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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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17 当惑

「ふつくしひ……」


 手の平ほどの大きさのある地竜の鱗を傾け太陽の光を反射させる。

 まるで酸化皮膜を形成したチタンのように虹色にも見える青色に輝いていた。


 うっとりと見つめ、うんうんと頷いて手に持っていた鱗を左に置く。

 そこには同じような色の鱗が並んでいた。


 右に置いてある道端の石のような色の鱗を手に取り、まずは表、裏と状態を確認する。

 しばらく眺めていると付着しているゴミがあった。


「ふむん。」


 指先から高圧で水を発生させて、その勢いをぶつけることでガンコにくっついているゴミを取り除く。


 ふっ、と息を吹きかけて水平にしてみたり指先で撫でてみたりとさらに状態を確認し続ける。しばらく確認を続けトゥルトゥルとした質感に満足したあと一つだけ頷き、目の前の石に持っていた鱗を置いてキっと睨みつけて意識を集中する。


「むむむ……むむ……」


 じわじわと変色してゆく地竜の鱗。

 魔法で熱を発生させて変色させているのだ。


「むむ…………ムッ!」


 熱を止めて冷却する。

 すると虹色のムラが美しい鱗が出来上がっていた。


 ちょちょいと触って火傷しないことを確認し、変色した鱗を持ち上げて太陽の光を反射させる。


「ふつくしひ……」


 うっとりと見つめ、そして一人満足気に頷き、また左に置くのだった。




 時は、マイラ達がテオを追いかけ、合流した頃に遡る。


 マコトは地竜を解体し、角や牙に爪、骨、皮、鱗、などの各種素材に分け、モツや肉も高温乾燥風を魔法で作り出して保存できる状態へ変えた。

 ただ、非常に丁寧に作業をした為、その巨体もあり結局完全に解体や加工を終えるまで取り掛かりから二日もかかってしまった。だけれど丁寧に作業をしただけあり各素材は素晴らしい状態になったと自画自賛して当然の出来栄え。


 満足気に大量にあった地竜の鱗を見ていると、なんとなく金属のように思える。


 ふと金属ならばと、水の刃でカットしてしまった際に中途半端な位置で切れてしまい破片となった鱗に熱を加えてみたところ、とても美しい色合いに変化したのだ。


 化学変化らしき変化に好奇心が刺激されてしまい、破片となった鱗や不完全な形の鱗に対して装飾品としての価値を見出して色付けを行っているのである。

 この作業にはなぜか職人魂のようなものが刺激されてしまい、つい2日も取り組んでしまっている。


 ただそれだけ長く続けていると、こだわりも生まれてくるのが悲しいかな日本人としてのさがであった。


 そして匠は妥協を許さない。


「むむ………ムッ!?」


 目の前には変色させた鱗。


 首を小さく傾げ目を細めて眺める。


「これは……ダメでござる。」


 鼻から息を吐きながら小さく首を振り、目の前の石の上の鱗を、まるで学習机の上の消しゴムのカスを払うかのように捨て去った。

 石の前方には同様に納得のいかなかったであろう変色した鱗がいくつも転がっているのであった。



 職人はまた右から鱗を手に取り、一枚一枚に真剣な目を向けるのだった――




--*--*--




「『赤熊の毛皮のお方』か? なぁアリサ。それは私達のことだろうか? なぜなら私達は赤熊を仕留めてきたのだから。」

「そ、そう、ね。」


 私の質問は切りすてるように横やりを入れられ断ち切られた。

 私はその断ち切った張本人を『邪魔するな』という意思を籠めて睨みつける。

 ようやくあのお方の情報が手に入りそうだというのに許せない。


 そう文句を言おうと思ったけれど、押しとどめる。


 なぜなら文句を言おうとする相手を見て、この男装女も『赤熊の毛皮のお方』を知っているような気がしたからだ。私の本能がそう叫んでいた。本能の叫びは絶対に間違いない。

 そう判断して詳細を探るべく目を配ると、この男装女はハンター達よりも金属を多用している装備で、そして持っている刀剣に特徴があることが目についた。


『ちっ! コイツ貴族だ。』


 内心で舌打ちを打つ。


 貴族という生き物は私達とは生まれが違う。


 この世に生まれ落ちたその時から良い物に囲まれた生活を送る。良い物に囲まれているという事は、それだけ装飾品に対しての目が肥えるという事でもある。私が見て無価値と思う物でもそこに大きな価値があることは多い。


 そして肥えた目を持つ貴族は、自分の所有物にもその目の影響が表れてくるのだ。


 目の前の男装女貴族が持っている刀剣の装飾は、邪魔にならない箇所に細かな細工が施されていて美しい。

 ハンター達であれば気にしないであろうベルトにまで細やかな細工と気が配られている品は見るからに『お高い』物。


 それにこの男装女貴族の態度は、勤めていた屋敷の旦那様と会っている時の奥様に通じるものがある。どれだけ柔和そうな顔でも腹に何かあるのを覆い隠している。そんな態度だ。


 最悪な事に、どうやらこの男装女貴族は、私が黒髪の女から『赤熊の毛皮のお方』のことを聞き出すことを拒もうとしている。

 こういった女が敵対している中で聞き出すことは容易ではない。


 だけれど私はあのお方の隣に立つと決めたのだ。

 こんな女に私を止めさせはしない。


「昨日今日の事ではございませんの。もっとずっと以前より纏ってらっしゃるお方の事。」


 嫌味を含めた敬語で男装女へと言葉を返し、知っているであろう女へと再度目を向ける。


「さぁ、知っているんでしょう!? 教えなさい!」


 黒髪の女へと2歩3歩と詰め寄ると女は後ずさりした。

 その表情は戸惑っていて、やはり知っているのは間違いない。


 聞き出す為にも黒髪の女をよく観察する。

 顔はなかなか整っている。ハンターでなくてもメイドとしての需要もあるだろう顔立ち。だけれどこの程度であれば私の方が美しさで優っているのは間違いない。あと1~2年も経てば、よりはっきりと明暗が分かれるのは確実。

 私は息を吸って胸を張り、私よりも長身の女を見下す。

 女として勝っているこの私が聞いているのだから、さっさと答えればいいのだ。


「名前は? 年は? 今どこにいるの?」


 詰問しながら目の動きを読む。

 やはりこの女は知っている。


 名前は知っているだろう。

 年は知らないのだろう。

 今どこにいるかは知っている。


 知っているにも関わらず黙秘するという事は……まさか、この女もあのお方を狙っているという事?


 その考えに至り、私は愕然とする。


 それは十分にありえることだった。

 あのお方のご尊顔を拝して平静でいられる女がいるだろうか? いいや、いはしない。


 まさか男装女貴族も心奪われているのかもしれないと思い目を向けると、男装女は私を押しのけるように黒髪女との間に入ってきた。


「昨日今日じゃなくとも赤熊の毛皮を纏う者は存在しているとも。私だって何度かは見かけたこともあるさ。

 ただ……そのお方は、声をかけることなど恐ろしくてできないような相手だったがね。

 君の言うお方も赤熊の毛皮を纏っていたとしたら、おいそれと君が声をかけていいような相手ではないだろう。身分差を超えた御伽噺おとぎばなしを信じるのは自由だけれど、夢見心地の気分はそうは続かないものだよ。早く現実を見るといい。

 現実はこうだ。君がそのお方と会うことはできないだろうね。残念ながら。」


 男装女の言葉など聞く必要はない。

 どうせろくでもない私を止めようとする聞く価値のない言葉だ。


 それよりも重要な事は、この女2人は『赤熊の毛皮のお方』を知っていて我が物にせんと企み、私にあのお方の情報を隠しているということ。


 許せない。

 許せない。


 あのお方の隣にあるのは私であり、この女どもではない。

 あぁ必要なことだけ聞いたら、この世からいなくなってはくれないだろうか。


「あぁ、わかった。あのお方を取り込み利用するつもりなのねあなた達。貴族だからとそんな理不尽なことはさせないわよ。絶対に。」


 男装女が私を見て小さくため息を吐き、そして口を開こうとしたその時、男装女の言葉遮るように私の肩を抱きながら声を発する女がいた。


「私もこの子の言う『赤熊の毛皮のお方』とやらのお話に興味が沸いたわ。

 ねぇアリサ。私には教えてもらえるんでしょう? なぜ隠しているかも含めて。ね?」



--*--*--



 どうして私は今こんな状況になっているのだろう。

 ただ、あのマコトという人の驚異的な力は、皆、知らないに越したことは無いと思って口を噤んでいるだけなのに……皆の為を思って黙っているというのに、どうしてこんなに詰問されなければならないのだろう。


「アリサ。とりあえず今日は私の所で祝宴を開こう。同じ赤熊を相手に剣を振るった者同士、剣について語ろうじゃないか。」


 そんなことを言いながら私の左腕を組むマイラ。


「あら、それなら私達にはそれより先の約束があるから残念ですわ小隊長様。今日、アリサは家族で食事をするの。

 あなたはその約束を聞いていたでしょう? そして約束をすることになった理由も知っているわね。」


 そんなことを言いながら私の右腕をとるテオ。


「そんなことはどうでもいいから早く私の質問に答えなさい!」


 私の両肩を掴み揺する少女。



 ほんとどうしてこんなことになっているの?

 もう全て放り出して、帰って寝てしまいたい……


 泣きたい気持ちをため息に変えて流すのだった。


 やっぱりアリサがしんどい目にあうのは主人公のせいだった。


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