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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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23 鱗ショック


「…… (ごめんなさい) (ぐすっ。)

「悪くない。マコト殿はぜーんぜん悪くないよ? ね? 大丈夫。大丈夫だからね~。」


 右手で肩を支え、左手でもう片方の肩をポンポンと叩きながらマコト殿の歩みを進ませる。

 こうでもしないと、落ち込みの激しいマコト殿は足を止めてしまうのだ。

 今マコト殿に足を止めさせたら、逆を向く可能性がある気がしてならない。 


「大丈夫だよ~。」

「…… (うぅっ) (どうして)


 言葉をかけながらチラリと後ろに目を向けると、落ち込んでいるテオ殿と、当面の地竜の鱗を積んだ私の馬を引くアリサが目に入った。二人は少しだけ距離をとって後ろを付いてきている。


 マコト殿が落ち込んでいる姿は可哀想ではあるけれど、一気に主導権を取り戻せたことには安堵している。


 正直テオ殿があのままのペースで話を進めていたら、私の出る幕が無くなってしまうところだった。

 なにせマコト殿も男。テオ殿に慣れてきてしまえば、あの包容力の前では無防備な姿を晒してしまう危険性があったから、あの時のマコト殿の行動と、テオ殿が地竜の素材の価値に我を忘れてくれたことには感謝してもしたりない。


 私は心からの笑顔で、マコト殿に声をかける。


「大丈夫大丈夫。

 私はちゃんとマコト殿が良かれと思って、みんなのことを思ってやってくれたんだって事を分かっているからね。

 それにあんなことができるのはスゴイ事だよ。うん。

 私はマコト殿がやった事がスゴイことだときちんと認めているよ。

 大丈夫。私は分かっているから。」


 なにしろ落ち込んでいる時。

 この時こそが刷り込みに絶好の機会なのだから。


 『私が味方である』という意識を植え付けるのは、まさに今が最高の時なのだ。


「大丈夫。私が隣で支えているから。ね?」



--*--*--



「はぁ……」


 私が何度目かの溜息をもらすと、アリサが明後日の方向を向いて強めの鼻息を漏らす。

 確かに面倒くさい『構ってオーラ』が滲み出たとは思うけれど、流石にその対応は厳しすぎるでしょう?


 アリサのからい対応に『しっかりしなくては』と意識を取り直す。


「で? なんでまたテオは、あんな急にやる気になったの?」

「正直なところ……自分でもよくわからないのよね……

 我ながらおせっかいなところがある性格は理解していたんだけど、なぜだか急に母性が刺激されたというか……う~ん。よくよく考えれば私が彼を守る必要なんて一切ないはずなんだけど……あの時は、あの子を守ってあげなくちゃ!って気になっちゃって……動きだしたら止まらなかった。」


「とりあえず混乱しているのは分かったわ。」

「もう酷いのね! それにしても……失敗したわ。」


 マイラに支えられて前をとぼとぼと歩く彼に目を向ける。


 がっくりと肩を落とし、めそめそと歩く姿。やはりとても心配になってしまう。

 もちろん自分がそうしてしまった事も分かっているし、今は私が怖いだろうと思っている事もわかる。

 ただ、このまま別れてしまうと延々避けられてしまう気がするから、街に入る前にでもきちんとフォローをしておきたい。

 だけれど……マイラが背中から近寄るなオーラを発しているのもあって中々踏ん切りがつかない。


 アリサが私の視線につられて前を向く。

 そして、また明後日の方向に向いて強めの鼻息を漏らしてから、自分のポケットから変色した鱗を取り出して太陽にかざす。


「素材をそのままにしておきたいのはハンターとしては当然よね……でも、彼の加工した鱗。

 見てみて。とても綺麗よ?」


 私も鱗をポケットから取り出して眺める。


 アリサと私が持っている変色した鱗は、マイラが街に運ぶ素材を選別し、それを馬に積むのを手伝った私達に彼が『もう価値は無くなったかもしれないけれど、その、綺麗だから、お詫びに』と、大金貨に匹敵する事は説明済みの普通の鱗と一緒に変色した鱗も押し付けるように分けてくれたのだ。


 その後は、あっという間に離れてゆき、私達のお礼が聞こえたかどうかも分からない。


 彼から貰った変色した鱗は、地竜の鱗でありながら光沢と色味は装飾品のようにも見える。

 その美しさは宝石にも劣らない。


 私は彼に素材を無暗むやみに加工しない方が価値を損なわないと説教してしまったけれど、それは街でハンターとして生きる場合、とても大事な事。

 私達ハンターの主な仕事は、依頼で求められる素材を集めるのが仕事であり、その素材を変質させてしまえば依頼を達成できない。つまりお金が手に入らなくなる。


 だけれども、彼程の実力があれば、私のように名指しでの指名が入るから、そんな末端のやり取りの事などを覚える必要は無い。

 私は実力の覚束おぼつかない新米のハンターに必要な事を教えて叱ったのだ。必要ない叱責だった。


 ……正直に言えば、大量の超高級素材を前に我を失っていたのだと思う。


 私が彼を座らせて本格的に怒ると、すぐにマイラが飛び込んできて止められて、そこでようやく自分の失態に気づき、すぐに彼に謝った。


 そうしたら彼は、私に御礼を言ったのだ。涙声で。


 怒った相手にお礼を言えるなんていう事は、子供には出来ない。

 彼は大人なのだと行動で気づかされ、そして私は冷静じゃなかった自分を見つめ直し恥じた。その隙に、マイラが主導して街に持っていく地竜の素材を集め始めたのだけれど、マイラは彼が変色させた鱗も、もしかすると価値があるかもしれないと普通の鱗と同量持ち込む事にしていた。


 確かに加工の専門家に持ちまないと本当の価値は分からない。

 もしかすると加工した事で価値が上がる可能性もある。


 完全に私の行動は逆手に取られてしまったのだ。



 後悔の溜息と共に、変色した鱗の美しさから感嘆の息を吐き出す。



「本当に綺麗」

「切り口もすごいわよね。一直線。」


「確か……アリサの話だと、マコト君は水の魔法で切ったのよね?

 私は地竜の鱗に大剣で攻撃するのを見たことがあるけれど、逆に大剣の切っ先がかけたのはよく覚えているわ。」


「その固い鱗をこともなげにスパっと切ったわ。彼。」

「こともなげ?」


「えぇ。例えるなら、ステーキをナイフで切る……いいえ、羽虫を払う程に軽々と…ね。」


 私はそこで、挽回の手を思いついた。


「ん~っ! 流石アリサ!

 私にいつもいい手を気付かせてくれるんだから!」


「えっ? 私なんか言った?」

「えぇ! どうやって彼に話しかけようか悩んでたんだけど貴方のおかげで良いキッカケが思いついたわ!」


 首を傾げるアリサに『有難う』の心を込めた笑顔を送り、私は前に向き直る。

 そして、空いている彼の隣に向けて走り出すのだった。




--*--*--



 うううう。拙者はゴミ野郎でござる! いい気になって調子にのって大事な物をゴミに変えるごみ製造マシーン! 生きるゴミ製造機でござる!


「大丈夫だよ~。」


 あああああ、イケメン殿は優しいおすなぁ。

 拙者のようなゴミ野郎をずっと慰めてくれるとは……やっぱり世間一般の言う、イケメン程性格が良いというのは事実のようでござる。ありがたや、ありがたや……


「マ~コ~ト~くん!」


 いやぁああああああぁぁあっ!

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 金髪ふわふわスィーツ的女子さんごめんなさい!

 もう変な加工しません! 加工しません! ユルシテクダサイ!


「テオ殿……」


 イケメン殿! イケメン殿ぉ! 金髪ふわふわスィーツ的女子さんが! 金髪ふわふわスィーツ的女子さんが襲来にござる! 助けて! 助けてくだされ! 拙者怖いのぉおぉ!


「改めて『ごめんなさい』をしにきたの。マコトくんが知らなかったのにキツく物を言いすぎたなぁと思って。

 ねぇマコトくん。許してくれるかな?」


 許します! 許しますからぁ! むしろちゃんと価値を教えてくれた事くらい分かってますからぁ! 感謝してますから! こちらこそごめんなさいぃいぃ! でも今は怖いので勘弁してくださぁい!



 マイラに身体を預けながら、とりあえずコクコクコクコクと首を頷いて返して見せる。

 するとテオは表情を花が咲いたような笑顔に変えてみせた。



「わぁ、ありがとう!」

「じゃあ、もういい――」

「でねでね! 私、マコト君からもらった鱗をよくよく見てみたの……そうしたら、この鱗。物凄く綺麗で、宝石みたいだなぁ……って思えてきたのね。」


 マイラの言葉を遮り言葉を続けるテオ。

 マコトはびくつきながらも、テオの発した言葉に耳を傾ける。

 なぜなら褒めて貰えたような気がしたからだ。



「でね? 宝石みたいだと思えてくると、この鱗はきっとアクセサリーに加工できたら素敵だなぁと思えたの。

 でもね……地竜の鱗って固すぎるから、普通の職人さんにお願いできないって事に気づいちゃったのよ!」


 ……むぉ?


「だから、アリサに聞いたんだけど、こんなに綺麗に鱗を切ったのって、マコトくんだって言うじゃない?」


 ……むぉ。


「でね? 我儘言っちゃうみたいで悪いんだけれど……もし良かったら、このマコトくんが私にくれた鱗をね、アクセサリーに使えるような形に整えるのお願いできないかな? と思って。

 こんな事……マコトくんにしかお願いできないし、きっと頼りに出来るのはマコトくんだけだと思うの!」


「…… (どのような) (かたちに?)


「わぁ! 手伝ってくれるの!? 嬉しいわぁ! やっぱりマコトくんは頼りになるなぁ!

 えぇっとね? 形はシンプルな形がいいと思うから、長方形に切ったら素敵じゃなかなぁ? と思ってるんだけど、マコトくんはどう思う?」


「…… (長方形) (こ、こう?)

「わぁ! すごーい! こんなに関単に切れちゃうんだ! すごいよマコトくん!」


「…… () (えへへ)


「ねぇねぇ、もしかし、ここも切れたりする?」

「…… (こ、こう?)


「すごーい! すごいよマコトくん!」

「…… (えへへ)



 もちろん。マイラが渋い顔をしたこと。

 そして置いてけぼりにされたアリサが馬を引きながら『もう一人で帰っていい?』と思っている事などには気が付かないマコトだった。

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