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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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27 とりあえず小休止

 自分がこれまでの人生の中で最も良い笑顔をしているだろうことが自分自身でもよくわかる。

 笑顔の理由は3つある。


 まず一つは、愚鈍の皮をかぶって行動しかたきどもの裏をかけた事。


 私がどれだけ血眼になって観察していたか、この女どもは知らない。

 些細な変化も見逃さず行動の裏を読み推測する。


 成り行きとは言え男装女貴族の元に転げ込めたのは本当に幸運だった。

 なにしろ貴族女が私に用事を振ってくれたおかげで私はその活動資金を手にすることができたのだから。


 男装貴族女もあのお方の事は秘密にしたいようで、私に漏らしても大丈夫な手配などは私に振ってきた。内容は荷物入れや道具の手配やそれらの保管場所の手配等が主だったから、知り合いという知り合いに手を回し頭を下げ、貴族価格ではなく庶民価格にまで落としてもらって遂行した。だからこそ依頼された物を揃えながらも差額を活動資金として手にすることができたのだ。

 お高く止まったお貴族様には庶民の知恵は分かりはしない。


 そうして得た金で、私はとにかく人を使った。

 暇を持て余していたハンターから小遣い稼ぎの子供まで使い『赤熊の毛皮のお方』ではなく、貴族女とテオ達の行動の情報を集め動きを読んだのだ。

 そうして情報を集めた私が、テオ達が外に出かけた日に貴族女も外に出かけるなんて偶然を見逃すわけはない。


 マコト様がやってくる日さえわかれば、後は貴族女が手配するであろう高級宿を上のランクから順に貴族の家の使いであると告げながら回って反応を見ていけばいい。もし外れても新米メイドが間違ったふりをして愛嬌の一つでも振りまけばそれで問題も起こりようがない。

 そうして3件目で当たりを引いた私はやはり運が良い。


 後は私につけられた高級宿の見張りの目が厳しくなった頃合いを見計らって屋敷に戻らなければと告げて裏口から外に出て、そのまま正面に回って門番に家の使いである家紋を見せてしまえば容易に接触できるというわけだ。


 ここまでの私の行動が予想外だったのか、かたきどもの顔ときたら、みな面白いように呆気に取られている。



 それにしても、このかたきどもの中でも特に黒髪女はガードが低くカマかけも簡単に引っ掛かってくれて助かった。

 私が『マコト』様というお名前を知るに至ったのは黒髪女のおかげ。『私も貴族女のように彼を呼んだらよいか』という質問を、さも名前を知っている風に話したら、すぐに返答で名前が知れたのだから感謝の一つもしよう。




 笑顔の理由の次の一つは、何よりもこうしてマコト様の隣に控えることができたという事実。

 お顔を拝見できていないし服装は違うけれど、身の丈や雰囲気はあの時のまま変わり無いように思えるから間違いはない。


 お顔を拝見出来ないのは残念だけれど、他の女達にマコト様を見せつけなくて良いのは助かる。それに今拝見してしまったら私もどうなってしまうか……だから今は、これが最善だと思える。

 お顔は、お世話をしている二人だけの時に見れればそれで良いのだから。


 それにしてもマコト様の、この他者への思いやりが深い故だろう動き、粗野な連中が逆立ちしてもできないような奥ゆかしさを感じさせる控えめなお言葉の発し方。

 思わず庇護欲が目覚めてしまいそうになるほどの身のこなし。


 これは街に潜り潜む事だけを目的とした計算されつくしての行動に違いない。


 あぁ優秀な方であろうはずなのに、それをひけらかす事もなく隠す。まさしく『最も知っている者は、最も黙っている』という諺にある通り。

 知っている私からすれば、その才能と振る舞いに膝と手をつきたくなる。


 マコト様の隣に居られるという。ただそれだけで笑顔にならずにはいられない。



 そして笑顔の理由の最後の一つは、私が憂いに憂いて夜も眠れなくなった程の懸念だった事が取り越し苦労と知れた事。

 私が初対面の時にあまりに尊いお顔を拝見したせいで、はしたなく大声をあげてしまった事で嫌われていないかという懸念があったけれど、心の広いマコト様は、私にまるで『何も心配することは無い』とでも言わんばかりに対応してくださっている。


 その御心は海よりも広い。本当にどこまでも大きなお方。



 あぁ、フリーシアは本当にこの時を待ちわびておりました。

 なんだか隣にいるだけでマコト様に包まれているような気分になってきます。


 あ。そういえば私は今マコト様の吐いた空気を吸っているのでは?

 という事はもう私の中にマコト様が入り込んでいる?


 あぁ。

 なんという事でしょう。なんという事でしょう。


 なんだかとても良い気持ちになってきた気がしてきました。


 もっと。もっと吸いたい。


 マコト様の吐いた息を吸いたい。吸い取ってしまいたい。


(あの)…… (近いです)

「お側に控えるのが仕事の為、申し訳ございません。」


 ああああああああああ

 いいニオイ。イイニオイがするのぉおお!

 このニオイを持って帰りたい。全部持って帰りたい。誰にも吸わせたくない!


「……フリーシア? 任せた仕事はどうしたんだい?」


 この男装貴族女がぁぁ! 邪魔するなぁああ!


「お仕事は『マコト様のこの冬お召しになられる服を揃える事』だったかと存じます。

 しっかりと遂行するためにも採寸が必要かと存じますので……マコト様。大変お手数をおかけいたしますが、お部屋に入られましたら私にお時間を頂き採寸をさせて頂けませんでしょうか?」


 隅から隅まで計らせて! 触らせてぇっ!


(あっ) (ぇえっ?)

「もし私がマコト様のお召しになる服を揃えることができなければ私はクビになってしまいますっ!

 私がクビになってしまえば親が……兄弟が! あぁどうか……どうかお慈悲をお与えくださいませ! なんでも致します! 私ができる事なら何でも致しますから!」


 むしろなんでもしてぇっ!


 ああもう! どさくさに紛れて足に抱きついちゃえぇ!

 ああぁああああああああああ! 素晴らしいおみ足ぃい! 今すぐ舐めたい! 舐め尽くしたい!

 だめぇえ! 涎が止まらないのぉお! こんな顔は絶対に見せられないわぁぁっ! なんでもさせてぇ!


(わっ、わわ、) (わかりました!)

「有難うございます! 有難うございますマコト様っ! フリーシアは嬉しゅうございます!」


 なんてお優しい! 好きっ! 好きぃ! 大好きなのぉっ!

 もう離さない! 離さないわぁ! うぇへえへへえへ!



--*--*--



 なん……って……顔してるのかしら……


 足にすがりつかれているマコトくんからは見えてないだろうけれど、私達の方からは、とてもじゃないけど人前でしても良い顔とは言えない表情が丸見えになっている。


 何が彼女をそこまでさせるって言うの?


 私は思わず両手で口を塞いでしまっていた。


「マコト殿が嫌がっているから今すぐ辞めなさい! しつこいのはマコト殿に嫌われるぞ?」

「温情に感謝が過ぎました。申し訳ございません。」


 マイラの声が響いたかと思えば瞬時に抱き着くのをやめてマコトくんの隣に立つフリーシア。


「……すまないマコト殿。足は汚れていないかい? あ。涎が――」

「あらマコト様申し訳ございません。私の涙がおみ足についてしまったようで……失礼いたします。」


 あっという間に再び縋りつくような体制を取って涎をふき取るフリーシア。

 とても10秒前と同じ人物だとは思えない手際の良さだ。


(あっ) (ありがとう)

「とんでもございませんマコト様! フリーシアは粗相をしてしまいました! 是非今宵にでもフリーシアに罰を個人的に――ぐぇ」


 フリーシアが全てを言い切る前に、マイラが首根っこを掴んで引っ張った。

 マコト君はオロオロし、マイラは大きくため息を吐き、フリーシアはせき込んでいる。


「本当にすまないマコト殿。

 えっと……このフリーシアは君の世話係をしたいと直訴していてね。

 私が呼んでもいないのに勝手にここまでやってきたんだ……」


 残念な物を見るような目でフリーシアを見ながらマイラが続ける。


「もちろん私はマコト殿が世話係などがいない方がくつろげることを理解している。元々つける気はなかった。

 彼女はクビになるとかなんとか言っていたけれど、それはウソだよ。」


 一瞬フリーシアの目が冷たくなる。

 だけれどマコトくんの手前、すぐに顔からその目は消え口を開いた。


「マコトさまぁ……」


 フリーシアの目からポロポロと零れ落ちる涙。

 その量にギョっとしてしまう。


 マコトくんを見てみれば予想通りオロオロと狼狽え始め、その様子に私もマイラも溜息が漏れる。

 どうみてもマイラが嘘をついていて帰ったらクビにされてしまいますとでも言わんばかりだ。マコトくんの性質を考えれば、少女の涙で言いなりになりそうな気がする。


 ここまで見ていれば流石に私にもフリーシアが予想しているよりも遥かに厄介なことが分かってきた。私も動いておいた方が良い。


「ねぇマコトくん。とりあえずマコトくんは部屋に移動して休んでて。

 一事が万事こんな対応だったらマコトくん休めないでしょう? 彼女には何をしたらマコトくんが嫌がるかとか説明が必要だわ。泣くなんて最悪だもの。」


 私がマコトくんに話しかけると、マコトくんの視線が私に向いただけで彼女からの視線の中に怒りが混じったのをひしひしと感じる。


「ねぇフリーシア。貴方はマコトくんが窮屈な思いをする方がお望みなのかしら?」

「とんでもございません。」


 マコトくんの手前、さっき感じた怒りを微塵も感じさせない丁寧な回答だ。


「だとしたら私達の話を聞いておくべきだわ。

 少なくとも貴方よりは彼の事を理解しているのだから。

 ねぇ? マコトくん。 私達はもうお友達ですものね。」


「…… (あっ) (はい。)


 彼に笑顔を向けて言葉を交わしただけで、なぜこれほどにフリーシアからの感じる敵意が増すのだろう。


「よし。じゃあ、とりあえずマコト殿は部屋で休んで貰うことにして、その間にフリーシアはテオ殿と話をする。

 私は用事があるから同席できないけれど、手早く終わらせてそれに参加する。その話合いが終わったら改めてフリーシアをマコト殿に紹介しよう。

 フリーシアもいいね? ……とてもじゃないけれど今の君の状態だと、マコト殿の世話係は務まらないし、させるつもりはない。」


 マイラの言葉が途切れた瞬間。フリーシアから再び泣き落としをしそうな気配が発せられた。

 マイラはそれを感じとってすぐさま言葉を続ける。


「もちろんさっき君が言っていたクビになってお金が云々に関しては、世話係を務めなくても問題ないと思うよ。

 なぜならマコト殿は優しいから、君が働かなくても困らないだけの給金を私に預けたお金から出すことを許してくれるだろうからね。」


 マイラの言葉は、お金に執着しない彼なら、こうした方が気分が晴れると確信しての提案。そして同時にフリーシアが彼の傍に存在する理由を消す提案だ。きっと私が喋っている間に考えてまとめたのだろう。


 マイラが間髪入れずにマコトくんに向き直り言葉を続ける。


「ねぇ、マコト殿。大変心苦しいんだけど彼女はどうやらお金に困っているようだから、君から預かった予算から施しを与えてあげてもいいかな?」

(あっ) (はい。) (かま)――」

「労働してこその対価に価値があるとフリーシアは思うのです!

 ですから施しなど頂くわけにはまいりません! さぁ、テオ様? 早く話し合いを行いましょう!」


 居る理由が無くなってしまう事を恐れたフリーシアがマコトくんの言葉を切ってまでして、結論を出させない為に動き出した。

 ソレを見たマイラもそれに言葉を乗せる。


「じゃあとりあえずはフリーシアもテオ殿と話をしたいようだし私も用事がある。

 少し騒がしくなってしまったけれど一度解散しようか。」


 フリーシアから自由になったマイラがマコトくんに近づく。


「いや。なんだか煩くなってしまって申し訳ない。

 とりあえず昼食までには落ち着くと思うから、それまでは部屋でゆっくりしていてくれるかな?」

(あっ) (はい。)


「うん。ありがとう。

 支配人! 彼を案内して。部屋の使い方は細かい所も全て丁寧に説明するように。」


「かしこまりました。

 では御案内させて頂きます。どうぞこちらへ……」

(あっ) (はい。ども。)

 

 促されるまま、時折こちらを振り返りつつ先導する支配人についていく彼を私達は笑顔で見送る。


 そして彼の姿が自動昇降機に乗って上へと消えた瞬間に、みんなの笑顔は消えた。




もちろんアリサは終始無表情でした。



あとがきです。


とりあえずヒロイン達は一通り書いたので、次回は主人公視点に戻ってペースを上げていきたいと思いますので、引き続きどうぞ宜しくお願いします。

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