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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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18 会議


「むぅ……」


 匠は考える。


 地竜の鱗の焼き付けによる色付け加工を終え、そして考えている。

 これまで色付けを行ったのは破損した鱗ばかりであり、完全な鱗は最後の最後に3枚試しただけ。

 もちろんその3枚の出来栄えには満足している。


 今、匠はこのまま完全な鱗もガンガン色付けするか、それとも未加工の原石である状態で納める方が良いのかを静かに考えているのだ。


 心情としては、これまで一貫して焼き付けによる色付けを行ったことで、色付けに対してある種の筋道が見え始めており、完全な鱗にはより良い加工を施せると確信している。

 だからどんどん色付けしてしまいたい。そういう気持ちだ。


 ノリにノっているのだ。

 そういう時とは、さらに新たな発見を得たり技術を発見することがある為、このまま色付けを行い新しい何かを掴みたい気持ちが疼いている。



 だが、匠は冷静だった。



「いや……やはりここは大事なメシの種でござるゆえ、未加工にしておくが吉。」



 そう。ノリにノっている時というのは自身の技術や見分を飛躍的に上昇させることもあるけれど『慣れ始めが一番危ない』という言葉もあるように、慢心からの失敗をしてしまう可能性も高いのだ。


 それに色付けしたことで見た目は匠好みになったとはいえ、ここは異世界。自分の美的感覚が通じるかわからない。

 さらに言えば、匠は装飾品としての価値を見ているが実際の用途が果たして装飾品であるかどうかすら知らないのだ。


 ここは剣と魔法があり日本の常識が通じない世界。素材がどのような形で利用されるかなど想像もつかない。

 であれば尚の事、未加工状態のままにしておくことこそが確実な利益に繋がるのは明らかだった。


 色付けに価値があれば後からでもできる。

 もし今、手を加えてしまえば、それはもう原石ではなくなってしまうのだ。


 だからこそ自分を抑え、加工したい欲を封じ込める。



「さて……」


 視線を前へと移す。

 自分を抑えた匠は、すでに次に向けて動き始めているのだ。


 匠の行動は早い。


 色付けを行い金属に近いと感じたことで、ひとつ思いついたことがあった。

 それは自分が手を加えて出来に不満を覚え廃材となった物を利用できる内容。

 『MOTTAINAI(もったいない)』から派生する進化は日本の誇るべき文化であり、魂なのだ。


 目の前の台として使っていた石を、刀を模した水の刃で真横に一閃し綺麗な断面のテーブルを作る。

 そこに色付けに失敗し捨てられていた鱗を集めた物をザラザラと山積みにする。


 じっと失敗作を見つめ、魔力を集中し始める。


「ほぁああ……」


 鱗に魔力が集中し、山の頂点からあっという間に変色が波紋のように広がってゆく。


「ほおぉぉお……」


 さらに魔力を集中すると山積みされた頂点部分の鱗が発光し始めた。


「むむむむむぅっっ!」


 さらにさらに魔力を集中すると一層強く発光する鱗。


 そしてとうとう鱗に動きが見えた。

 水滴が集まり大きくなるように、発光の激しい場所から鱗が徐々に丸みを帯びた形へと変化し始めていたのだ。


「やはり金属と同じように加工できるでござるな!

 ふはははは! 予想通りでござる! 予想通りでござる!!」



 匠は地竜の鱗のインゴット作りを始めるのだった。



--*--*--



 あぁ、まったくもって面倒なことになった。

 それを表情に隠すことなく表しながら口を開く。


「……この部屋は誰かが話を聴いていたりはしないかい? 」


 軽く息を吐きながらテーブルを挟んだ向かい、真正面の椅子に腰かけるテオ殿に話しかける。


「さぁ? わからないわ。そういう仕掛けもしてあるかもしれないし……何より壁に耳をくっつけて話を聞こうとしている人間も大勢いるでしょうね。ふふっ。」

「よし、じゃあここでの会話はやめて騎士団の詰め所に移動しようか。」


「冗談よ。

 わざわざ会議室に入ったのに、その話を盗み聞こうとするような人は近寄らせないように信頼できる人間に頼んである。

 それに……私の隣にいる私の可愛い妹さんは、移動する時間も我慢できなさそうよ?」


 テオの隣に座ったアリサに目を向ければ、口を真一文字とへの字に交互に変化させ、相当にイラついているのが否が応にも分かってしまう。


「はぁ……」


 ついため息が漏れる。

 私のため息を聞き、アリサは一層ブスっと不貞腐れたような雰囲気を見せた。


 結局私達に詰め寄られたアリサは結論を出すことができずストレスを抱えた。そのストレスは簡単に許容値を超え、そして超えたストレスは怒りへと転化したのだ。

 アリサは怒りのまま『聞きたいんだったら教えてやる』と言わんばかりに全てを大声で喋ってしまいそうな雰囲気を発した為、私は慌ててアリサを止め、ギルドでこっそり話ができる場所を用意してもらったのだ。


「そして、なぜ私の隣に部外者がいるんでしょうかね?」


 諦めを混ぜた言葉を愚痴として放つ。

 アリサが口を真一文字とへの字に交互に変化させている大きな原因であろう部外者は、そんな声を気にする素振りもなく、真正面に座っているアリサをじっと見ているだけ。


「あら部外者だなんてヒドイわね。私からハンターの技術を学びたいって言っているのだから関係者みたいなものじゃない? ……実際は目的が違ってそうだし、まだ鍛えるつもりも無いけれどもね。

 まぁ本音はこの子も納得しないと延々私がうんざりする羽目になりそうってことと……小隊長様と話す時に、こういうタイプの子がいれば役にたちそうだと思ったからよ。ふふ。」


 あぁんもうヒドイなぁ。いじわるぅ。


 内心とは別に、私は薄く苦笑いを返し、そして気を引き締めなおす。

 こうなった以上、テオ殿や少女をできる限り自分と敵対しない位置に引き込む必要がある。


「さて、で、アリサはどう説明をするつもりだったのかな?」


 アリサに水を向けるとテオがすぐにアリサに注目する。

 アリサはちらっとテオの目を確認した後、眉尻を下げ、顎を少し引いた。その様子はまるで叱られる子供のように見える。少し可愛らしい。


「……私とマ……小隊長殿は別行動で調査を開始したわ。

 可能な限り獣の気配を避け目的地に向かった……だけれど私は獣の気配に気づくことができず遭遇してしまったの。『地竜』と。」


 テオの柔和そうだった目は見開かれ、アリサはその気配を察しているのか顎を引いたまま手前に当てているであろう焦点を動かさない。

 そんなアリサを見てテオは勢いよく首を動かし私を見る。


 私も肯定の意味を込めて目を閉じて一つだけ頷き口を開く。


「そう。まさか地竜が地面から出てくると思っていなかったよ。

 で、もちろん私達は逃げた。そして逃げた先で『ある人』に助けられたのさ。」

「そのお方が『赤熊の毛皮のお方』でしたのねっ!」


 私の説明に食いつくような隣からの高い声。

 相当に嬉しいのだろう事が声色からもよくわかる。


 だけれど思考が邪魔されるようなトーンの声は鬱陶しい。


「そうだね。彼は赤熊の毛皮を纏っていたよ。

 そして重要な事だけど私たちが助かったのは、その人に地竜から逃げるのを手伝ってもらって助かったわけじゃない。

 彼は……私達の前であっという間に地竜をほふって見せた。」


「バカなこと言わないで!」


 予想通りの心地よい罵声が真正面の女性から放たれ、思わず口角が上がる。

 私はその表情のまま肩をしかめ、愛しい妹様に事実を確認するよう首を動かして促す。


「こうなると思ったから言えなかったの。信じようもないでしょう?

 報告の為の証拠の鱗と牙は、仕留めた地竜から取らせてもらったの。」


「…………なんてこと」


 妹様の言葉と反応を見て、静かに浮いていた腰を椅子に落として天を仰ぎ顔を押さえるテオ。


「あぁ、やはり赤熊の毛皮のお方は素晴らしいハンターでしたのね! そして森にいらっしゃる!」


 より喜色が強くなった声が隣から聞こえる。

 テオは顔を動かさず、その声に対して指一本を立てて制する。


「一刻も早く森へと向かわなければ! さぁ、私を森に連れて行って! じっとなんてしていられない!」


 だが指如きで少女の興奮が止まるはずもなかった。


「黙って。」

「いいえ! 黙ってられません!」


 思考を中断されてうんざりしたようなテオの表情を見るに、私とアリサの証言から事実であるということは信じたようだ。


「会いに行く必要はないのですよ。

 なぜなら数日後に私が迎えに行くことになっているから。ねぇアリサ。」


「「 はぁっ!? 」」


 二人は驚愕の表情で私を見た後、すぐにアリサに向き直る。

 アリサは二人のあまりの表情にビクリと小さく跳ね、そして頷いた。


「「 なんということ…… 」」


 私の隣の少女は今にも天に昇らんばかりの恍惚とした表情で言葉を。

 真正面の女性はとてつもない厄介事を抱えることになったような重苦しい表情で言葉を放った。


 同じ言葉を同時に放ったというのに、こうも二極に分かれるとはなかなかに滑稽だ。

 私はこの機を逃さず畳みかける。


「アリサ。君から見た彼はどんな人だった?」


 私の言葉に少しでも情報を得ようと二極の二人はアリサに注目する。


「ええと……私はその、ごめんなさい。彼のことはよくわからなかったの。

 掴みどころが無いというか……何を話しているのかすら理解できなかった。」


 二極の二人はアリサの回答に顔をしかめる。 


「彼はなかなか独特な空気を持っているからね。

 さてアリサ。肝心な事を言っていないよ。君は彼を悪い人だと思ったかい? 街に入ったら危害を加えそうな人物に見えたかい?」


 私の質問に二極の二人がまた答えを求めて一斉にアリサを見る。


「いいえ……悪い人では無いわ。強いけど……優しい人だと思う。」

「そう。私もそう思った。」


 私は椅子から立ち上がって言葉を続ける。


「幸いなことに私はアリサと違った経験がある分、彼と話すこともでき意思疎通もよくできた。これが事実なのはアリサから聞いたら良い。

 私は彼が街に来る理由も聞いたよ。彼の答えはとてもシンプルだ。『冬を森で越すのは大変』それだけ。私は命を助けられた恩から彼の望みを叶えることにしたんだよ。」


「あぁ……あのお方が街へやってくる……」


 隣のうっとりとした表情を浮かべた少女に指を立て制する。


「重要な事を言うからよく聞いてほしい。

 彼は、ただ、静かに、過ごしたいだけなんだ。

 例えばの話、君が騒ぎ立てれば、彼は街を出て二度と近づかない恐れすらある。」


 少女の表情は明らかに不満な表情へと変わる。

 この表情は信じようか信じまいか悩んでいる。が、次の瞬間には『信じない』に天秤は傾くだろう。

 この少女はそういう子だ。


「もちろん君の熱意は否定しないし、君が大人しくしていてくれれば彼が街に慣れた頃には君と彼が会う機会を設けてもいい。」

「それは本当ですか!?」


 詐欺師を見るような視線から、瞬時に神でも見るかのような視線へと切り替わった。

 この少女はいろんな意味で厄介そうだ。心底そう思う。

 であるならば厄介な人間ほど近くにおいておく方が良い。


「あぁ、貴族の誇りに誓って約束してもいい。

 彼は冬を越せばまた森に戻る可能性もあるから、春になったら彼に会いに行けるようにハンターとしての技をそちらのお師匠様に教えてもらうと尚いいかもしれないね。」


 『余計なことを』という意思をたっぷりと視線に乗せてぶつけてくるテオ殿に笑顔を送る。そしてすぐに真面目な顔に切り替える。


「と……いうわけですよ。テオ殿。

 アリサが黙っていたことは簡単に言えば『信じられない力を持つ人間がいて、その人が冬を街で過ごす』事。

 この事実は知られない方がいいのは貴方ならよくよく理解できるでしょう?」


「そうね……まだ半信半疑だけれど、普通の人が関わるべきではないと思うし知って良い事でも無いわ。アリサが黙っておいたのも理解できる。

 事実を知るのが、この場にいる4人だけであるなら黙っておくのが利口ね。

 アリサもそこのお嬢さんも誰に聞かれても知らぬ存ぜぬしておくべきよ。私も口を噤むわ。」


「流石。賢明です。理解が早くて助かりますよ。

 私はあくまでも『友人』を街に招くだけなのですから。」


 一件落着が近づいている事に自然と笑顔になる。



--*--*--



 厄介な事になる。


 ただただそう思った。

 ただ一つ気になるのは、小隊長殿が『なぜここまで余裕があるのか』という疑問。


 地竜を屠る人間が街にいるとなれば、それは地竜が街に入ってきてしまっているのと同義。もし暴れたら街が滅ぶ。

 街を守る騎士としては遠ざけてしかるべきであり、豊かな冬を過ごしたいという願いを叶えるのならば貢物でもなんでもすれば良い。


 そうせずに、地竜を招き入れるという事から導き出せる答えは



 『絶対に暴れない』もしくは『手懐けることができる』



 そう彼女が確信しているという事の証明になるのではないだろうか?


 アリサが人となりをよくわからないと言っていたのは、そもそも彼女自身が人付き合いを苦手としているのも大きいだろう。


 でもそんな用心深いアリサが『優しい人だと思う』と言った。

 アリサは人付き合いが苦手な分。感覚や直感で人を判断する傾向が強い。


 私自身は付き合いが良すぎて、逆に情で判断が鈍る時もあり、その時はアリサの直感的な判断に助けられたりする。 

 そんなアリサが声に出して優しい人と言ったのは、そういう人となりなはず。



 そしてその人は、ギルドに居た仲間たちから集めた情報を基にすると、かなりの美形らしい。

 なにせこの場にいる元メイドのフリーシアがあまりの美形さに惚れ、わざわざメイドを辞めて探している程なのだから。

 そしてこの心酔ぶり。どれほどの美形なのか興味も沸く。



 とりあえずの状況だと、小隊長殿が『彼』を招く事については、もう阻止しない方が良いところまで来ている。

 邪魔をせずに静観するに越したことはない。

 なにもかも不確定な中で貴族の邪魔をするなどリスクが大きすぎる。



 ……ただこのまますんなりと小隊長殿……マイラの描いた通りに進ませるのも、また良くはないはず。


 マイラが『手懐けることができる』と確信する相手なら。

 私もまた『手懐けることができる』だろう。


 私は笑顔で提案を受け入れる形で、これ以上情報は聞けないであろうマイラとの話を終えることにした。

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