第二話 帝国議会を開催してください
――魔王城
「まーおーうーさーまー!!」
声を張り上げながら光る結晶のランプで照らされた廊下を、少し幼げに見える顔つきの女性が声を張り上げながら走り回っている。服装を見ればこの城の主に使える侍女と思われるが、背中から生える黒い翼と尻尾が彼女が普通の人ではないことを物語っている。
「まーおーうーさーまー!!どーこですかー!!……あ、そこの兵士さん!魔王様を見ませんでしたか?!」
「えっ?あ、ハイ!見かけておりません!!」
一瞬の間をおいて返事を返す兵士にそうですか、と肩を落とし軽く礼を告げた後、踵を返してとある場所に向かい始めた。
「こちらには来ていないということは、……またあっち側ですね!!」
「この、一日中をだらけて過ごすというぜいたくな時間の過ごし方。実に、王族って、感じが、する!!……まあなりたくて魔王になったわけじゃないけど」
そうのたまうこの世を便宜上侵略しようとしている魔王は絶賛、スマートフォンを片手に寝そべっていた。兄ぃと慕うこの部屋の住人は学校生活を送っており、帰ってくるまでにはあと30分はあるだろう。
「つまりその間ここは私の城!!やり、たい、ほう、だい!!フハハハハハ!!…………はぁ。」
(……つまらない)
兄ぃの知識を得た時から、私は何かが変わったのだろう。この世界を知った時から私は何かが変わったのだろう。それを私はとても喜ばしいと感じている。……いや、正しくないな。正確に言えば、元の私がどれだけ空虚であったかというのを思い知らされた。
まあ、元を言えばそもそも魔王などというものに興味はなかった。この国のシステム上、おおよそこの国で一番強いと思われる者が魔王になる。私は私の目的を果たしたときに私の国で一番強いのではないかということで魔王になっただけである。そのあとは、まあ、別にやることもなかったからお飾りとして椅子に座っていただけである。私の部下と一応名義上というか、システム上そうなっている奴らも私を魔王だと思っていないだろう。それくらいにはほったらかしだった。……まあ、だからこそ今、私としては侵略をやめたいというのに部下が言うことを聞いてくれないという大変なことになっているわけだが。
(当然、どうにかしないといけないのはいけないのだけど……ううん)
動こうと思えば動ける。いつでもこの国を再び掌握することは可能だろう。だが、それだけでは私の国に積まれた問題が解決するわけではない。
(後ワンアクションあるまでは財務局の羊と軍総局のトカゲを会議で顔合わせさせておけばしばらくは大丈夫でしょ。……時間の問題ではあるけど当面のタイムリミットは地球への侵攻論の立ち上がりに熱が帯びてきたら。それまでかな。)
「あー結局、人がいねぇ!手駒ほしい!!」
床に転がりながら魔王を名乗る少女は頭を抱えて体を左右に振る。
「何をするにしても人がいないじゃねーかちきしょう。なんで国政放り出して派閥も作らず放りっぱなしだったかなぁ昔の私!」
「それでは今からでも味方づくり、始めません?」
ドキリ、と心臓が高鳴る。後ろから聞こえた声に冷や汗が流れる。後ろを振りむいてはいけない。振り向いたら
(|もう戻ってこれない!《しごとにつれていかれる!》)
「はい、魔王様ー。ほらー?という演出っぽいことやってないでこっち向いてくださいネ」
お腹に手を差し込まれ無理やりひっくり返されるとそこには子供の頃から見知った、従者の顔があった……笑顔で。怒っている、笑顔で。
「……あ、いけないんだぞー。先日のーほらー議会でーこっち側への移動は私の許可が」
「ええ、ええ。よーく知ってますとも。なのでいくらでも後で罰でもなんでも。でも」
がっしりと腕で体をつかまれた
「今は帝国議会に出ていただきますよ!魔王様ぁ!!」
「HANASEキュレットォ!Gが!なんかすごいGがぁぁ!!」
……こうして、私ことリースの理想の居城は崩壊して、行きたくもない議会の開催のために連れ去られたのでした。ちゃんちゃん。
リース達が去った後に、入れ替わるように入ってくる人物が、一人。
「ふむ、これが現魔王の企みですか。」