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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
9/14

事実

鳥の声が木々に響いていた。

目を覚ますと横で早希が泣きつかれて眠っているのが見えた。

そっと身体を起こすと、傷口はすっかり塞がっていた。

ただ、シャツにはベットリと血が付いた後が残っており気持ち悪かった。

ここはどこかと見回すとさっきの車から少し離れた場所であるらしかった。

早希を残して水の音がする方へ向かうと川が流れていた。

服を脱ぎ、鞄に詰めてきた代わりの服を出して川の中へと入った。

「つめてっ・・・」

気持ち悪いよりはましだと思い、血を流すと川からあがった。

夏小前で有るためか、なんとか凍える程ではない。

スッキリして服を取ると、視線を感じてふと振り向くとそこには先程まで寝ていた早希が立っていた。

「ちょっ・・・お前な、覗くなって」

また変態扱いするのかと思うと目に涙をためると飛び付いてきた。

まだ服を着ていないので色々と抵抗があるのだが・・・。

「どうした?」

「死んじゃったかと、思った。あ母さんみたいに、私が、私が、、、、」

頭をそっと撫でると引き寄せて抱きしめた。

「僕は死なない。絶対に早希を一人にしないから」

「うん、絶対だよ」

悠人の胸に顔を埋めるといつのも早希に戻っていた。憎まれ口は多いが、怖がりの妹にだ。

暫くして落ち着くと、今の状況を把握したのか。いきなり張り手を食らうはめになった。

「この、変態兄ーーーー」

ぱーーーん。

「理不尽だーーー!」


服を着てから頬には今も手跡が残っているらしくヒリヒリしていた。

「ごねん。だって起きたらいないんだもん。お兄ちゃんが死んじゃったんじゃないかって思ってたから・・・生きてた時は嬉しかったんだよ。ただ、服ぐらい着ててよね?」

「それって僕のせいか?血だらけじゃ気持ち悪いだろう?それにあんなに格好のままじゃ怪しすぎるだろう?」

車まで戻ると運転手さんには悪いが森に埋めさせてもらった。

それからタクシーを借りて山道を上っていった。

オートマで良かったと心から思った。

流石にミッションは運転できなくはないが不安がよぎる。免許なんて持っていないのだから当然と言えよう。

バイクは持っているが車は年齢的にアウトだった。

ゲームではやったことがあるのでそんなに困ることはなかった。

到着するとかなり大きな屋敷だった。屋敷の裏手にタクシーを隠すと鍵を開けて中に入った。使われていないわりにはきれいに保たれていた。

そこへトラックが到着した。

「こちらにサイン下さい」

一瞬驚いたが送り先の名前が赤羽悠人とかかれていたのだ。

名字だけ、『 赤羽 』と書くと大きな荷物を置いていった。

そこに入っているのは食料と衣服だった。

「葵先輩、よくこんなものまで・・・」

唖然となったのは手紙と一緒に添えられていたのはコンドームの箱だった。

握り潰す前に早希に奪われてしまったわけだが・・・。

「こんなもの何に使うのかな?」

「いいから渡せって」

「エッチーどうしたい言いなよ?」

「はぁ~」

溜め息をつくと興味なさげに手をヒラヒラと振った。

「もう、いいから捨てとけよ」

荷物を玄関から中に運ぶ作業があるのだ。遊んではいられない。

傷むものは冷蔵庫にいれておかねばならなかった。

倉庫には釣竿とルアー。バケツと網等もあった。

「よし。これで生活には苦労しなさそうだな。」

携帯は電源を切ったままにしている。

なんとかお礼を言いたいなと思っていると荷物の中で光っているのもがあった。

スマホである。

趣味の悪いデコレーションがしてある真っ赤なスマホを取り出すとずっと光っていた。

通話ボタンを押すと葵先輩の声が聞こえてきた。

「はい、悠人です」

「おおー無事にたどり着いたようだな?昨日のうちにつくと思って宅配便を送っておいたのだが?昨日は出てくれなかったので寂しかったぞ?」

「色々とあったんです。荷物、ありがとうございます。そっちはどうなりました?」

「一応指名手配とまではいかないが警察が行方を探している。極力外には出歩かない方がいいな。と言っても何もないところだろう?山菜図鑑も入れておいたので役にたてるがいい。また夜に連絡するとしよう、またな。」

言いたいことを言うとさっさと切られてしまった。

「なんて?」

「警察が動いてるようだ、暫くは見つかることはないだろう」

「そっかー。それまでここに二人きりかぁ~」

「嫌なのかよ!こんなに部屋はあるんだ。好きな部屋を使えよ。僕は一階にいるから」

そう言うと悠人は一階に降りていく。二階の一つの部屋に入ると、自分の着替えとかを衣装ダンスに入れておいた。

別に兄の事は嫌いな訳ではない。しいて言えば好きなタイプだ。

早希は悠人にとってはただの妹でしかない。

悠人は女性とは一切近づかない。それどころか女性も男性さえも避ける傾向にある。

理由はわからないが、家族以外といるときはいつも警戒しているかのような態度でいるのだ。

しかし、あの巨乳の先輩には自分の意見をはっきりと話していた。

どうしても気に入らない。

早希には何人かと付き合った経験はある。

だが、どれも長くは続かなかった。

早希は平凡その物だった。

スタイルがいい訳でも、顔が可愛い訳でも、ましてや女性らしくおしとやかな訳でもない。

友達はほとんど出来ない兄に比べると比較的友達を作るのは得意だった。

勿論彼氏を作るのもだ。しかし、いつも家に連れてくると美しい母と兄を目にすると心がざわつくのだ。

比べられるのが嫌で家には連れてきたくなかった。皆の感想はいつも決まっている。

最初に連れてきた友達には兄を紹介してくれとねだられた。

女友達は危険だと思い、それからは町ですれ違わない限りは兄を見せたくなかった。

彼氏なら平気と思い連れてくると男の癖に兄の事をやたらと聞いてきた。

自分だけを見てくれる人が欲しかった。

しかし、それは家族としてではなく早希という一人の人間としてだ。

今の悠人は自分だけを見てくれる。それが心地よくてつい、意地悪な事を言ってしまう。

ほんとは何もかも棄てて自分と一緒にいてくれる兄が、一人の男として愛しく感じているのだ。

そんな事、言えるはずもなくただ誤魔化すしかない自分に腹が立った。

ー 好きなら自分のモノにしちゃいなさいよ ー

「誰?」

ー 私自信よ。男なんて体で釣ればいいのよ ー

「何言ってるの?私は・・・」

ー 妹?それとも女?どっちでもいいじゃない?欲しいんでしょう? ー

「うん。欲しい、、、私だけのお兄ちゃん」

ー そうよ、私達だけの悠人 ー



悠人と早希が居なくなってから永田刑事は忙しく動き回っていた。

それを横目に教授と共に悠人の家に来ていた。

現場検証も終わり、書斎を整理していた時の事だった。

たまたまベットの下にホコリが噛んでいたのだ。

「これは面白い。何かの仕掛けがあるようだ!」

「どれどれ?これかな?うーん。それともこれかのう?」

ガチャ。キィィィィーーーー。

床が開くと中には本当の書斎が出てきた。

そこには研究に資料や日記が置いてあった。


7月2日

やんちゃな悠人がまた早希と共に森に遊びに行ったようだ。草花を積んでお土産にしてくれた。

7月4日

やつらが研究資料の行方を探しにきた。見つからないように洞窟の奥に隠しておいた。

多分、一生見ることはないだろう。

7月8日

しつこい位に聞いてくる。家の前で見張られているようだ。こういう時に旦那はまだ出張中なのが悔やまれる。

7月13日

旦那が帰って来た。これで少しは安心だ。

7月18日

旦那が交通事故!?慎重なあの人がなぜ?

7月21日

旦那が植物人間のように管が通り身動きも取れない体に・・・。

悠人は強がっているけどきっと辛いのだろう。早希についててやれるいいお兄ちゃんに育っている。

7月29日

悠人と早希が見つからない。帰ってこない。旦那の事があるので心配だ。

8月2日

悠人も早希も今も行方がわからない。心配だ。

8月4日

またやつらがきた。今度は子供達の写真を持っている。無事のようだ。しかし、ただでは返してくれないようだ。やつらに研究資料を渡す約束をした。

8月8日

子供達を返してくれるという約束で偽の研究資料を渡す。どうせ判りはしないだろう。

しかし、子供たちは帰ってこなかった。監禁場所の地図を貰ったがそこにはいなかった。辺りを探すと崖の下に二人を発見した。早希の方はまだ息があったが悠人の方は間に合わなかった。

私は諦めたくなくて教授の実験体を悠人の体に埋め込んだ。すると息を吹き替えしたのだ。

嬉しくて喜んでいるともうひとつの実験体の瓶が割れてしまって、あろうことか早希に融合してししまった。

もうひとつの方は人格形成の実験をしていた方なので危険としか言いようがないものだ。

剥がすことも出来ず、ただ見ていることしか出来なかった。





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