第七話 平和の第一歩は剣を手に持つ事から
「よし、そこに正座」
「「はい。」」
倉庫の崩壊から有田が助けられてから数時間後、すっかり暗くなった夜の中。逃げるように立ち去ると有田の住むマンションにて反省会が行われていた。
「よーし、まずはリースくーん?よくもまあ、よくもまあ人質がいるのに建物ごと爆破とか言う前代未聞のことをやってくれたなこん畜生。」
「待ってくれい兄ぃ。発言の許可を。」
「許可しよう。っていうか俺の名称安定しないな。」
「気分だよ。まあぶっちゃけたお話。ちゃんと助けられる算段があったからああしたわけで、別に無計画にやったわけじゃないのよ。ちゃんとよく考えて、この勇者は九割九分兄ィを助けるであろうという計算からですな」
「……助けなかったらどうする気だ」
「大丈夫だ、次善策はあった!」
「……」
「……」
「……ま、いいや。」
「許された!」
そして、なにやら状況が呑み込めずにキョトンとしたままついてきた勇者のほうへと有田は振り向く。
「では、だ。何か言うことはあるか?」
「あのーでは、一ついいですか?」
「許可する。」
「本当に魔王なのですか?あの子が。」
指をさす方向には自分を兄だといって憚らないリースの姿がある。
「どー考えても、なんかちょっと尋常じゃないくらい魔力が高い普通の一般市民でしょう。」
「うるせーやいトラップ勇者。そっちよりは全然魔王ですよーだ。」
「待ちなさい!トラップの何がいけないのですか!効率的に相手を倒せるじゃないですか!!」
憤慨する勇者に有田が声をかける
「いや効率よりも見栄えというかそういうのがあるんじゃないか多分。」
「い、いいじゃないですか。楽に敵を倒せるっていいことですよはい。こう、人前ではちゃんと剣とか使って勇者勇者しますとも!ええ!!」
そう、こぶしを握り締めて力説するが、もはや説得力がないと有田は思いつつ、ふと疑問をリースに投げかける。
「で、どうするんだこの勇者。一応……敵なんだろ」
「ふっ、覚悟はできてますよ。さあ殺せ!魔王になんて屈しない!」
「え、こんな雰囲気でそんな流れ!?」
「そりゃあそうですよ有田さん。魔王につかまった勇者は今まで帰ってこなかったのです。でしたら私のたどる道なんて一つしかありませんよ。……そうしてこう言っておけばあの魔王のことなので私を殺さずとらえるはずです。そうすればいくらでも脱出のチャンスなんて」
(駄目だこいつ、早くなんとかしないと)「リース、どうするんだこいつ。」
何やら妙なポンコツ具合を発揮する勇者を前に思わず顔を手で覆いながらリースのほうへ振り替えると
「むー。」
「え、マジで悩んでるのか……いやまあ、お前がそれならそれでいいけど。」
(来ました!チャンス到来!!こうやってちょーっと抜けている部分を出せば必ずこういう展開になるとは読めていましたよ!)
「……よし、勇者、取引しないか?」
(来た!)「ふ、どのような拷問にも脅しにも屈しませんよ。勇者の誇りにかけて」
「そうか。勇者の国と和平しようかと思っているのだが」
「すみません話をよく聞かせてください。お願いします何でもしますから」
「転身、早っ!?」
思わず突っ込むリースにさらに勇者は食い下がる。
「っというか今頃嘘とか言わせませんよ!?本当なのですか!?和平!!?」
「まあ。千年近くだらだらと戦って戦うことがステータスなんだとかそういう趣味、私にはなくてなー。無駄なことはきっちりやめた方がいいと思うのよ」
「素晴らしいお考えです!ああ、主神様、あなたにいつも(とりあえずの)祈りをささげてきた私についに答えてくださったのですね!」
いや、何か違う気がする。とは思ったが口に出すことはできない有田
「さあ!魔王さん!ともに握手をしましょう!これを和平の証としてこれからはもう争う必要はないのです!」
「いや、出来るわけないだろ。」
言った途端に、勇者エクレアの顔から笑みがなくなりこの世の終わりのような表情になる
「……だましましたね!?私は惑わされませんよ!」
「落ち着け。国同士の約束事がそんな簡単に済むわけないだろ。」
「はっ、そうですよねええそうですとも!私は信じておりましたよ魔王さん!」
「というか、ほんと落ち着けな?深呼吸だ、息を吸って、吐いて。」
「すーはー、すーは。」
「よし、落ち着いたらこちらをつけて。」
「よいしょっと。……なんですこれ?」
エクレアのその首には先ほどつけた黒いチョーカーがまかれている
「聞いて驚け。そいつをつけているとなんと我が帝国に忠誠を誓ってしまうのだ。」
「へぇー。」
「驚けよ!?」
まるで本気にしていない表情を見てついリースは突っ込んでしまう。
「実感ありませんし、不良品なんじゃないですか?大体私が帝国に忠誠を誓った暗黒騎士エクレアだなんて……うん?」
明らかに、今セリフがおかしくなった。妙な力で何か変換されたようなそんな感じであった。
「うん?……いやもっと、平伏するようなそういうのない?」
「ないですけどこれなんですかー!?」
「言動ぐらいしか縛れてないじゃねーか駄作かこれ。」
「だましましたね!?私の感動返してください!!」
「心外な。ノリと勢いで勝手にそっちが付けただけであって当社に責任はない!」
……その後も、自分たちの反省会をやっていたなどということなど忘れて騒ぐ姿を見て、有田は思うのであった。
(……仲良くやってるみたいだし、飯でも作るか。)
有田「……いや、仲良くなってよかったなお前ら。」
エクレア、リース「「仲良くない!」」
エクレア「む、ちょっとハモらないでくださいよ!本当に仲いいみたいじゃないですか!」
リース「そっちがちょっと遅らせればいいだけだろ!」
有田(案外仲いいなこいつら。相性がいいのか?)「で、飯食うか?」
エクレア「えっ、ご飯……?」
有田「いらんのか?」
エクレア「そんな、敵地で、まともなごはん……だ、……からかってますね有田さん!?」
有田「よーし、台所に来いお前ら、飯食わせてやるッ!!」
~食事中~
エクレア「罠かと思ってついていったらご馳走を出されて、毒かと思ってら普通に美味しかった……だと。」
有田「お前どんなけ悲惨な生活を」
エクレア「そこの魔王さんに聞いてみればいいんじゃないですかね」
有田「うん?」
リース「まあ兄ィよ。よく考え……ってそうか、私たちの世界のパワーバランスとかってあんまり知らないよな……そうねー端的に言えば今勇者の国は、帝国に対しゲリラ活動で抵抗している。」
有田「……ゲリラ勇者」
リース「ちょっと飲料水に一週間ほど笑いが止まらなくなるクスリを混ぜられたりあとは、空からナメクジのデカいやつらみたいなものをバンバンばらまかれたこともあった」
エクレア「いやーあの時は頑張りました!」
有田「なんか、しょぼい。」
リース「そう思うかもしれんがやられる側は面倒なんだぞ。確実に生産効率は落ちるしじゃあこれをプロパカンダに勇者たちへの報復心だとかを高めて士気を上げられるかっていうとだな……」
有田「あー……なんかこう……舐められてるっていう感情はあるかもしれないけど仲間の仇だとかそういうのはないよなぁ。」
エクレア「ふふん、人が死なないっていう状況は時として利用できるのです!っというか今時代の魔王さんはそこまで進行に積極的ではなかったですからね。こちらとしても攻めてこないのであれば何もせずにこのまま停戦、終戦とかならないかなぁー……とか、思って、いたんですよ!!」
リース「あーよかったな。和平だぞ」
エクレア「いやっふぉーーう!こーれで私名実ともに筆頭勇者って感じになれますね!ふ、ふふ。ふはははははは!!!」
有田「……なあ、なんであいつあんなにテンション上がってるんだ?」
リース「あー、あれはな。兄ぃ、おそらくだがあそこにいるのは一人の政治家だと思うといい。」
有田「というと?」
リース「組織の中で勇者というのは政治的な地位でもあるみたいだな。だからまあ、1000年に続く戦いに対して和平を持ってきたとなれば」
有田「成立すればあの勇者の影響力が高まる?」
リース「まあ、そーいうこった。」
有田「……どんどん、勇者っていう価値観が崩れていくー。」