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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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逃亡

早希は泣きすぎたせいか目を腫らしながら悠人の袖をしっかりと握り締め眠ってしまった。

仕方なくその傍らで頭を撫でるとベットに顔を伏せた。

このままではいずれ消されるのではないかという不安がよぎった。

早希を助けるにはここを離れなければならない。

僕が早希を守らなきゃ。でも、どうやって?悠人には力も人脈もない。

ましてや二人で暮らしていけるだけのお金もない。

バイトしようにも中卒じゃどこも雇ってはくれないだろう。

まずは住むところだって考えなくてはならなかった。

そこに葵先輩が入ってきた。

「葵先輩、ここには入って来ないで下さい。早希に余計な事を言われると迷惑です」

葵先輩は苦笑いをすると近づいてくる。近くに椅子に腰かけるとこちらをじっと見てきた。

「なんですか?」

「いや、私の所に来ないか?勿論私の家ではなく別荘にだ。早希君と一緒に隠れればいい。どうせ、ここから逃げだしてどこかに行こうと言うのなら丁度いいではないか?しかも誰にも知られてないぞ?」

「あなたは、何を考えてるんですか?」

「勿論、君の事だよ。おもしろいモノを見せて貰ったからね。君の体に興味がわいたのさ」

悠人は呆れると葵先輩が差し出した鍵と地図を受け取った。

「そうですね、今はあなたに頼ることにします。でも、その紛らわしい言い方やめてもらえませんかね!」

「そうか?思ったままを言ったのだがな。行くなら明日の朝方が動き安いだろう?これも持っていけ」

緑の塊を投げて寄越した。それは蛙の形をしたがま口だった。中にはお金が入っていた。一万円札が細かく折り畳んで五百円玉と共にぎっしりと入っていた。

「こんなの受け取れませんよ」

「じゃーどうやってそこまで行くつもりだ?遠いぞ?歩いていく気だったのか?まぁ、自由に使え。ただし、そのうち私の研究に付き合ってくれればいい。どうだ?安いもんだろ?」

「そっちの方が身の危険を感じるんですが?・・・そうですね、今はお言葉に甘えておきます」

溜め息をはきながら諦めたかのように葵先輩の好意に甘えることにした。

それから少し話した後、葵先輩は帰っていった。

今は外に買い出しに行っている永田刑事が葵先輩と入れ違いに帰って来ていて扉の外にいる。

目を覚ました早希がさっきの先輩のやり取りを聞いていたのか色々と聞きたそうだったが、今は話すわけにはいかなかった。

ただ、一言。

「明日の朝、ここを出よう。一緒に逃げよう」

と、小声で囁くと早希は頷いたのだった。

朝方は永田刑事は一旦警察署に顔を出すために席をたつ、その代わりに若い刑事がここにやってくる。

若い刑事だったら抜け出せなくもない。そう思うと二人は行動に移した。

コン。コン。

「なんだい?何か欲しいものでも?」

気軽に聞いてくる若い刑事は早希のやった事をまだ聞かされていない。ただの警護だと聞いていた。

「あの~トイレに行きたいです。」

そういうとトイレの前まで付き添うと入り口の前で立ち止まり中に促した。

早希は中に入るとゆっくりと窓を開けた。外では先に外で待機してい悠人が待っていた。

一階であるため出るのは容易かった。靴も用意しておいたのにはきかえるとそのまま上着だけ羽織らせると呼んでおいたタクシーに乗り込み葵先輩が渡してくれた地図の場所へ向かった。

それから数分後、若い刑事があまりにも出てこないのを怪しむと、勇気を振り絞って女子トイレに入って雄叫びを上げたとか。

その後、永田刑事にこっぴどくしかられてしょんぼりしていたとか。

そんなことは知るよしもなく悠人と早希はそこから逃げ出すことに成功したのだった。

ほんとなら体調が回復してから警察病院に入る予定だった早希が消えた事で永田刑事は色々と上から問い詰められたという。



タクシーの中で早希は悠人に昨日の会話について聞きたがっていた。

「昨日の人誰なの?同級生とかじゃないよね?」

「あぁ、付属大学の先輩だよ。最近出入りしててね」

「・・・」

じっと見つめると疑っているのが見て取れた。

「ただの先輩だよ。」

「寝たの?」

「はぁ?一体何を言い出すんだよ?」

「だって、昨日・・・お兄ちゃんの体が欲しいって!」

運転手を見ると目があってしまった。すると直ぐ様、目を反らすので溜め息が漏れた。

「あのな、あれはあの人の言い回しなだけで何にもないよ。それに興味もないし」

「綺麗だったよ。胸も大きかったし。お兄ちゃんって不感症?」

「あのな、いい加減にしてくれ。僕はいたって普通だ。」

「ふ~ん。自分の裸見て喜んでるくらいには?」

「なっ。何言い出すんだよ。ここで置いてくぞ?」

「いやいや、ウソ。嘘だよ~」

そんなやり取りを聞いていた運転手が笑いを堪えて肩を揺らしていた。

「仲がいいんですね?」

「「そんなことないです」」

二人は咄嗟にハモってしまった。

「なんだよ」

「何よ!」

「はっはっはっはっ。ほんとに仲がいい。悪い事ではないよ。」

運転手は上機嫌で山の中を走らせていた。

異変が起きたのはその後だった。

さっきまで笑顔だった早希が俯いたまま話さなくなったのだ。

「早希?気分でも悪いのか?」

「車を止めろ!」

いきなり早希が大声を出すと運転手は何事かと思いゆっくりと車を停車させた。

後部座席を振り向くと妹と言っていた少女が兄の首を閉めていたのだ。

「早希っ・・・やめっ・・ろ・」

苦しそうにする少年を助けようと、運転手は一旦降りると少女側のドアを開けると後ろから引き剥がそうとした。

「こらこら、お兄さんに彼女がいたからってそこまでやってはいかんぞ?」

運転手は危険にに気づいていない。

「はな・・れて。・・・逃げて・・・」

悠人の言葉が誰に向けられたものかを理解する前に運転手だった人の体に大きな穴があき、後ろへ倒れると地しぶきがあがった。

「早希、どうしたっていうんだよ!」

緩んだ瞬間に抜け出し、反対側のドアから外に転がりでた。

「私を殺すんだろう?なら、その前に殺してやる」

「違う。そんなことはさせない。」

血走った目でこちらを見る早希に必死で訴えた。

「狭い所に閉じ込めるのか?たった一人でどれだけ過ごして来たと思う?」

「違う。一人じゃない。僕もいる。ずっと一緒にいるから、絶対早希の事は守るから」

「信じられると思うか?」

「信じてくれ。早希!僕たちは、たった二人の兄妹だろう?」

「・・・」

黙ると、血走った目を閉じると次に開いた時には元に戻っていた。

「さきっ・・・?」

悠人は早希に近づくといきなり腹部に痛みを感じた。

それも、毎晩、毎晩、味わったことのあるあのいつもの痛みだった。

「・・・ぐはぁっ・・」

血が口の中を逆流するのが分かる。早希を見ると涙を溜めて驚いた表情でこちらを見ていた。

小刻みに震える手を掴むと『大丈夫だから。』と伝えようとすると余計血が溢れて言葉にならない。

そのまま倒れ込むと意識は薄れていった。



「これは一体どういう事なんだ?」

永田刑事は若い刑事に怒りを覚えていた。

「それが、トイレに行きたいと言っていたので・・・さすがに中まで付いていくわけにも・・」

「そんな事を聞いてるんじゃない!だったらドアの前まで行けばいいだろう?」

「そんな事、できませんよ。保護対象なんだし~」

永田刑事は頭をガリガリと掻くと盛大な溜め息を吐いた。

「言っとくが重要参考人なんだぞ。この間のサイコ的な殺人事件の容疑者だ。」

若い刑事は驚くと、信じられないよ言い張った。

首に残っていた手形は大きく女性のものではあり得ないほどだったからだ。

それに、もし容疑者ならなぜここに置いておくのかと・・・早く送検するべきだというのだ。

「分かってはいるんだ。間違いのだが、証拠がない上に証言が出来ないんだ」

「何故ですか?」

食い下がらない刑事の後ろから声が響いてきた。

「それはな、人間ではなく、霊体のような目には見えない手で絞め殺したからだ。そんな事を立証するのが難しく、書類上通すのに時間がかかるからだ。お主もそんな事を言われて信じてないだろう?」

葵先輩がこちらに向かって歩きながら言うと状況を見てから『逃げられたのか?』と付け足した。


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