第一話 まずは現状を整理しよう
「ただーいー」
おや、帰ってきたようだ。我が愛しき兄ぃが。
「おかー……で?」
「うい。ちゃんと買えてるぞ」
そういうと帰ってきた男は右手に持っていたビニール袋をそっと床の上に置く。
有田健一郎こと兄ぃに契約を持ちかけた儀式から一週間。私は兄ぃの世界と私の世界を繋げて行き来できるようにした。私の世界の入り口を私の私室に、もう一方を兄ぃの私室に。そして神々の契約に従い兄ぃの世界を侵略しようとした。
「うん、やっぱり改め聞くとあほだよな」
「いうなよ兄ぃ。それにうちの所じゃ侵略なんて当たり前だし」
それに兄ぃだって契約に同意したし。契約に従い嘘は言わなかったし。言わなかったことがあるだけで。ともあれ契約によって兄ぃの知識と魔力を一方的に搾取した結果
「侵略するの無理だと分かった!何あれ!核兵器とか!戦車とか!戦闘機とか!!後、銃!歩兵が歩兵と弓兵や魔法兵の役割持ってるんじゃないですよー!こちとらまだ剣と魔法の世代じゃー!!」
「うちの世界に剣と魔法の時代なんてなかったからな。」
「冷静なツッコミは置いといて!!」
そんなわけで無理だと判断した瞬間、契約違反ととられたのだろう。兄ぃから一方的に色々搾取するはずの契約内容が歪められて私の方が分の悪い共有という形になってしまったのだった。だから今兄ぃには私の知識や魔力が供給され、更にはペナルティプラスで今考えている思考の大部分まで読まれてしかも兄ぃに嘘だとかもつきにくくなっているのだー。
「ふはははは……どうしてこうなったかなー!!」
「ノリと勢いで異世界侵攻なんてするからだろ。むしろ良かったじゃねぇか。何にも知らずにのこのことやってきて戦車、戦闘機の雨あられみたいなことにならなくて」
「いやうん。それはホントに助かった。奇跡的幸い!……まあそういうわけで、だ。契約上宣戦布告したけどー、どーせこっちの世界にはバレてないからまずは情報収集からという名目で侵攻を見送ってー……っていうか見送らないとたぶん全滅ルートだし。でもー契約自体はやばいと思った時点でちゃんと遂行するって宣言したから、どうにかして侵略はしないといけない……わけだが武力による勝利は今んとこ無理。一見詰んでる気がするがまあ何とかしよう。それに兄ぃの世界は居心地良いしなるべく穏便にもやりたい」
「まあ、じゃないと協力しないけどな」
「ふふふ、兄ぃよ。私に何かがあって契約の遂行が出来ないとなると兄ぃのほうに何が起こるか」
「それ言ったら俺に何かがあっても一部の契約不履行が起こってお前に何が起こるかわかんないんだろ」
「うんまあ。……神々の契約だとかそういうのってやっぱダメね。ちょっとこじらせるとこれなんだから」
「そんなこと言って大丈夫なのか」
「大丈夫、こっちに一応私の帝国で広く信じられている邪神の気配とか……まあもろもろの気配を感じない。今なら言いたい放題だぜ!大体、ちょっと、無理って思ったぐらいで、ペナルティーとか、あほじゃねーの!!……まあいいや、それよりもーだ」
床の上に置かれた袋を見つつ、リースは有田に問いかける。
「新作ゲームプレイはよ」
「急かすなよ。お茶位飲ませろよ」
ついでに兄ぃの知識を経た私は、一気に現代文化にどっぷりと嵌ってしまったのであった。だって楽しいんだもん。
――某所にて
「私が返ってくるまで、ここを任せたからね?」
金髪のショートヘアをフードで隠しながら、少女の声は自分を見送る人々に別れを告げる。
「筆頭勇者様……」
「ホントに、ほんとにだいじょうぶですか?」
「やっぱり俺たちも一緒に」
心配する声に、少女は笑って答える。
「大丈夫だよ。主神様はいつも私たちを守ってくれるし、この中で一番強いのは私だから。だから心配しないで?ね?――それじゃ」
筆頭勇者、リース・エクレアー、行ってきます!!
そう見送る者達に挨拶を澄ませると、勇者と名乗る少女は飛び降りたのであった。