが合うとのことですが、いかがですか?」

「頂きます。」


 この時、まさかこの後、修羅場が訪れるとは思ってもいなかった――

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