第六話 堕ちた太陽と輝く月のハザマで
「さてと、そろそろ迎撃準備に入らないと……その前にですが有田さん。本当に何も魔王についての弱点とか知りませんか?」
その瞬間、空気が冷える。さっきまで和やかになっていた雰囲気が一瞬で凍り付き……花の咲いた春から一瞬に冬に戻るような、そんな感覚。
「知らないか……言われてもな。」
「なんでもいいので知っているのなら言ってください。貴方に私は価値があるから拉致はしましたがすべてが終われば保護し、元の場所に戻すための努力をしてもいいと思っています。ですが、ほかに何か隠していることがあるというのであれば私はあなたに適切なことができないばかりか、貴方を守れなくなるかもしれない。」
「ふーむ。」
「っというかですね有田さん。ちょっと肝が据わりすぎてませんか?逆に聞きますけど何か隠しているとしか思えないのですよ。この際だから全部吐きましょ?それですっきりして魔王を倒してハッピーエンド!」
(まあ普通の物語だとそうなのだけどなぁ……)
(ってなわけでリース。とっとと助けに来てくれねぇ?)
「まーってなアニィ。もう少しで何とかするから。」
同時刻。辺りはすっかり夜の帳に包まれた港の倉庫。その一棟の一口付近で魔王リースは愛しきアニィを救出するための準備を行っていた。
「近くまで寄ってようやくアニィとの思考のリンクというかつながりというかそういった奴がつながったのはいいけどそうかそうか……勇者って意外とフランクで雑なのな。いやそいつだけがそうなのか?」
(俺の勇者概念、だいぶ崩れてるのだが。)
「まあ、事実は小説よりも奇なりっていうから仕方ないね!っと、出来た出来た。」
手で手をはたき、ほこりを落としながらながら出来を確認する。特に問題なく起動するだろう
「じゃ、アニィ。今から助けるからすぐにそこの勇者に防護の魔法を張ってもらえよ。大丈夫、その勇者の性格と立場上アニィは助かるから。」
「……はい?」
「ん?どうかしましたか有田さん?っというかさっきまでの私の話、聞いていました?」
……なんだが、すごく嫌な予感がする。あいつとはまだ一週間とちょっとの仲だがあの日以来俺たちは魔力以外にも記憶や思考を多少なり共有していたりする。もちろん俺が優位な共有ではあるのだがそれでも俺たち二人ともに影響が及んでいるのは確かだ。そして、そこまで導き出される答えは――
「あーりーたーさーんー!!」
「……その、なんだ勇者さん。貴方、防護魔法とか使える?」
「はい?」
ふと、顔をきょとんとさせて首を縦に振る。
「もちろん。初歩の初歩です」
「じゃー……うん。今から魔王が襲ってくると思うのだが」
「ついに来ましたか!有田さん、どうやって知ったのですか!?」
まあそれは後で話すからとりあえずなんだが
「今からすぐに防護」
「はっ、魔力を検知!ついに来ましたね魔王……ってちょっと待ってください待ってください!魔力の流れから察するにまずい!有田さんすぐに私の所に来てください!!」
「ああうん、だから――」
その時だった。そう、簡単に言えば床がなくなった。奇妙な浮遊感が最初に会ってそこから轟音、上から崩れ落ちる天井。勇者の少女が何か必死に叫びながら駆け寄って来る。そして目の前に大きな岩の塊が勢いよく落ちてくるそれが、ずっと遠く遠く感じて
―――有田健一郎の意識はここで途絶えた
「ぷわっはぁ!死ぬ!あ、生きてる!!さすが私!!」
崩れてがれきの山と化した倉庫。いまだ砂塵が舞う中勇者リースは自らの上に載っていたがれきを文字通り吹っ飛ばし、新鮮な空気を肺に届けるため大きく息を吸い
「ごふっ!す、砂が喉に入った!!」
盛大にむせた
「――やあやあ、勇者クン。気分はどうかな?」
その瓦礫に埋まった勇者を見下ろす魔王。その顔には彰隆に自分が優位的な立場に立っていることを証明する笑顔がこびりついている。
「いやー、一度やってみたかったのよね。手間に手間をかけたトラップ満載なハウスを一気に崩すって事。」
「あ、あなたは!」
「いかにも私が」
「誰ですか!?」
……はい?
「はっ、さては魔王の手下!?いえ、この魔力からするに相当な力の持ち主。……さては魔王の右腕とかそういう物ですね!私の書置きを罠とみてまだ部下をよこすなどといった手段を取るとは姑息な!」
「あのー。」
「そしてあなたの企みはすべてお見通しですよ!魔王の協力者になっている有田さんもかなりの力の持ち主と見ました!あの魔力を使い魔王としての権力をさらに増大させることを恐れて私もろとも有田さんを吹き飛ばそうとしましたね!ですが、こうして私がいる今あなたに勝機は」
「いや、魔王。私。いっつ、みー。」
「はい?」
「それにアニィを始末するとかあるわけないやん?これでも妹なので!妹なので!!」
「え、有田さんの妹?そんなわけないでしょう。」
「あ、しまった。さらに面倒なことに!?ええい面倒だからとりあえず魔王ってことにしとけ!」
「いいでしょう魔王(仮)!ですが有田さんはこうして無事で」
「いやそれもな。私アニィと知識とか魔力とか共有しててな。いつもはなんとなくしかわからないけどしっかりと意識すればアニィの知ってる事とかがわかるんよ。それであーこの勇者なんかあったらアニィを守るわーって思ったからこうやって……ところでアニィは?」
「有田さんは無事ですとも!もうすぐ……あれ?這い上がってきませんね?」
…………!
「「ぎゃー!!縛られてるの忘れてたーー!?」」
エクレア「大体なんで倉庫ごと爆破とかしてるのですか!?」
リース「だってやりたかったんやもん!それに40数個のトラップが仕掛けられてる所を真正面から突破するとかやりたくないわ!」
エクレア「43個です!」
リース「個数の問題じゃねぇ!!あー、でも楽しかったなー主要な柱に必要最低限の魔力を仕掛けて一気に爆破、もう一度やりたい。」
エクレア「なんです!?そういう趣味があるのですか!?やっぱり魔王の部下というだけあって変態ですね!!」
リース「変態いうなし!?そっちだってやれ思考回路勇者の変態じゃねーか!」
エクレア「勇者のどこが悪いのですか!光輝く、正義の使途ですよ!」
リース「思いっきり自分の都合が悪くなると自己弁護に走ったりしてたよな?あと、脅迫も!」
エクレア「あれは魔王を倒すための必要経費です!犠牲なき戦いに勝利はないのです!!」
リース「言い切りやがったこいつ!?」
エクレア「大体ですねー。ちょっと勇者っていう物の理想高すぎやしませんか?」
リース「地球における勇者はそうだな。生まれた時から勇者になることを定められたりして、その国の王様に自由にフリーパスで謁見ができて、ちょっと力が強い所見せるとすぐに仲間ができて、そのまま伝説の武具を集めて人々を救いつつ、たまに他人の家に入り込んで徴収を行いつつ、最終的に魔王を倒してハッピーエンドだ」
エクレア「何その大体が聖人。理想高すぎますよ。」
リース「正直わかるわ。」
ウ、ウ、ウ
エクレア「あ、こっちから声が聞こえましたよ!有田さん!!無事ですかー!!?」
リース「アニィ!もうちょっとの辛抱だからな!すぐ助けるからなー!!」