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孤高のハンター ~チートだけれどコミュ障にハンターの生活は厳しいです~  作者: フェフオウフコポォ


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13 ポニテさんと会話

 信じられない事を目の当たりにした人間が現実逃避をするのが理解できなかった。

 ハンターの世界で生きていれば、時に現実逃避をするハンターを目にすることがある。裏切りや喪失から酒に逃げたりするのだ。


 私はそんな事をするよりも事実は事実として捉え、問題を何とかする努力をするべきだと考えていた。


 ただ、今日。人が現実逃避をする理由がよく理解できた。

 人はあまりに自分の常識とかけ離れた事態が起きると、あえて違う行動をしてワンクッションを置く。そして少しずつ理解を進め、ゆっくりと事態を噛みしめてゆく。そうしないと自分の中にあった常識の崩壊につられて自己が崩壊してしまうからだ。


 よくよく考えれば昔、私が父を失った頃は逃避していた事があったのに、それを過去のこととして忘れ傲慢に考えるようになっていたのかもしれない。これを機に反省をしよう。


 そんなことを思い、考え、現実逃避をしてみる。


 だけど、目の前の現実は変わらない。

 地竜はその顔の半分を地面に埋め、そしてその頭には男が一人立っている。


 男はただ顔をこちらに向けるだけで動かなかった。目に布を巻いているけれど見られているのは理解できる。


 地竜の頭の上に立っている事から、この男の攻撃で地竜がこうなっているのは間違いがない。だけれども私の知る地竜といえば避けなくてはならない厄災、近づくべきではない獣。

 倒しに向かう事はなく、向こうが襲ってきた場合にだけ戦う相手。そしてその戦いも逃げる為だけの戦いだったはず。


 その地竜が仕留められている。有りえない。


「うぐぁっ!」


 マイラの声が聞こえ目を向ければ膝を折って崩れていた。

 戦う必要が無くなった事で無理が祟ったのだろう。


「大丈夫!?」


 私はようやく正気を取り戻し、声を出す事が出来た。

 思えば息がちゃんとできていたのかすら怪しい位に思える。

 背に手をかけ様子を伺うと、かなり辛そうな息づかいをしている。だけれど『大丈夫』と何度も頷いて反応を返すマイラ。


 私がしっかりしなければと気を取り直し、地竜の頭の上に立ち続ける男に向き直る。


 男はまるでその力を誇るように地竜の頭の上から降りようとしない。

 動かず、言葉を発さず、ただこちらを見ているのは私達がどう行動するかを見極める為にしているに違いなかった。


「ありがとう。もうダメかと思ったけれど、貴方のおかげで助かったわ。」


 笑顔は苦手だけれど、可能な限り友好的な表情を作り礼を述べる。


「…………」


 だけれど男は何も言葉を返さず、ずっと同じ格好を取り続けている。

 私は男を見つめ『なぜそうするのか』を考える。


 この男が前にこの場に来ていた時に私達を観察し、その後、森から出るまでついてきたハンターで間違いない。

 地竜を倒すほどの腕があるのであれば、ここで貯蔵庫を設けて生活するのも可能だろう。


 私は男から目を外し気配を探る。

 貯蔵庫には魔法が使われていたから、姿を表した男の他に女のハンターがいるはずだからだ。


 だけれど、もう一人の女のハンターの気配は無い。姿を表す気がないから完全に気配を消しているのか、根城にしている所が気配をつかめないような場所か……どちらかは分からないけれど、彼女は私達と会う気はないようだ。


 もしかすると、この男は、私達が女だから助けてくれたのかもしれないとも思い。再度男を見る。

 彼はピクリと顔を動かして見せたけれど、何を言ってくる事もない。


 よくよく見ていると、小さく口が動いていた。

 だけれど、何も聞こえてはこない。


 そこでようやく私は気づいた。

 このハンターは言葉が喋れないのだと。


 これだけの腕があれば街で知られていないはずがない彼が、なぜこんな所で生活しているのかを考えれば『ここにしか住処が無かった人間』であることが自然と導き出される


「あぁ……ごめんなさい。そうだったのね。」


 思わず目を伏せ謝る。


 『街』には働けない人間が住めるような場所は無い。


 天涯孤独になり身体を壊した者や、養ってくれる家族も無い子供なんかは時間と共に街から締め出されてしまう。

 城壁に囲まれている以上、人口の限界は決まっているからだ。


 彼はきっと、言葉を覚える前に街から締め出されるか、外で産み落とされたかし、森での生活を受け入れる以外に生きる術が無かったのだろう。そしてその結果、地竜を仕留める程の超人的な能力を有する人間へと成ったのかもしれない。

 俄かには信じがたいけれど、地竜を仕留めること自体が信じられない事。


 街の手前までついてきて、その後気配が消えたことからも、彼は街にいい思い出は無く、むしろ嫌っている可能性すらあるかもしれない。


 そんな彼から見れば私のような街の人間は忌避の対象の可能性もある。

 その考えに至り、改めて彼を見ると、未だ地竜の頭の上から降りないのは拒絶されているからだと理解できた。

 人間だから助けてもらえたけれど慣れ合うつもりはないのだろう。


 助けてもらい恩を返したい相手に拒絶されるのは心が重い。

 小さく息を吐いて、気を取り直す。


 マイラを確認すると、かなり静かになり身体から力が抜けていた。


「ちょっと……大丈夫?」


 背を軽く揺すると簡単に崩れそうになり、慌てて支える。どうやら気が抜けたついでに力も抜けてしまっているのか弱弱しくなっていた。

 死の覚悟から解放された事を考えれば仕方がない。


 どうした物かと少し悩み、男を見る。

 だけれど男は変わらず地竜の頭の上に立ち続けていた。


「ごめんなさい。私達の事を嫌いかもしれないけれど、少しだけでいいから休ませて貰えないかしら?」

「………っ!? …………! ………っ!!」


 男は口を何度か動かし、手を動かした。

 ただ見たこともない動きでハンドサインのようにも思えず、意図が掴めない。


「ほんの少しだけでいいの。横に寝かせてあげたい。」


 彼に分かり易いようにマイラを指さして伝えてみると、彼の指は迷うように彷徨いながら、貯蔵庫の脇を指さした。


「あそこで休んでいい?」


 通じているか分からないけれど念の為に間違っていないか確認すると、3度程彼は頷いた。

 言葉自体は聞けているのかもしれない。


「ありがとう。」


 あまり余計な言葉を出さず、表情だけは気をつけて笑顔を作り、マイラの肩を担ぎ、指定された場所にまで運ぶのだった。



--*--*--



『うわぁあああああああ! どどどどどどど、どうしよう! どうしようどうしようどうしよう!』


 心の中は暴風雨。台風真っ只中の海のように高低差が数十メートルありそうな波がうねりまくっていた。

 うねりは混乱となり、心の平静を奪い去り、脳内も通常の思考とは程遠い状態へと変化する。


 なぜなら脳内恋人化していたポニテさんの3次元! リアルなポニテさんが目の前で動いているのだぎゃあああああ! みゃあああああ! どうしたらいいのぉぉ! どうしたらいいのぉっ!


 あ。ご飯作ってもらえますか?

 デザートはポニテさんのポニーテールをハミハミですねわぁあああああい!


 って、違う!

 脳内違うっ!


 3次元! 現実! スマートで大人な対応をしてアレなアレじゃなきゃダメぇ!



「ありがとう。もうダメかと思ったけれど、貴方のおかげで助かったわ。」


 ひゃああああ! 声優さんかな? 声優さんなのかな? イイ声してはりますやんか! 営業スマイルチックなのがたまりません! 公開イベントはおいくら万円で参加できますかぁあ!

 あああああ! おかね! お金が無い! あっ! 銀貨! 銀貨ってもってたっけ!?


 って、公開イベント違う!


「ごめんなさい。私達の事を嫌いかもしれないけれど、少しだけでいいから休ませて貰えないかしら?」

「………(はぅあ)っ!? …………(どうしてそうなったでござるよ! まだ脳内嫁補正で好意ビンビンでござるっ)! ………(って、よくみればイケメンぐったりしてる! うわああ大変だぁああ)っ!!」



「ほんの少しだけでいいの。横に寝かせてあげたい。」


「……(でしょうねでしょうね! えーとえーと、どうしたらいいんだろうどうしたらいいんだろう。なんか横になれるところあったっけ!? あっ! ととと、とりあえずあそこは?)」


「あそこで休んでいい?」

「……(もちろんでござるよー! ななな、なにか手伝った方がいいんでござろうか!)」


「ありがとう。」

「……(あ。お呼びでない?)」


 ポニテさんがイケメンを運んでいくのを見送る。

 やっぱり思ったように喋る事が出来ずに、少し頭を抱える。


 ただ前の街の女の人のように絶叫されるような気配もなく声もかけてもらえたから、ちゃんと人として扱ってもらえたような気もしてホっとしてもいる。

 それにちゃんと休む場所を伝えられたし、少しでも意思疎通ができた。よかった。


 とりあえずイケメンさんが思いの外に重傷そうなので、自分に何かできる事はないか考える。

 ポニテさん達は走って疲れているから、水気の多い果物とかあると嬉しいかもしれない。自分が貰えたら嬉しいし、自分がされて嬉しいことはした方が良い!


 そうだ。果物を取りに行ってこよう。

 うん! お腹が減っていると、あまりいい事もない!


 念の為、蜥蜴の首を水の刃で落とし完全に絶命させておく。

 万が一ポニテさん達が休んでいる時に復活するような事があったら大変だからだ。


 そして落としてすぐに果物探しに飛び出すのだった。



--*--*--



 突然響いた音に目を向ければ地竜から血が流れ出ている。

 地竜の首が一刀のもとに落とされていたのだ。


 落ちていた地竜の鱗を集めて作った盾を見たことがあるけれど、あの固い鱗をどう切り落としたというのだろう。

 それに剣を持っているようにも見えなかった。


 呆気にとられていると彼は落とした獲物には、もう興味もないと言わんばかりに飛び出して行った。


「なにあの跳躍力……信じられないわ。」


 明晰夢でも見ているような気分になり、笑うしかなかった。


後1~2回は、こんな感じの主人公以外視点→主人公視点で復唱、な流れで書く事になるかもしれません。


読み難かったらごめんなさい。

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