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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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19 前日


 マイラとテオ達はギルドで会議を終えて情報を秘匿すること。特に地竜を屠る力に関しては機密扱いとする事を約束して別れた。

 そしてそれぞれが思惑の通りに『彼』を迎え入れる為の準備に動き始める――




 マイラは『彼』が困った時に、必ず自分を頼るような信頼関係を築く為に環境を整える。


 地竜の素材を預かる約束をしたのも、彼が提供した物で利益を上げ、それを利用する事で『自分が利益を与えているのだから』という心理を利用して遠慮を取り除き、気安く自分を使ってもらう為の布石だった。


 余りに時間が無さ過ぎて貴族の住まう居住区に迎え入れる事は出来ないけれど、ハンター達では利用できない貴族御用達の高級宿を冬いっぱい押さえ、彼が可能な限り目立たなくて済むようにように準備を整えてゆく。

 そして自身もまた騎士団の仕事を可能な限り人に振り分け、自分が動けるようにしなくてはならなかった。


 彼に会わせる事を確約したせいかフリーシアに付き纏われるようになったけれど、準備に多忙を極めた為、逆に服の手配などの雑務で動かせる駒としては都合がよく、使わせてもらうことにした。


 マイラの目的は、彼が冬にいる間の内に男と間違えられている事を活かして友人、そして親友の立ち位置を確立する事。

 そして今後の為に、彼の謎の多い部分を少しでも多く知る事。

 この二つが彼女のこの冬の目標である――




 テオは、マイラと別れてすぐにアリサから漏らさず聞き取りを行う。

 マイラが『彼』とどんなことを話したのか。『彼』は何ができるのか、実際にどんなことをしたのかを確認し、そしていかに規格外であるかを知った。


 体術のみで地竜を屠る膂力りょりょくや身のこなしだけでなく、この世界では女が魔力に長けているにも関わらず、男でありながら戦闘魔法だけでなく治癒術までいとも容易たやすく使いこなす才能。

 知れば知るほどマイラが懸命に隠そうとした理由が分かり納得できた。


 街にやってくる『彼』は一騎当千の強者どころではない。ある意味で一騎当国とでもいった方が相応しい。

 彼を手にする者は国を手にするのと同義とすら思える。


 ……それ故に、マイラが控えめに行動している事が気にかかった。

 もっと彼女が貴族然とした対応であれば、すでに私達はこの世にいなかったはず。特にアリサなんかは森で殺されていたとしてもなんら不思議な事ではない。それだけのことだ。


 だがしかし、なぜ始末しなかったのか。


 マイラがお人よしだから?

 それもあるだろう。だけれど、それだけでは理由に足りない。

 それ以外にも始末できない理由があるのだ。確実に。


 そしてその肝となるのは『アリサ』に違いない。


 もし事実としてそうであった場合、初動で出遅れたとしてもマイラに対抗する事は充分に可能だろう。

 マイラと彼が合流する日に『彼』の性格や傾向を確認する。そしてマイラの狙いと『彼』の狙いを探るのだ。


 あれからフリーシアは私の所にちょくちょく顔を見せるようになった。


 どうやらマイラに使われているようだけれど、何を用意しているか等そういった事を聞きだせるので都合がよい。対価にハンターの技術を聞いてくる当たりが年の割に抜け目がないなと息が漏れる。

 この少女とは、このまま持ちつ持たれつ、つかず離れずにお互いにとって良い距離を保ちたい。


 フリーシアがばら撒いた彼の情報を収束させる為に動き、そして貴族では対応できない私達の仲間。彼らの言うところの下々の民に彼がやってきた際に混乱が起きないように布石を打つのだった。


 テオの目的は、マイラの思惑を探り、大きな力を独占させない事。

 そして最も大事なのはアリサがどう関わっているのかを見極めること……家族の幸せこそが目的である――




 フリーシアはマイラとテオの間を動く。

 帰るところも無く、僅かな貯えも有限。むしろ尽きかけていた。


 マイラは憧れの人と会わせてくれると約束をしたけれど、その優先度が低い事は気づいていたし、何もしなければ貴族の性格上おおよそ彼が街を離れる際に一目会う程度が関の山だろう。


 そうはさせない。


 うまく使われる事で最も彼に近い寝床を確保した上で情報を集めるのだ。

 それと同時にテオからも情報を集め、多方面からの情報で推測して行動する。


 愛しのお方と相見あいまみえるその時の為に努力すべきは今なのだ。

 味方の顔をしていても、女であるというだけで彼の愛を得る可能性がある。全てが敵。どれだけ努力しても十分にはならない。


 フリーシアの目的は、ただ一つ。他の誰でもなく、自分が『彼』の愛を独占する事である――





 アリサは詰問され不貞腐れ、皆が動くのを横目にただ引きこもって眠った。



 彼女の目的は…………静かに生活したい……らしい。



--*--*--



 女達が躍起になり『彼』を迎えるという約束の日に向けて慌ただしく動き、運命の日を翌日に控えた夜。


 街の近く、少し離れた森の地面から手が一本生えていた。


「よっ…こいせ……っと」


 生え出てきたのはマコトであった。

 全身を穴から出し、手についた土をパンパンと払い、額を拭う。布を巻いているので意味は無いが、つい様式美としてやってしまうのだ。


「ふぅ……とりあえず何とか運べたでござるな……まさか、こんなにしんどいとは思わなかったでござるよ。」


 這い出てきた穴の中には、みっちりと地竜の素材が並べられている。

 土魔法で作った地下保管庫だ。


 結局のところ2トントラックで運ぶべきとも思える物量だった地竜の素材は、一人で運んだ。運ぶしかなかった。『できる』と言ってしまったから。

 責任感から地竜の骨を背負子のように組んで、触手蔦を紐替わりに使って縛り、ひたすら力技で運んだのだ。



 地竜の鱗インゴット作りは結局失敗。


 地竜の鱗の温度が高すぎたせいか台にしていた岩が溶けて一部融合するという事態になり、不純物が混じってしまったのだ。職人熱が冷める程に落ち込んだ。もちろん失敗したとはいえ元が鱗の為、貯蔵庫に保管はしてある。


 インゴット作りに失敗して落ち込んだのもつかの間、気が付けば約束の日の3日前になっていたからさあ大変。


 事前にしっかりどれだけ準備をしても尚心配になる性質だからこそ、3日という響きはすでに余裕がなくなるには十分。ロスタイムなのだ。 


 すぐさま冷や汗をかきながら素材を街近くまで運びはじめ、第一陣を運び困り果てる。街から近い為、野ざらしの状態にすれば他人に見つかり持って行かれる可能性があった。なにせ話を聞く限り高級品なのだから、森に置いてあれば当然持って帰るだろう。

 万が一拾われて持って行かれても、自分の物ですと主張できる自信はない。泣き寝入りするのは確実。


 その為、魔法で地下保管庫を作ったのだ。

 2日かかってようやく全てを運び終え、地下貯蔵庫の入り口を土魔法で覆い隠して、ほっと胸をなで下ろす。


 ほっとしたのも束の間。寒さに震えるように両腕をさすり始める。 


「あああ……緊張してきたでござる。」


 明日とうとう街に入る事になる。

 入ってしまうのだ。

 人の巣窟に飛び込むのだ。


 既に『落ち着き』という文字は脳内から消滅している。


 とりあえず木の上に上り誰にも見えないだろう所で幹に抱き着く。

 何かに抱き着いていると、少し落ち着く気がするから不思議だ。


「はぁぁ……帰りたい……」


 心からの溜め息。

 憂鬱になる心。


 もう既に嬉しさは遥か彼方。不安と恐怖の方が勝ちはじめている。  


 ちなみに約束は明日だけれど、詳しい時間を約束していなかったので、これから寝ずの番で夜明を待つつもりである。

 なぜなら夜が明ければその時から約束の明日なのだから。

 

「あぁ~、うんこうんこー。」


 別に便意を催しているわけでもない。

 何の事は無い独り言。


 ただ黙っていると漠然とした恐怖に飲まれそうな気がして紛らわせているのだ。


 緊張で眠れない夜は更けてゆく。




次回から少しテンポを変えて行きたい……です。

変わると……いいなぁ……

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