28 銀流亭フィーバー
本日2回目の更新です。
昼前に1話投稿していますので、読まれていない方は、そちらからお願いします。
「どうぞ。こちらがお部屋となっております。」
「……ども」
なにがなんだか分からない間に、とりあえず部屋に入る事になった。
イケメン殿や金髪ふわふわさんと、メイドさんのやりとりに後ろ髪引かれないでもない……けれど、なんだかお昼に改めて話してくれるみたいだから、とりあえずは自分の事だけを考えようと思う。
なんせ正直知らない人がきてびっくりしている間に話が進んでた気しかしないからよくわからないのだ。
メイドさんは泣いてたみたいだけど、すぐに泣き止むし、もうホントよくわからん。
それにしても、とりあえずエレベーターがあった事に驚いた。乗ってみて魔力の動きが感じられたから魔法が転用されているんだろうけれど、いよいよファンタジー世界っぽくてワクワクせずにはいられない。
「こちらがお部屋の鍵となっております。
この鍵をドアの取っ手に近づけますと鍵が開きます。鍵はドアを閉じる毎に自動でかかりますので、お部屋から出られる際にはお持ちください。もし鍵を持たずに出てしまいました場合には、お手数ではございますが当宿の者にお声掛けくださいませ。」
「はい……」
執事さんが紐にくくられた平たい石みたいな物を扉に近づけると鍵が開いたからビックリする。しかも部屋もオートロックときた。
正直忘れて出てしまいそうに思えて不安になってしまう。
部屋に進みドアを開けて止めている執事さんを追いかけて部屋へと入る。
「おおお……」
第一印象は『広い』だった。
天井まで3mはあるんじゃないだろうかと思える天井の高さ。
冬を快適に過ごすことが考えられているのか、床にはカーペットが敷き詰められており、L字型の7人は座れそうなソファーと黒い木材で作られ光沢のある机。
L字のソファーの向く正面の壁には大きな窓があり、そこからは街が一望できそうだ。
玄関から見た正面。ソファーの奥には棚が並べられており壺や器がディスプレイとして並んでいる。その棚の中央には通路とドアがあった。
その手前の脇には木製の椅子と丸テーブルがあり、簡単な書き物等ができそうだ。
至る所に照明もあり、高そうな部屋である事が演出されている。
「まずはお部屋を御案内させて頂きます。」
「…… 」
部屋のランクが高そうな事に、つい恐縮してしまい再び後についていく。
部屋に入ってすぐ左の扉を開く執事。
「こちらが化粧室となっております。」
洗面所とその上に小さな鏡が備え付けられていて、執事がレバーを捻ると水が流れてきた。
「こちらは水魔法で精製された水となっておりますので、どれだけでもご利用頂けます。」
「 」
予想以上に文化的で蛇口まである事に驚く。
次に執事が仕切られていたカーテンを開くと洋式の便器があった。
またもレバーを捻ると水が流れ出す。
「ご使用後はレバーを捻って頂くと清潔に保つ事が出来ます。」
「 ……下水道?」
「流れる水については、当宿の処理設備に送られて処理されます。」
「……あ、ども。」
どういう設備になっているのかに興味がわいてきてしまい便器をしげしげと眺める。
よくよく見ると便器の質も陶器とかそういうのとはまた違う質感なような気がする。
「う~ん……」
「一般的ではない形ですが、城等では普及しているタイプかと存じます。」
眺めている俺に補足説明をしてくれる執事さん。
途端に便器を眺めている自分が恥ずかしくなってくる。
「 」
「かしこまりました。」
先に立って歩きはじめ、ソファーを通り越して突き当りのドアを開ける執事さん。
「ベッドルームです。」
「わぁ……」
キングサイズやー!
まるで海外ドラマに出てきそうな大きさのベッドがドンと鎮座している。
飛び乗ってみたいけれど執事さんがいるのにそんなマネは出来ず、ただ体をピクンとさせるだけ。
左側に枕が二つ揃っていて、右側にはやはり窓があって街を眺める事が出来るようになっている。
部屋に入ってみると、クローゼットや簡単な棚も備え付けられていて、着替えも十分に保管できそうだ。
執事さんは更に進み、奥のドアを開く。
「ほわぁっ!」
風呂があって声が出た。
「こちらは浴室となっております。
シャワーは別れており、あちらにございます。こちらもレバーを捻って頂くとお湯が出て参ります。温度の調整方法はご存じでしょうか?」
「ご存じません! 宜しくお願いします!」
1年ぶりの浴槽での風呂。
テンションが上がらないわけが無かった。
この後、執事さんに温度調整の方法や、照明の使い方、世話係の呼び出し方などを急ぎ足で教えてもらって追い出し。
とりあえずベッドで飛び跳ねてから風呂に入るのだった。
やはり露天風呂ではない家のお風呂は最高なのだ。
人工物万歳!
--*--*--
「ぶぁあ~~~……最高でござったなぁ~」
解放感とリラックスから全裸でベッドに横になる。
もちろんきちんと寝る時の事を考えてベッドに乗る前に身体は綺麗に拭いてある。
「しっかし予想外に文化レベルが高いのが気になる所でござるなぁ……浴槽もなんだか素材がよくわからない物でできているようでしたしなぁ。」
その割には街行く人の服は文化レベルが高いかと言うとそうではない。
馬車も利用されていたりして、どこかちぐはぐな感じがした。
「まぁ、ここが高級宿という事でしたからな。一般庶民とは違うレベルなのでござろう。」
『一般庶民とは違う』
自分で言った言葉だけれど、それだけで何故か優越感が生まれてくる。
「むふ……むふふ……」
つい顔がニヤけ、風呂では溶けきらなかった興奮が顔を出す。
そう。一般的な感覚の持ち主は、高級なところに泊まるという、それだけで上機嫌になってしまうのだ。
「んふふん♪ ふふん♪ フゥッ! フゥッ!」
あり余るテンションの高さは、ベッドの上での一人全裸踊りとなって表現される。
おもむろに立ちあがったかと思えば、手の振りに合わせて、ケツを右に振り、左に振りである。
「アオっ! ポーウ!」
天を指さし、腰を無意味にカクカクさせる。
一人サタデーナイトフィーバーがここにあるのだ。
ノってきた彼を止める無粋なものなど、もうここには無い。
「んふっ♪ んふっ♪」
今度はローリング。
円だ。腰で円を描くのだ。
自由。
ここには自由があった。
リンリーン!
「はぅあっ!?」
突如鳴った音に自由に冷や水がぶっかかっる。
一人で自由を謳歌している時の他人の存在程、青ざめる物は無い。
慌てながらどこから鳴ったのかを考えると、もう一度隣からリンリーンと音が鳴った。
隣の部屋に向かうと、部屋の玄関となっているドアをノックする音が聞こえ声がした。
「マコト様。フリーシアです。
昼食のお時間が近づいてまいりましたので、お迎えに上がりました。」
「は、あ、あわ、はあわあわああ!」
全然一人全裸フィーバーしてる場合では無かった。
そういえばここに時計という存在が無かった。
ドア向こうには美形メイドさんがががが
「い、いいいい、い、いま準備しますっ!」
この一年で一番大きな声がでていた気がした。
慌ててパンツを履き、着にくい服を着て、一人どったんばったん大騒ぎを開催する。
社会の窓のボタンだけしっかりと何度か確認し、慌てながら鍵を持ってドアを開ける。
「お待たせしました!」
「…………」
「…………」
「あっ、へ。」
フリーシアは失神した。
「にょわぁっ!」
思わず崩れ落ちるメイドさんを抱きとめる。
そして混乱しつつ気づく。
「んああっ! 布っ! 顔を隠し忘れてたぁっ!」




